【完結】紅き平和の使者   作:冬月之雪猫

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第一話『召喚』

 その日、遠坂凛は消耗品を買うために新都へ出ていた。そこで、偶然にも友人の美綴綾子と出会う。どうやら、彼女は部活動で使う備品を購入するために来たようだ。友人関係にあるものの、学校以外で凛と会うことは滅多になく、綾子は折角だからと凛をお茶に誘った。凛の方も強いて断る理由もなく、他でもない綾子の誘いということもあって了承した。ところが、綾子の行きつけの店も、凛の行きつけの店も、両方共満員御礼で入ることができなかった。

 そこで綾子が目をつけたのは大手のバーガーチェーン、店頭に狂気的な道化師の人形を置く若者に人気のマクドナルド。

 はじめ、凛は入ることを躊躇った。彼女には人に言えない秘密がある。それは魔術師であること。魔術師は人の道から外れた存在であり、それ故に人と交わるべきではない。その考えから、敢えて孤高であることを心掛けている凛は軽薄な雰囲気のバーガーショップに入ることに己のイメージダウンを危惧した。けれど、彼女の友人は生憎と彼女の事情を鑑みてくれるほどに優しくなかった。半ば強引に連れ込まれ、おすすめのセットを教えられ、まるで普通の女子高生のようにバーガーを口に含んでしまった。

 そして、口の中に広がるハンバーグとケチャップ、そしてピクルスの味の虜になってしまうのだった――――。

 

 第一話『召喚』

 

 英霊の座に招かれたことを理解した時、士郎は世界中の人々に感謝を捧げた。

 

 ――――これで、更に平和のために働くことができる。

 

 だからこそ、召喚の引力を感じた時、彼は迷わなかった。

 英霊は信仰する人々の心によって力を得る。士郎の場合、それは彼が生来持っていた力を基としている。生前はほとんど使うことの無かったとある魔術​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・に特化した魔術回路の改造と解放。

 士郎は、その力で人々に笑顔を与えたいと願い、召喚に応じた。

 そして、召喚された直後、士郎は奇妙な浮遊感を感じた。瞼を開けば、なんと落下の真っ最中。さすがに頭の中は大混乱だ。

 

「なんでさ……」

 

 そのまま、眼下の洋館の屋根に激突し、凄まじい衝撃を感じながら洋館の中へと突入した。

 しかし、不思議なほどに痛みは無かった。それどころか、服にも傷一つついていない。トレードマークとも呼べる服は、両腕の部分と靴下に赤と白の縞。そして、黄色の上着と半ズボン、ハンバーガー四個分くらいの靴。そのどれもが傷一つ無いのだ。

 士郎は、英霊の力に驚きながら辺りを見渡した。そして、自分が何のために呼ばれたのかを考えると、頭の中に突然情報が流れ込んできた。彼が呼ばれた聖杯戦争の情報が……。

 そして、険しい表情になった士郎は一人呟いた。

 

「なんということだ……。こんな恐ろしい戦いを、こんな街中で行うつもりなのか!?」

 

 ここはガツンと自分のマスターに言ってやろうと思った。聖杯戦争では、魔術師がマスターとなるらしい。

 丁度、士郎の居る部屋の扉の外から少女の声が聞こえてきた。

 

「扉、壊れてる!?」

 

 扉のノブをガチャガチャと回す音が聞こえ、しばらくして諦めたのか、音が離れていった。

 

「―――ああもう、邪魔だこのっ……!」

 

 そして、少女の叫びと共に、扉は吹き飛んだ。

 士郎は飛んでくる扉を軽やかに避けると、とりあえず挨拶することにした。

 何か言うのはその後だ。

 

「やぁ、君が僕のマスターだね?僕の名前はドナルド、よろしくね?」

 

 そう言って、士郎はマスターの少女を見て、唖然とした。

 見たことのある顔だった。そこに居たのは、士郎がドナルドになるオーディションを受けに行く前まで住んでいた街で、同じ高校に通っていた士郎の初恋の少女だったのだ。

 少女は部屋に入って来た時の状態のまま動かない。その様子に、とりあえず何か言わなければと思い、口を開いた。相手は昔の知人なのだ。話したことは無かったが、自分のことを知っているかもしれないと思い。自分が衛宮士郎であることを教えようと思った。

