偽物の英雄王〜inオバロ〜   作:蒼天伍号

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今更ながらギルはこれまでずっとキャスギル衣装でした。




追記:いつも誤字修正、圧倒的感謝です。全力で気をつけたいと思いますが今後も幾つか出てしまうと思うのでその時はどうか宜しくお願い申し上げます。


報告

「西のリ・エスティーゼ王国。封建国家であり土地も豊かな国であります。しかし、近年裏表に幅広いパイプを持つ諸侯に王は押されつつある模様。また、諸侯たちの腐敗も著しく現在は王派閥と貴族派閥の二対立となっていますが、いずれ王が排斥されれば国が崩壊するのは目に見えております。

 また、隣国であるバハルス帝国により度重なる侵攻を受けているために農民等への徴兵が繰り返され国力は衰退の一途かと」

 

「東のバハルス帝国は近年封建制から専制君主制へと移行し、現皇帝ジルクニフの手腕により力を高めつつある国です。

 歴代どの皇帝も優秀であり、王国とは真逆の発展を重ねた国と言えます。また、ジルクニフは封建制の撤廃を前に国内の粛清を大々的に敢行しており腐敗した貴族、身内さえも手に掛けたと言われます。以後、帝国では実力主義が主流となり例え民草であっても有能であれば地位を上げることも可能となりました。

 軍事面においても抜かりはなく、一万の軍隊を計八つ、皇帝直属の四つの騎士団の長はそれぞれ帝国きっての実力者とされています。また魔法技術の研究にも熱心で、総責任者であるフールーダなるものは大陸で四人しかいない実力者であるとか」

 

 玉座の間、鎮座する王の御前に頭を垂れ報告するのは二人の忍。片や身体の節々が人のそれとは異なる“関節”をしたうら若き女性。

 もう片方は先の会議にも参加した風魔の頭領たる赤毛の少年である。

 

 両名の報告を静かに聞いていた王・ギルガメッシュは頷きをもって返す。

 

「ご苦労であった。しかし、短時間でここまでの情報を得てくるとはな。少々驚かされたぞ」

 

 正直な話、ギルは内心、冷や汗をかいていた。一日でここまでの情報を得てくるとは思わなかったのだ。敵でなくて本当に良かったと胸をなで下ろす。

 

 他にも武技や魔法やらについても報告を受けるも、ギルは原作という形で全て修めていた。

 この偵察もまた彼らNPCの性能調査の一環なのだ。

 

 だが、予想外に成果を上げた偵察隊には素直に賛辞を送りたい。後で何か褒美を与えるべきか。

 

「……おそれながら王よ、御身は今、我らへの褒賞を思案されておられるのではないかと愚考いたします。その上で申し上げさせていただくならば、そのようなモノは()()()()

 

 とか考えていたら百貌にズバリ言い当てられてしまった。こいつ心を見抜いていやがる……!

 

「我らは隠密。歴史の表にて輝ける我が王が如きお人に仕えるべき陰。要は陰と陽にございます。その太極における陰を預からせていただける、その栄誉を賜れるのであればその以上に望むものなどあり得ようはずもございません。

 ……だからどうか、我らに命を。どのようなご命令にも応えて御覧にいれましょう」

 

「……」

 

 薄々、隠密どもの忠誠が高いのは気づいていたが、これは予想以上だ。

 もしかしたらNPC内で一の忠誠心を持っているのではなかろうか?

 

 何が、彼女らにここまでの忠誠心を与えているのかは分からない。分からないが、それでも、悪くはない気分だ。

 

 素直に嬉しい。

 

 だからこそーー

 

「ならば百貌、今夜我が寝室まで来るがいい。存分に役目を与えてやろう」

 

「なっ!?」

 

 虐めたくなるというものだ。

 

 やはりというべきか、予想だにしない俺の提案に百貌は驚いている。仮面越しではあるがおそらく赤面しているのは想像に難くない。

 

 しかし、そこは優秀なハサ子。すぐに先の反応が不敬に値すると思い至ったのか慌てて平伏し直す。

 

「ぎ、御意……!」

 

