Fate/Grand Order ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 ほらね、熱がある内は筆が乗るから速いんだ(白目)

 今話は約一万一千。視点も前話と同じ三人称、思考・感情は一人称的描写。

 ちなみに本作のFate/に於けるエネミーは、見た目通りの重量です。なので身体能力が半端ないと吹っ飛ばせるし、重量武器なら一撃で粉砕も可能。

 被弾について? 攻撃は、当たらなければ良かろうなのだァ!

 ではどうぞ。




序章:2 ~邂逅~

 

 

 骸骨剣士を初めて倒して以降、キリトはチラホラと別の骸骨を見掛けるようになったと感じていた。先ほど倒したマチェーテを持つ剣士タイプの他に、木造の柄に鋭利な刃が付いた長槍や弓矢を装備しているタイプも居て、やはり建物の影を縫うように進む選択をして正解だったと思っていた。

 見た限り、スケルトンのタイプは剣、槍、弓矢の三種類程度だった。

 弓矢のリーチや索敵範囲には気を付けなければならないが、剣と槍タイプは幾度かの交戦を経て武器を投げる行為をされなかったため、接近にさえ注意を払えば強敵では無いとキリトは判断する。

 スケルトン達の行動は、浮遊城で幾度となく戦ったモンスターとしてのスケルトンとほぼ同じで、複数集まっても連繋を考えていない点を考えればやや劣るという印象だった。

 それでもキリトは一切油断や過信はせず、一体一体を初見で戦うかのように挑み、これらを撃破する。何せ一度慢心・過信で大切な人達の命を危ぶめ、自身の命も落としているのだ、慎重さに拍車は掛かるというものだった。

 自身は決して才能がある者では無い、むしろ誰よりも劣る非才の身であると、キリトは固く信じている。

 己の実態をよく見ない者達からはともかく、武道や勉学の師である義理の姉からも才能は無いと言われていたからだ。人を恐れ、信を置く事に忌避感を抱いているキリトは、しかし一度信用するととことん信じるという性質があった。信用している相手の言葉を疑う事無く信じるという子供特有の性質がまだ残っていたのだ。

 故にキリトは、どれだけ努力を積んでも満足はしない。まだ上がある、まだ足りないと、貪欲なまでに経験を積み、努力を重ね、更なる高みを求め続ける。

 結果的にそのお陰で戦闘に関しては生き残って来た。

 デスゲームで命を落とす切っ掛けになったのは、他者の為にその身を犠牲にする思想が、そしてキリトを疎ましく思い殺す算段を立てた者達が原因だった。

 護るべきと断じる他者が居なければ、キリトは命を落とさない強者だった。

 

「誰も居ない……?」

 

 しかしキリトは、幼さ故の精神から人を求め、自己犠牲の思想から他者に拠り所を求めるという性質があった。

 己の《安全地帯》となる拠点、食料と水の配分を考える必要が出るので好ましくは無い選択だと理解しているが、しかし思考は他者を考える。

 未知の場所、大災害の中心に居るのに他者の存在を考える事がその証左。

 しかしキリトの思考に反し、周囲の何処にも人影は無い。燃え盛る街であれば焼死体の一つも無ければおかしいが、それすら無いという時点で異常だった。

 

「……何か、居る……?」

 

 その異常性がキリトの警戒を更に引き上げ、身構えさせた。

 右手には愛用のエリュシデータが握られており、左手には“ともだち”である鍛冶師が鍛え上げた翡翠の片手直剣ダークリパルサーが握られている。

 ――――二刀流。

 それはデスゲームの世界に於いてシステム的にキリトにだけ認められたスタイルだった。隙は大きいが、キリトにはそれを殺すだけの突破力と回避力、攻撃力と速力があった。解禁してからの期間が短いながら、キリトは幾度も死闘を経験した。その強敵達も、二刀を以て幾度も打倒していた。

