遅くなりました。なんでだろう。この程度の話が全然書けなかった。orz
駄文です。すみません。
世界が広がっていく。宇宙が広がる。
碁盤に置かれる一手一手が宇宙空間に広がる星達のように瞬き、僕の白石を黒石が飲み込んでゆく。だがそれは、一方的な蹂躙なんかじゃない。丁寧に優しく。そんな言葉が似合うような、絶対的強者からの手加減。
始まりは、秀策のコスミから始まった。打ち筋はしっかりしている。参考にしている打ち筋が古いからか、江戸時代のようなものがちらついていたが。
だが、そんなものも気にならなくなるぐらいに、僕はこの碁にのめり込んでいた。
悔しい。たどたどしい手つきで黒石を指の間に挟み、そろぉっと碁盤に石を置く女の子に手加減をされていることに。そして、自分が本当に戦いたい存在の前に、超えられるのか分からないほど高い壁が見えるから。
「……い、おま……」
思考がまとまらない僕の頭に、かすかな声が聞こえてきた。
黒番。突きつけられた突然の選択肢。進むか、退くかの二択の中で、動かない頭を必死になって動かそうとしている中でのそれは、確かに、本因坊光秀の口から聞こえてきた。
「なんで俺じゃ無いはもう良い。俺は俺だ。誰がどんな碁を打とうが関係ない。知識はあれど、過去は過去」
小さく、ブツブツと声が聞こえる。対局者の女の子は、その声に聞こえないようだが、光秀は確実に声に出している。
この碁に対して、この盤面に対して。
「え? あれっ……」
気がついた瞬間の僕の顔は、とても歪んでいたことだろう。理由は一つ。この囲碁を僕は知っていたから。
あの日見た謎の指導碁と、瓜二つだから。
「全く同じ……」
「なにが?」
「いや、こっちの話だ」
自分の声に反応した
今進んでいる盤面を記憶から掘り起こし、次の一手を一度打ってみる。この理不尽な状況から脱するための反抗の一手。すると、あらかじめ予想していたかのように、スルリと知っている手を打ってきた。
(まさか。全く何も知らない人が、他の人に全く同じ碁を打たせるだなんてことは100%無理だと断言しても良い。ただ、僕はこの碁を知っている上に、恐らく彼女も知っている)
なら、精一杯抗おう。
1度目を瞑り、頭の中を空にする。作られた宇宙なんてものは全く必要など無い。今の僕に必要なのは、銀河を作り出すための知識だけ。他は全て切り捨てて、打つ。
パチッ。
いま、塔矢アキラの歯車は動き出した。大小様々な歯車とは咬み合っては無い。あくまでも動き出しただけ。だが、その小さな一歩が、塔矢アキラにとってはとても大きな意味を持ち始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ただただ、つまらない盤面が続いていた。
記憶通りの石の動き、盤面の進み方、一つ一つの小さな勝負。
(面白くないな。つまんない)
【なにがです?】
(分かっちゃいたけどさ、まあね。何て言うか、違うんだよな)
【それは? この子供がと言うことですか?】
そう、違うのだ。たしかに、俺の横に座り真剣な表情で碁を打っているのは、俺が初めて気圧された塔矢アキラそのものだ。小学生にふさわしい顔からコロッと変え、人を射さんとするような眼光になる前の、唯一の顔。
だがやはり、ともに上を目指したからこそ、どうしても自分の知っている塔矢アキラと同じには考えられない。
(たしかに、今の年齢で見てみれば十分に強い。けど足りない)
そんなときだった。アキラの持つ白石が、光ったように見えたのは。
なんの代わり映えもないただの一手。意味が無いとは言わない。盤面との関係からみれば、佐為の攻撃から耐えしのぐためのもの。だが、
(そう。こうだよアキラは。どんな不条理な状況でも、一矢報いるために頭を捻り、隙あらばその首を取りに来る)
【ただの耐えるような手に見えますが】
(いや、あの一手からある程度巻き返すことは出来る。並のプロ棋士であればの話だけど。佐為なら気づくと思うぜ。後々気づいても対処するのに手間を取るほどの実力じゃないはずだし)
