東方鬼蛇伝   作:鬼怒藍落

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第八話

そこには地獄が広がっていた。すべてが燃え、迷い込んだ生物は皆、水分が蒸発し、皮膚が焼け、骨になる。そんな中、二つの影がある。一つはこの空間を作った母禮である。もう一つは蛇骨、蛇骨はこの空間でも無事なようだ。

母禮は火炎の刀を振るう。蛇骨はそれを避けるが下から来る火柱に当たってしまう。

それに追撃するように稲妻が龍の形を取り、蛇骨に襲い掛かる。蛇骨は燃え続け避ける術はない。稲妻の龍はそのまま蛇骨に当たる。

 

「ぐはっ!」

 

蛇骨は体は焼け、肌が焦げる匂いがあたりに漂う。血も吐いたが、それもすぐこの暑さで蒸発する。

何とか立ち上がるが、すでに満身創痍だ。だがまだ倒れない。

 

「まだだぁぁぁ!」

 

蛇骨は叫びながら母禮に正面から突撃し右の拳をは放つが、刀の峰に止められてしまう。蛇骨はそれを好機に能力を使い、刀を腐らそうとする。

 

「腐れ!」

 

火炎を纏う刀身は峰から腐り、刀は地面に落ちる前に溶けるが、すぐ再生し、炎の勢いを増して蛇骨の右拳を燃やす。炎はそのまま広がり、腕が焼け落ちた。

 

「母禮ぃぃぃ!」

 

蛇骨は恨みを込め叫ぶ。そんな蛇骨を母禮は何の感情もうつさない瞳で見て、

 

「つまらんのう、本当につまらん」

 

母禮は無表情で刀を振るう。

そのたびに、蛇骨は焼け悲鳴を上げる。これで終わりとばかりに、今までより巨大な炎を蛇骨へ向かわせる。だが炎は届く前に消え蛇骨に変化が訪れる。傷は治っていき髪は腰まで伸び蛇骨が触れた地面は腐りだしている。

そして何かを唱え始める。

 

一 二 三 四 五 六 七 八九十(ここのたり)

 

布留部 由良由良止 布留部(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)

 

血の道と血の道と其の血の道返し(かしこ)(たま)おう

 

禍災(かさい)に悩むこの病毒(びょうどく)を この加持(かじ)にて今吹き払う(とこ)の神風

 

(たちばな)小戸(おど)(みそぎ)を始めにて 今も清むる(わが)が身なりけり

 

千早振(ちはやふ)る神の御末(みせい)(われ)ならば 祈りしことの叶わぬは無し

 

――太・極――

 

随神相――神咒神威・無間叫喚(むげんきょうかん)

 

そう唱えた蛇骨の後ろに醜悪な面相に凄絶な笑みを浮かべる。巨大な大剣を持った武者が現れる。

武者は咆哮し周りの木々はすべて腐り落ちる。

蛇骨は姿を巨大な赤黒い蛇に変える。その姿は、人を数人飲み込めそうだった、その姿で母禮に体当たりする。母禮は躱すが少しかすってしまい、そこから母禮の鎧は腐り落ちる。

 

「なに?この鎧結構気に入ってたんじゃがな、しかたない」

 

母禮は全く動じず、そう呟いた。

 

「まだまだ行くぞぉぉぉ」

 

蛇骨の声に合わせ、天を圧する武者の剣が振り下ろされる。母禮は横に跳び避けるが、剣により発生した衝撃で辺りが吹き飛ぶ。

 

「これはこれは、危ないのう」

 

母禮はこれを見てにやりと笑うそして、

 

「だがのう儂も出せるぞ」

 

そう言うと母禮をそのまま巨大化させ額当てを着け、さらに腕を二本増やしたような姿の女武者後ろに現れる。

女武者の手には火炎の刀と稲津の刀が二本ずつある。刀はそれぞれ炎と稲妻を纏っている。

女武者は武者へと四刀すべてを使い斬りかかる。武者は大剣を使い防御するが反動で後ろによろめく。

 

