【完結】紅き平和の使者   作:冬月之雪猫

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第二十四話『スカウター』

「……なあ、なんで悟空がいるんだ?」

 

 目の前で繰り広げられている空前絶後の究極バトルから目を逸らし、アーチャーはドナルドに聞いた。

 

「それは僕の固有結界の力なのさ!」

 

 ドナルドは丁寧に自分の能力を解説した。仮にも聖杯を競う敵に対して、あまりも軽率な振る舞いだが、マスターである凛も注意する素振りすら見せない。

 話を聞くうちにアーチャーは理解した。それほどまでに規格外なのだ。能力を明かしても問題にならぬ絶対的な力。それこそが、衛宮士郎(ドナルド・マクドナルド)固有結界(I’M lovin’it. )

 

「そうか……。お前は満足しているのだな、歩んできた己の道に」

「……うん。だから、ごめん。僕はちょっと怒ってるよ、アーチャー」

 

 その言葉に、凛と慎二が目を見開いた。人生において、ただの一度も怒りを覚えたことのない男が、「ちょっと怒ってるよ」と言った。それも、異なる道を歩んだ自分に対して。

 二人はアーチャーのことを知らない。けれど、彼が歩んだ道が如何なるものか、二人には察しがついてしまっていた。

 だからこそ、ドナルドの口にしたカーネルという言葉に飛びついた。誰が聞いても穴だらけの推論を並べ立て、彼をドナルドと同じようにみんなから祝福され、歩んできた人生を誇れる人物だと信じようとした。あの白くなってしまった髪はカーネルだからだと、信じたかった。

 

「君は後悔しているんだね。自分の歩んできた道を」

「……ああ、後悔している」

 

 聞きたくなかった言葉が聞こえた。

 正義の味方。魔術師殺し。衛宮切嗣。受け取った者と、受け取れなかった者。

 ドナルドは受け取れなかったからこそ、ドナルドになるという斜め上の発想に至った。

 けれど、受け取ってしまった者はどうなるのか? もしも、魔術師殺しという異名で知られる衛宮切嗣と同じものに至ってしまったのだとしたら。正義の味方という、決して存在しない矛盾を体現し続けたとしたら。

 

「だから、お前に会えたことは幸運だ。救いようのない愚か者だと思っていたが、お前のような存在に到れる可能性もあったのだな。紛い物でしかなかったわたしには、実に眩しいよ」

「ふざけんなよ、テメェ!!」

 

 アーチャーの放った言葉に慎二は激昂した。

 

「し、慎二?」

「……お前がどんな人生を送ったのか、僕は知らない。けど、想像出来ちまうよ……」

 

 慎二は泣いていた。

 

「けど、お前のことだ。頑張ったんだろ? 無理だって分かりきってることでも、全力だったんだろ?」

「……それは」

「だったら、否定してんじゃねーよ。言っただろ! 聞いてなかったか? 僕は言ったんだぞ! 聞こえてなかったんなら、もう一回言ってやるよ! お前だって頑張ったんだろう! だったら、自分を否定するような真似はやめろ! 他の誰が認めなくても、僕が認めてやる! だから……、自分を否定するのだけは止めてくれ!!」

 

 それ以上は言葉が出て来なかった。慎二は嗚咽をもらしながら蹲ってしまった。

 

「慎二……、お、オレは……」

「……士郎」

 

 凛は言った。

 

「アンタ、イリヤって子のことを救いたいのよね?」

「ああ……、そうだ」

「そっか」

 

 凛は微笑んだ。

 

「遠坂……?」

「少なくとも、誰かを救いたいって気持ちは持ち続けているのね」

 

 慎二がハッとしたように頭をあげた。

 

「衛宮……、お前」

「結局、士郎は士郎なのね。慎二が言っていたこと、わたしも言うわ。どこまで行っても変わらないバカで、底抜けのお人好しな士郎のことが、わたしも大好きよ。もちろん、二人共ね」

 

 その言葉にアーチャーとドナルドは揃って目を丸くした。やがて、二人は顔を見合わせながら苦笑する。

 