数秒間手が止まったあかりーーをあやつる佐為ーーが、その碁石を無視する形を取る。干渉はしない。ただ、警戒はするような一手を指した。
((そう言えば昔、佐為は塔矢のことを龍か虎かに化けるって言ってたよな。露骨すぎるわけじゃ無いけど、念のために構える。的な感覚かな))
そんなとき、背筋に悪寒が走る。目元が鋭く眼光が鋭くなった塔矢を見て。
にやりと口元が歪んでいる気がする。思わず、悪い顔をしているだろう。自覚しかない。
(収穫だぜ? 虎次郎。良い物が見られた)
【ははは、それはよかった】
(確かにここに居る塔矢アキラは、俺の知ってる塔矢アキラじゃない。けど、根底は全く同じ。そこに関して言うのであれば俺の知ってる塔矢アキラだ)
今のコイツであれば、しゃーなしの一局ぐらいなら、打っても良いかな。だなんてことを思ってしまう。
塔矢が放った抵抗の一手より前と後とでは、雲泥の差があった。それは実力ではなく、碁としての、対局としての学ぶことの質とでも言うもの。
恐らく、あの上昇志向の塔矢だ。今頃脳内では、湯水の如く湧いてくる一手一手に心を躍らせていることだろう。目線は厳しいままだが。
(取りあえず佐為がいるのは確定。この碁の入り方があの時と同じだから、俺のことを知っている佐為かはわからないけど。まあ、そこは関係ないな)
【そうですね。代打であろうと、対局しているのはあかりさんですしね】
(それと……)
【ヒカルから見て、塔矢アキラは対局する価値がある。ですか?】
(さすが兄弟子。そのとおりだよ。今の塔矢なら……)
「ぶちのめしてもいいかな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「塔矢。この一手はなんだ?」
対局は、僕が負けた。
遙かな高みから、するすると通り抜ける川の水を掴もうと必死になって打ち続けた。けど、溺れる人がどれだけもがいても一人で助からないのと同じで、僕は、その水を捕まえることができなかった。
大敗だ。抵抗からの反逆。あの一手から始めた僕の碁は、全く通用しなかった。
「これは……」
盤面をまとめるような綺麗な一手なんかじゃない。どちらかというと、無理矢理打った、やけくその一手だ。でも、悪い手なんかじゃ無かったと思う。
「この一手の先に、お前が見たのはなんだ?」
静かに。あくまでも静かに光秀は僕に尋ねてくる。
対局が終わってから10分弱。未だに、僕が同い年の女の子に負けたことに対する喧騒が続いているが、その音の中を掻い潜るように、それほど大きくも無い音量で聞かれた。
だから僕があの一手を打ったときのことを伝える。
「僕は、本因坊光秀、君と打ちたいんだ。だけどその前に、僕の前に壁があることを知った。溺れた川で、必死になって水を掴もうとしている感覚だったよ」
「それで?」
「だから、川の流れに身を任せても、岩にぶつからない一手を打ったつもりだったんだ」
そう。あくまでも、流れはそのまま。碁としての流れをそのままに、抵抗の意志を持って、大きな壁に立ち向かったのだ。
ヒカルは、今だからわかることだが、あの日の碁と見比べて、断然に良い碁を打った塔矢に内心で拍手を送るぐらいに。
「よいしょっと」
僕の言葉を聞いた光秀は、何を思ったのか隣の席二つ分の碁盤と碁笥を運んでくると、先ほどまで僕と藤崎さんが対局していた碁盤の石を取り除いていった。
あの一手の所まで。
「俺が今までで一番悔しいと思った碁と、一番楽しかった碁。見せてやるよ」
そう言って光秀は、僕のあの白石を。しっかりとその手に納め。別の所へときっちり、パチッといい音を立てて置いたのだ。
なんででしょうね?
あかり(佐為)と塔矢が対戦して、あかり(佐為)が指導碁を打って勝つ。それの中の特異点を見たヒカルが喜ぶ。
そんな話が全く書けないんですよね。マジでわからん。
そして、ドンドンと桑原のじーちゃんが出てこれなくなる。やはりこれは、ヒカ碁における呪いなのでは無いでしょうか……。
信じるか信じないかは、アルゼンチンバックブリーカー中西学!!!!