目の前で、ミツ君とXANXUSが戦いに舞う。
しかしまだまだ余力を残しているミツ君に対して、一度零地点突破を食らったXANXUSの疲労度が大きいのは一目瞭然。
完全に押されている。……いや、それはいい。XANXUSが負けるのは構わない。
だけど、違う。嫌な予感がする。超直感が告げているのは____敗北の後に待っている“何か”だ。
「ミツ!」
ツナの叫び声。……同時に、ミツ君が膝をついて動けなくなったXANXUSに向かって、掌を向けた。
オレンジ色の炎が、みたびグローブに灯る。明滅し、不穏に周囲を照らす。
……XANXUSが。
殺される?
「……、フェイ!」
瞬間、俺はツナの持っていた特殊ボンゴレ匣を手にし、指輪に炎を灯した。
リボーンが何かを言う前に、動け。不信感を抱かせるより早く。俺にはそれが出来るはずだ!
「……センサーを、壊せ!」
____
透明な羽根の時とは比べ物にならないほどの、眩しい茜色の光が漏れる。
……想像するのは、ヒクイドリに似た、体長小さめの赤い鳳凰だ。
俺の想像の通りに顕現してくれる、俺の忠実な……黎明を現す炎の幻獣。
……赤外線センサーの基本原理は、被検知物体が放射する赤外線を受け取った受光素子が、赤外線を吸収することにより起こった温度上昇を、温度センサで読み取り、電気信号に変換することで赤外線を検知している。
最先端の生命工学により生み出された、意思を持つ兵器は、体表面が赤外線による温度上昇など起こさない。
「フェイ、外からでいい。爆破させないようにだ、頼める?」
『この程度の細工。どうということはありません』
微かな声とともに、一瞬で赤い鳥が赤外線の檻をすり抜ける。
誰の視界にも止まらないように____迅速、かつ、正確に。
「ツナ、フェイがセンサーを壊した瞬間、2人を止めてきてくれ。ミツ君にはまだ、XANXUSを殺す権利はないんだ」
俺は隣の弟を振り返り、小さい声で鋭く言った。
ツナは面食らったような顔をして、俺をまじまじと見つめる。
「それはわかるけど……って、え!? オレが行くの!?」
「俺が行ったら角が立つだろ! グローブを出して。お前が行くことに意味があるんだ」
ミツ君を止めなきゃ。
彼の友達はツナだ。ツナが動くことに意味があるんだ。
*
____そろそろ終わる。決着が付く。
オレンジ色の炎が交差するグラウンドで、光貞は密かに口角を上げた。
第2候補の沢田綱吉ではなく、病弱で候補にすらなれなかった沢田家綱を擁立した暗殺部隊ヴァリアーのボス、XANXUS。
目の上のたんこぶ、というより彼は、光貞にとって横に並ぶ邪魔な存在だ。
兄の方をボスに推したXANXUSの思惑は未だにわからないままではあったが、それはそれでもういい。
当の本人がボスになることを望んでいなければ、自分の目的の大した障害にはならない。
____完璧だった。
賢そうに見えて、中途半端に愚かなXANXUS。
真逆ここまで自分に都合よく振る舞ってくれるとは、全く愉快で笑えてくる。
(……“あの人”の言った通りだ。この世界はなんて愚かで、愉快なんだろうな)
何も知らないままで、ただの敵としてあればいいものを。始末される理由を、よく考えもせず自分で作ってくれたのだ。
……ああ、ああ、実に素晴らしい。
まずひとつ。自分の覇道のための、第一歩だ。
「さよならXANXUS。俺にとって、好都合な死を」
膝をついたXANXUSに、掌を向ける。
彼が血赤の瞳を閃かせて何かを言おうと口を開けるが、光貞はそれを顧慮することはなかった。
しかし。終わりだ____と。
そう思った、その刹那。
「……だめだっ、ミツ!」
「ツナ……!?」
一際美しいオレンジの炎が空を駆けたかと思うと、光貞の前には綱吉が立っていた。
形状は違うが黒いグローブに、額には炎。
指に嵌めた偽物のはずの大空のボンゴレリングとその手には、何故か光貞と同色の炎が点っていた。
「どう、いうことだツナ……」
何故綱吉が、ここまで見事なハイパー化を。リボーンもついていないのに、家綱がダメダメだった彼をここまで育てたというのか。
そしてその指の炎はどういう理屈だ。こんなもの、……知らない。
(“あの人”は基本的なこと以外、何も言わなかった……だから知らないだけか?)
しかし綱吉は、光貞の尋ねたこととは違うように質問を解釈したようだった。
琥珀色の瞳を鋭く眇め、まっすぐに光貞を射抜いてくる。
「……ミツ、だめだ。XANXUSを殺すな。確かにリング戦は終わった、ボス候補はミツで決定だ。
でもここでXANXUSを殺すのは越権行為だ。ボス候補は、あくまで候補にすぎないんだから」