「お前……時雨蒼燕流以外の流派も使えるのか!」
「いんや、今のも時雨蒼燕流だぜ。八の型篠突く雨はオヤジが作った型だ」
いいだろ、というように微笑む山本に、スクアーロがぐっと唇を噛み締める。
そしてその言葉で既に、リボーンとミツ君は時雨蒼燕流が『最強』たる所以を理解したようだった。
「なるほどな、そういうことか」
「だから八代八つの型なんだな。時雨蒼燕流にとって、継承とは変化のことなんだ」
そういうことだ。
師から受け継ぐのは七つの型、継承者は独自の新しい時雨蒼燕流を作り出さなくてはならない。
……いや、“武”の時は、自分の作ったものも含め全ての型を次の継承者……つまり息子に受け継いじゃってたけどな。
十の型、それから総集奥義まで作って、十の型に至ってはイタリア語だもんな。
「なるほどな。ってことはお前独自の型があるわけかぁ!!」
「ああ、あるぜ」
……そして、新たな継承者が作った型が、時雨蒼燕流として認められるのかどうかは。
全ては流派に受け継がれてきた刀、時雨金時が決めること。
しかし、新たな技を放つべく、野球の構えをした山本を見ても、スクアーロは眉を顰めただけで何も言わなかった。
何があろうと警戒心を解かない。慢心は敗北を呼ぶのだと、そう知っている目だった。
しつこいようだけどやっぱり、俺の知ってる若い頃のスクアーロと違う。変わってるのは、XANXUSだけじゃない……!
「なるほどなぁ。常に流派を超えようとする流派……。もしそれができるなら、お前の言う通り時雨蒼燕流とやらは完全無欠最強無敵だな」
「スクアーロ?」
「……だが、あくまでそれは流派の問題であって、“オレ”と“お前”の勝負には関係のねぇ話だあ!!」
_____どん!!と。
膨れ上がった剣気が爆ぜて、飛び散った。
その言葉は間違いなく、スクアーロが山本を『対等な剣士』と認めた証だ。
山本も一瞬目を見張ったが、すぐにその意味に気がついたのか、嬉しげな笑みを浮かべる。
(スクアーロ……!)
「……ははっ、そうだな! 行くぜ!!」
「来い、『山本武』!! 新しい型ごと三枚におろしてやるぜえ!!」
「時雨蒼燕流、攻式九の型____」
スクアーロが地を蹴り、山本へと突進していく。
水飛沫が飛び散り、水面が抉れ、波とともに鈍く閃く斬撃が山本を襲わんと飛来する。
山本はそれを避け、物陰に隠れてやり過ごそうとするが、さらにスクアーロは彼がいる方角へと足を踏み出して駆け出す。
「とどめだぁ!!」
スクアーロが叫び声を上げた、その次の瞬間。
刀を振り上げた体勢の山本の姿が、スクアーロの背後に現れた。
それをある程度予測してあったのか、スクアーロが「オレに隙はねぇ!!」とみたび吼え、義手の剣が山本の腹を貫く。
……だがその攻撃は、山本には『当たらない』と俺は知っている。
「あれは……水面に映った姿か」
少し驚いているのか、隣に立つミツ君が僅かばかり目を見開いて呟いた。
____瞬間、何故か嫌な予感が俺の脳髄を貫いた。
凄まじく嫌な、というより、じくじくと痛むようなそんな予感。脳内で鳴り響くアラートが、じわじわと迫る危険を俺に知らせてくる。
いったい、なんなんだよ、さっきから……!
「っ」
もちろんわかっているはずだ、スクアーロも。
本当に山本がいるのは、目の前だと。
刀を大上段に振りかぶった状態のまま……山本が静かに告げる。
「うつし雨」
_____だが。
次に起こったのは、予想外の出来事だった。
グギィ!! と嫌な音がしたと思うと、スクリーンの中の山本が、大きく目を見開いたのが見えた。
……うそ、だろ?
「……ぐっ、いい攻撃だったぜぇ。タイミングも完璧、完全に騙された」
「な……そんな」
「だがまだ、甘え。お前がここで刀の刃を使っていれば、オレの腕は切り落とされていた。流石にその場に蹲るなりなんなりしたはずのオレから、リングを奪い取るくらいの隙は出来たはずだぁ」
……そう。
スクアーロは、義手ではないその腕で、山本の攻撃を咄嗟に受け止めていたのだ。
信じられない光景に、俺は思わず口元を手で押さえる。それにあの音、骨は確実に折れている。
これか? 超直感が知らせてきたのは、
…………山本の敗北か?
「水面に映ったお前も、峰を使っていたようだったからな。腕を出して正解だったぜぇ!」
「!」
「対応が間に合ったのはお前の未熟さ故だぁ。目の前から僅かに漏れた殺気。抑えきれてなかったんだよ。その殺気を、俺に刃を向けるくらいに高まらせていれば、勝負はわからなかったかもしれねぇなあ!
中途半端が!!」