でもやるよ、英雄王大好きだもん。
オリ主転移ものです。ナザリックも転移済み。
「これで最後か……」
石造りの古城の最奥にして最上階。玉座の間に鎮座する男は鬱屈とした声音でそう零した。
「いや……
しかし次の瞬間には己を鼓舞せんと気を引き締め決意を新たにした。
男は思う、この世に生を受けて三十年。当初こそこの世界の有り様に“悲嘆”したが、十二年まえに見つけたとある“ゲーム”の存在を確認した途端、それは歓喜に変わった。
VRMMO『ユグドラシル』。
その完成度の高さとリアリティ、無限に遊べるとまで言われる自由度によって一大ブームとなったゲーム。
これを俺は
そしてこのゲームが終わる時、一つの物語が幕を開けることも。
これは賭けだ。運営終了とともに転移できるのは“彼ら”だけという可能性もなきにしもあらずだから。
しかし、それでも、と。たとえ転移できなくても悔いの残らないように遊び尽くしたことも事実。
当たれば上々、といった心持ちだ。
とはいえ、この時のために色々と準備してきたことも確かであり、静かにログアウトさせられたならそれなりに嘆きもしよう。
だが、俺には多少の勝算はある。
原作において“彼ら”が転移できたのは事実で、他のプレイヤーが転移出来たのか否かは定かでないし、それ自体はさしたる重要性を持たない。
大事なのは俺が“異物”であることだ。
本来であれば俺という人間はこの世界には存在せず、このようなギルドは存在しなかった。
“ワールドチャンピオンの中に俺の名前が載る”こともなかった、
であるならば、多少なりとも“不具合”もとい
“
ただこちらも“世界の修正力”というものが働く可能性がある。その場合は俺は大人しく強制ログアウトさせられて終わるのみだ。
なればこそこれは賭けなのだ。
あの転移が偶発的なものか人為的なものか定かでない以上はここで手詰まり、最後は運に賭けるしかない。
「まあ、この姿の元となった人物なら容易に引き寄せられるほどの幸運なのだろうが」
最早何も語るまい。どう転んでも俺は最善を尽くしたのだから。
「……来い、“エルキドゥ”」
部屋の奥に控えていた俺の唯一のNPCを呼ぶ。
すると、“彼”はスタスタと俺の前に歩み寄った。
「良い、俺の横に来て共に旗を見上げよ」
NPCたる“彼”に否やはない。ただ命令通りに横に来て旗を見上げるのみ。
このギルド『ウルク』の象徴たる旗を。
長いようで短かった。ただの人間種として剣一本で我武者羅に戦った頃から比べればよくぞここまでと感動すら湧いてくる。
俺は一切の妥協を許さなかった。それは前世で憧れこそしたがついぞ目指すことが出来なかった後悔からのもの。
俺は本気で“あの王”を目指した。
そのために対人、対モンスター、対ボスから対レイドボス、ギルド戦に至るまでありとあらゆる戦術を思案し実行し、時には惨敗、時には勝利を掴みここまでのし上がった。
……まあ、かつてのギルドメンバーはもう引退済みだが、それでも最後は清々しい別れだった。俺も他のギルメンも無理に引き留めたりはしない。それこそがこのウルクの掲げる唯一にして絶対の法。
『全力投球、去る者追わず』
己がやり切ったと感じられたなら去ればいい。未だ道半ばと感じたなら燃え尽きるまでやり切れ。
後悔が残らないようにやり尽くす、これが守れる奴ならみんな仲間だ。
23:58:30。
サービス終了までの時間は二分を切った。
俺は来るべき時に備え目を閉じる。
「来るなら来い、俺はその先で“果たせなかった夢を果たす”」
23:59:58、59……。
「願わくば……先へ、俺は、あの王にーー」
00:00:00ーー
「ねぇ、ギル。僕はいつまで旗を見ていればいいのかな?」
ふと、“彼”の声が聞こえてくる。
「先へ、か。何のことかは兵器の僕にはさっぱりだけど……」
男とも女とも取れる、しかし美しき人の声が。
「やるべきことがあるんだろう? なら手を貸すよ、君一人で行かせるのは心配だからね」
目を開ければ“彼”が横からこちらを覗き込んでいた。
自分で作っておきながらその美しさに思わず息を飲むが、湧き上がる喜びに押されすぐに応え返す。
「ああ、共に行こう。友よ」
【名前】エルキドゥ
【種族】天の鎖※専用
【ジョブ】ランサーLv10ほか
【性別】自由自在
【身長】自由自在
【体重】自由自在
【カルマ値】中立(0)
【スキル】
???
???
???
???
【装備】
『布』