【完結】紅き平和の使者   作:冬月之雪猫

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第二十五話『真相へ』

 直感が囁いた。

 

 ――――この男は、世界を滅ぼす力を持っている。

 

 存在していることがあり得ない。この男はガイアによって否定されるべきモノ。

 その証拠に、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の制約が解かれていく。

 

《承認――――、エクター》

『是は、誉れある戦いである!』

《承認――――、ケイ》

『是は、生きるための戦いである!』

《承認――――、ランスロット》

『是は、精霊との戦いではない!』

《承認――――、ディナダン》

『是は、民を守るための戦いである!』

《承認――――、トリスタン》

『是は、信念を貫くための戦いである!』

《承認――――、ガウェイン》

『是は、勇者と並び立つ戦いである!』

《承認――――、ベディヴィエール》

『是は、己よりも強大な者との戦いである!』

《承認――――、ギャラハッド》

『是は、私欲なき戦いである!』

《承認――――、ガヘリス》

『是は、人道に背かぬ戦いである!』

《承認――――、アグラヴェイン》

『是は、真実との戦いである!』

《承認――――、モードレッド》

『是は、邪悪との戦いである!』

《承認――――、マーリン》

『是は、王としての戦いである!』

 

 残る制約は一つ。ここまで制約が解かれたことは生前でも一度あったかどうかだ。

 セイバーは改めて敵を見る。大英雄ヘラクレスと共闘してもなお、圧倒的な力を見せつける魔人。鋭い刃を指で受け止め、拳の余波で英霊を吹き飛ばし、楽しそうに笑っている。

 これほどの敵は生前にも、死後の戦場にもいなかった。

 

「……なるほど、貴様は」

 

 セイバーは理解した。これは既に聖杯戦争ではない。大いなる意志同士のぶつかり合いだ。

 だからこそ、セイバーとバーサーカーは圧倒されながらも戦えている。

 

「どちらが正しいのか、わたしには分からない。けれど、わたしはセイバーのサーヴァント。主を救わねばならない。だからこそ――――」

 

 セイバーは声高に叫ぶ。

 

「是は――――、世界を救うための戦いである!!」

《承認――――、アルトリア》

 

 全ての制約が解かれた瞬間、それまで指一本でしのいでいた悟空がはじめての回避行動を取った。けれど、その動きはバーサーカーによって阻まれ、聖剣の一撃が悟空の腕を掠る。

 それまで、如何に魔力を篭めても傷一つつかなかった悟空の肉体から血飛沫が吹き出した。

 

「……やるな、おめぇ」

 

 悟空の顔から笑顔が消え、同時に彼の纏う気が膨れ上がった。

 

 第二十五話『真相へ』

 

 スカウターに表示された数値を見て、慎二とアーチャーは驚いた。

 それは悟空の数値じゃない。セイバーの数値だ。

 

「……い、一億五千万……、だと?」

「あ、ありえない……。フリーザでも53万なんだぞ」

 

 宇宙の帝王をはるかに凌ぐ数値にスカウターの故障を疑う慎二とアーチャー。

 

「あの聖剣だね。アレがセイバーちゃんの力を悟空と同じ数値にまで引き上げてる」

 

 ドナルドが言った。スカウターで悟空を見ると、セイバーと同じ数値を示していた。

 超サイヤ人の孫悟空。その戦闘力もまた、一億五千万だった。

 

「……ねえ、士郎」

 

 盛り上がる慎二達に顔を引き攣らせながら凛がドナルドに声を掛けた。

 

「なに?」

「アンタ、前はセイバーのことを解析出来なかったじゃない。それなのに、どうしてセイバーの戦闘力……? っていうのが分かるのよ」

「スカウターは僕の能力で出したものだけど、正確にはみんなの信仰(ココロ)の力の結晶体なんだ。だから、セイバーちゃんの対魔力も透過して、戦闘力を測ることが出来るんだ」

「……ふーん。でも、大丈夫なの?」

「なにが?」

 

 凛は悟空を指差した。

 