その下で、戦闘は続いていた。蛇骨は母禮に近づき噛みつく。

母禮は不意を突かれたが、左足で受け止める。噛みつかれた足は腐敗し始める。このままでは腐食が広がると思ったのか、母禮は火炎の刀で足を落とす。傷は燃え腐食は広がらない。落ちた足はそのまま腐り辺りに広がっていく。これを見て母禮は一言漏らす。

 

「さっきまでとは違うのう、だがな」

 

女武者はさらに巨大になる。腕はさらに増え、刀が十本近く周りを回っている。そのすべての切っ先を蛇骨へ向ける。狙いを定め終わったのかその刀は蛇骨へ飛んでいく。蛇骨は咄嗟に武者を盾にし、防御するが刀は武者を貫き蛇骨へ向かう。

 

「くそがぁぁぁ!」

 

蛇骨は絶叫し姿人にを戻し、それを受け止めようとする。その甲斐はなく押しつぶされる。大地が割れ、蛇骨は埋まる。蛇骨は辛うじて生きているが左腕は潰れ足は焼け焦げ動かなくなっているそれでも地面から這いずり出てくる。

 

 

「嫌だ死にたくない、死にたくない」

「なんだ?まだ生きていたのか」

 

そんな蛇骨を見て、哀れに思ったのか

 

「これで終いにしてやる」

 

母禮は唱える。

 

「おお、道神よ。憤怒して魔性を撃破せよ。あなかしこ

オン・ケンバヤ・ケンバヤ・ウン・ハッタ」

 

そう母禮が言うと巨大な火柱が何本も出て、それが一斉に蛇骨に向かう、蛇骨は出てきたまま死にたくないと呟いていて、火柱には気づかない火柱はそのまま蛇骨は焼き、蛇骨は声にならない叫びをあげた。

 

「ーーー!」

 

体は燃えながらも、蛇骨はまだ生きていた。燃えたことで蛇骨は我に返りまだ喋れる気力はあるのか。

 

「母禮貴様!空亡がどうなってもいいのか!」

「この炎は魔性を焼く炎じゃ、お主だけが燃えて死ぬ」

 

その言葉に蛇骨絶望する。そして喚きだした。

 

「嫌だ…消え…たくない、死にた…くない」

 

そう言い蛇骨は姿を蛇に変え逃げだそうとする。しかしまだ燃え続けており、しばらく這いずり周る。

 

「嫌だ…熱い…死にたくない、なんで僕が死ぬの生きるために何でもしたのに」

 

蛇骨は死ぬ直前に精神が限界に達し幼児退行する。そのまま蛇骨は続ける。

 

「嫌だよう、誰か助けて、誰…か、助…けて、嫌…だ」

 

最後に見えたのは、自分が今まで生き残るために見捨てた生き物達や自分が喰らった妖怪達だった。それらはすべて歪な笑みうかべている。それが蛇骨に触れ中から黒い蛇みたいのが出てくる。生き物はそれを掴み引っ張る。

 

「嫌だーーーーー!!」

 

それを最後に蛇骨は動かなくなる。

炎が完全に消え、人の姿へ戻る。

 

「終わったか」

 

そう言い、蛇骨に近づく。

 

「空亡起きんか」

 

空亡は起きる様子がない。母禮はしばらく軽く叩いたりしてみたが、やはり起きない。

だが辛うじて息はあるようだ。改めて空亡を見る。腕は一本なく、足は焼け焦げている。

 

「しかたないのう、また天魔の所へ行くか」

 

母禮は空亡を担ぎ山へ向かう。

森をあるきながら母禮は周りをみる。

森は焼けて炭になっていたり、腐食毒侵されもう木にはなにも実らない

辺りにあるのは動物の死体のみ。この森はすでに生物は住めない環境になり果てた。

 

「此処にはもう住めんのう、引っ越すか」

 

