20過ぎから始めるドラゴンクエスト6    作:素振りが趣味
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ミレーユ視点でこの1ヶ月振り返るお話です。
最後に少しだけオリ主視点の話があります。

まとまりのない文章ですが、よろしければ見ていってください。


サブシナリオ 変わったお客さんの訪問

その日はおばあちゃんにお客さんが来ると言われていた。
お客さん自体は珍しいことではなかった。
私がここに来てから約1年、色んなお客さんがここを訪ねるのを見てきたからである。

ただ
マーズ「今回のお客はちょっと変わり種かもしれないねえ」
と言っていたのがすこしだけ気がかりであった。

ミレーユ(いままでも変わった人は何度か来てたと思うけど)

皆が皆というわけではなかったが、富豪や貴族のような方、中にはどこかの国の大臣まで来たことがある。そんな中でもお洒落に人生をかけているというおじ様は一際記憶に残っている。

そうした人が来るなかでおばあちゃんは一括りに「お客さん」と呼んでいたが、今日はその中でも変わり種ということで、少し興味を引かれたのだった。


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実際、その人は変わっていたと思う。
見た目は20歳程度であろうか。
黒髪で焦げ茶色の目、身長は成人男性の平均程度。
背には大きな袋をかけていることから中身は剣と思われる。
少しおどおどしているようにも感じたけれど、そのあたりはあまり問題ではない。

最初に驚いたのは、彼は凄く綺麗な宝石のようなスライムを連れていた。おばあちゃんの家にも魔法に使う宝石の品はいくつかあるけれど、あんなに深く澄んだ青は今まで生きてきては一度も見たことはない。

次に彼の服装である。
近くにある港町サンマリーノにはレイドックという大国をはじめ、いくつかの国と貿易していて多種多様な人間が集まる場所であるけれど、彼のような服装は見かけたことがない。服装だけならまだしも生地の種類すらわからない。

3つ目に彼の発言である。

彼はこちらが出迎えていたことに対し驚いているようで、頭をペコリと下げ、その後駆け足で近づいてくる。
それ自体は珍しい反応ではなかったのだけれど、

彼「これが幻の生マーズ」
マーズ「ふぉっふぉ、生かえ」

ミレーユ「……生?」

生ってなんだろう。

―――――――――――――――――――――――

彼は予想通りの変わり者だった。

彼がこちらに来て、私が一番驚いたのが彼はこちらの字が書けず、読めないと話していたことだった。
彼の国の字を見せてもらったが、そんな字は見たことがなく明らかに別の言語体系。
そこもまた不思議だったが、乗り掛かった舟。
今後覚えておいて損はないだろうとおばあちゃんに相談して、交代で字の勉強を見ている。

年上を教えるという経験はあまりなかったのでなかなか新鮮で楽しくもある。

また、剣が入っていると思った袋の中身は長剣ほどの長さの鉄の棒と訓練用であろう片刃型の太い木剣。
どこかの国の見習い戦士かもと思ったけれど、庭でその木刀を振りながらぴょんぴょん跳ねている姿を見て、もしかしたら旅芸人かもしれないと考えを改め直す。

そんな彼が来てから不思議なことがいくつか起こった。

その例を挙げると

ひとつは彼がここに来た後、温かい何かに包まれて意識が遠のいたこと。
おばあちゃんに聞くと私に神様が宿っていたのだと笑いながら言われて、それって大変なことかもしれないとも思ったけれど、その神様はお客さんの方に用があったとの旨を伝えられてますますお客さんの正体がわからなくなった。

それから彼の帰る目処が立つまで一緒に住まわせてもいいか、とおばあちゃんに聞かれた際は驚いたが、おばあちゃんが珍しくおそるおそるといった風に私に聞いたので少しおかしくなってしまった。
ここに来てから私も1年経つけれど、私はおばあちゃんに本当によくしてもらっている。

それに私はいろんな人に助けられてここにいるのに、ここで私が断りを入れたらばちが当たってしまいそう、そう思った私の答えは決まっていた。

マーズ「いじわるな聞き方だったかのう……」

心配そうに言う彼女を見た際、こらえきれず吹き出してしまう。こんな彼女を見れただけでも了承した甲斐はあるというものである。

ふたつめは魔物の友達ができたこと。
その宝石のようなスライムはとても好意的に接してきてくれたのだ。
なんだか子どもの頃の夢が少し叶ったようだった。
名前は何というのだろう。
彼はスライムと呼んでいるけど、今度名前を提案してみてもいいかもしれない。