「あんなの召喚して、あなたに負担はないの? わたしからあなたに流れていく魔力なんて、微々たるものだし」

「もちろんさー。だって、彼は……、僕の能力はみんなの笑顔を守るための力だからね」

「それって――――」

「ウオオオオオオ!!」

「スゲエエエエエ!!」

 

 凛の言葉は慎二とアーチャーの歓声によってかき消された。

 

「うっさい!! なに!?」

 

 振り向いた凛が見たものは、渦巻く魔力の奔流。

 セイバーのサーヴァントは極大まで跳ね上がった魔力を聖剣に叩き込んでいる。

 対する悟空も、あのランサーと戦った時の青い状態になって、かめはめ波の体勢に入っている。

 

「……まさか、そんな」

 

 ライダーが慄くように呟いた。

 

「ライダー……?」

「どういうことですか……。この魔力……いや、これは!」

 

 英霊メドゥーサ。かつて女神だった彼女だからこそ、その異常に気づくことが出来た。

 超サイヤ人ブルーの悟空が放つ、あり得ない気の正体。

 

「ドナルド……。あなたは、アレは!」

「ど、どうしたの、ライダー!」

 

 尋常ならざるライダーの様子に桜が叫ぶ。

 

「……あれは、神霊です」

「は……?」

 

 ランサーが、バゼットが、凛が、桜が、ライダーの言葉に言葉を失った。

 

「しまった、カメラ忘れた!!」

「任せろ、慎二!! 投影開始!! このデジカメを使うんだ!!」

「でかしたぞ、衛宮!! ってか、スゲー!! このカメラ、僕の持ってる最新機種と比べ物にならないぞ!!」

「当然さ! これは2017年モデルのデジカメだからな!」

「すっごーい! ぼ、僕にもくれないかな?」

「もちろんだ、ドナルド! ほら、スカウターのお礼だ」

「ありがとう!」

 

 悟空のかめはめ波に盛り上がっている三人の少年のことは無視することに決め、凛はライダーに問う。

 

「神霊って……、悟空のこと?」

「そうです……。ですが、いくら規格外とはいえ、サーヴァントの宝具で神霊を喚び出すなど……」

「そもそも、アイツは現代のマンガってのの登場人物なんだろ? どういうことだよ……」

「……わからないわ。わたし、ドラゴンボールを読んだことないし」

「サクラ。サクラはないのですか? ドラゴンボールを読んだことは」

「ご、ごめんね、ライダー。わたし、少女漫画なら少し読んでるけど、少年漫画はぜんぜん……」

「バゼットは……、聞くまでもねーか」

「……す、すみません」

 

 まさか、聖杯戦争にドラゴンボールの知識が必要になるなど、誰も想像しなかった。

 

「……やっぱ、ドナルドに聞くしかねーな。オイ、ドナ……」

 

 振り向いたランサーは世界の始まりと終わりの光景を見た。

 完全開放のエクスカリバーと超サイヤ人ブルーのかめはめ波は拮抗し、間に挟まるすべてを消し飛ばしていく。

 光が止んだ後には巨大なクレーターが築かれ、セイバーのサーヴァントは膝を屈した。

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 かめはめ波を撃った直後の悟空へ襲いかかるバーサーカー。けれど、悟空は彼の動きを見切り、クレーターの底へ向けて彼を蹴り飛ばした。

 

「……マジかよ」

 

 一度戦って分かっていたつもりだったが、改めてランサーは悟空の実力を感じ取った。

 

「ありがとう、悟空!」

 

 ドナルドが声をかけると、悟空は親指を上げ、セイバーとバーサーカーにトドメを刺すことなく姿を消した。

 

「いいのか……?」

「もちろんさー」

 

 ドナルドはセイバーに向かって歩いて行く。

 

「お、おい、ドナルド!」

 

 心配するアーチャーに「大丈夫」と言って、彼はセイバーに声をかけた。

 

「こんにちは、ドナルドです」




残りあと数話です。これからもお付き合いくださいませー(*´ω`*)

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