ありふれた(?)自称ボッチは世界最強   作:slime

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異世界召喚

閉じていた目を開く。

周囲には困惑するクラスメイトたちと巨大な壁画。いかにも異世界といった感じの大理石でできた床と壁。まさか、本当に異世界に?それとも正男(まさお)弟に拉致られたのか?いや、カードゲーム的な名前のプレジデントが暴走したという可能性も……

流石にないな。うん。

しかし、ここはどこなんだ?

疑問に思っていると、下の方に人の気配があることに気づいた。

……ここは何かの上なのか?

それに、なんだ?この全てを見下すかのような視線は…。

…どこから見られているのかわからんな。暗殺者とかか?それとも常に向けられすぎて感覚が狂ったのか?

…まあ、今はいいか。

 

どうやら俺たちは台座のようなものの上にいるらしく、既に何人かの生徒は下の方を見つめている。その視線の先には法衣を着た三十人ばかりの人々が腕を組み、跪いている光景が広がっていた。

…え、なにこれ。リアル異世界?

すると、三十人の中でも最も偉いっぽい豪華な服を着た老人が歩み出て、こう言った。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

…我が最愛の妹、小町へ

どうしよう、お兄ちゃん、異世界来ちゃったかもしんない。

 

 

 

召喚された(仮)部屋から大広間のような場所へ移動した。

今のところ、恐らく、というか確実に勇者様な天之河がクラスの全員をまとめているためか、ヒステリックに叫んだり、泣き出したりするようなやつはいない。状況が飲み込めていないのと、すぐに説明があると告げられたことも影響しているだろう。ちなみに、教師としての出番を取られた畑山先生は少し涙目である。彼女は威厳ある教師を目指しているそうだが、そのように涙目になったりするから威厳が出ないのではなかろうか。涙目で威厳を出せるのは欠伸をした直後の魔王だけだ。

 

全員の着席を確認すると、メイドさんたちが部屋に入ってくる。綺麗どころばかり集めているようだ。まさに男の夢、欲望の形である。しかし、彼女たちの真価はそこではないのであろう。音も無く歩きつつ、最小限の音しかたてずにカートを押している。その洗練された動きを見るに、メイドとしての最高峰ばかりが集められているようだ。まさにVIP待遇。たかが十六、七の少年少女と女教師一人に対する歓迎の仕方ではない。

どういうことだ?他国との戦争に利用?いや、やはり魔王か?下手をするとここの国の王自体が魔王で人間相手に戦争ふっかける場合もあるな…

目を閉じ、じっと考えていると、ふと隣に人の気配を感じた。

メイドさんだ。どうやら飲み物を持ってきてくれたらしい。おぉ、これはこれは、眼ぷk……はっ、殺気⁈右の方から⁇

バッ、と正面を見ると、ニッコニコ笑いながらこちらを見ている白崎が視界の端に映る。

目に…目に光がない。折檻モードの姫路さんみたいになってる。背筋が凍る思いとはまさにこの事だろう。曲がっていた背骨がまっすぐ伸びる。直視はできまい。

しかし、なぜあんな風に?メイドさんのことを見ていたことに怒っているのなら、どうして俺だけなんだ?俺以外にも何人もいるのに。しかも凝視してるやつまでいるし…ふむ、わからん。

 

白崎の黒い眼差しを食らい、恐怖に怯えていると、イシュタルと名乗った老人が説明を始めた。

 

彼の説明によると、この世界はトータスと呼ばれているらしく、人間族、魔人族、亜人族の三種族がいるそうだ。

人間族と魔人族は何百年も戦争を続けていて、戦力が拮抗しているため、大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近魔人族が魔物を使役しだしたことによって、状況が変わったらしい。

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだと言われており、それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣のことらしい。

そんな魔物たちを指揮下に置くことは極めて困難であり、これまで敵とも味方とも言えない位置の生き物であった。ところが、ただでさえ一匹一匹が強い魔人族に魔物なんて加わろうものならたまったものじゃない。

そして、そんな人類を救うために唯一神、エヒトが遣わした救いの勇者とその仲間たちが俺たちということだ。俺たちを召喚する少し前に救いを送る、との神託があったらしい。

 

随分身勝手な話だ。勝手に呼び出しておいて魔人族まで討伐しろなど横暴だ。しかも神託だか知らんがなんの疑いもなく信じるとは……

 

「ふざけないでください!」

 

おぉ、我らが畑山先生、通称愛ちゃん先生が立ち上がって抗議している。なんていい人なんだ。八幡ちょっと感動。生徒たちも心なしか期待した眼差しを……あ、違うな。あれだ。みんなの目が授業参観で発表する娘を見守る親の目だ。

 