 デスゲーム世界特有の技は使えなかった。世界が違うから当然だろうとキリトは納得した。

 であるなら、今最も活躍するのは己の経験。

 戦闘に於いて、そして一対一、一対多という状況の経験であればキリトは一家言あると自負するシチュエーションだ。未知の存在への警戒と対処は全力で無ければ一気に押し切られる事も経験で理解している故に、キリトは己の持ち札の中でも最大の突破力を誇る二刀流を選択していた。

 その裏には、“ともだち”の剣を持つ事で自身を奮起するという、恐怖心故の理由もあった。

 恐怖を抱き、警戒心を最大限に引き上げたキリトは、しかし構えながらも進み続ける。立ち止まった方が格好の的であると、殺人快楽者達との死闘で経験しているが故に。

 

 

 

 ――――キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

 

 

 

 そうして進んでいると、燃え盛る炎と微かな風の音だけが満ちていた街中にて、女性の声が響き渡った。

 その方向は丁度キリトが向かう進路。

 

「人か……ッ!」

 

 きっとスケルトン達に襲われたのだろうと即座に当たりを付けたキリトは、未だ慣れない大幅に上昇した身体能力を以て全力で駆け出した。周囲の景色がかなりの勢いで後ろへ流れて行き、風が長い黒髪やコートをたなびかせる。

 走り始めて十秒の後、角を曲がると同時にキリトは悲鳴を上げたと思しき人物の下に辿り着いた。

 女性は肩甲骨程まで伸ばした綺麗な銀髪を振り乱しながら走っていた。しかし服装はスーツに似たもので、走りにくいと思えるもの。厚底のブーツである事がまだ幸いしていると言えた。

 しかしキリトが女性の姿を認識すると同時、慌てて走っていたせいで女性は岩に躓き、転んでしまう。

 キリトの予想通り女性を追い掛けていた骸骨は、ここぞとばかりに走りながら剣を振り上げた。追い付いたと同時に斬り付けるつもりなのが見て分かる。

 

「いやっ、来ないでよッ! このッ!」

 

 女性と骸骨剣士の距離はまだ多少あるので今駆け出せば間に合うと判断し、キリトは駆け出そうと腰を落とすが、しかしそれは女性の行動で止められた。

 その女性は右手を手刀の形で突き出し、左手で腕を固定し、右手の先から野球ボール程度の赤黒い弾丸を放っていた。赤色の稲妻を纏ったその弾丸は最も近付いていた剣士タイプの骸骨へと向かい、直撃し、破裂する。

 

『――――ッ!』

「嘘でしょ……?!」

 

 しかし見た目ではかなり痛そうな弾丸を喰らった骸骨は、僅かに仰け反ったものの痛痒にも感じていないかのようにすぐさま歩みを再開する。

 女性はそれを見て赤黒い弾丸を連続射出するが、当たっても骸骨は怯むだけで、倒れる気配が微塵も無かった。

 更に悪い事に骸骨は一体だけでなく、合計七体は存在していた。剣士タイプ三体、槍タイプ二体、弓タイプ二体だ。

 そして弓矢持ちの二体が、遠方から銀髪の女性を狙っているのが見えた。加えて残りの剣、槍タイプの骸骨もあと数秒で追い付いてしまう。

 

「伏せてッ!」

 

 自分で殺すならいざ知らず、目の前で他人の手で人が殺される事は見るのは厭っているキリトは、駆け付けた目的を果たす為に一言そう言って駆け出した。

 女性が慌てたように振り返るが、キリトはその横を通り過ぎ、先頭を走る骸骨剣士目掛けて全力で二刀を右薙ぎに振るう。ただし斬るのではなく、刀身の腹で叩きつけるような形で。

 体格差で骨盤辺りに速度を全部乗せた二刀の腹を叩きつけられた骸骨剣士は、踏ん張る事も出来ず後方へ吹っ飛ばされた。吹っ飛んだ骸骨剣士は、まるでボウリングのピンを倒すボールの如く後続の骸骨達を吹っ飛ばす。

 

「せ、生存者……?!」

 

 一瞬で自身の横を通り過ぎ、加えて自分がどうやっても怯ませる事しか出来なかったスケルトンを一撃で吹っ飛ばした存在に、女性は驚愕し、そして現状が打破された事に歓喜を抱いた。

