Fate/Grand Order ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

7 / 9
序章:7 ~休息~

 

 

 鼻に突く、鉄の香り。

 脳髄を揺るがす血煙の匂い。

 それらは全力で、否応なしに、闇に沈んだ意識を浮上させた。

 瞼を開くと共に視認する見知らぬ天井。似たものは知っている、だがこれそのものを知らない故に、反射的に上体を起こそうとした。

 途端、襲い来る頭痛と眩暈、それから吐き気、倦怠感。

 

「ぐ……」

 

 倦怠感は絶大だが、それ以外はまだ軽微と言える。少なくともダメージを受ける度に全身を走り苛む『極限まで再現され時間経過による減衰が無い痛み』に較べればまだマシか。

 それでも無視する事は出来ず、また過去に経験したタイミングでもない為に思わず呻きを洩らす。眩暈が起こった時から体を動かしていないのにぐらりと視界が揺らいだ。

 これは無理だなと起きるのを断念し、起こそうとした上体を敷布団に沈ませ、息を吐く。痛む頭を押さえようと右手を翳すが、その軽い一動作ですら倦怠と疲労が酷い。

 

 ――――これが『魔力枯渇』の弊害、か……

 

 《ランサー》と《ライダー》の撃破後に覚えたのは、まるで自分の芯となるナニカを削るが如き虚脱感だった。

 今はそれに取って代わって倦怠感がある。

 確か魔力とは、大気中に満ちる『オド』と、体の中を流転する『マナ』とで構成されていると聞いた。魔術行使で用いるのは後者、自然回復では前者と、魂が吐き出す余剰分のエネルギーの変換分が該当するとか。

 要は《戦闘時自動回復》スキルの回復が自然回復で、フル回復した後の余剰分が魔力として補充されるのだろう、とキリトは認識していた。

 今は体が枯渇した魔力を必死に充填している最中で、そのせいで倦怠感が酷いのだろうと。欠けていてはいけない分の回復まで休めという体の信号という訳だ。

 これではマトモに動けないな、と嘆息し、キリトは手を掛布団へと下ろした。

 

 

 

『ふぉーう』

 

 

 

 ――――突如、初めて耳にする動物の鳴き声。

 

 

 

「……?」

 

 古今東西あらゆる、とまではいかなくともそれなりの種類の動物を見て来て、鳴き声も耳にしたキリトをして、その鳴き声は本当に初めて聞いたものだった。

 聞こえたのは、キリトの左側頭部。

 揺らぐ視界と押し寄せる吐き気を抑え込み、ぐるりと枕の上で首を巡らせ――――枕元に、白いモフモフの小動物を発見する。

 

「な……」

 

 鳴き声は勿論、その姿を初めて見るキリトは瞠目し、身を固めた。

 白い毛並みの動物、というのであれば何十種類とキリトも知っている。だがしかし、リスか猫かよく分からない見た目の種類で、鳴き声が『ふぉう』というもので、カールの如きふわふわな毛並みの動物を、少年は知らなかった。

 加えてキリトは動的存在の気配や空気の動きには人一倍敏感な自負があった。

 魔力枯渇の弊害で酷く消耗してはいるが、しかしそれで、枕元にまで近付かれて気付かない愚を犯すほど、キリトも気を抜いてはいない。というか、仮にキリト自身が無意識に抜いていたとしても、反射の域に達するレベルで刷り込まれた技術が接近を許さない。

 接近する存在を排除するか否か、それ自体はキリト本人の意思ないし相手の意思により左右される。だが仮に敵意が無いとしても――――一撃死の恐れがある頭部の真横まで近付かれ、それに気付かないというのは、それまでただの一度も起きなかった。

 だからこそキリトは硬直し、驚愕し、絶句し――――

 

『ふぉう』

 

 てし、と。不可思議な小動物の右前脚を無抵抗のまま額に受けた。

 むに、と肉球が皮膚を押し、へ、とキリトが気の抜けた声を発する。虚を突かれたせいで思考停止して小動物にされるがままだ。

 小動物はそのまま幾度も前脚を押し付ける。

 てし、てし、てし、てし……

 

「……むぅ」

 

