偽物の英雄王〜inオバロ〜   作:蒼天伍号

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遅れてしまいましたが生きております。

ごめんなさい。


冒険者・三

 エ・ランテル郊外、街道沿いの森林地帯にて冒険者チーム『黄金』はモンスター狩りに勤しんでいた。

 

「ふっ!」

 

 鎧姿の女武者・トモエの放った一矢がオーガの額を撃ち抜いたのを最後にこの場において活動するモンスターは皆無となった。

 

「逃走する個体は全て片付きました、ギルさん」

 

「うむ、こちらも終わった」

 

 小鬼ーーゴブリンの肢体を貫いた黄金の剣を引き抜きながらギルは応えた。

 

 剣に付いた血を払いつつ背中のホルスターへと双剣を仕舞う。

 

「今頃はカルナ共も依頼を終えた頃だろう」

 

 現在、この場にいるメンバーはギルとトモエのみであった。

 チーム『黄金』は効率を考え大きく二手に分かれてクエストをこなしている。モンスター討伐の常駐クエストをこなすギルにトモエの二名と、カッツェ平野におけるアンデッドの討伐に赴くカルナ、シロウだ。残るチヨメにはとある任務を与えている。

 

 ギルたちの力量ならば単騎で討伐クエストをこなすことも可能ではあるが世間体を鑑みて二名構成の分担としていた。

 それでもあまりに呆気なく強大なモンスターが駆逐されていく様に、冒険者組合は先の騎士風のアンデッド討伐の功績を鑑みて彼らの階級を白金(プラチナ)まで昇格させていた。

 今のギルの首にぶら下げるプレートは重厚な輝きを放っている。

 

 件のアンデッド討伐についてはあまり公にはなっていない。

 というのも冒険者、魔術師双方の組合の上層部が情報を秘匿しているからだ。そのため討伐自体を知る者も組合長、その他幹部、漆黒の剣のみとなっていた。

 その意図は不明だがギルとしては今後現れるだろうモモンの障害にならずに済んで御の字といった心持ちだ。

 

 

 

 

「……時にトモエよ、俺がなぜ冒険者などしているか、その意味が分かるか?」

 

 ギルドへ提出するモンスターの一部を切り取る作業の最中、何の気なしにギルが口を開いた。

 

「この地の人間を見定める、そのための現地調査であると。それ以上のことはトモエには考えもつきませぬが、この身はマスターの僕なれば如何なる意図があろうとも従う所存にございます」

 

「そう硬く考えるな、単なる雑談にすぎん。……まあ、調査であることに変わりはないのだがな、その先、気にはならないか?」

 

 ギルの柔和な雰囲気から真に雑談のつもりで語っているのだとトモエは感じつつも、戦働きのみが取り柄の己ごときが聞いて良い内容なのかと僅かに戸惑う。

 こういうのはシドゥリ様にお話すべきではなかろうか、と。

 

 そんな彼女を無視してギルは語り始める。

 

「俺はな、常々考えていたんだ。どうすればあの王のようになれるのか、俺が真に憧れたのはあの王のどの側面であったのか」

 

 あの王、ぼんやりとした記憶ではあるがマスターが以前の世界にいた頃から時折口にしていた言葉だ。

 かつての“主人の友たち”といる時にはおくびにも出さなかった独特の雰囲気を、あの王について語るマスターは出していた。

 それは強い情景でありながらも、どこか狂気に満ちていたようにも思う。今となってはよく思い出せないが。

 

「己の歓びのために、だけでは単なる暴君だ。民のため、だけではあの王は語れない、それならば別の古代王を名乗るべきだ。

 では、あの王を真に体現するにはどうすればいいのか、何を持ってあの黄金の英雄王たり得るのか」

 

「力、名声、財宝、ありとあらゆる面においてあの王に近づくべく高め続けてきた。

 だが、所詮は真似事。どれ一つとしてあの王に匹敵するほどにはなれなかった」

 

 そんなことはない、とトモエは叫びそうになるのを堪える。

 ウルクにおいて彼を蔑む輩は誰一人としていない、それは全守護者が彼からの“愛”を認識しそれぞれのやり方で彼の僕であろうと尽くしている事実からも証明されている。

 

 貴方は間違いなく私たちの王、最高の主人だとトモエは信じて疑わない。おそらくは他の守護者たちもそう思っているだろう。

 

