補足 モビルスーツを今回よりMSの略称のみにさせていただきます。もしガンダムの知識ゼロの兄貴もMS=モビルスーツの意味で読んでいってくださいオナシャス!
結局、あれから特に何もないまま十日が過ぎようとしていた。黒江さんとの話の後に何通か海軍と陸軍から手紙が来ていた。ほとんど最初の三行だけ読んですぐ捨てている。大体書いてあるのは「MSの力を世界のために」とか「守りたい~」などだった。もし俺が普通のそれこそ15~6歳ごろの純真な少女だったなら多少なりとも食いついただろうがもうそんな夢見るなんとやらでもないしどうしても守りたいものなんてない。
「大体、誰か助けたってそいつらから何か謝礼が出るわけでもないしな~命は一つしかないってのに見ず知らずにために死にかけるのなんていくら積まれたって割に合わないっての」
郵便受けに入っていたものを一読して屑籠に投げ入れた。仕事が終わって死ぬほど疲れた俺は自室でぐったりと布団に寝転がる。軍隊に入る人間は山ほどいるが、大切な人、ものを守りたいという動機がなぜか理解できなかった。考え方自体は崇高で立派だと思うが個人がどれだけ頑張ってもできることはそんなに多くないし何より守ることができても死んでしまっては無意味じゃないか。
だとしても自分が役に立てるなら、と考える人が多いからこういった謳い文句が使われるんだろう。しかし、個人的に本当にそう思う人がどれくらいいるんだろうか。それよりも飛行機が好きだから空軍に入るといった理由が動機としてはまだ多いと思うから、空に興味のある人に響く言葉のほうが余程現実的だと思う。自分も似たようなものだったから。
「第一、俺があんたらに協力してやる理由なんてないんだけどね……っと風呂屋が閉まっちまう」
コチコチと振り子を鳴らす時計に目をやるともう七時半過ぎを指していた。夕飯を食べ終わってからボーっとしていたら一時間も経っていたらしい。銭湯はそこまで遠くないから別にそこまで急ぐことではないがサッと起き上がり作業着から普段着に着替え、タオルと石鹸などを持って家を出た。
外に出ると真っ暗だった。ポツポツとついているどこか弱々しい街灯を頼りに道を歩く。俺の自宅は横須賀のはずれにある空き家が散在している寂れたところで、夜更けでも明るい中心街とは対照的に夜も早い時間でも家々の明かり以外は街灯頼みになる。気のせいだろうか妙に心細く感じた。多分ジオンのその後の事やあの日、殴られたことなど色々と考えることがあって疲れているているんだ。だからなんとなくそう思うんだと自分を納得させた。
ちょうどルシオスが風呂に入るため街に向かった後、しばらくして入れ違いに一人の女性が宵闇に消えた。数分前までいた繁華街の喧騒は消え、にぎやかさとは無縁の寂れた空き家の目立つ町はずれをおっかなびっくりな様子で進む。。長い艶のあるまっすぐな黒髪と少したれ目で眼鏡をかけた幼さを残した優し気な顔立ちはどこかおっとりとした印象だった。
「うぅ……このあたりのはずなんだけどなぁ。何で地図を落としちゃうんだろう……せめて土地勘のあるところならよかったのに」
肩に小さなかばんを掛けてがっくりとしながらしきりに家々の表札を確認した。ただ迷い込んだだけではなく何か目的があってここまで来たようだが目的地までの道がわからなければ意味がない。真っ暗で無機質な夜道と独りぼっちの孤独感がさらに不安を掻き立てる。本当にこっちであってたかなぁ、と自分の仕事を全うしようとする反面、散々叱られるのは覚悟で一旦帰って出直してこようかな……と弱気になって諦めようか決めかねている。しばらくそうしていると不意に後ろから足音がした。しかしがっくりと視線を落とし、自己嫌悪に陥って悩んでいる彼女は気づかない。
「はぁ……多分私の記憶が正しければ通りの中ぐらいにある一番小さな家なんだけどあんまり違いが解らないよぉ」
何 やら沈んだオーラを出しつつ弱音を吐く女性を怪訝に思いつつ何者かが後ろをこっそり抜けて足早に去っていく。その数秒後気配を感じて音のした方に向くと誰かが堂々とした足取りで歩いていた。特段変わったことではないが、未知の場所で不安でいっぱいだった彼女にとっては見たことのない人でも、当てが外れていても声をかけずにはいられなかった。
「あっ!ちょっと待って!待ってください!」
風呂に入ってさっぱりした後に自宅に帰ろうとしているとカーキ色のジャケットを着た女の人に絡まれた。もちろん知人でもない。急なことで何をどうしたものか。不安そうな瞳で見つめられても、困る。