 ある事情で大火災の中心部へと赴いた女性は、キリトと邂逅するまで生存者を一人も見ていなかった。

 キリトと同じように死体すら無いその異常性に警戒心を抱いていた。

 そんな中でスケルトン達に見つかってしまい、もうダメだと思った時に、探し求めていた生存者を見付けた。驚きもするし、助かったのだから歓喜も抱く。

 

「――――って、こ、子供……?」

 

 ただ、その現状を打破した人物が、年端も行かない子供である事には困惑を抱かざるを得なかったが。

 

「全部倒すまで、そこを動かないで」

 

 キリトも、自身の幼さが困惑を抱かせている事には気付いていた。

 しかし敢えて言及はしなかった。言及しても年齢は仕方ない事であるし既に馴れた事だったから。そして今優先すべきは会話では無く、安全確保のための敵の殲滅であると判断していたからだ。

 それ故にキリトは真剣みと険しさを増した声音で、横目に振り返りながら女性に指示を出した。

 

「っ……!」

 

 その姿と指示に、女性は一瞬苛立ちを覚えた。まるで自身が見下されているように感じたから。

 しかし今正に助けてもらった手前、そしてまだ危機が去っていない以上、自身の生命線とも言える少年の気分を害するのは得策では無いと一瞬で結論を弾き出し、唇を噛んで押し黙る事を選択した。

 それでも『目は口程に物を言う』と言われるように、女性の眼つきは怒りの鋭さを見せており、キリトも苛立ちを覚えた事を察した。

 察して、敢えて無視し、視線を敵が転がる前方へと戻す。

 

『『――――ッ!』』

 

 戻した瞬間、約四十メートルの距離を開けていた弓矢持ちの骸骨が、番えて射た矢から指の骨を離した。

 物理法則に則って弦から弾かれ射出された矢は、凄まじい勢いでキリトを狙う。

 およそ二秒足らずで、矢はキリトの許へ辿り着き――――二つの斬閃により斬り払われた。

 キリトが二刀を以て斬り落としたのだ。避けなかったのは、軌道からして躱すと背後の女性に当たっていたからである。

 偶然か、あるいは意図しての事か。後者だとすれば思ったより厄介だと敵の脅威度を上方修正した。

 そうしている間に連続して吹っ飛ばされた骸骨達が起き上がり、キリトと女性を仕留めるべく駆け出し始めた。それに続くように弓の骸骨も二本目の矢を番え始める。

 

「――――やぁぁぁあああああッ!!!」

 

 その時、弓の骸骨の真横にあった瓦礫の陰から、気迫の籠った掛け声と共に飛び出した人物が居た。

 その人物は深みのある黒と薄紫のボディースーツ、急所を守る鎧を纏い、十字架の如き大盾を携えた女性だった。片目を隠す短めの桃色の髪にアメジスト色の瞳の女性は、乾坤一擲とばかりに大盾を振りかざすや否や、突進の勢いそのままに弓の骸骨を横殴りに吹っ飛ばす。

 打撃攻撃に弱い骸骨はその一撃で粉砕し、即座に青白い粒子へと散った。

 傍らにいたもう一体の弓の骸骨は即座に大盾を持った女性へと狙いを定め直すが、その僅かな隙に、女性は盾を眼前に翳しながら突進していた。

 矢の一撃は確かに侮れないが、しかしかなりの重量があると見て分かる大盾を突き破る程の貫通力や威力がある筈もなく、放たれた矢は当然の如く甲高い音と共に弾かれた。

 射撃手である骸骨は即座に振るわれた大盾の突きにより、先の焼き直しの如く粉砕し、消え去った。

 キリトは先頭を直走る骸骨を斬り倒し、各個撃破するつもりでいたが、一度その予定を変更して再度刀身の腹を、今度はエリュシデータのみ叩きつけて骸骨を吹っ飛ばし、また仕切り直した。

 僅かな間を得た隙にキリトは闖入者たる大盾の女性に鋭い視線を向ける。

 味方でなくても良いが、少なくとも敵か否かを見極める必要があった。骸骨を倒した事からそれらの仲間では無い事は理解したが、しかしだからと言って己と背後の女性を傷付けないとは限らないが故の警戒心だった。