そう言い母禮は歩き続ける。

母禮はしばらく歩き天魔の居る山の麓の森に付いたについた。そのまま山に入るとそこに数人の天狗が現れる。そこで一人の天狗が母禮に問う。

 

「貴様らは何者だ!」

「なんじゃお主ら儂のこと知らんのか?」

 

その答えに天狗は苛立ち、

 

「知らぬから、聞いているのだろう」

「そうかそうか、なら天魔に聞くと言い」

 

そう言う母禮にさらに天狗は苛立ち怒鳴る。

 

「貴様!天魔様のことを呼び捨てにに!」

「そう怒鳴るでないぞ、そうじゃそこの天狗」

 

母禮は一人の女の天狗を指名する。

 

「私ですか?」

「天魔を呼んできてもらえんか、母禮が来たと言えばいいじゃろ」

「貴様まだ話は終わってないぞおい」

 

天狗の言葉を無視し母禮は

 

「頼んじゃぞ」

「はっはい」

 

女の天狗は飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

天魔は一人、部屋で食事をしてた。すると外が騒がしいことに気付く。

 

「なんだ?少し騒がしいな…仕方ない見に行くか」

 

天魔が部屋を出ると見えたのは二人の天狗に止められてい一人の女天狗だった。

 

「私は天魔様を呼んでくれと頼まれたんです」

「天魔様は今お食事中だ邪魔するではない」

 

そこで一人の天狗が天魔に気付く

 

「天魔様!何か御用ですか」

「なに、少し外が騒がしかったのでな様子を見に来ただけだ」

「すみませんこの女が」

 

天魔は女の天狗を見る。そして。

 

「お前名は何という」

 

女の天狗は少し怖がりながら。

 

「射命丸歩美です」

 

歩美は天魔に名を答える。

 

「さて歩美よ、私に用があるのではないのか」

「そうでした。母禮という鬼が天魔様に名を言えば分かると」

 

そう言う歩美に天魔は驚き、

 

「母禮が来たのか?」

 

天魔は少し考える。

 

「この短期間で二度もここに来るなんてな」

 

まあいい、と言い母禮の元へ天魔は飛び去った。

 

「母禮とは誰なんですか?」

 

歩美は護衛の天狗に聞いた。護衛の天狗は。

 

「天魔様の古い友だ、その悪かったな」

 

天狗は歩美に謝る。

 

「大丈夫ですよ」

 

そう言い歩美も元の場所に飛んでゆく。

 

 

 

 

 

天魔は母禮の前に現れるそしてまた此処に来た要件を聞く。

 

「母禮、まだなにか用があるのか?」

「たびたび済まぬのう今回は儂の従者を治してくれんか」

 

そう言い天魔に空亡を見せる

 

「酷いな、何があった?」

「蛇に憑りつかれて儂に襲い掛かってきたのじゃ蛇は祓ったが、祓うためには弱らせないと祓えないからな、ちょと加減をまちがえてしまったのじゃ」

「ちょと所ではないだろう!!」

「そう怒鳴るでない」

「これが怒らずにいられるか!時間がない早く私の部屋に向かうぞ!」

 

天魔は焦りながらも空亡を担ぎすごいスピードで飛んでいく、そのあとを母禮は跳びながら追いかける

部屋についた天魔は空亡を置き巫女服のようなものに着替える。そして改めて空亡を見る

 

「腕はまだ二か月程度生やせるが、足はきついな私の能力でも半年はかかる」

 

そう言う天魔の下に母禮は追いつく

 

「どのぐらいで直せそうか?」

 

その問いに天魔は答える

 

「8か月程度だな」

「その位か、でもなぜだ儂の時は一年掛かったぞ」

「それは母禮は傷よりそれについた呪詛のの方が強かったからな、それより母禮この子のを治すのを手伝ってもらうぞ」

「それは分かっておる、心配するな」

「では始めるぞ」

 

 


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