「えっと、どうかしたんですか?」
「その、急用でここまで来たんですが地図を失くしてしまって……」
平たく言うと迷子だった。まぁこんな真っ暗で街灯もほとんどないようなところに一人で投げ出されると誰だって不安になるし泣きそうにもなる。しかしまだ夜も更けてないにしても若い女の子一人がこんなところにどんな用があるというのか、仮に急用を頼まれたとしても夜に寂れた町まで行かせるのはおかしいと思う。
「それで、どこに行こうってんですか?」
「はい!この辺に一条さんという方はいませんでしょうか?あっ!申し遅れました!私は、扶桑陸軍所属の諏訪天姫と申します」
まささかとは思ったがまた魔女か。軍人として武術や身を守る術を身に着けているなら一人で行かせても問題ない。いざとなれば魔法力で俺くらいなら一瞬で倒せてしまうのだから。でも、目の前にいる魔女は軍人でもどこか自信がなさそで本当に大丈夫か、と思ってしまうが、多分この人が見ていると少し心配になるだけであって他の魔女たちは大丈夫なはずだ。
「へぇ……一条さんかぁ。ちなみどんな人ですか?」
「銀色の長い髪の男性です。珍しいですよね。扶桑の人にしては」
もう見限られていたと思ったがそうではなく様子を見ていだけのようだ。大方また説得に来たのだろう……と考えたが不自然だ。夜になると誰も近寄らないような暗くて気味の悪ささえ感じるであろう場所にわざわざ出向くのがベストとは思えなかった。俺ならもっと早い時間に夕食にでも強引に誘ってそこで話すとういう方法をとると思う。
そのほうがまだ成功の確率は高いはずだ。それに人は食事中の方がうまく交渉が進んだり、何か失敗ごとの報告をしても穏便に済むという前例があるから。
「そうですね。一条さん……知らない人ですね。銀髪なら目立つと思いますがそんな人は見かけてませんよ?僕もここに越したのは最近ですから」
「……わかりました。どうやら情報が間違っていたみたいで……あれ?」
諏訪さんは目に見えてがっかりしていたが、言い終えるや否やすぐに足を動かす。薄暗かったのも加味しても、髪色をよく見ていなかったのか食い下がられることもなかった。とにかく、諏訪さんがぼんやりしてる人で助かった。もしかしたら俗にいうドジっ子なのかもしれない。夜中に面倒は御免なのでさっさと家に籠城することにした。
「ちょ、ちょっと待ってください!大事な話があるんです!」
しかし馬鹿正直に家に駆けこんで最悪家の前で粘られると困るのでどうやってやり過ごして帰ろうか作戦を練っていると、後ろから大きな声が聞こえた。ビックリして振り返れば諏訪さんが小走りで追ってきている。
「き、緊急なんです!一条さんにカールスラントから!ジオンに関わっていた全ての人はネウロイ打倒に協力すべしと皇帝陛下から……」
全く想定外の名前に足が一瞬止まった。カーススラント皇帝から直接手紙を受け取ることなど一生に一度あるかないか、いやまずない。余程重要なことを書き記して迅速に届けよ、と一言添えたのか。だからここまで夜だというのに来たのか。
「……皇帝はなんて?」
これは策だ。そんなもの持っている保証なんてない。しかし好奇心と少しの嬉しさはそんなことに見て見ぬふりをして俺にそれを確かめろ、と危険な方へ背中を押す。
「ここではさすがに言えません。ですので続きは一条さんのお住まいでお話させてもらいます」
さっきの涙目で彷徨っていた人とは思えないほどの真剣な表情で諏訪さんは言った。確かにさっきのやり取りで窓辺に人影がちらほら写っており聞き耳を立てているのがよくわかる。あまり気は進まないがそれ以外に道はない。おとなしく自宅へと案内するのだった。
更新など遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。
何とかわずかな時間を見つけて文章と構成を練って書いてはいるのですが中々一日に書ける量が少なくまとめて投稿できませんでした……(小声)
それもこれもよさそうなキャラが多くて誰をどう絡ませようか悩ませるストパンが悪いんだ!俺は悪くねぇ!(ジアビス)
それはよろしいのですが、こんな遅漏でまとまりのない小説を読んでくれる方々いつもありがとうございます。
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