「そして、俺が至ったのは一つの理想だった。英雄の王としての圧倒的力だけでなく、優れた治世を行う賢王としてだけでなく。

 その本質、とある電子世界にて彼が語った『裁定者』としての役目、だけではない」

 

 語るうちに昂りを抑えきれなくなったギルは大仰に両腕を広げその先を語る。

 

「全てだ。それら全てを手に入れあの王を体現する。その上で俺個人の、望みを落とし込んでやれば答えは一つだった」

 

「それは……」

 

 その覇気にトモエも思わず手を止め言葉を発していた。

 

 それを受けギルは宣言する。この物語の子細を知りつつも、あくまで英雄王たらんとするこの男の独善と欲望の名を。

 

「俺はこの地にて“理想の国家”を作り上げる」

 

 国家、それは世界征服などではなく、かと言って隠遁を良しとするわけでもなく。

 独立した、彼の、彼のためだけの世界をこの地に作り出すということ。

 彼が認めた強き魂を持つ者たちを集め、管理、統率しその何処までも続く発展を見守る。

 

 聞けばそれは高尚な願いにも見えるだろう、しかしその本質はどこまでいっても彼の我欲であり独善に過ぎない。既に確立した世界を築くこの世界の者たちにとっては余計なお世話に過ぎない。

 或いは、外敵の脅威を消し飛ばすという一点においては利となるやも知れないが。

 

 それを理解して尚、彼は野望を叶えるべく活動する。それこそがあの王が掲げる信念を体現することだと信じて。

 

「しかし俺は貴様らにこの理想を強制する気はない。貴様らは俺が統率する段階を既に逸脱した存在だ。自らで考え、行動することが出来る存在だ。もし俺の理想に忌避を感じたならーー」

 

「永遠に、あなた様に忠誠を誓います」

 

 主人たるギルの言葉を遮ってまでトモエは自身の忠義を示した。

 最初から迷うことは無かった。己で考えた上で彼女は“この王”に付き随う道を選びとった。

 

「それがトモエが感じ、考え、選んだ道です。いつまでも、どこまでも、トモエは貴方様の僕であり矛となりましょう」

 

 彼の付与した“設定”など関係ない。

 

 巴御前としてではなく、彼が作り愛してくれた『巴御前』として彼女は真にギルに忠誠を誓っていた。

 

 それに気づくことはなくともその思いが確固たるものと判断したギルは強く頷き返した。

 

「忠道、大義である。……その想いに恥じぬよう、俺も全力で進むとしよう」

 

「はっ、このトモエ、如何なる御下命をもこなしてみせます。だからどうか、末長くお側に」

 

 改めて忠誠の儀を果たした両名はより一層、硬い絆を得るに至った。

 果たしてそれがどのような結果を生むのか。否、どのような結果になろうとも後悔は無いと二人ともに感じていた。

 

 後の世に、偉大なるウルクの栄光を知らしめるために。

 

 どこまでも突き進むのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、とある国家最高権力者は執務室にてある報告書に目を通していた。

 

 豪勢な装飾を施されながらも厳格な雰囲気を醸し出す一室は、正にその男の進む道の如く苛烈で血に塗れた覇道を表現したように紅であった。

 

 ギルの活動する王国と敵対する国家・バハルス帝国、その皇帝を務めるジルクニフは今、部下の一人から提出された報告書に興味を抱いていた。

 

「カッツェ平野に異変?」

 

 その名は彼も良く知る地名だ、なにせ目下敵対するリ・エスティーゼ王国との毎年の合戦場となる場所なのだから。

 

 じわじわとその国力を削る戦いは最早行事のようになりつつも着実に王国の力を削いでいるのは事実。うまくいけば次の戦いで王国を崩壊させられる域にまで達している。

 

 その重要な地域にて現在異常が発生しているらしい。

 そもそもが謎の霧とアンデッド発生地帯であるカッツェ平野に更に異常などと不可解極まりない。

 

 曰く、目撃者も平野深部に足かけた場所で一瞬だけ目視したのだという。

 あの陰鬱な地域において“陽光の降り注ぐ巨大な城塞国家”を。

 

「バカバカしい……」

 

 あんな場所に国だと? 年中アンデッドの蔓延る痩せた土地にどこのバカが国を作るというのか。そもそも毎年の戦争で一度たりとてそのような建造物を見たことがない。

 よもや一年も掛けずしてそんなものを建てたとでも?