 数秒して我に返ったキリトは、どうしたものかと額に肉球アタックを受けながら思案を始め。

 取り敢えず、かわいいから撫でようか、と結論を出した。

 キリトは色々と疲れていた。何に、とは言わない。

 ゆっくりと左手を喉元に伸ばせば、察したようにふぉうふぉう鳴く小動物が首を差し出す。その小さな顎下、喉を指でくすぐってやれば、機嫌良さげに目を細め、ふぉーう、と間延びした声を発した。

 そのまま暫く小動物の喉元を擽り、次第に頭を撫でていると、布団が敷かれた和室の隣から足音が聞こえた。

 

「――――フォウさん、此処に居るんですか?」

 

 カララ、襖を開けたのは、カルデア所属の盾使いマシュだった。盾こそ無いが、しかし鎧を纏った武装状態の女性は、キリトが寝る部屋を見渡し、そこに馴染みある小動物がいるのを発見する。

 同時に、その小動物を撫でているキリトの状態も確認した。

 

「あ……キリト、さん、目を覚まされたんですね」

 

 やや詰まりながらも敬称を付けるマシュ。明らかに自分より幼い少年だが、しかし戦闘の経験値で言えば圧倒的に上である、君付けはどうなのだろうと悩んでの無難な選択だった。

 これに疑問を覚えたのはキリトの方である。

 

「……さん付けは、慣れない。呼び捨てでも良い」

 

 何しろこれまでいた環境の中で敬称を付けられる場面は一度も無く、会う人物全てが己より年上と来ている。呼び捨て、ないし君付けの方がまだ馴染みがあった。

 しかしマシュはそうもいかない。生真面目、礼儀正しさが服を着ているような人間であるため、マシュは誰かを呼び捨てで呼ぶ事が無かったのだ。呼び捨てにするにしても、大抵は役職を付けているため、実質敬称呼びだった。

 少しのやり取りを経て、キリトはさん付けで呼ばれる事になる。特に不都合が無い以上、拘りも無いのに呼び方を強制するのは我が儘だと思ったが故に折れたのだった。特に反対していなかったので『折れた』と言うのは語弊があるかもしれないが。

 呼ばれ方について一先ずの収着を見たキリトは、次に、文字通り目先に在る存在への疑問を解消しようとする。

 

「それで……この小動物の名前、フォウって言うのか」

「あ、はい。フォウさんです、カルデアで自由気儘に動き回る動物です。滅多に人に懐かない上に姿を見る事すら稀という存在の未確認ぶりから、カルデアのUMA認定間違いなしです」

「そ、そう……」

 

 小動物ことフォウについて尋ねた途端、唐突にこれまでの移動中に抱いていたマシュのイメージと遥かに違う饒舌な語りが展開され、キリトはやや圧倒された。自分が言うのもあれだが、マシュはちょっとズレてる部分があるな、と。そうキリトは感じていた。

 そんな思考を知ってか知らずか、真白い小動物フォウはキリトの元より駆け出し、マシュの足元を通り過ぎ、部屋から出て行った。

 

「あ……行ってしまいました。あんな風に何時も気儘に動くのがフォウさんなんです」

「なるほど、ね……」

 

 見た目から判別出来る上では猫では無いのだろうが、しかしあの気儘さは猫に通ずるものがあると笑みながら、キリトは上体を起こした。

 倦怠感はまだあるが、先ほどより眩暈などは薄れている。

 ぐっと手を握れば、やや弱ってはいるものの寝起きと片付けられる程度ではあった。試しに長らく使っている愛用の短剣を取り出し、柄を握れば、問題無い程度に握れた。

 

「あの……?」

「ん……ああ、体力は問題無いかなと、確認の意味を込めて武器を出したんだ。他意は無いよ」

 

 キリトがデスゲームの舞台で手に入れた武器は非常に特殊な代物。使い手の強い想起によって自在に呼び出し、しまう事が出来、使いようによっては敵の背後からいきなり武器を出すという邪道すら行えてしまう埒外のもの。

