「千代美」
「まほ。ミカから聞いたんだろ」
「んん」
バレちゃったか。
まあ、ミカに口止めしなかった辺り、私にもいつか知ってほしいという想いがあったんだと思う。
彼女の言う通り、私は人に料理を出す時とは別に、まほに料理を出す時だけ使う味がある。
と言っても、隠し味がどうとか、そういう難しい事をしてる訳じゃない。単に『まほ好みの味』を把握して、それに合わせてごはん作ってるってだけ。
「いつから」
「いつからだろう」
覚えときゃ良かったかな。
そんくらい、ずっと前から。
「何故」
「決まってるじゃん」
好きだから。
大好きだから。
そして、好かれたいから。
お化粧と同じだよ。
「ほら、サンドイッチ出来たよ。こっちがまほの分」
今朝作ったのと同じサンドイッチ。
まほはそれを一口食べて、呟いた。
「美味い」
「えへへ、やったあ」
まほの目に、みるみる涙が溢れ、流れていく。
彼女はサンドイッチの皿を置き、私を抱き締めてくれた。
「ごめん、千代美。昼の、事」
「気にすんな」
まほの腕に力が篭る。痛いけど、それが嬉しい。
私はまほの頭を撫でながら言った。
「どこにも行かないから安心しろよ」
「分かってる」
本当かなあ、という言葉は飲み込んだ。
でも、ひとつだけ。
二人でソファに倒れ込み、私はまほにお願いをした。
「昨日のあれ、やって」
「こうか」
まほは私の頭を掴んで、ぎゅうっと胸に押し付けた。
息が、止まる。
「逃がさん」
ああ、最高だ。
ぞくぞくとしたものが背中を走り抜け、もう、それだけで。
「ご馳走さまだわ」
「全くだね」
嘘だろ、おい。
「お、お前ら、いつからそこに」
「いつからかしらね」
「『いつからだろう』ね」
だいぶ前から、って言うかほぼ最初からかよ。
「隠れてたな」
「やだなあ、人聞きが悪いよ」
「貴女達が話し掛け辛いだけでしょう」
ま、まほ。
そろそろ、あの。
「うわ、千代美、大丈夫か」
「手を離しなさいよ」
ぷはあ。
た、助かった。
「ダージリン、彼女達はいつもこうなのかい」
「ええ、見てて全然飽きないわ」
あの、サンドイッチ、出来上がってますんで。
「うん、頂いてる。美味しいよ」
さすが千代美だ、とミカは笑う。
「じゃ、残りは向こうで頂きましょうか」
「そうしよう」
言って、二人はサンドイッチの皿を持ってそそくさと出ていった。
ここに居るのは今度こそ、私とまほだけ。
ちょっとだけ長いキスをして、訊いた。
「何か食べたいもの、あるか」
「魚」
鰯でいいかな。
私がそう返すと、まほは小さく頷いた。