それは私が天界にいた頃。大切な人からもらった大切な味。甘く優しく暖かく、とても不思議なお菓子だった。
『それはね私があなたの先輩だからよ』
泣きじゃくる私にぬくもりを与えてくれた人。この香りを感じる度に思い出す事。それは
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いつもと変わらない朝、変わらない食卓の風景。みんなで揃って食べる朝飯は当たり前ながらとても心地いいもので。
「いや~、今日もエリスの飯は上手い!」
「まったくですよ。このクオリティのご飯が一日三食も味わえるなんて幸せなことですよユウマ」
「だよな~。エリスには本当に感謝だ。あ、めぐみんの醤油取ってくれ」
「はいどうぞ」
「ありがとよ」
ここだけの話、目玉焼きの黄身に醤油を加えウィンナーにつけて食べると味が格段に上が……る?
ちょっと待てよ……
「おいめぐみん。貴様はなぜここに?」
「たまには好敵手に我が爆裂道を見せるのもありだと思い、寄ったのですよ。あ、すいませんご飯のおかわりを!」
こいつは果たしてどこまで自由人なのだろうか?いくら友人の家でもわきまえるものがあるだろうに。
「ぼーとしていると、せっかくのご飯が冷めてしまいますよ。ねぇ?アイリス」
「それもそうですが、たぶんユウマさんはお頭さんに遠慮を覚えて欲しいんだと思いますよ」
「そうケチケチしなくてもいいじゃないですか。一人でも多くの人数で食卓を囲ったほうが楽しいものです。ゆんゆんスキあり!」
「あー私のたこさんウィンナーが!」
「最後に食べようなんてネチネチとしているからいけないのです」
めぐみんよ流石にそれは酷いんじゃないか?誰だってお気に入りは最後まで残しておきたいものだよ。
「お待たせしました。おかわりのご飯です"お嬢様"」
「ありがとうごさいます!では朝食の続きを……え!?」
「「「え!?」」」
騒がしかった食卓が一瞬にして固まる。そして声を揃えて一同エリスに釘付けになる。
「どうかしましたか?」
「あのエリスさんその格好て」
「あ、これですか!メイド服ですよ!メイド服。アクア先輩に貸して頂いた漫画に描いてあって前々から憧れていたんです。どうですか?ご主人様♡」
朝からテンションフルMaxのエリスにどうやらついていけず、ついにみんな揃って動かしていた箸を止めてしまった。
「あのエリスさん正直言いにくいのですが」
「実は私もなんですが」
「どうしたんです?アイリスさん、ゆんゆんさん急にかしこまってしまって」
「ええい、アイリスもゆんゆん焦れったいです!エリス、はっきり言いますが、流石に痛いです」
「え……」
めぐみんの容赦ない言葉を前に、さっきまでトップギアだったエリスに昭和の漫画みたく、ガーンの文字が落ちている。
しかし、普段のロングスカートからふりふりのミニスカートへのチェンジこれはこれで。
「いや、メイド服最高に似合ってるよ。あとご主人様コールおかわりください」
「……ユウマさん!」
「あー、もういいです。そういうイチャイチャは二人でしていてください、洗い物は私たちでしますので」
呆れた様子で食器を運んでいくめぐみんたち。ここはお言葉に甘えておくとして、例のアレを頼んでみよう。
「耳掻きお願いします」
「かしこまりましたご主人様♡」
おうふ。なんて素晴らしい体験なんだ。幸運の女神様からご主人様コールだけではなく耳掻きまで。やべぇ、尊くて死にそうだわ。
「いい。最高だよエリス」
「もう、あまり動かないください」
丁寧で繊細な高等技術。耳から五大全域に広がっていく快感。マジで昇天してまう。
「ユウマ、流石に男の喘ぎ声はどうかと思いますよ」
「ユウマさん……」
「最低です」
あらぬ誹謗中傷が身体に突き立ててくるがそんなものは怖くも痛くもない。いや訂正。アイリスのゴミを見るような目は流石につらい。
「もう、お嬢様方。そう旦那様を悪く言わないでください。そういえば、もうすぐ出来たと思います。冷蔵庫から取ってきますね」