 そして言った。

 

「僕は君のことも知ってるよ」

 

 その言葉に、少女は顔を青褪めた。

 だが、士郎は気付かずに何時もお手紙の返事を返す時の言葉を言った。

 遠いなぁと思って、少しだけ近づいて……。

 

「驚いた?」

 

 その言葉と共に、少女は大きな悲鳴を上げた。

 

「いやあああああああああああああああああ!!!!」

 

 そして、少女、遠坂凛は気を失ってしまった。

 当然だろう。いきなりボロボロの部屋の中に君臨している道化師が、自分のことを知っていると言い、次の瞬間に、目の前に突然現れたのだから。

 士郎は困った。

 

「んー、どうしようかなぁ……」

 

 士郎は倒れてしまった凛を抱かかえながら困ったように唸った。

 そして、信仰によって得た力を使ってとりあえず部屋を片付けることにした。

 

「ドナルド・マジック!」

 

 その瞬間、部屋の中は見る間に綺麗になっていった。

 

 ――――マクドナルドは常に清潔に♪

 

 それがドナルド・マクドナルドのモットーなのだ。

 凛をソファーに寝かせると、机に置いてあった小説を見つけて開いた。時間を潰す必要があると考えた士郎は小説を読み始めた。そして、夜が明け、五回本を読み返した士郎は思い出したように言った。

 

「この本、前に読んだな……」

 

 すると、その言葉に反応したのか、凛が体を動かすのに気が付いた。

 士郎は凛に顔を向けると、ニッコリと0円スマイルを見せた。どうやら警戒させてしまったのだろうと判断したのだ。そして、士郎は目を開いた凛に0円スマイルを向けたまま口を開いた。

 

「グッド・モーニング♪おはよう、凛ちゃん」

「いやあああ!!?」

 

 その瞬間、凜は叫び声を上げながらソファーから落ちた。

 

「だ、大丈夫かい!?」

 

 士郎は慌てて凜に手を差し伸べた。だが、凜は後退ってしまった。

 士郎は、もしかしたらこの召喚は事故だったんじゃないだろうかと考え始めた。凜は何かの手違いで自分を召喚してしまったのではないか? と。

 それならば、見ず知らずの人間が突然家に上がり込んでいたのだから怯えるのは当たり前だと考えた。

 

「ごめんね」

 

 士郎は謝った。

 

「え?」

 

 すると、キョトンとしながら凜は顔を上げた。

 

「いきなり現れたから怖がらせちゃったんだね?」

 

 しゃがみこみ、凜に目線を合わせると、士郎は悲しげに言った。

 

「君は間違えて僕を召喚しちゃったんだね? 大丈夫、まだ始まっていないから令呪を放棄すればきっと狙われないと思うから。令呪って言うのはね……」

 

 そこまで言うと、凜が「ストップ!」と叫んだ。

 

「分かるわよ! その……、英霊なのよね? 貴方……」

 

 凜は恐る恐る聞いた。

 すると、士郎は目を丸くした。

 

「じゃあ、君はやっぱり僕のマスターで、魔術師なのかい?」

 

 士郎は、驚いたように言った。

 

「ええ、ごめんなさい。取り乱してみっとも無い所を見せちゃったわね……。貴方、ドナルドよね?」

 

 凜が聞くと、士郎は笑顔で言った。

 

「もちろんさぁ。うれしいな!! ドナルドも君のことを知ってるよ! 改めて、ドナルドです」

 

 士郎の挨拶に、凜は若干呆れながら答えた。

 

「私は凜、遠坂凛よ。貴方のマスターのね。こちらこそよろしく……。でも、貴方は本当に英霊なの!? だって、貴方はマクドナルドのマスコットじゃない!!」

 

 その言葉に、士郎はウインクして答えた。

 

「そのためには僕のことを知ってもらわないとね。ドナルド・マジック!」

 

 その瞬間、凜と士郎は空想の世界へと飛び立った。それが、ドナルドの力の一つだった。

 ドナルドは誰にでも夢を見せることができるのだ。そして、戻って来た時に凜の顔は驚愕で固まってしまっていた。

 

「貴方……、衛宮君だったの!?」

 

 その言葉に、士郎はニッコリした。

 