 

 おまけに開戦時期でもないのにその場所だけ太陽の光が降り注いでいたのだという。

 

 まるでお伽話のような報告だ。

 

 一笑に伏したい彼だったが存外目撃者が多いことと幻術の類ではないという同行した魔法詠唱者の証言から考えを改める。

 

「とはいえ、情報が少ない」

 

 これでは何も対処できない。

 ならば次の手は決まっている。

 

「おい」

 

 彼は近くに控えた部下に声をかける。

 側に寄る部下に彼は続けて命令を下した。

 

「カッツェの異変、請負人(ワーカー)に調査させろ」

 

 短い命令に、部下は彼の意を汲み口を開く。

 

「どの貴族を使いましょう?」

 

「こちらに寝返った奴がいただろう。奴にやらせる」

 

「かしこまりました、すぐに使いの者を。ルートは例のを使えば?」

 

「いや、山岳の伯爵は替えろ。奴は信用ならん」

 

「では中部の侯爵を使いましょう」

 

「任せた」

 

 部下は礼を一つ、執務室から出て行った。

 見送ったジルクニフは、傍で黙って事の顛末を見守っていた老人・フールーダに視線を移した。

 

「これで良いのだろう?」

 

「はい、流石は陛下にございます」

 

 目を細め柔和な表情のフールーダに、ジルクニフは「その気持ち悪い笑顔はよせ」と言いつつ満更でもない顔で鼻を鳴らした。

 

「それにしても、貴様が感じた魔力とやらは、本当なのか?」

 

 訝しげなジルクニフにフールーダは真剣な目で答える。

 

「間違いありませぬ。あの様な人外の魔力、このフールーダが間違えるはずもありません」

 

「まあ、そうだろうが……」

 

 そう答えながらもジルクニフは内心、半信半疑であった。

 

 事の起こりは深夜にフールーダがジルクニフの寝室に突撃した日。

 日頃の疲れからベッドでぐっすりと眠っていたジルクニフをいきなり叩き起こしたのは、幼き頃からの謀臣にして師匠にして側近たる老人・フールーダであった。

 さすがに額に青筋を浮かべてブチ切れたジルクニフだったが、それすら眼中になく興奮した様子(気持ち悪い)のフールーダにいよいよ首を刎ねてやろうかとフツフツと怒りがこみ上げてきた彼に、フールーダは述べた。

 

『自分を超える膨大な魔力の持ち主が現れた』と。

 

 それだけならさして驚きはしないのだが、その魔力は突然、現れたのだという。そして、その発生源を咄嗟に探せないほどに距離を置きながらしっかりとその強大な力を放っていたらしい。

 不幸にも、調査隊を編成する頃にはピタリと止んでしまったためにそれ以上の捜索は頓挫した。

 

 しかし、数日前にカッツェ付近で依頼をこなしていた冒険者が偶然にも先述の“城塞都市”を目撃。フールーダが『なんとなくこっち』と言っていた方角だったこともあり今回の調査に至った。

 

 

 有り体にフールーダの我儘である。

 しかし尤もらしい説得を延々と受けたジルクニフは渋々調査を行うことにした。

 さすがに軍を動かすことは断固拒否した彼にフールーダが献策したのがワーカーを使った調査である。

 

「こちらとしては奴の忠誠心を測ることにもなるしメリットの方が大きいとは思うが」

 

 そのメリットも大して嬉しくはない。別に伯爵がいようがいまいが問題はないのだ。

 ただ、大事な恩師の頼みでもあるゆえにジルクニフも許した。

 

「いやぁ、結果が楽しみですな!」

 

 ホクホク顔のフールーダに、ジルクニフは「いや、別に」と真顔で答えた。

 数秒後にはすでに頭の片隅に追いやられたこの調査、当然、ジルクニフ自身はあまり興味を持っていなかった。

 

 

 

 




ナザリックは一応、もう来てます。
ほぼほぼ原作通りなので敢えて書くこともないかと端折ってますが。

ちなみに、今回はちょうどモモンがエ・ランテル来る直前くらいの出来事。


追記:誤字修正ありがとう! いや本当にありがとうございます。

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