生徒たちの気持ちと、恐らく彼女の気持ちが抗議として彼らへとぶつかる。

が、しかし。

イシュタルはそれを気にせず、今、一番残酷で、全員にショックを与えるにふさわしい一言を放った。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

なんということだろう。生徒たちも、わけがわからないよ、といった表情でイシュタルを見つめている。それもそうだろう。いきなり落とし穴に落とされ、絶対に外せない蓋をされたようなものだ。そのうえ穴の中にいる化け物まで倒せと言うのか。ほとんど誘拐のようなことをしておいて、それはないだろう。

イシュタルの言い分としては、召喚自体はそのエヒト様とやらが行ったらしく、人間にどうこうできる問題ではないらしい。

なんともまぁ、神頼りな世界だ。

 

突如として告げられた帰らないという現状。そのうえ、例え反抗期だったり、喧嘩中であったりしても、心のどこかで頼りにはしていた親や兄弟、家族がいないという不安感。そして、戦争に巻き込まれるという恐怖。あらゆる方向からの圧力に、ついに生徒たちはパニックを起こした。

そんな俺たちをじっと見つめるイシュタル。きっと「エヒト様に選ばれたというのに…」などと思っているのだろう。本人は隠せているつもりだろうが、俺にははっきりとわかる。

 

生徒たちが喚く中、天之河は、立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音に全員の注目が集まる。それを確認すると、勇者様(確信)がおもむろに話し始めた。

 

曰く、この世界の人類が滅亡の危機であることは事実だから、それを見捨てるなどできない。

曰く、魔人族を倒せば帰してくれるかもしれない。

曰く、自分たちは常人よりも強い力を持っているっぽいからそれを人々のために使おうではないか。

それに坂上、八重樫、白崎も賛同する。

 

さすがはリアル勇者様一行。

強きを挫き、弱きを助ける。まさに人間として完成している。しかし、危うい。これはそんなに簡単な話ではないのだ。例えば、誰かが死んだ時。寝返った時。寝返るまでなくとも裏切りが起きた時。そして、負けた時。あらゆる状況があり得るのだ。

 

しかし、そんな心配も虚しく、トップカースト四人が戦うと宣言したことにより、クラスは戦うムードへと一気に変えられた。彼らは戦争に参加することの意味をわかっているのだろうか?

実際、この中で唯一の大人である畑山先生は反対している。

俺はNOと言える日本人ではあるが、この世界から帰る方法も無く、実質的にイシュタルたちに頼るしかない以上、クラスの雰囲気に合わせる他なかった。

 

ふと、イシュタルの方へ視線を向けると、彼は満足そうに笑みを浮かべていた。彼はこの世界に来てからの彼のカリスマ性と、自分の説明の間の彼の正義感の強さからくる同情の念。そして、彼に影響される者が非常に多いということを見破っていたのだろう。

油断ならない男だ。

 

 

 

俺たちが召喚されたこの台座のような場所は【神山】なる場所の頂上にあるらしい。

山の頂上であるのにも関わらず、息苦しさはなく、寒さも無い。さすが異世界。魔法的な何かが影響しているのだろうか。

イシュタルについてぞろぞろと歩いていると、円形の大きな白い台座が見えてきた。

もしかして俺たちはアイドルとしてデビューを果たすのだろうか?

…まあ、そんなわけもなく、白丸の上には巨大な魔法陣が記されている。恐らく乗り物的なものだろう。ジェットコースターみたいな。

生徒たちがなんだなんだと見守る中、イシュタルが中二くさい呪文を詠唱し始めた。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、“天道”」

 

…こ、これは!俺の中に眠る記憶が呼び起こされる⁈もしかして魔法って毎回そんな呪文を詠唱するのん?マジで?クラスメイトが魔法使ってるのを聞いて爆笑する自信があるんだが。

明かされた真実に戦々恐々としていると、台座はゆっくりと動きだした。

 

雲海の中を通り抜けると、地上が見えてくる。

巨大な城が見えることから、ここは国の城下町なのだろう。

 

しかし、素晴らしい演出である。神より遣わされし使徒たちが教皇様達に率いられ、天より現れる。

神。信仰の上での絶対的な存在。

仮に我々の世界でも神がいるとして、地球では人間にもある程度の自由が与えられていた。人事を尽くして天命を待つ、ということわざの通り、神は見守っていてくれる存在だったのだ。

しかし、この世界ではどうだろう。この世界の神は本当の意味で絶対的だ。天啓を下し、この世界の全てを司る支配者だ。目に見えないものがそんな重要なポジションにいるということに不安を覚えつつ、俺たちは城へと吸い込まれていく。

 

あの時感じた見下すような視線は感じなくなっていた。

 


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