 

「ま、マシュ……?!」

「所長! 先ほどの悲鳴はやはり所長だったんですね!」

 

 しかしその警戒心は、今現在己が護ろうとしている女性とのやり取りで、まず必要無いという結論へ即座に至った。短いやり取りではあったが、少なくともこの二人が親しい間柄である事が分かったのだ。

 それが分かったなら今は良いと判断し、キリトは大盾の女性から、互いの間に居る五体の骸骨達へと視線を移した。

 

「あの、貴方は一体……!」

「この人を護る為に来た! まずはスケルトンを一掃しよう、話はそれからだ!」

「ッ……マスター、どうしますか?!」

 

 キリトの返答に対し、一瞬の間を置いて大盾の女性は傍らまで走って来た黒髪の青年へと問い掛けた。

 青年は白いベストに黒い長ズボンを纏った動き易そうな服装だった。

 ただしそれは、大盾の女性やキリトのそれと異なり、戦う者の装いでは無い。大盾の女性の問い掛けから、恐らく指揮官のような立場なのだろうとキリトは当たりを付ける。

 

「彼に助力して、所長を助け出して!」

「――――了解です! マシュ・キリエライト、これより戦闘を開始します!」

 

 青年の判断は一瞬の迷いも無かった。日本人にしては珍しい事にサファイアのように澄み渡った蒼の瞳は、キリトを一切疑う事無く信じていた。

 少なくとも共闘を許される程度の信は得られたのだなと一定の安堵を覚えたキリトは、再度起き上がった骸骨達を斬り伏せるべく、《マシュ・キリエライト》と自らを称した女性と同時に駆け出した。

 

 *

 

 五体のスケルトンを屠るのに然程時間は要さなかった。

 《マシュ・キリエライト》という女性は重厚な大盾一撃で骸骨を粉砕出来るし、キリト自身も斬撃一発で倒せる為、各々が青年と女性を注意を配っても尚余裕があった。

 リザルトとしては、大盾の女性マシュが一体、キリトが四体。

 単純にキリトの近くに骸骨が寄っていたから多く倒せただけである。

 仮に大盾の女性とやり合えば、まず間違いなく自身は勝てないだろうと、キリトは先の戦闘から予想した。あの盾を破る事は、鉄壁とも呼ばれる知り合いの騎士の盾を破るより難しいと。

 しかし同時に、今はまだ負けもしないとキリトは感じていた。

 それは戦闘中の女性の行動の拙さにあった。能力は高いが、しかし技術に乏しい、あるいは力に振り回されている感がそう思わせる要因だった。恐らく戦闘経験も乏しいのだろうと予想出来る程に。

 能力の高さに振り回されているという点に於いては自身も同様だと、大盾の女性への批評と共にキリトは自身を再び戒めた。戦闘経験で勝っていると言っても勝てないのでは話にならないのだから。

 周囲に敵影が無いかを確認しながら、キリトはそう考えていた。

 

「――――ちょっと、そこのあなた」

 

 大盾の女性と、女性が《マスター》と呼称した青年二人との会話の間、何やら立て込んだ事情があると察したキリトが周囲の警戒をしていると、一通りの区切りが付いたようで銀髪の女性が声を掛けた。

 その傍らには青年と大盾の女性の姿もある。

 銀髪の女性の顔は訝しみ、苛立ちに満ちた険しい表情が浮かんでおり、残る二人の顔には困惑が浮かんでいた。

 

「話は終わった?」

「ええ、こちらの話は終わりました。なので次はあなたに話があります――――私はオルガマリ・アニムスフィア、人理保障機関フィニス・カルデアの所長を務めています」

「僕はカルデアの職員の藤丸立香。よろしく」

「局員のマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします」

 

 オルガマリーと名乗った銀髪の女性が硬い声音で、立香という青年とマシュという女性が柔らかめに自己紹介をした。

 

「俺は……桐ヶ谷和人。キリトって呼んで欲しい。よろしく」

 