いま、彼はおばあちゃんと共に【彼が帰れる方法】をいろいろ試してみているようだけど、難航しているようだった。
おばあちゃんに出来ないとなると、彼が故郷に帰るのはとても難しいことかもしれない。
自分もお義父さんやお義母さん、弟のことを度々思い出すけれど、今はあの国に帰れない。

そう思うと、帰ろうと躍起になっている彼が少し妬ましく思えた。

――――――――――――――――――――――――

彼が来てから一週間が過ぎたある日、夢見の洞窟におばあちゃんと彼が出かけるらしい。
少し不安だったが彼とおばあちゃんを見送る。
不安なのはもちろん普段着と木刀だけで出るつもりでいた彼が原因である。

おばあちゃんが前に旅の戦士さんからお礼にもらった皮の装備を渡していなければ本当にあのまま出て行ったかもしれない。

見送りの際、ある言葉と顔ではじめて彼に言い様のない無性の怒りを覚えたけど、結局笑いになったのでやはり旅芸人の線が濃厚と考えている。

旅芸人は感情を扱う魔法使いと聞いたことがある。彼はその卵なのかもしれない。



夕方ごろ帰ってくると、彼は不思議な生物を連れていた。
魔物だそうだけれど、邪悪な感じはしないし、彼に懐いているようなので私も新しい同居人が増えることに賛成する。

その際、彼が名前を付けようとしていたので私も進んで参加。
その子の魔物としての名はブラディーポというらしい。

彼はそこから「ブラ子がいいと思うな」

と、言うとその子はすごく残念なものを見る目を彼に向ける。私も少しそう思ってしまったから庇いだてはできそうにない。

気を取り直して私も思いついた名前をその子に伝える。
ミレーユ「ディーポちゃんがいいわ」

ディーポ「……オレ、ディーポがイイ」
そういうとその子、ディーポちゃんは短い足でピョンピョン跳ねる。

前の反応がアレだったので少々不安だったけれど、喜ばれるとその分沸き上がる感情もひとしおだった。

ミレーユ「ふふっ、本人が好きな名前が一番よね」
彼「まあ、それが一番ですよね」

彼はディーポちゃんに冷たい視線を向けられていたこともさほど気にしていないように見える。

……実は故郷の近所の幼馴染が犬を飼っていて、彼女が犬に自分で名前を付けていたのを少し羨ましく感じていたことを思い出した私は、この子に名前を付けてみたいと少し意地になっていたとは言い出しづらい。

彼は彼なりにこの子にいい名前を付けようとしていて、本人が望む名前なら自分の付ける名前じゃなくても構わないと思っていたのかもしれない。自分の意見が通らなくても柔らかく対応する余裕を感じる。

抜けているところがあっても彼の方がやっぱり私より大人だと、少し思った。

そんなやり取りをしていると、スライムちゃんも名前を付けてほしいらしく跳ねたりコマのように回転したりしてすごい勢いでアピールしている。やはり彼はまだ名前を付けていなかったようである。そういうところが抜けていると思う。

ミレーユ「スライムちゃんも名前を付けてほしいみたいね」
彼「あ、そうだな。つけてなかった。……そうだなあ」

ミレーユ「そうねぇ、スラリン……どうかしら?」
ディーポ「オレも、それいいとオモう」

スライムちゃんを見るとまんざらでもなさそうだが、付き合いの長い彼の言葉を待っているようでもある。彼は少し長めに思案した後、

彼「……スラ子かな」

ミレーユ「その考える時間必要だったの?」

スライムちゃんも自然とほほ笑んだ形になる口を、心なしか引きつらせているように見える。

彼「スラ子……いいと思うんスけど……」

そう彼が口にするとスライムちゃんは意を決したように大きく跳ね、満面の笑顔を見せていた。
彼はすごくスライムちゃんに好かれているようである。
これは仕方ないか。

趣向は置いておくとして、彼のつけた名前が一番嬉しいんだと思う。
ここは私も先ほどの彼を見習うべきだろう。


彼「何はどうあれ、やはり本人の意向を尊重するべきだよねッスよさ~」

前言撤回。
私は彼の今晩のおかずを一品抜くことを決意する。

何、「ッスよさ~」って。
彼は根に持つタイプのようである。
――――――――――――――――

彼が来てからひと月経った。
最初は家事はたどたどしいものだったけれど、少しずつできるようになってきている。言葉の方はまだまだだけど、こちらも順調と言えば順調で簡単な絵本程度なら何とか読め始めている。

