ツナは少しだけ苦しそうな顔をすると、長ぐつで遊んでいるランボを抱き上げる。
けれど納得したような顔のまま何も言わないのは、ツナがそれほどにミツ君を信頼しているからだろう。
……超直感はきっと良くない、と告げているはずなのに、それを信じようとしないのは……まだツナが『目覚めていない』からか、それとも、1番最初に友達になってくれた、ミツ君を信じたいからなのか。
(……多分、前者でも後者でもあるんだろうな)
俺だって、ミツ君を信じたいから。
そう思いながら、俺は視線を下に投げる。
……4階まで上がって、更に上に登る階段を上がると、やっと屋上に繋がる扉に辿り着く。
ぜぇはあいいながらやっとこさ扉を開けると、見たことのある避雷針と、蜘蛛の巣のように張り巡らされた特殊な導線が目に入った。
いいタイミングで雷が避雷針に落ち、青白い雷光が導線を駆け巡る。思わず俺もツナと一緒に仰け反って悲鳴を上げてしまう。
……兄弟揃って情けない限りである。
「あ、あれ……兄さんっ!?」
「ん? どうしたんだよツナ」
「ちょちょ、あそこにいるのって、まさか!!」
なんだよ、敵であるレヴィでも見つけたのか……とあんぐりと口を開けているツナの指さす方向を見た俺も、
あんぐりと口を開けて硬直した。
……う、う、嘘だろ。なんでこんなところに!?
「ひ……雲雀さん!!」
「やあ」
屋上のフェンスにもたれかかって傘をさしているのは、間違いなくうちの最恐風紀委員長様だった。
あんた群れ嫌いだったはずだろ!? どうしてわざわざこんなとこ来てんの!?
驚きのあまり口をぱくぱくさせていると、訝しげな表情をしたミツ君が代わりに「どうして雲雀先輩がここに?」と聞いてくれた。
「……別に。並中で勝手な真似をしてくれているようだから、僕が監督に来ただけさ」
「でも、あなたには確かディーノさんが、」
「関係ない。並中を守るのは僕だ」
ばっさり言い切って、彼はこれ以上の問答はいらなとばかりに目を伏せる。
ま、ま、まさか、これは……。
(この人、今は『恭弥さん』か!!)
俺の心中を読んだのか。
ふた、顔を上げた彼が、微かに口角を上げた。
……そしてその酷薄な笑みは、余計なことを口走るな、という強迫に近い表情だった。
ひいいいい、言いません。何も言いませんったら!!
何かの思惑があってここに来たんだろうけど、不機嫌なのは一目瞭然だ。来たくないけど来てしまった、そういう顔である。
いったい何のために? いつ『雲雀さん』に戻るかわからないのに、ディーノさんと一緒にいなくて大丈夫なのか?
うう……でもどうせ、聞いても答えてくれないんだろうな……。
「今宵の戦闘エリアは、雷の守護者にふさわしい避雷針のエリア。
名付けて、エレットゥリコ・サーキット」
「このエレットゥリコ・サーキットの床には特殊な導線が張り巡らされていて、避雷針に落ちた電流が、何倍にも増幅され、駆けめぐる仕組みになっているのです」
説明の最中にも、避雷針に雷が落ちて、紫電が迸る。
うわ……と一気に顔を青ざめさせるツナが、心配そうにランボを見下ろした。
「なるほどな。今日が雷雨だとわかっていて雷戦にしたのか」
オーダーを考える上で、それぞれの守護者の特性を一番引き出すフィールドを用意するのは当然だな、とミツ君は冷静に分析する。
そしてランボのもとに歩み寄って、視線を合わせるように屈みこんだ。
「……できるな、ランボ。頑張って勝ってこい」
「? よくわかんないけど、ランボさん、あれやる!!」
「よし」
偉いぞ、とばかりにミツ君がランボの頭を撫でる。
急激に不安になった俺は、山本や獄寺君を見るけど……彼らはミツ君を完全に信頼しきっているようで、何も口をはさむことはなかった。
「負けんじゃねーぞ、アホ牛。気合い入れてやる」
「ちょっ、獄寺君、それ唯のイヤガラセだから!!」
おもむろに懐からマジックを取り出した獄寺君が、ランボの角に『アホ牛』と書き込む。
状況は違うけど、なんか見たことのある画だな、と思った。
「ランボ……本当に、大丈夫か? 怖くないのか?」
「大丈夫ですよ、家綱先輩。ランボもやる時はやります」
「家綱知らないの? ランボさんは無敵だから死なないよ」
なんかこれも聞いたことのあるセリフだな。
俺はそんなことを考えて……「わかった」とうなずいた。
「頑張れよ、ランボ」
……恭弥さんは、終始やはり何も言わなかった。