 一瞬、キリトは本名を名乗るべきか迷ったが、信用を得る為にも一度名乗っておくべきだろうと判断し、今の名を名乗った。

 続けた名前は、剣士としての意識を保つ為に名乗った。

 キリトにとって、《桐ヶ谷和人》とは平穏な時や家族が居る時にこそ呼んで欲しい名であり、危険な死地で呼ばれる時は《キリト》の方が良い。小さいが、しかし意識付けという事もあり、キリトはそれに拘りを持っていた。

 それを知る由も無いが、三人は曖昧に頷く。本人がそう呼んで欲しいと言っているし、呼ぶ事に不都合は無いので一応了承しようと考えたから。

 

「では、キリトと……それで質問しますが、この街で何があったのですか?」

 

 嘘や誤魔化しは許さないと鋭い目つきでオルガマリーが端的に問い掛ける。立香やマシュは、威圧したら答えにくいのではと心配した。

 心配そうな面持ちになった二人を見て何とも言えない心地を抱きながら、キリトは首を横に振る。

 

「生憎だけど、分からない。俺が気付いた時にはこうなっていたから」

「……そう、ですか」

 

 キリトの返答を、オルガマリーは一旦信用する事にした。

 オルガマリーはまだ所長としての経験は浅いが、それでも《時計塔》と呼ばれる場所で優秀な成績を収めた一門の者、対人交流の経験はそれなりに有していた。故に相手が嘘を吐いているか否かくらいは読める技術があった。

 その経験と技術から、キリトは嘘を吐いていないと読み取れた。

 ――――確かにキリトは嘘を吐いていなかったが、同時に真実も語っていなかった。

 そもそもキリトはこの街に基から居た訳では無い。目を覚ました時にはこの事態だったのだから言っている事は本当で、しかし自身の事に関する情報の開示は拒んでいた。

 己の事を知った途端殺しに掛かって来る者がザラに居たからこその、キリトの処世術だった。

 

「では他に生き残りは見ていませんか?」

「見てない。オルガマリーさん達が初めて」

「なるほど、私達と同じ状況なんですね……」

 

 マシュへの返答で、キリトもまた自分達と同じ状況である事が分かり、三人は僅かに落胆を抱く。ある程度予想はしていたが、それでもだった。

 

「……話が長くなるなら、せめて火の手が薄い場所に移動してからが良い。まだ拠点も水や食料調達の目途も立ってないし、此処だと視界が悪くて奇襲を受けやすい」

「え? え、ええ、そうね……」

 

 いやに現実的且つ馴れたような対応を見せるキリトに、オルガマリーは狼狽えると同時、気味の悪さを覚えた。自身の半分以上下の年齢であろう少年が自身より遥かに冷静なのは得体が知れないからだった。

 

「あの、あなたは、サーヴァントなんですか?」

 

 そこで疑問を呈したのは、マシュだった。

 マシュはキリトの幼さに反する冷静さから、サーヴァントという存在ではないかと予想したのである。

 サーヴァントとは、人類史に於いて名を残した英雄達の分霊。剣士、槍兵、弓兵、騎兵、魔術師、暗殺者、狂戦士の基本となる7つのクラスに各英雄達の分霊を当て嵌め、ランクダウンさせる事で現世へと降霊させた使い魔の事を指す。

 人間として考えればキリトの幼さに反する冷静さは異質だが、しかしかつて偉業を為した英雄達の記憶・記録を所持したサーヴァントであれば、その冷静さも当然だと判断したが故に、マシュは問いを投げた。

「……サーヴァント?」

 

 しかしキリトからすれば身に覚えの無い話故に、当然ながら首を傾げる事になる。

 その反応に、マシュの疑問からもしやと予想を持ったオルガマリー、立香の二人も、マシュも、首を傾げる事になる。

 

「え。あの、違うんですか?」

「そもそも定義を知らないから答えられないんだけど……」

「……違うのね」

 

 心底困った様に答える姿を見て、三人はサーヴァントでは無いという結論を出した。嘘を吐いている様子では無いので同じ人間なのだと。

 マシュだけは些か異なるのだが。

 

