偽物の英雄王〜inオバロ〜   作:蒼天伍号

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遅まきながら二話投稿。

この話でなんでこの作品が短編扱いなのか分かる模様。


初手からブレイカー

「フハ、フハハハハハハ!!!!」

 

  勝った!俺は賭けに勝ったのだ!!

 

  馬鹿め、俺という存在をついぞ測りきれなかったようだな抑止力め!

 修正を受けることなく俺はまんまと貴様の抜け穴を通ったぞ!

 

 “なんだこいつ、うーん、よく分からないから一緒に飛ばすか”

 

 みたいなノリに違いない。フハ! ヴァカめが! 俺はとことん原作を無視するぞ? 運命を蹴散らすぞ?やりたい放題に暴れ回るぞ? いいのか? いいんだな?

 ハッ! もう遅い! 俺は俺のやりたいようにやる、恨むんなら己の浅はかさを恨むがいいさ抑止力! フハハハハハハハハハハハ!!

 

「……えーと、ギル?」

 

  ハッとして振り向けば少し困ったような顔をした盟友(自作)の姿が。

 あまりにも嬉しすぎてつい感情を抑えきれなくなっていた。

 

「いや、済まぬ。上手くことが運んだのでな、少し感情が昂ぶってしまった」

 

  しかし、すぐに冷静さを取り戻しいつものロールプレイで受け答えることができた。ふむ、これが転移の影響か。

 俺の精神は多少なりとも影響を受けているらしい。

  今も、エルキドゥに応待しながら十個くらいの考え事をしていられる。

 

  優秀過ぎだろ、『半神半人』。

 

「時にエルキドゥよ、お前はどこまでさっきのことを覚えている?」

 

「さっき?」

 

  こてん、と首をかしげる姿も可愛い……ああ、いかんいかん。こいつは盟友、こいつは盟友。

 

「俺が玉座に座ってから先のことだ」

 

「ああ、全部覚えてるよ。ぼんやりだけどね」

 

  朗らかに笑うその仕草も様になるというかなんというか。有り体にイける。

 

「なるほど、奴らと同じか」

 

  とにかくエルキドゥの状態に問題はない、想定通りだと分かった。

 

「ならば次は地形か。エルキドゥ、付いて来い」

 

「ああ、何処へだって付いていくよ」

 

  足早に玉座の間を出る俺に忠犬のようにトコトコと付き随う様はとても萌えた。

 ……いや、エルキドゥってこんなだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

「壮観だな」

 

  玉座の間を出て、この建物ジグラットの屋上に来てみれば、ウルクの外が一望できる。

 

  そこからの見晴らしは最高の一言に尽きる。だって、めっちゃ凝って作ったもんウルクの街並み。

 

「おや? なんだか外の様子、おかしくないかい?」

 

  十二年間積み上げてきたウルクの栄光を噛み締めていると、傍の盟友が何かに気づいた。

 

「ああ、気付いたか。“転移”に」

 

  しかしそんなことは想定内、というより俺の目論見の通りだ。

 とはいえいち早く気づいた盟友はやはり優秀、褒美に頭を撫でてやる。

 

「え? ちょ、ギル?」

 

  素で困惑している盟友に構わず撫でる。

 

  良い、良きに計らえ。

 

「……転移?」

 

「うむ、ここは今までいたユグドラシルとは違う。と言っても力は問題なく振るえるがな」

 

  言いつつ『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を起動し、空中に現れた黄金の波紋から黄金の瓶と二つの盃が現れる。別に聖杯ではない。

 

「これこそ俺の待ち望んだ現象よ、これより先は俺の()()()()()を目指すことが出来る」

 

  盃の片方を盟友に渡しとくとくと酒を注ぎつつ語る。

 

「へぇ、それってさっき言ってた“先へ……”ていうのと関係あるのかい?」

 

  ニコニコして質問してくる盟友に、俺は先の発言を思い出して羞恥心を感じつつ答える。

 

「ああ、お前も知っていようが前の世界では俺のこの体は本来のものでなかったからな。いや、厳密には今も違うのだが、まあ俺の魂の器となったことに変わりはない。それが借り物であろうとな」

 

  故に思う、これは反則なのではと。知っていたからこそ“この姿”を作ったのだし、大会の優勝に際した景品も随分と無理を言って作ってもらった。

 