 プルプルと震えながらもなんとか返答する彼女に少し違和感を覚える。

 原作で明言されていたわけではないが、彼女はその特性上、一人で百人分の仕事をこなしたという。

 それは数多に別たれた人格のそれぞれが個性に溢れた長所を有していたことに由来するのだが、その中には拷問を受けた時用の『何も知らない人格』通称ちびアサがいた。

 ならば、夜伽に優れた人格もいるのではなかろうか?少なくとも、そういう任務だって生前にはあったと思う。

 

 ……いや、そもそも彼女は俺が設定し創造したのだった。元ネタが百貌というだけのただの『俺の子ども』だ。百貌のハサンその人とは区別して考えるべきだな。

 もしかしたら、意外と初心だったりするのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 その後も残りの隠密から報告を聞き、おおよそ原作知識の方と相違ないことを確認した俺は周辺、厳密には霧の晴れた地域の警戒を交代制で行うように言い渡しそれぞれの階層へと帰した後、玉座の間へと戻った。

 

『ゲート・オブ・ウルク』を起動し一瞬にして執務室兼謁見の間でもあるジグラット頂上の玉座の間へと帰還した俺を出迎えたのはシドゥリとエルキドゥの両名だった。

 

「お疲れ様です、王よ」

 

 シドゥリはまるで敏腕秘書のようにきっちりとした仕草だった。にも関わらず、我が盟友はひどく退屈そうに玉座へともたれかかって、ぐでーん、としていた。

 

「……流石にそれはどうかと思うぞ」

 

「あ、ギル。おかえり」

 

 さながら休日にグダるOLのような、いや、学校から帰ってソファに寝転びながらグダるJK妹のような。

 そんなモヤモヤとした感覚を覚える有様に、俺の怠惰センサーがアラートを鳴らした。

 

「いや、俺が悪かったな。今日一日中お前をほったらかしにしていた」

 

「ほんとだよ、シドゥリも『ウルク』の機能チェックだとかで忙しかったみたいだし、あの女の子もアナと楽しそうに遊んでるみたいだから邪魔したくなかったし」

 

 ブツブツと不貞腐れたように語る盟友に思わず苦笑してしまう。

 

「ならば他の階層にでも遊びに行けばよかったのではないか?お前は特に誰とも付き合えない者のない性格だったと思うが」

 

 盟友ことエルキドゥは階層守護等の役割には付かせていない。それは遊撃隊隊長の女神や宮廷魔術師のマーリンも同じようなものだが、女神は基本自由気ままだし、マーリンも六階層が本拠みたいなものだから、ウルクにおいて真にどこにも属しておらずこれといった役割も持たせていないのはエルキドゥのみだ。

 

「もしかしたら僕のいない時にギルが戻ってくるかもしれないだろ、その時に誰もいなかったら、寂しいだろうと思って」

 

 不貞腐れながらもその理由がどうしようもなく可愛い件について。

 

 こいつは俺専用のヒロインなのだろうか?俺の理想のラノベ的展開を与えてくれる至高のヒロインなのだろうか?

 

 捩じくれそうになる思考をなんとか制御し思考する。

 

「ふむ、まあ、今日のうちに動くべきことも特にない。……なら、どうだ? これから闘技場でも貸し切って汗を流すというのは」

 

 丁度いい。戦闘行動における試験も兼ねて模擬戦といこうではないか。

 このウルクにおいても実験場として製作されたコロッセオ擬きが存在する。そこならば多少暴れても問題ないのでテストにはうってつけだ。

 

 今後、モモンガレベルの実力者と当たる可能性を考えれば早めにこの世界での動きに慣れておいた方が良いとの判断だ。

 

「いいね! 行こう!」

 

 盟友もさっきの様子はなんだったのだと言わんばかりに食いついてくる。

 

「問題ないでしょうが、ご自重くださいね? 王。修繕もタダではないのですから」

 

 何かの資料に目を通しながら苦言を呈するシドゥリ。ていうかその資料なに? 俺なんも報告受けてないのだけど?