「サーヴァントについて訊きたいけど……ともかく、拠点を得ないと」

「あ、待って下さい。私達、ちょっとこの場所に用事がありまして」

「此処に……?」

 

 あまり長居していると戦闘時の物音を聞きつけたスケルトンが襲って来るとも限らないと思い移動を促すキリトを、マシュは制止した。

 その言葉にキリトはまた首を傾げ、次いで周囲を見渡す。どれだけ見ても炎が揺らめく建物や破壊された瓦礫の山しか無く、これといって有用そうなものは見当たらない。

 

「……分かった」

 

 それでもそこまで強い気迫と共に言うのなら何かするのだろうと判断し、マシュ達の用事を済ませるまで待つ事にした。

 周囲の警戒を始めたキリトに礼を言ったマシュは、オルガマリーが座り込んでいた辺りに大盾を設置する。

 すると青白い光が大盾から立ち上った。

 

「は……?」

 

 その光景を見て虚を突かれたキリトは唖然とする。

 まさか鈍器としてマシュが使っていた大盾が魔法の祭具にもなるだなんて思いもしなかったのだ。十字盾である事に何らかの意味はあるのかもとは思っていたが、よもやそんな使い道があるとは予想外だった。

 

『ああ、やっと繋がった! 霊脈に辿り着いたんだね! 立香君、マシュ、怪我は無いかい?!』

 

 更に驚く事が続いた。

 地面に設置されて青白い光を放つ大盾の真上に白衣を纏った男性が一人映るホロウィンドウが表示され、そこから聴こえて来る穏やかながら焦りも感じられる声音が放たれたのだ。

 これには科学技術も真っ青である。

 キリトはちょっぴり遠い目をした。段々と自分が立てていた予測が全くの見当違いなのではないかと思い始めたからである。

 

「はい、ドクター。私と先輩は勿論、所長も無事です。また現地での協力者も得られました」

『そうか、それは良か――――って、ええええええええええ?! 所長?! 生きていたんですか?! あの爆発のど真ん中に居たのに?! マジで?!』

「ちょっと、それはどういう意味ですか!」

 

 《ドクター》とマシュに呼ばれた男性は、オルガマリーの生存を知るや否や驚愕の絶叫を上げた。その男性の近くに居るらしい画面の向こうの人達のどよめきも聞こえて来た。

 その反応にオルガマリーは顔を真っ赤にして激怒する。

 まぁ、当然の反応かなぁと、キリトは両者に思った。爆発の中心に居たらしい女性は五体満足で生きているから驚くのも当然だし、勝手に死なれた扱いにされていたら感情的な人は怒りもするだろう。

 ちょっと苦手かなぁと、キリトはオルガマリーに対して苦手意識を芽生えさせていた。

 

「というかロマニ、医療部門トップのあなたが何故そこに居るの?! レフは?! レフはどうしたの!」

 

 白衣を着ている事や《ドクター》という呼称からキリトも察していたが、《ロマニ》という男性は医療部門のトップのようだった。素直に凄いと尊敬を抱く。

 その男性から、カルデアと呼ばれる組織の壊滅ぶりが伝えられ、オルガマリーは悲痛と焦燥も露わに指示を出していた。

 曰く、瀕死の47名のマスター達を死なせない為に、凍結保存をしろ、と。

 マシュによれば、本人の許可無しの凍結保存は何らかの違反事項らしい。それを無視して即座に決断を下した事に、オルガマリーの善良さと所長としての在り方をキリトは垣間見ていた。仮令それが『47人の命を背負いきれる訳が無いから』という理由だとしても、見捨てるよりよっぽど良いと。

 また、オルガマリーが言う《レフ》という男性も、爆発に巻き込まれ死亡しているだろうと伝えられた。ドクター・ロマニが連絡をしているのも、ドクターより上の階級の者達が軒並み死亡か意識不明の重体だかららしい。