  だが、同時にこれも力であると言える。転生という幸運のみならず『オーバーロード』と呼ばれるよく見知った物語へと入り込めたのだから。

 

  かの王も豪運の持ち主だった。それはひとえに神の血を引くからなのだが、本人は神嫌い。

 

  まあ、とにかくここから先の俺の野望に迷いはない。

 

「これからは“本気で”あの王を目指すことが出来る。0と1で出来た仮初めの世界ではなく、肉と血のある一生命体としてな」

 

  思うだけで歓喜する。

 

  データで出来た、バランス調整の成された世界でなく、無限の可能性を内包したこの三千世界でなら、俺は本当にあの王になることが出来るのではないかと。

 

「ふぅん、その王様っていうのに随分とご執心みたいだね」

 

  少しだけつまらなそうに呟く盟友にドキリとしつつ、顔色を伺う。

 

「そう膨れるな、あの王はな、俺の原点なんだよ。その盟友はお前の原点なんだぞ?」

 

「そうなのかい?」

 

「ああ、『神に造られし美しき緑の人』。或いは『天の鎖』と呼ばれたな」

 

「それって……」

 

  興味津々な様子の盟友に、俺はつい語り過ぎたと気づく。

 

  このNPCエルキドゥもなかなかに設定の凝った存在だ。

 

  なるべく原典のエルキドゥのように、しかしユグドラシルの世界観に合わせボカす部分はボカし、明記するべき重要な要素はしっかり叩き込んだ。

 

  故にあまりメタいことを言ってぶち壊すもんじゃない。

 

「……まあ原典がどうあれ、貴様は貴様だ。思う通りに生きればいい」

 

「ウルクの掟だね、わかるとも!」

 

  そう、彼は彼だ。いや、彼女?……まあ、とにかく盟友は盟友だ。無理に原典のエルキドゥになる必要はない。あくまでモデルだ、自我を得た今となっては自由に生きて欲しい。決して結末まで同じになる必要なんてない。

 

「その通りだ盟友! “己のなすべきを全力で”それさえ守れば俺は何も言わん、生きるも死ぬも……去るも自由だ」

 

  そう、それはかつての俺が出来なかったこと。

 

  社会の歯車、ならまだよかった。それすら放棄し堕落の極みを得て無為に死んだかつての俺をこそ俺は嫌悪する。

 己の思いも信条も無視して、流されるままに楽な方へと……。

 

 

「……先ずは周辺の偵察だ。頼めるか、エルキドゥ?」

 

  鬱になりだした思考を振り払い今なすべきをなす。

 

「うん、任せて」

 

  快諾した盟友は地に手を添え静かに目を閉じる。

 

『気配感知』

 

  NPCエルキドゥの持つ固有スキルの一つ。大地を通じ、広範囲に渡っての偵察を行えるチートスキル。生き物の気配はもとより、建物、地形すら測ることができる優れものだ。

 

「どうだ?」

 

「……周囲数キロには何もないね、ただもう少し行くと壊れた建物と幾つか()()()()()の反応がある」

 

「ふむ」

 

 その答えと、目の前に広がる光景から推測されるに、ここは“カッツェ平野”だ。

 赤茶けた大地が延々と広がっているような景色から薄々勘付いてはいたがそれにしてはおかしな状況である。

 

 カッツェ平野。王国と帝国の間にある荒廃した大地の名前だ。そこには廃墟と化した建物跡やアンデッドが横行する人気のない地帯。

 だが本来であればここは()()()()()()()()()()()()()

 

 しかしながら上を見上げれば煌々と太陽が輝き荒廃した大地を照らし上げている。

 が、少し先に目を配るとぼんやりだが霧が立ち込めているようにも見える。

 

「ここだけ、というわけか?」

 

 それならば幾つか原因が推測できる。まあ十中八九、ウルクの機能によるものだろうが。

 

「もうよいエルキドゥ」

 

「そうかい?」

 

 すっと立ち上がりパンパンと土を払う盟友を一瞥し次のなすべきを思案する。

 

 今の気配感知で盟友のスキルも問題なく発動することが確認できた。数キロ先と言っていたので霧のジャミングも造作もなく無効化して見せたのだろう。

 