 共に戦う仲間として最低限の戦闘能力は知っておく必要があるだろうと、キリトは《ⅩⅢ》の特性について、己の身の上を語る最中に話していた。

 覚えているかは微妙なところではあるが義務は果たしている。覚えていなければ、それはそちらの責任だと。

 マシュの反応を見る限り、少なくとも彼女はしっかり覚えているようだった。

 

「ところで、俺はどれくらい寝ていたんだ?」

「えっと……現在時刻が午後十一時なので、一時間程度です……」

 

 一時間か、とキリトは返答を聞いて、意味を咀嚼する。

 一時間を無駄にしたと観るべきかは分からない。立香達も状況を把握する必要があっただろうし、オルガマリーと立香、マシュ、キリトは人間なので疲労がある。いざという時に動けないとなれば話にならない。

 加えて、たった一時間と言えど休めた事には違いなく、体力だけでなく魔力も消耗している面々は、そちらの回復も出来たと言える。つまりサーヴァント達の戦力維持が可能という事。

 問題は特異点Fと言うらしい冬木の状況がどうなっているか。

 切羽詰まっているのであれば、キリトは己に伝授される予定の魔術回路の運用については突貫で行わなければならず、不安が残る事になる。

 多少の余裕があるのであれば、今夜くらいはしっかりと休息を取り、然る後に鍛練を受けたいと思っていた。取り返しがつかない事になっては本末転倒なので『使える』程度で今は済ませようと考えていたので、どちらにせよ不安が残る事には変わりないのであるが。

 

 ――――そう思案するキリトを余所に、マシュもまた、別の意味で『一時間の休息』について思案していた。

 

 いや、どちらかと言えばそれは、キリトの状態についての意味合いが大きい。

 何故ならキリトは、一流魔術師のオルガマリーによって強制的に催眠状態にされ、眠りに就かされたのだ。高位の魔術師であればレジストされたり効果減衰もあり得るが、魔力枯渇状態のキリトにそれが起きるとは思えず、魔術をマトモに行使出来ないのでは、効果は十全に発揮されるはずだった。

 十全に発揮されていれば、キリトは翌日の朝までは目を覚まさない。

 しかし現にキリトはたった一時間で目を覚ましていた。しかも己が部屋に入るよりも前に、フォウという小動物と戯れる程度には、意識も覚醒している。

 フォウさんに起こされたのだろうか、とマシュは考える。一番可能性として考えられたのはそれだった。

 

 しかし、そう思案したところで、マシュはキリトの状態を見て息を呑んだ。

 

 マシュはデミ・サーヴァントとしての能力を発揮している状態故に、人間とはまた違った感覚というものがある。『違う』と言っても感覚の鋭敏さという部類であるが。

 そのマシュが知覚したものは、上体を起こし節々を伸ばしている少年の体内を巡る、その充溢した魔力の波動。

 武家屋敷への移動中、神代の魔術師メディアの手により、彼の魔術回路は契約したサーヴァント二騎との契約維持に必要な魔力量を提供出来る分だけ開かれ、残りは閉じられていた。開いていた割合は全体の一割弱だ。

 しかし少年が眠りに就く段階になって、メディアは彼の回路を完全に閉じた。最早現界している状態ではサーヴァントが体内に貯蓄している魔力を消費していくばかり。それでも一夜をただ越すだけなら保つ。そう確信した上での行動は周囲を驚愕させたが、しかし多少の納得もあった。

 通常、魔術回路はオンとオフを切り替える事で、魔力の無駄遣いをなくしている。コレの調整を極める事が魔術師として巧いとされる。

 魔術回路に魔力を流す事で魔術を発動させるが、それは『魔術基盤』と呼ばれるものを喚び出す、ないし構築する過程を挟む事で、魔術として発動しているだけ。

 そこに『目的意識』が無い限り、キリトのようにただ魔力を垂れ流す無駄遣いの極致をし続けるのみ。回路を開くという事は、水道の蛇口を開く事と同義。これを閉じることは、すなわち魔力の貯蓄に他ならない。

 キリトの枯渇した魔力を回復する一点に集中する事が、現状出来得る最大の回復法とメディアは捉えていたのだ。

 これが普通の魔術師であればとてもでは無いが効率が良いとは言えない。閉じている間に消費したサーヴァントの貯留魔力分を、閉じた時間の分だけ注ぎ込まなければならないのだ、都合二日は動けない事になる。