 どうにか施設の電力や機材を回し、《イミショウシツ》とやらを避けるべく全力で対処しているのが現状。カルデア側からのサポートは幾らかの物資提供が精々という話だった。

 ちなみに、マシュの体が《デミ・サーヴァント》という話について、カルデア第六の実験についても話題に上っていたが、そもそもサーヴァントやカルデアについても無知なキリトでは理解が及ぶ筈もなく、早々に思考を諦めて警戒に意識を割いていたりした。

 

『これがカルデアの現状です。それで……あの、現地協力者というのは、そっちの黒尽くめの子で……?』

 

 オルガマリーに尋ねつつ、ドクター・ロマニは視線を画面端に映る二刀を携えた少年に向ける。

 その視線と話のメインが自身になったと察し、キリトもまた画面へと近寄った。

 

「ええ。名前は桐ヶ谷和人、キリトと呼んで欲しいと言っているのでそのように。見た目は幼いけど、付近をうろついていたスケルトン達をマシュと共に一掃した実力者よ」

『え。スケルトンを、エネミーを、ですか?』

「ええ、そうです……私のガンドでも怯ませる事しか出来なかったというのに、この少年は生身で、何の魔術も使わず、強化すら無く、二本の剣だけでエネミーを片付けたのよ!」

『うわっ?!』

 

 目の前で起きた事を語っている内に激情が再燃したのか大声を張り上げるオルガマリーの剣幕に、真っ向から受けたロマニは怯んだ。

 隣に立っていたキリトは僅かに顔を顰める。

 

『うーん、所長はマスター適正やレイシフト適正こそ無いけど、それ以外は一流の魔術師だ。その所長のガンドで怯むだけのエネミーを倒せるとなったら一流どころの魔術師じゃないけど……キリト君、だっけ? 君、何者なんだい?』

 

 ロマニの疑問は非常に正しく、また正鵠を射た想定だった。

 規範化されたランク付けがある訳では無いが、《魔術師》という存在にもそれなりの格というものが存在する。基本的に強い力や膨大な魔力を持つ血統の血が濃い程に先天的な素養とは強いものになりやすく、オルガマリーも血統では名門の出だ。魔力の質や量も良く、また本人が努力家である事が幸いし、多くの事を卒無く熟す天才である。

 魔力の量、質、魔力を練る力量、努力と才能が合わさったオルガマリーの《ガンド》――行動不能の呪いをぶつける魔術――は、物理的な威力すらも伴う魔術へと昇華されていた。大柄の人間ですら一撃喰らうだけで致命傷でなくとも暫くは動けない程のダメージを負う。

 その純粋な魔力、魔術の塊の一撃を受けても、スケルトン達は怯むだけだった。

 しかしオルガマリーの話が本当であれば、肉体的にも魔術師としても所長に劣る筈の少年は、一切魔術の行使、強化を行わず、自分の力量だけでそれらを排した事になる。

 スケルトンを初め、基本的に人外とされる存在は魔力で構成される存在のため、純粋な物理攻撃では一切ダメージを受けない。現代兵器では決して倒せない存在なのだ。物理攻撃で倒すには、使用武器に強化魔術を施す形で魔力を通す必要がある。

 つまりキリトが行った事は、魔術師達の常識に照らし合わせると道理に合わない事。

 伝聞の形で知ったのであれば虚言ではと疑いもするが、何しろ証言が自身の上司である上に状況からして嘘を吐く事はあり得ない。加えて所長の性格からして嘘は吐かない。だから事実として捉える。

 結果、ロマニはその疑問を持つ事になった。

 

「何者って、言われても……剣士キリト、としか……」

 

 だがキリトにとってそんな事を問われても困るだけだ。

 何しろ《サーヴァント》の定義も分からない現状で、また新たに《魔術師》という知らない単語が出て来て、それを知っている前提で語られても答えようが無い。反応に困るだけである。

 またキリト自身、今の自分がどういった存在なのか理解が及んでいないので、答えようも無かった。

 キリトにとって、《キリト》という存在は仮想世界に生きる剣士であり、あくまで仮の姿でしかない。剣士キリトというそれ以上でもそれ以下でも無い立場なのだ。

 故にサーヴァントだとか、魔術師だとか、何者だと問われても剣士と答えるだけが精一杯だった。

 ある程度冷静に状況を把握し、判断し、行動を選択出来ているが、実のところキリトの混乱は未だ続いているのである。今は何も分からないから棚上げしているだけで、その事について問われても混乱を酷くするだけだった。

