高熱にうなされている最中に起こった現象が、夢なのか現実なのか。不思議な体験に
頭を悩ますユノ。
「それじゃあ、携帯からの送信日時は、最初に見たものとは違っていると言うんだね?」
ドクター・ヘンリーは、メディカル記録を入力する画面をみながらユノに尋ねた。
ユノはたびたび悩まされている頭痛のため、ドクター・ヘンリーを尋ね、定期的な診療を受けていたのだ。
「ええ、そうなんです。以前も似たような現象があって、今回リラも模試前に同じ夢をみたそうなんです。」
リラは中学3年生で受験まっただ中。小さい頃に両親を亡くしたため、親の記憶はほとんどない。姉のユノとはひとまわり以上も年が離れているため、ユノが親代わりを務めてきた。現在は、ユノが職場の寮に住み、リラは伯母と暮らしている。
ドクターヘンリーは、牛乳ビンの底のような分厚いレンズの入った眼鏡をずらしながら、ユノに尋ねた。
「以前ふたりが見た夢というのを、もう少し詳しく話してくれないか?」
ユノは大きく深呼吸をして、ゆっくりと夢の話を始めた。
「今、リラと一緒に住んでいる伯母の旦那さんである伯父が亡くなった数日後、伯父が夢に出てきたんです。そこは、小学校の給食室で、伯父が給食台の後ろでリラに手を振っているんです。私は給食室の外からそれを見ていて、好き嫌いの多かったリラを心配した伯父が様子を見に来たのかなと、思ったところで、目が覚めたんです。」
「なるほど」
ドクターヘンリーは、キーボードをたたきながら、ユノに話の続きを促した。
「その夢の話をリラにすると、おねえちゃん!私も同じ夢みたよ!と、リラが言うんです。その日の給食メニューはあんかけ焼きそばで、リラが苦手なあんかけを指さして、きらいなら無理して食べなくていいぞ、ってジェスチャーでメッセージしたそうんなんです。私は伯父の背後にいたので、その様子は見えなかったんですが、給食室というシチュエーションも、伯父が出てきたのも同じで、リラと私が見ているアングルが違うだけなんです。」
亡き伯父を思い出し、目を潤ませながらユノが夢の内容を詳しく話した。
「う~む。つまり、姉妹で夢がシンクロしたというわけだな?」
腕組をしながら、ドクター・ヘンリーはユノに問いかけた。
「はい、同じシチュエーションで違うアングルの夢をたびたび見るんです。私達。」
「これは、研究対象になるかもしれん。お互いがお互いの思考を読んでいるのか、予知夢を同時に見ているのか。リラちゃんの受験が終わったら一度二人の脳波を詳しく調べてみよう。」
診療記録をウィンドウズに入力し、以前撮った、脳のCT断面図をマックの画面に表示させながら、ドクター・ヘンリーは、ユノの電子カルテを忙しく作成していた。
年の離れたユノとリラ姉妹。一回り以上も年齢が違うというのに、たびたび同じ夢をみるという不思議な現象を体験している。この謎をドクター・ヘンリーは解き明かすことができるのか?
さて、次回は二人の前に、不思議な少年が現れます。