____同日、夜11時。
並中に集合した面子は変わらずいつもと同じ。俺とツナ、それからミツ君と獄寺君、山本。
ミツ君は既に零地点突破の修行を完成させたらしく、雲戦もきちんと見に来ている。
流石、彼はやはり頗る優秀だ、俺の時はこの時ギリギリ完成させたのに。
……最近は俺の体調不良によってツナの修行をあまり見えていないが、実はツナもバジル君と共に零地点突破の修行まで進めているらしい。
家で、リボーンに渡された大空の擬似ボンゴレリングを使って、炎を灯すのも練習しているようだった。
(……それにしても、驚きだな。雲雀さんがあそこまであっさり俺の要請を聞き入れてくれるなんて)
手加減を頼んだことも、ミツ君やリボーンに言わないでくれというのも、訝しげながらも受け入れてくれた。
まさか『恭弥さん』の人格と記憶が、こちらの世界の雲雀さんに影響しているとは。
俺としては好都合だけど、どうして向こうで『死んでいない』はずの恭弥さんが『ここにいる』のかの詳細は未だに不明だ。
(白蘭が関わってるとか?)
それは、なくはない可能性だ。
俺にフェイと大空のリングを託したのは記憶を共有させられたこの世界、この時代の白蘭であり、あいつは俺の味方、だ。多分だけど。
未来での戦いがどうなるかはわからないが、少なくともこちらの白蘭は未来の記憶を保有している。
(白蘭もリング戦のことは知ってるのかな……)
まあ、ミツ君にもリボーンにも警戒されまくっている今、おいそれとあいつと接触するわけにはいかないけど。
「今日の主役の登場だぜ」
「……ああ」
山本の言葉に顔を上げると、眉を寄せてトンファーを手にした雲雀さんが校門を踏み越えてこちらに歩いてきた。
不機嫌さを湛えた表情で、「君達、何の群れ?」と問う。 隠す気のない殺気に、ツナがひっ、と喉の奥で悲鳴を漏らす。
が、それに対してミツ君が平静を保ったまま、偶然ここにいるだけだと答えた。
「ふぅん……」
偶然、ね。
軽く目を細めた雲雀さんがモスカを振り返る。
「そうか……あれを、咬み殺せばいいんだ」
呟いて、彼は一瞬、こちらを一瞥した。
俺は何も口には出さず、ただお願いしますと言うように小さく頭を下げた。
*
____クラウド・グラウンド。
数々の地雷が埋められ、機関銃が油断なく戦闘中に狙いを定めてくる、戦場じみた雲戦のフィールド。
そこでの戦闘は、前世と全く変わらず、数秒と待たずに決着がついた。
「これでいいよね」
これ、いらない。そう言ってリングをチェルベッロに向かって放り投げてから、雲雀さんは俺に軽く視線を寄越した。
今の発言は、恐らくチェルベッロだけでなく、俺にも向けられたものだったんだろう。それに気がついて、俺は思わず瞬く。
……確かに雲雀さんは、モスカに殆ど傷をつけずに無力化するという、実に高度なことを遂げてくれた。
俺は感謝の気持ちを込めて、軽く彼に頭を下げる。ほんとにこの人、凄すぎる。
これで9代目がモスカの中から引きずり出されることはなくなった。
XANXUSはこのままミツ君を相手に大空戦をすることになるが、弔い合戦の口実を失った以上、掛けていた保険はなくなったことになる。
……いや、そもそもXANXUSは大空戦をするのか?
ミツ君と戦って勝つ自信はあるにはあるのだろうが、何せXANXUSは俺に、はっきりと言い切った。
(XANXUSは、ボスの座そのものに興味はないんだ。あいつが望むのはたった一つ、最強のボンゴレ。
……ミツ君ならきっと、それができる。あいつは人を見る目はある、戦いを辞めることだってありうるんじゃ……)
____だが、その次の瞬間だった。
「あ、」
……運悪く、強風に煽られたモスカが、ぐらりとふらついた。
そして砂塵とともに、埋められた地雷の上に倒れ、ピーッと甲高い音が鳴り響く。
嘘だろ、と呟く間もなく、モスカそのものが爆炎に呑み込まれた。悪夢のように赤い炎が、金属を焼く嫌な臭いを撒き散らす。
(9代目……!!)
このままじゃまずい。モスカの中にいる9代目が、炎で蒸し焼きにされてしまう。
俺が前に出るしかないか、とXANXUSを一瞥すると……彼はなんと、自分の銃を構えていた。
息をつく暇もなく、引き金を引き、発砲。
オレンジ色の炎が空中を駆け抜け、モスカと雲雀さんの側に着弾する。
……攻撃に殺意はない。何のつもりだ?
「っ!」
雲雀さんが軽く目を見張ってそれを避け、粉塵に巻き込まれながら着地する。羽織っていた学ランが爆風に煽られて空に舞った。
ミツ君が眉をひそめ、大きく一歩前に出た。
「待て、今の行為は明らかに守護者を狙った反則行為だろう」