「平野のどの位置に来たのかも気になるが、先ずは不遜にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 英雄王を騙るこの男がニヤリと笑った瞬間。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『っ!!』

 

『ほう、貴様のような肉人形でも驚くことがあるのだな。それとも貴様を縛るアイテム(おもちゃ)の機能か?』

 

 色彩の狂った幻想的な空間にて相対するのは黄金の王と()()()()()

 彼らの対話する空間は精神世界。一時的に精神を飛ばした彼が彼女の心の中へと割り込んでいるのだ。

 

 ちなみにこのようなことが出来る宝具があると宝物庫を漁って初めて知った彼が一番びっくりしていたりする。

 

『……』

 

『語らぬか語れぬのか、おそらく後者であろうが随分と哀れな姿よな』

 

 ちらりと目を向けるのは薄衣一枚を纏った麗しき美少女の肢体。叡者の額冠と呼ばれる宝石のような美しい非人道的魔導具を付けている影響で無表情無感情なその様は一種のエロティシズムを感じさせる。

 

 事実としてこの偽物の英雄王の中の人は非常に興奮していた。

 

『フン……だんまりか(え、なにあれ、服? アレ服なの!? 巫女姫の格好がガチで痴女って本当だったんだ!)』

 

『……』

 

 だんまりを貫く巫女姫であったが彼女は、厳密には彼女の装備するアイテムの機能は彼の動揺をしっかりと読み取っていた。

 何を隠そうここは精神空間である。いくら外面を取り繕おうとしてもそもそも外面が存在しないので心の声がダダ漏れになってしまうのだ。

 

 かの英雄王の宝物庫ならばそれをも隠蔽するものが存在していたのだろうがこの愚かな男は確認を怠った。

 ……まあ、それも慢心王リスペクトという苦しいフォローでなんとかできなくもないが。

 

『操り人形とはいえ不遜にも俺の肢体を覗き見たのだ。さて、どうしたものか(ホントにどうしよう。っていうかこのタイミングで観測してくるのは土の巫女姫だったよな? それでモモンガ見てトラップに引っかかって爆発四散しちゃう可哀想な子だった気がする)』

 

 その時彼は思った。

 

 “何この子めっちゃ救いたい”と。

 

 その心情の変化は彼自身にしか測れぬが多分に、いや十中八九彼女の“痴女ファッション”に魅了されてしまっていたのだろう。

 その証拠に今の彼の息子ははち切れんばかりに自己主張をしてしまっている。

 

『……とはいえ、貴様も余人に拐かされた哀れな羊。ならば貴様自体に罪はないということもーー』

 

 この男、必死になって“英雄王をRPしながら彼女を許す口実を探している”。

 だがよく考えてほしい。ここまで言葉を発していたのは彼一人。その上で自分の先の失言を取り消そうと躍起になっている姿は最早滑稽以上に不憫にしか見えない。

 

 それでも彼は一つの結論に達する。

 

『……うむ、興が乗った。今より貴様を我が妾として迎えてやろう』

 

 自信満々に言い放つ彼と終始スルーの巫女姫。ことここにいたり彼は理解した。

 

 あれ、俺めっちゃ道化じゃね?と。

 

 しかしこの“無表情系痴女っ娘(彼命名)”をどうしても救ってやりたい彼は半ばヤケクソ気味に宝物庫にアクセスし彼女を縛る叡者の額冠をひっぺがす宝具を探す。

 

 “今は俺が英雄王なのだし、この子手篭めにしたいのも本心だし、英雄王的ジャイアニズムと考えればあながち間違いではない”。

 

 有り体に開き直りである。

 

 

『あ、あった! っ!ゲフンゲフン。先ずはその粗末な装飾品をどうにかせねばな』

 

 語った途端、土の巫女姫の頭に巻かれていた忌々しき呪縛はいとも容易く、まるで錆びた鉄を砕くように一瞬で消し飛んだ。

 そしてこれまでずっと無表情だった巫女姫の顔に初めて感情が浮かび上がる。

 

『あ、れ? 私、どう、して……え、見えない。真っ暗で何も見えないよ!!』

 

 彼の使った宝具は魔導具の機能諸共消し飛ばす効力を持ったものだ。つまりは彼女が発狂し掛けているのはセルフ発狂ということ。

 だが、何も分からぬままに突然意識が戻ったと思えば目が見えなくてあまつさえ痴女みたいな格好させられていたらセルフで発狂するのも仕方ないことだろう。

 