「そうなんだ♪ でも、今の僕はドナルドだよ♪ まぁ、海外だと僕のことをみんながロナルドって呼ぶけどね」

 

 額から汗を垂らしながら、凜は恐る恐る聞いた。

 

「そ、それで、貴方は何ができるの? 貴方の生涯を見る限りだと、魔術師でもないのに……、さっきのは魔術みたいだった」

「あれは、ドナルドの力の一つなのさ。ドナルドは夢を見せたり、部屋を綺麗にしたり、ハッピーセットを出したりできるのさぁ」

「……他には?」

 

 凜が顔を引き攣らせながら聞いた。

 

「んー。後はシャボン玉を作ったりもできるよ。それになにより、ドナルドは昔から、ダンスに夢中なんだ。ほらね、自然に体が動いちゃうんだ」

 

 そう言いながら、士郎は踊りだした。

 そのあまりに華麗な踊りに、凜は自分も踊りそうになってハッとした。

 

「は!? 私は何を!?」

「ランランルー!」

 

 すると、突然士郎が奇妙な動きと共に、そんな言葉を発した。

 

「な、なに!?」

 

 凜が目を見開いて士郎を見ると、ニッコリと満面の笑みを浮べていた。

 

「凜ちゃんが一緒に踊ろうとしてくれたことが嬉しくてね! ドナルドは嬉しくなると、ついやっちゃうんだ! 凜ちゃんも一緒にやってみようよ、いくよ! ランランルー!」

「ランランルー!」

 

 士郎の掛け声に、凜も釣られてやってしまった。

 

「は!? 私は何を!?」

 

 凜は愕然としながら士郎を見た。

 士郎は満面の0円スマイルを浮べている。

 

「……ところで聞くけど、貴方ってクラスはなんなの?」

 

 凜が聞くと、士郎は「んー」と唸った。

 頭で自分は何のクラスなのかを想像すると、キャスターという言葉が踊った。

 

「ドナルドはキャスターみたいだね」

 

 その言葉に、「そ、そうなんだ…」と、拍子抜けしたように言った。

 

「バーサーカーとか、ピエロとかのイレギュラーかと思ったら、普通ね……」

 

 そして、凜は一番気になったことを聞いた。

 

「ところで、貴方は衛宮君なのよね? なんで自分のことをドナルドって呼んでるの?」

「それはね、僕がドナルドとして働いて、ドナルドも僕のもう一つの名前として誇りに思ってるからなんだ。それに、この世界にも僕が居る。今は多分、ドナルドのオーディション中だろうけど、衛宮士郎が二人も居たら変だからね」

 

 その言葉に、「そっか」と言って、凜は笑顔でドナルドを見た。

 

「とにかく、よろしくね、私のキャスター、ドナルド・マクドナルド」

 

 その言葉に、士郎もニッコリと笑い返した。

 

「もちろんさー!」

 

 そして、凜のお腹が鳴るのが聞こえた。凜は赤くなって目をドナルドから逸らした。

 すると、ドナルドは両手を広げた。

 

『Happy Meal』

 

 その、どこか不思議な音声がどこからか聞こえ、士郎の手に、ハッピーセットが袋に入った状態で現れた。

 

「ほら、凜ちゃん。お腹が空いては戦はできぬさ♪」

 

 すると、凜は目を丸くすると、恐る恐る手に取った。

 

「じ、実は昨日も綾子に連れられて初めてマックで買ってね……。嵌っちゃったのよ。それでね、今夜も買って帰ってきて、食べちゃったから……これ以上食べるとふとっちゃ……って!!」

 

 そこまで言うと、凜は目を見開いた。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 士郎が聞くと、凜は「あれかあああああああああ」と叫んだ。

 

「り、凜ちゃん?」

 

 士郎が心配そうに聞くと、凜は語りだした。

 ハンバーガーを食べている間に、召喚の時間が来てしまい、ハンバーガーを食べながら工房に入ったことを。

 そして、その包み紙を放り出してしまったことを…。

 

「あれが……、貴方の召喚の触媒になったんだわ……」

 

 肩を落としながら言う凜に、士郎は一言だけ言った。

 

「凜ちゃん……、ポイ捨ては駄目だよ?」

 

 その言葉に、凜は弱々しく頷いた。

 

「はい……」

 

 と。


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