 キリトの最大魔力量と自然回復量が桁違いであったために、これはまだ合理的と判断されていた。

 

 ――――しかし、でも、これは……

 

 目の前の少年から受ける、充溢した魔力の波動。

 それはサーヴァントを召喚する際にも感じていたものより遥かに強い。間違いなく、所長を助ける為に共闘していた時よりも、遥かに。

 魔力量を増やす試みは古来より行われた実験で、僅かなりとも成功例は無くはない。しかしそれらは全て些少の増量を見込めただけ。如何に効率的に消費した魔力に見合った魔術を使い、それに見合った結果を出せるかが、魔術師の在り方の一つになっている。

 元より魔術師とは根源を目指す存在でしかない。その為に効率化、合理化という魔術基盤、論理を構築し、積み重ねていく。

 魔術師の格という意味では、魔力量や適性は確かに重要だ。

 しかし魔術師の本質という意味では、魔力量など根源への研究の前には遥かに劣る要素でしかない。精々一度に出来る研究の量や質を決定付ける要素の一つ。

 異世界の剣士故に、魔術師では無い少年が『魔術師』という種族や存在意義について知る筈もないし、回路の存在を知らない故に、魔力量の増加法について知る筈もない。

 であれば、特別な手段を用いていないのに魔力量が増えたという事は、それすなわち、この波動を放つ要因は少年そのものにあるという事になる。

 

 ――――単純に考えて、この圧は恐らく、以前の倍以上……

 

 ひょっとすると、自分達と会う時点で魔力を垂れ流していたから、元々これが最大量なのかもしれない。

 だとしても、たった一時間で完全回復ないしそれに近しい状態にまで戻る回復能力は、脅威の一言に尽きる。

 

 ――――彼が語っていた『げーむ』とやらが関係しているのでしょうか……

 

 詳しくは聞いていないが、サーヴァントが保有するスキルに似たような技能は彼が生きていた電子世界に多く存在していたという。

 その中には受けたダメージを時間経過で自然回復するスキルもあったらしい。

 リアルの肉体と『げーむ』のアバターが混ざっているらしいし、装備や技能についても混ざっているようだから、魔力の回復速度はそのスキルが関係しているのかも、とマシュは予想した。

 もし回復スキルとやらが体力だけでなく、魔力すらも回復する対象になっているのだとすれば、キリトがたった一時間で回復出来た事にも一応の辻褄が合う。

 『げーむ』での体力が肉体の疲労や体力に置き換えられているなら、彼は短時間で疲労から脱するという事になるし、魔力は元々生命力の余剰分を置換したものだから完全回復したらそちらを回復するという流れになってもおかしくない。そして完全に回路を閉じているため回復する一方で、一時間かけて魔力も完全回復したと考えれば。

 逆に考えれば、むしろ一時間も完全回復に要したのだとすれば、どれだけ馬鹿げた魔力量なのか。

 神代の魔術師メディアと特異点Fの《アーチャー》二騎の魔力負担を支え、且つ己を戦闘可能とする魔力も出していた事を考えれば……予測するのも恐ろしいと、マシュは感じた。

 そして、この少年が味方で良かったと思う。

 デミ・サーヴァントとは言え、人間は超越した能力を持つので簡単に負けるつもりは無いが、マスターである先輩や所長を狙われては手も足も出なかったに違いない。敵対する理由は無いが、勘違いで襲い掛かる事など無くて本当に良かった。

 というか、魔力回路を完全に閉じているのに圧を感じるって、一体どんだけなのか。

 

「――――マシュ?」

「ぇ……あ、はい、何でしょうか」

「この一時間の間に何かあったか? 話し合いとか、行動方針とかは?」

 

 キリトが求めたのは情報。己が眠っていた一時間の間に何があり、どんな行動を起こす事が決まったのか知る必要があった。

 マシュは思考に没していた意識を無理矢理浮上させ、布団の近くに座ってから、他のメンバーと話していた事を語った。この特異点で起こった《聖杯戦争》やその仕立て人、異常、《聖杯》について、そして今後の行動について。