彼はポテトチップスという異国のイモ菓子をサンマリーノで売り出そうと考えている。すごい勢いで畑を広げているのはイモを植えるためだと思う。

私も初めて食べたけれど、今まで食べたお菓子とはまた違ったおいしさで、特に子供にはとても喜ばれそうである。

最初にイモの実を延々とリンゴの皮のようにむき続ける彼を見た際は首をかしげたものだったけれど、あんな料理があるなんて想像もできなかった。

そんな彼はサンマリーノまでの移動手段として先ほどルーラを覚え、しばらくして帰ってきたと思ったら魔力が欠乏して倒れ、今はベッドで休んでいる。

おばあちゃんによると、彼はひとつの魔法に人の4~5倍の魔力を使ってしまうらしく、ルーラ2回で倒れたのもそれが主な原因と話していた。

そろそろ起きているかもしれないと思った私はお鍋で水とミルクを温め、モクレンと蜂蜜を入れてミルクティーを作る。

そして、彼の寝ている部屋へと足を向ける。

マーズ「フェッフェ、ワシも三度目ともなるともうミルクテーは飲めんよ」
ミレーユ「き、きっともう起きてると思うわ」

2度ほど彼に持っていったのだけれど、彼が眠っていたのでおばあちゃんにも飲んでもらっていたのだ。

わざと「ティー」を舌を使わず発音するおばあちゃんもいい性格していると思う。

少し彼の悪い影響を受けているのではないか。

でも、1か月も共に生活をしているのだから心配になるのは仕方ないのではないか。

孤児院で生活をしていたころ、よく弟は傷をたくさん作って目に涙を浮かべて帰ってきたことを思い出す。その際、泣いている弟にシスターからもらった蜂蜜の入った温かいミルクを持って行ったことを覚えている。

そう考えると私は彼を手のかかる弟のように思っているのだろうか。

ミレーユ「ふふっ、あんなにおひげの生えるのが早い弟って」

そう考えると手のかかる兄というあたりだろうか。
そうね、そのあたりが適切かもしれない。

そんなことを思いながら私は扉を開ける。


そこには額にスラ子、お腹にディーポを乗せてうなされている少し変わった人がいた。


ミレーユ「それ、どうなんですか?」
彼「すっごい見てます」

スラ子ちゃんは彼の瞳をじっくりのぞき込んでいる。
少し気持ちよさそうで羨ましい。
ディーポちゃんの方は彼のお腹の浮き沈みのリズムがちょうど眠りを誘うのか、安眠している。
少しその触れ合い方は羨ましい。

そうではなく
ミレーユ「病人は大人しくしていなさい!」
彼「えぇ!?」

――――――――――――

ひと悶着あり、少しお茶が冷めてしまった。
彼はそれをごくごくと飲み干す。長い時間眠っていて喉が渇いるのはわかるのだけど、せっかく作ったのだからもう少し味わって飲んでくれてもいいのではと思う。