 まあ、シドゥリは内政、事務方面は優秀であるはずなので大丈夫だとは思うが。気になる。

 

「案ずるな、アレは使わぬ」

 

 今回はお遊びのようなものなので『王の財宝』と『終末剣』の取り回しくらいしか使わない。

 さすがに我が宝物最高峰の乖離なんちゃらは怖すぎるのでテストは後日に後回しだ。というかアレを使う機会とかあるのだろうか? それこそ冥界の底に封じてあるアレが暴走した時くらいしか使わないような気がする。

 

 何はともあれ今考えても仕方ないと、俺はすぐに闘技場までのゲートを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルク市街・最古の闘技場

 

 円形に建造された粘土作りのそれはまさしく闘技場と呼ぶべき建造物だ。古代ローマのコロッセオを思わせる形ながら細部の装飾はウルク形式。アヌンナキをイメージした彫刻がそこかしこに彫られている。

 

 その中央、地面の上に降り立った俺とエルキドゥは互いに距離をとった。

 

「ここに来るのは久しぶりだね、そういえばこうして戦うというのも初めてかな?」

 

「そうだな。お前の起動実験において訪れたのが最後だろう。無論、戦闘など初めてだ」

 

 実験場だしな。決闘等以外でフレンドリーファイアが制限されている以上、ここを使用するにしても実験くらいしか思いつかない。

 ギルメンの何名かは頻繁に使用していたようだが、俺は管理業務で忙しくてそれどころではなかった。

 

 と、苦労話はさておき。俺はいつものキャスギル衣装から英雄王スタイル即ち黄金の鎧へと換装する。

 

 一瞬の輝きののちにいつもの黄金鎧が現れるモーションは率直に何度見てもかっこいい。

 

 対して盟友の方はいつもの布一枚。さすがに布一枚はどうかと思った時期もあったが盟友は種族性質上、()()()()()()()()()()()()()()。加えて余計な衣服は戦闘に差し障るのだ。

 

「僕はいつでもいいよ」

 

 そうリラックスした様子で語るエルキドゥ。『彼』は構える必要がない、なぜならばその身こそが最大の武器なのだから。

 

「ふ、ではこちらからいくとするか」

 

 俺は『王の財宝』を起動し背後に幾つかの黄金の波紋を生み出した。

 そこからゆっくりと覗き出でたのは数多の武器。三叉槍から大剣、短剣、斧まで。

 豪華な作りのそれらは()()()()()

 宝物庫の中でも最高峰の逸品たちを選りすぐった。

 

「“即死せぬ”とは言え、本気で抗わねばタダでは済まんぞ?」

 

 宣言し発射する。

 

 名だたる名剣聖剣魔槍、神話に語られる武具をモデルに作られた最高峰の武器たちが音速を超えて盟友へと放たれた。

 

「……ふっ!」

 

 それらを一撃の元に弾き飛ばすエルキドゥ。振るった右手が一瞬だけ光り、刃のような形を作ったのは『彼』のスキルだ。

 

 神々の兵器として造り出された泥人形エルキドゥ。その正体は()()()()()()()()()()()()()()()まさに兵器そのもの。

『可変』と略されるスキルにより『彼』がその右手を()()()()()()()()()()()()()()()()に変化させたに他ならない。

 

 最早笑えてくるチート具合に自然とこちらも昂ぶる。

 

「それでこそだな盟友。ならば俺も少し本気でやろう」

 

 言うや否や波紋から取り出したるは二本の剣。同じ作りのそれは双剣として振るうことを前提に作られた代物。他にも用途はあるのだが今回は双剣形態でのみの使用とする。

 俺が最も使い慣れた、愛用の双剣だ。

 

 それとは別に波紋を生み出し射出の体制を整える。

 

「行くぞ」

 

 宣言とともに数多の宝具が放たれ遅れて俺も地を蹴った。

 

「タイマンだね? わかるとも!」

 

 エルキドゥも嬉しそうに笑いながら両手から射出する武具で『王の財宝』を相殺しこちらに突貫する。

 

 応じて振るわれる双剣、それに合わせるように振るわれた右手の光剣。

 

 激突により生まれる衝撃波はコロッセオの壁面を容易に崩壊させた。

 

 ギリギリと鍔迫り合いのような状態のままに俺らは昂ぶる感情を声に載せる。

 

「ああ、俺は生きている! なぁ、エルキドゥ!!」

 

「そうだとも! 僕らは、確かに生きている!!」

 

 片や夢にまでみた“かの黄金王の力”に歓喜し、片や被造物として虚ろな記憶しか持たない自身の確かな“今”を実感し同じく歓喜した。

 

 

 ……この後、調子に乗りすぎた二人の対戦はコロッセオ崩壊まで続き額に青筋を浮かべた満面の笑みのシドゥリが現れたことにより急速に終息へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、我が王にはもう少し落ち着きというものを覚えていただかねば」