「……参ったな。慎二と遠坂にこれだけ言われては、持論を固持し続けることが難しくなってしまう」

「いいんじゃない?」

 

 ドナルドはアーチャーに言った。

 

「素直になっちゃいなよ」

「……簡単に言ってくれるな」

 

 ドナルドは手を叩いた。

 

「ラン」

 

 その動きにアーチャーがつられる。

 

「ラン」

 

 両肩をクロスさせた手で叩き、

 

「ルー!」

 

 両手を高く伸ばす。アーチャーの浮かべる表情は文句なしの0円スマイルだ。

 

「どう? これは僕が二人の言葉で感じた喜びだよ。君もまったく同じ感情を抱いたはずだ」

「……ああ、否定は出来ないな。慎二が認めてくれて、遠坂が好きだと言ってくれた。嬉しくないと言えば嘘になる」

 

 アーチャーは言った。

 

「だけど、すまないな。まだ、オレは……」

「まだって言葉が出て来るなら、それでいいわよ」

 

 凛は嬉しそうに0円スマイルを浮かべる。

 

「そうだな。まだってことは、いつか必ずってことだ。衛宮はノロマだからな。時間が掛かるのはいつものことだ。……いくらでも待ってやるよ。仕方ないからね」

 

 慎二は目を細めながら0円スマイルを浮かべた。

 

「ありがとう、二人共」

 

 0円スマイルを浮かべる四人。

 

「……サクラ。よろしいのですか? あなたも、彼に言いたいことがあるのでは?」

 

 ライダーの言葉に、彼女の主は首を横にふる。

 

「わたしは先輩に救われてきたわ。でも、先輩の力になれたことはないの」

 

 寂しそうに彼女は言った。

 

「……わたしも兄さんたちみたいになりたいな」

「サクラ……」

 

 そして……、

 

「お前ら、そろそろ戻ってこい!! いい加減、余波を抑えるのキツイんだよ!!」

 

 ランサーがキレた。

 悟空達の戦闘によって大地は裂け、森は切り開かれ、ランサーが一人で必死に展開している結界を残し、周囲は荒野へ変貌している。

 

 第二十四話『スカウター』

 

「……しかし、すごい光景だな」

 

 もはや現実のものとは思えない激戦に視線を戻し、アーチャーが呟いた。

 

「悟空相手に頑張ってるな、あいつら」

 

 慎二は呑気な口調で言った。

 

「相手はセイバーとバーサーカーですよ? しかも、セイバーの真名はアーサー・ペンドラゴン。むしろ、そのような大英雄を平然と相手取る悟空が異常過ぎます。本当に、何者なんですか、彼は!」

 

 バゼットの言葉に慎二は言った。

 

「ドラゴンボールの主人公だ。ちなみに、月を破壊出来る亀仙人って爺さんが、作中だと最弱に近いんだぜ」

「……は? 月を破壊……?」

 

 目を白黒させたのはバゼットだけではなかった。

 

「むしろ、悟空が出るなら圧勝だと思ったんだけどな」

「はい、これ」

 

 ドナルドが慎二に奇妙な道具を渡した。

 

「こ、これは!」

 

 アーチャーが目を見開く。

 

「な、なに、どうしたの!?」

 

 アーチャーの尋常ならざる様子に凛が目を丸くする。

 

「これ……、スカウターか!?」

 

 慎二が手を震わせながらスカウターを掲げた。

 

「なにそれ」

「知らないのか!?」

 

 淡白な反応の凛にアーチャーが叫んだ。

 

「スカウターだぞ!」

「はい、アーチャーにも」

 

 ドナルドはもう一つのスカウターをアーチャーに渡した。

 

「ドナルド……、お前」

 

 ドナルドは静かにサムズアップした。

 

「マジかよ、スカウターって……。聖杯戦争に戦闘力の概念持ち込んじまうのか……ッ!」

 

 慎二は感動した様子でスカウターを装着する。

 

「し、しかし、大丈夫か? 悟空だぞ? 爆発せんか?」

 

 アーチャーもおそるおそるスカウターを装着する。

 そして、彼らは戦場へ視線を向ける。

 

「これは――――ッ!」


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