 

「う、ぅ……」

『わぁっ、ごめん、待ってくれ、いきなり質問した事は謝るから頼むから泣かないでくれ!』

 

 混乱の極みにあると見て分かる程に表情を歪めた少年を見て、ロマニは慌てて謝罪する。

 その慌てように、オルガマリーが額を抑えながら嘆息を洩らした。

 

「ロマニ、貴方はもう少し順序というものを考えなさい。それでも医療部門のトップですか」

『うーん、所長にはあまり言われたくない気が……』

「何か言いましたか?」

『いえ何も無いですハイ!』

 

 ドクター・ロマニの欠点は些か以上に空気を読めないところ。真剣な時にもその緩い空気・雰囲気・言動が場を乱すので、そこに関してオルガマリーは苛立ちを覚える事も多い。

 ロマニもそれは自覚しているのだが、何分直そうにも直せない事だった。

 

「……質問がある」

『あ、何かなキリト君?! お兄さんが答えられる事なら答えちゃうぞぅ!』

「逃げましたね、ドクター」

『あははは、何の事かなマシュ?! ――――それで、質問って何だい?』

 

 割と必死な寸劇を見せた後、ロマニは真剣な面持ちで問いを投げた。

 

 

 

「――――此処は、現実なのか……?」

 

 

 

「「「『……え?』」」」

 

 今にも泣きそうな、苦し気な面持ちで放たれたその問いに、場の空気は凍り付いた。

 

 





 はい、如何だったでしょうか。

 本作キリトの身体能力は、拙作《孤高の剣士》のステータスを更にアップしてる状態なので、見た目に反して案外ある。

 サーヴァントのランクにしたらE+くらい?(+があるだけでも高い方)

 原作設定的にEランクでも常人以上だし、その基準だと作家系鯖ですらコンクリート砕けると思うから、骨だけのスケルトンを吹っ飛ばすくらいは軽く出来る筈。

 UBWのアーチャー(筋力D)も衛宮士郎の全体重を掛けたジャンプ斬りを抑え込んで空中に浮かしてたから、骨だけで尚更軽量なスケルトンなら吹っ飛ばすくらいEランクでもイケるイケる。

 本作ではイケるんだ!(断言)

 サーヴァントなら体術だけでエネミーは倒せるんだ!

 キリト? キリトは武器が無いと倒せません。

 ちなみにキリトの戦闘能力は、エネミーにはバリバリ神代の存在でなければ総合的に十分拮抗し、サーヴァントを相手にするならトップサーヴァントでない限り防戦だけなら10秒は持ち堪えられるレベル。FGOのレア度で言えば☆3以下は保つ。☆4以上は無理。

 つまり黒化英霊のアチャミヤ相手には勝てないんだ(嗤)

 加えてアーチャー、キャスター、アサシン、バーサーカー枠には現状無条件敗北です。セイバーとか最優の英霊に勝てる筈も無し。ランサーも言わずもがな。ライダーも正直微妙。

 更にランク詐欺に等しい英霊達にも勝てない。敵になりはしないと思うがアーラシュや佐々木小次郎辺りは無理ダナ(白目)

 オルトリア? もっと無理だね。そもそも騎士王ってトップサーヴァントですし、おすし。

 つまり、全クラスに勝てないって事に……こうして考えると英霊ってやっぱ強い……(小並感)

 ――――つまり、目には目を、刃には刃を、英霊には英霊をという事ダナ!(だからこそのマスター枠)

 という訳で、次回はガチャる!(予定)

 ちなみに立香、キリト共に召喚枠は一騎。物資的に困窮してる状態だからね、仕方ないネ。

 開始最初に回すストーリーガチャ10連と初めてのフレポガチャ10連で出て来た鯖の中から選択するゾ(バサクレス、タマモキャット、ステンノ、清姫、キャスニキはストーリー的に今は除外)

 では、次話にてお会いしましょう。


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