 それを分かっていたのかいないのか、ともかく彼はセルフで永続的発狂に陥りそうな巫女姫(の精神体)を優しく抱き寄せる。

 

『案ずるな。もう貴様を縛るものは何もない、これよりは自由だ。家族の元へ行くなりなんなり自由に生きよ。……それまでは俺が貴様を守ってやる』

 

『あ……』

 

 強く美しく、そして王威に満ち足りた言葉に自然と巫女姫の心は落ち着きを取り戻す。

 まるで父のような、ともすれば偉大なる“神”のような圧倒的抱擁力に巫女姫は一瞬で()()()()()()()

 

 これまで自分が信じていた神はなんだったのか、その教えを説いた信者たちは道化だったのだろうか? ああ、我が主人はここにおられた。

 みるみるうちに自らの内側が満たされていくのを感じながら彼女は穏やかな眠りに落ちていった。

 

『気を失ったか、ならばこの世界も保てまい』

 

 その言葉通り空間にはピシピシと亀裂が生まれその中から別の世界が姿を表そうとしていた。

 

『よもや夢の世界に取り込まれる訳にはいくまい!』

 

 ギルはぐったりとした彼女の精神体を抱えながら即座に空間を離脱する。

 

 ……ちなみに彼の去った後の空間にて現れたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であったことは巫女姫だけの秘密になるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ギル?」

 

 美しき緑の人の問い掛けによりようやく意識を取り戻した彼は両腕に掛かる軽やかな重みを意識して安堵の息を吐いた。

 

「ふむ、戻るときに同時に本体も呼び寄せてみたがどうにか上手くいったようだ」

 

 語る彼の腕の中には精神世界で見たように薄衣のようなベール一枚を纏った美少女がいた。

 薄い茶髪はまるで糸のように滑らかで薄いベールが申し訳程度に隠した肌は傷ひとつない純白の柔肌。

 

 ギルはどうしてこんな美少女を使い捨ての道具にしようと思ったのか純粋に疑問に思った。

 

「……なんだ、エルキドゥ?」

 

「別に。ただ、僕の親友はこんなにも軽々と女の子攫ってくるヤリ◯ンだったのかって幻滅してただけさ」

 

 ヤリ……!?おまっ、エルキドゥがそんな卑猥な発言するだなんて予想外だぞ!?

 

 ていうか攫ってねぇし! 救っただけだし!

 

「案ずるな盟友。今回は興が乗った故に此奴を連れ帰っただけのこと。なに、万物の王たる俺が妾の一人もいないのは情けなかろう?」

 

「別に僕一人でも……ちょ、撫でるのはズルいよ!」

 

 いいつつ頬を染めるエルキドゥを見て俺はいよいよこいつが女にしか見えなくなって来ていた。

 まあでも設定的にもこいつは両性類なわけだしあながち間違いじゃない。

 

 それにこれまでずっと一緒にやって来たんだからな。こいつが大事なことに変わりもない。

 

「もう! 撫でないでってば!」

 

 強引に振り払われた俺は少し傷つきながらもいそいそと髪を整えるエルキドゥの姿に癒された。

 やっぱこいつ女だわ。

 

「さて、では手始めにこの世界を見定めに行くとするか」

 

 美少女もゲットして、盟友の可愛さに癒されて満足した俺は意気揚々と次の目的を告げる。

 

 ボサボサになった艶やかな緑髪を直しながら盟友もこちらを見る。

 

「どこかに行くの? なら僕も行くよ」

 

 先ほどと同じような声、決意で告げる“彼女”だったがそこはかとなく『これ以上、女の子攫ってこないように監視しなきゃ』と言っているようにも聞こえて、少しだけ自重しようと思う俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、土の巫女姫を攫ってしまったことによる弊害を思い出したギルは慌てて土の神殿にテレポート爆撃を行なったのは完全なる余談である。

 

 

 

 

 

 




【名前】元・土の巫女姫
【種族】人間
【ジョブ】元巫女姫
【性別】女
【身長】148cm
【体重】38kg

【カルマ値】善(200)
【スキル】
???
【装備】
『布』

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