 一先ず今夜は休息に充て、翌日にキリトへ魔術回路の使用法を伝授する事になっている。その後は伝授の進捗で決まるとなっていた。

 

「……なるほど。聖剣の騎士王、か」

 

 それらを全て聞き終えたキリトは、ポツリと、現在敵対し得る存在について思いを馳せる。

 

「アーサー王伝説、だったか。内容については全く知らないけど……トップサーヴァントと言うからには、相当強いんだろうな……」

 

 ゲームの世界とは言え、それでも未踏の地を一人で戦い続けて来たキリトは独学ではあるが経験は豊富。

 そんなキリトからして、サーヴァントは理不尽の権化と言えた。英霊としての格が低いという小次郎ですらそう思えるというのに、最優とされるクラス《セイバー》のサーヴァントが敵としている。しかも他のサーヴァント達を一掃し、魔力枯渇による戦力低下も《聖杯》によって弱点が無いと来ている。

 継戦能力があり、単独の戦闘能力も高い、神代最後を飾った国を統べた騎士の王。聖剣の担い手。

 

 ――――勝てるかは正直賭けだな……

 

 胸中で独語する。

 キリトは小次郎の剣捌きとメディアの神代の魔術、《アーチャー》の万能さ、《キャスター》のルーン魔術の巧さを信頼している。この中では恐らくメディアが最大火力だろうと贔屓目抜きで判断してもいた。宝具は知らないので全員考えていない。

 だがしかし、《セイバー》が有する《対魔力》というクラススキルのせいで、メディアと《キャスター》の攻撃は殆ど意味を為さないだろうとメディア自身が言ったらしい。事実暴れ出す前や後の《キャスター》の攻撃は全て《対魔力》の前に弾かれたという。

 では有効打を出せるのは小次郎か《アーチャー》となる訳だが、安心は出来ない。

 どちらも騎士王と刃を交えた事はある。

 しかし、今の《セイバー》に通用するかと問われると、それは微妙なところ。

 小次郎が刃を交えた騎士王は純粋な剣技による勝負が基本であったのに対し、《キャスター》や《アーチャー》が語る今の《セイバー》は無尽蔵の魔力による暴威で攻撃する方法であるため、小次郎では耐えられない。間違いなく一撃で刀を折られるとキリトは判断していた。

 《アーチャー》に関しては未知数なところがあるが、それでも己が見たステータスと話に聞いた《セイバー》の戦いぶりから、伍するのは出来ないだろうと判断する。保たせはする、しかし決定打を入れられないといったところか。

 《セイバー》を実際に見た訳では無いので完全な予測ではあるが、しかしキリトは己の予測がてんで外れのものでは無いと直感を抱いていた。

 

「――――いや、考えても詮無い事か」

 

 その直感と思考を、キリトは苦笑と共に首を振って払いのける。マシュが不思議そうに首を傾げるが、それにも苦笑を浮かべ、お茶を濁した。

 確かにマシュよりは戦闘経験はあるかもしれない。

 しかしサーヴァントや魔術といったものに対する造詣は己以外の方が上だ。サーヴァントの事はサーヴァントが最も知っているだろうし、キリトは他の面々が何か策を考えているかもしれないと考え、悲観的予測を排する。

 万が一何も思い浮かんでいない時に口にすればいいと、やや楽観的に構える事にした。

 

「それより、明日の朝までは全員休むんだよな」

「はい」

「じゃあ俺はまた寝るよ。起きはしたけど、まだ疲れはあるから」

 

 キリトの言葉に、分かりましたと応じてマシュは立ち上がり、部屋を退室する。退室する前に一度振り返り、お休みなさいと声を掛けて行った。

 お休みとキリトも応じ、一度嘆息する。

 一日を振り返り、常軌を逸した事が立て続けに起こったものだと遠い眼をした。

 暫く物思いに耽った後、思い出したように倦怠感が襲って来たため倒れるようにして再び横になる。視界が和室の襖から天井へ切り替わる。

 

 

 

 天井から迫る刃が、視界に映った。

 

 

 






 にわか知識故、色々と突っ込みどころがあってもスルー安定でお願いします(震え)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。