 

 コロッセオを崩壊させた二人を叱りつけ寝室に叩き込んだシドゥリは自身に与えられた執務室にて資料に目を通していた。

 

「久方ぶりの戦闘に興奮なされるのは理解しますが、その度に設備を壊されてはたまりません」

 

(しかし、コロッセオが壊れるなど()()()()。記憶している限り、そんなことは過去起こったこともなかった。王以外の方々が色々な実験をなされていたり決闘を行われていた、その中には先ほどよりも大規模なものもあったはずなのに)

 

「やはり“機能に不備が出ていますね”」

 

 思うのはこの未知の世界に突然転移した直後。あの時は妙に意識がはっきりしたくらいしか分からなかったが、ウルクを見て回りすぐに()()()()()()()()()()()()に気が付いた。

 

「『ナピシュテムの牙』に『王の号砲(メラム・ディンギル)』。平時においては先ず使う必要のないものですが、初期化されているのは流石に看過致しかねます」

 

 故に元に戻した。他にも常時発動しているはずのもの全て。例えば『辺りを照らすような』ものさえ停止していた。

 なぜ? その疑問を今日一日抱えていたのだ。

 

 手に持つ資料、机に並べられた全てがウルクの機能の状態についてのもの。

 各階層の守護者筆頭により纏められたそれらを見ながら、それでも何の解決にもならない現状にシドゥリは頭を悩ませていた。

 

「転移、そう王は仰られていたという」

 

 ならば、我が王は()()()()()()()()()

 なら、なぜそれを黙っているのか?

 個性溢れる守護者たちならいざ知らず、ウルクの運営を任された私にまで黙っているのはなぜか?

 

「私は、王の望む役割には不足ということでしょうか」

 

 そんなはずはない、と思いつつも、それでも、そうあれかしと造られた彼女は矛盾した現状に堪えられない。

 

 ただ、それでも理路整然と究明に努めるのは少なからず彼女が『ウルクの民』という証左なのだろう。

 

 “決して諦めない”。

 命続く限り、上を目指し続けたウルクの誇りこそ彼女がこの偽りのウルクにおいて造られた意味。

 

 だが、そんなことを彼女が知るはずもなく、ただひたすらに己の役目を果たそうとする。

 

『王不在時における司令塔』。そう設定されている彼女は同時に、ウルクの運営においてもほぼ全てを任されている。

 その設定が転移で意識が明朗となったことにより急にのしかかってきたようなもの。

 これまではユグドラシルのシステムによって管理されていた全てを、これからは彼女が全て管理していかねばならない。

 

 ただ、そこに不満があるのかと言えばそうではないと断言するのだろう。

 

 彼女はこの役目に誇りを持っているから。

 

 この英雄の跳梁跋扈するウルクにおいて直接的な戦闘能力皆無な彼女がNo2として扱われる所以。()()()()()()()()()()()

 それこそがこれなのだと。

 

「……やはり、王は知っておられた。その上で我らを試しているのですね」

 

 それ即ち、未だこの身が未熟である証左。伝えるべき時になれば王はきっとお教えくださる。それまでは、彼のお眼鏡に適う存在になれるように一層邁進するのみだ。

 そう硬い決意を新たに、シドゥリは再度、資料へと目を通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これよりの数日、ウルクは情報収集に努めることになる。

 ギルの方針として『この世界の人間を見定める』というのは変わらずとも、その前段階としてこの世界、少なくとも周辺地域の情報は出来る限り得ていかねばならない。

 そも、情報とは時と共に、瞬きの間に変化するものであるために情報の獲得はこれからも必須となる。これはその前段階。下地としての情報を元に必要に応じて深いところに探りを入れるのだ。

 

 守護者たちの手前、口に出すわけにはいかないが、もしもこの世界にギル以外の『転生者』の存在があるとすればそれは確実に今後に影響を与えてくるに違いない。

 なにせ、原作にそもそも登場しない俺という特大のイレギュラーがあまつさえ転移後の世界にもでしゃばっているのだ。これで気づかない奴はいないだろう。

 

 バレるのは良い、何れは通らねばならない道である。

 

 




次回よりようやくギルが動きます。


※ハサ子の夜伽については後日幕間として出そうと思います

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