「なんと!デザートが。流石エリスです!!」
「エリスさんばんざーい!」
「ちょいまち、エリスー。旦那様コールおかわり!」
皆さんデザートで気分変わりすぎはしません?ゆんゆんも声に出してないだけでめっちゃ笑顔だし。
「これはこれはデザートの代表格プリンではありませんか!」
「今回はプリンに挑戦してみました」
別に用意していたカラメルソースが黄金のボディにかけられていくこの瞬間、なんと神秘的だろうか。
「ふむふむ。お母さんがお父さんのなけなしの給料で買ってきた牛乳と卵で作った砂糖抜きのカラメル無しの素材の味プリンを思い出す素朴さです」
「クレアが始めてお料理に挑戦したときの焦げた甘い砂糖の風味。懐かしいです」
「ああ、これ!確か私が10歳の誰も来なかった誕生日会にお父さんが買ってきてくれたケーキ屋さんの味です!」
おのおのまったくもってバラバラの思い出話を始めたのだが。ゆんゆんよ、最後の話はあまりにも悲しすぎるから、忘れさせてくれ。
「みんな味に関してバラバラな感想なんだが。ハム」
口の中に入った瞬間感じた懐かしさ。確かにこれは日本で生きてた頃、母さんが得意としていたプリンの味にそっくりだ。懐かしい。部活で結果を出そうが出さなかろうが、ちょっとしたことで毎回作ってくれてたっけ。結果が出たときは少し苦味のある大人の味のカラメルプリン。結果が出なかったときはホイップたっぷりで上にさくらんぼが乗ってたっけ。あのあまあまな味に何度救われたことか。
今となってはいい思い出だ。
「母さんの作ってくれたプリンの味がしたよ」
「えへへ。実はこのプリン、少し特別なんですよ」
「へー何か隠し味でもあるのか?」
「それは秘密です」
彼は笑ってそうかと言った。そう、これは特別なプリン。私がまだ新人だった頃。アクア先輩に食べさせてもらったものだ。
まだ、経験の浅い私に特別な思いをさせてくれたプリン。失敗するたびに代わりに背負ってくれた先輩。なんだかんだ、アクア先輩は私にいつも優しかったのだ。
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〈カズマ邸にて〉
「めぐみんのやつまた朝早くからどこいったんだ?」
「あの子だって、あーゆう態度をみせてたって友達と遊びたい年頃なのよ。できた!」
「そーゆうもんなのかね。てかさっきからなに作ってたんだ?」
「プリンよプリン。ちょっとカズマ、ダクネス呼んできて」
久しぶりに作ってみたが、我ながらいい完成度だ。確か前に作ったのは
「すごいなアクア。このプリン。私が幼い頃になくなった母上の香りがするぞ」
「いや、この味は確か」
みんな思い出ものがあるのだろう。そう、だってこれは思い出のプリンなのだから。隠し味に使った女神の奇跡は時にその人の一番大切な思い出を呼び起こしてくれる。記憶に残った香りや味をこのプリンは思い出させてくれるのだ。
私も一口食べてみた。思い出すのは天界での事。神器の管理書を失くしたエリスの代わりに私が全能神様に起こられた日。あの子はそれはそれは大泣きをした。
『なんで私が失敗したのに先輩が怒られるんですか?』
『それはね、私があなたの先輩だからよ』
その日はエリスを泣き止ますためにプリンを作ってあげた。それまで料理は趣味の程度でしかやってこなかったから、失敗してしまったが。あの子たら、涙で腫れた顔で幸せそうに笑ってて。その時だったかしら。私、この子の先輩でよかったて思えたの。
「なぁ、アクア。これ隠し味てなんなんだ?」
「それは秘密よ。当ててみなさいクソニート」
これは私とエリスだけの秘密。いつか私以外の前でも心から笑えるようにと込めた願いのスパイスだ。
今回の閑話はアクアとエリスをメインに書きました!原作より少し女神ぽくアクアを書いてみましたがいかがでしたか?なんだかんだアクアて面倒見がいいんですよ。母性が強いというか、原作のような駄女神様も好きですが、稀にみせる面倒見の良さが好きです笑
次回からいよいよ後半戦に突入します!更新ペースは遅いですがお楽しみに!