「……どうしたんだよ、リボーン」
食堂を出てリボーンに連れてこられたのは、少し離れたところにある部屋だった。
リボーンは部屋の明かりをつけるとそばにあった椅子を指さして「座れ」と促す。
それに素直にしたがって椅子に腰かけると、リボーンはふう、と息をついてボルサリーノのつばを引いた。
「……家綱お前、誰に助けてもらった?」
「誰に、って」
「いくら沢田家の長男とはいえ、さすがにお前がすぐにこのアジトを見つけだしたとは思えねえ。
とはいえ、お前の体力でずっと宿を探し続けられるわけがねえ。
お前がここに来たのはいつかは知らねーが、恐らく誰かに救ってもらったと考えるのが妥当だ……、
ここにはボンゴレの関係者がまだ残っていたのか?」
……なるほど、そのことか。
そういえば、親切にしてくれた人がいる、と俺が説明したのは、ツナと京子ちゃんと友香にだけだったな。
その質問は想定の範囲内だ。別に誤魔化す必要もないので、そのまま答えよう……いずれわかることだ。
……あの様子じゃ雲雀さんは、オレ以外の誰か……とりわけリボーンやミツ君に情報を知られるのが嫌そうなふうに思えたけど。
別に具体的に口止めされたわけでもないし、雲雀さんの好悪がどうであれ、皆が力を合わせなきゃ白蘭には勝てないんだ。別に話しても文句を言われる筋合いはないよな。
「雲雀さんだよ」
「ヒバリ? 本当か? あいつはまだ見つかっていないぞ」
「ボンゴレのアジトの隣が風紀財団……雲雀さんがトップをつとめる組織のアジトなんだ。俺も実は昨日の夕方ごろにここに来て、その時に倒れたところを助けられたんだよね」
ふん、と鼻で息をついたリボーンが「まあ朗報だな」と呟いた。
「一刻も早く守護者を集めることが最大の優先事項だった。少なくとも日本に居るかどうかを知るべきだった。それが解決したわけだからな。お手柄だぞ、家綱」
「はは……とはいっても、今風紀財団のアジトをボンゴレが訪ねるのは無理だよ。
帰国したばっかりの雲雀さんがアジトに留まってるかはわからないし、そもそもボンゴレと風紀の間には相互不可侵の規定が定められてるらしいし」
「まあそこはあとから手立てを考える。
この世界には『敵』がいるってことは知ってんだろ、家綱?
少なくとも、抗争にはヒバリの力も必要だ……向こうからのコンタクトもあるはずだぞ」
「まあ、その通りなんだけどね……」
この世界の雲雀さんだって、リングを受け継いだ雲の守護者だ……ボンゴレがミルフィオーレに潰されるのを見逃すことはないだろう。
ただ、雲雀さんはどうやら“俺”の知っている雲雀恭弥以上に、今のボンゴレを嫌っているみたいだった。
果たして協力体勢を取ってくれるのか、そこが心配でもある。
「何がどうあれ、ヒバリが見つかったのはそれでいい。あとのことはあとで考えりゃいいかならな。
……もう一つだ、家綱。京子やハル、友香たちを見つけた時に、ミツたちは敵対勢力とぶつかったんだが」
「あ、うん。それはなんとなく聞いた」
「あの時、ツナだけが他の場所で弾き飛ばされて京子たちと会ってな。
ミツと獄寺は……山本は来たばっかで気絶したからな、リングの炎を使ってすぐに敵を倒した。
だが、ツナの方にも1人敵が向かった。ミツたちが倒したやつが『アニキ』と呼んでたらし怒らな、多分格上の兵士だ。
ミツと獄寺が加勢する前にそいつを退けて、ツナは帰ってきた。……どういうことだ?」
リボーンの黒い目が、俺を真っ直ぐに捉える。
探るような視線。何を知っているのか、何を考えているのか、見つけ出そうという瞳。
(……なんだか、リボーンにこんな目をされるなんて、変な感じするよな)
いや、もう、今更だけど。
……“俺”の鬼畜家庭教師様は、いつだって俺に一番適したアドバイスをし、どんなことでも見透かした。
あいつのことは怖かったし、ときどき意味わかんなかったけど、リボーンの隣にいると、俺は安心出来た。
……それが、こうやって変わってしまうものなのか。立場が、違うだけで。
「どういうことっていうのは? ……ツナがその敵を倒せたこと?
ミツ君たちが倒したのがそれより格下だったとはいえ、2人は一瞬で敵を沈めたんだろ? ツナが勝ったの、そんなに驚くことか?」
「あいつがどうやら強いらしいってことは、オレもリング戦で知ってるぞ。
……が、それとこれとは別だ。この時代にはこの時代の戦いがあるんだ、“リングの炎”ってのがなけりゃ勝てねーんだ。
つまり」
「ツナはなんでリングの炎を使えるのか……ってことを言いたいわけか。
……なんてことないよ。ただ昔、そういう感じの話を父さんに聞いたことがあっただけ」