あんまり美味しそうに飲むものだから、そんなに気にしてはいないけれど。

彼は私の視線に気づくと、もう中身のないカップに再び口をつけ、

彼「うん、おいしいッス。飲んだ後に鼻に抜ける香りが良いッスな」
ミレーユ「次はもう少し味を楽しんでね」

まだ鍋には少し残っているので彼のカップにそれを注ぐ。

そういえば、彼とこうして面と向かって向き合う機会はなかった。
そう思うとお互いに知らないことばかりな気もする。

ミレーユ「ねえ、今日はどこへルーラしてたの?」
彼「ん、ああ。ここから少し離れた森の中。そこに日があたって気持ちのいい場所があるんですよ」

ミレーユ「そうなの?」
彼「そうなのですよ。そこでちょっとポカポカしたあとに魔物が出たら不味いなとそそくさと帰ってきたわけです」

ミレーユ「ふふっ、貴方って魔物に好かれてるみたいだから大丈夫じゃない?」
彼「そ、そうだといいんスけどね」

その後も他愛のない話を繰り返す。
彼の方はあまり喋るのは得意じゃないのかよく噛んだりしていたけれど、真っ直ぐこちらを見る瞳が印象的である。

彼のティーカップが空になった頃、話が一段落を迎える。
いい機会かもしれない。そう思った私は

ミレーユ「故郷へ帰ることはできそう?」

と聞いてみる。私は彼が故郷に帰ろうとしていることについてあまり触れてこなかった。

けれど、彼が度々おばあちゃんと試行錯誤していたり、スラ子とディーポのことについて相談している姿は何度か目にしているし、それに

彼「……ん、ん~、まだしばらくかかりそうです」

この変わった同居人がいつまでここにいられるのか、少し気になるのだ。



サブシナリオ「変わったお客さんの訪問」(完)


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☆視点変更


俺「…………」

土、草、葉でできた程よいベッドから体を起こす。
初成功させたルーラで少し疲れたので、ちょうどよい加減で陽が差す場所で横になっていたのだ。

風で枝葉の擦れる音がさらなる眠気を誘う。ここでもう一度横になってしまうと完全に眠りに落ちてしまいそうなので、気を張って立ち上がる。

ここに来たのは所用、【故郷への帰還】について気持ちの整理を目的として来た。

1ヶ月間に渡りマーズさんの協力のもとで様々な試行錯誤を繰り返したが、どうにも現状では帰ることが難しそうである。

現実だけでなく夢の世界含めて屈指の知識を持つグランマーズの協力を得て、なおも取っ掛かりも掴めていないというのは

‘そういうこと’であろう。


少し歩いた。

俺「……」

一番最初に立っていたと思われる場所、記憶と重なるようにそこに立つ。

瞼を下ろし、両の掌を合わせ、黙祷。






何に祈っているのかわからなかったし、祈っている内容自体も向こうに残してきた家族の健康祈願だったりこちらでの生活を頑張る決意だったりとまとまりのないもの。

しかし、不思議なもので再び目を開けたときには胸の奥が少しだけスッとしていた。

俺「さて、帰るかな。っとと」フラッ

少しまだふらつく。
ルーラで着地した日溜まりまで移動した俺は、少しもったいない気はしつつも上着からキメラの翼を取り出す。

使いきりアイテムなのに、白い羽と金色の装飾が美しい。やっぱりこれを使ってしまうのはちと惜しい気がする。

俺「……」

手が止まる。

その時俺は、もっともったいない使い方も浮かんでしまった。


俺「………………………………………………………………また、お金稼いでマーズさんに新しいの渡そう」

欲求って逆らい難い。
そう思った。

ーーーーーーーーーーーー

マーズ「なに、埋めたとな!」
俺「す、すみません。阿多らしいのを買って必ずお返しします」

後日、マーズさんにキメラの翼を使用しなかったことについて聞かれた際、彼女に誤魔化しは効かないので正直に伝える。

あの後キメラの翼を黙祷を捧げた場所にハンカチで包んで埋め、なんとか持ち上げられる一抱え程度の石をその上に置いて、小さな碑を作った。

キメラの翼の使用方法の中でもここまでもったいない使い方も珍しいだろう。

しっかりした動機はないが、このまま帰ることを少し味気なく思う自分がいたのかもしれない。

マーズ「フェッフェ、空に投げて使うものを土に埋めて使うとはね」
俺「あ、あはは。自分もそう思います」

少しマーズのツボに入ったようである。いまいち彼女の笑いのツボがわからない。彼女はキメラの翼のことは気にするなと言い、部屋を後にする。


俺「……」

キメラの翼を埋めた際のことを思い出す。
その時はあまりなにも考えてなかったが、


……どうしてだろう。 

今思うと、親しい人のお墓を前にしたような……少しの寂しさを感じたのだった。



視点変更って難しい。

また次回もよかったら見ていってください。






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