小説ドラゴンクエストⅢ -Remake-   作:蘭陵

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11.世界を巡れ

「成程、そういうことでしたか…」

 洞窟から脱出後、エマの案内でエルフの隠れ里に向かったアレル達は、事の顛末を女王に報告した。すでにバラモスの手に渡った宝物は奪還できなかったものの、娘は取り戻せた。

「これを使えば、ノアニールの呪いは解けるでしょう」

 女王が差し出したものは、袋に入った何らかの粉末である。『目覚めの粉』というもので、風に乗せて撒けばいいと言う。

 

「それと、これを」

 お礼と言うことであろう。出されたものは一着の服と、鏡。服は『身かわしの服』といい、敵の攻撃を避けやすくなるおまじないのかかった、エルフの特製品である。

「こちらの鏡は、真実を映し出す『ラーの鏡』です」

 驚いたのはエマである。これもまた、エルフの至宝ではないか。それを人間に渡すなど、これまでの母の態度からは考えられないことだった。

 

「……仕方ありません。『変化の杖』を奪われ、それが魔王の手にあるとなると、この鏡は絶対に必要なものとなります」

 フェルデによって奪われた至宝は『夢見るルビー』『祈りの指輪』『魔封じの杖』などであるが、特に危険なのがありとあらゆるものに化けられる『変化の杖』だ。悪用すれば、様々な使い方ができるだろう。

 その変化の術を破るのは、この『ラーの鏡』しかない。

 

「………あなたたちには感謝しなくてはなりません。ですが、やはり人とエルフは関わるべきではありませんでした。我らは所を変え、どこかの森の奥で生きていくでしょう」

 女王の言葉を否定することはできなかった。フェルデの暗躍も、きっかけとなったのはアンがノアニールの若者と出会ってしまったことである。それは、言い逃れできない事実だ。

 どこかやりきれない気持ちを抱えながら、里を出る。もうそこには、他と変わらぬ森の姿があるだけだった。結界を、閉じたのだろう。

 

「…ともあれ、これでノアニールの一件は解決だな。さっさと村の皆を起こして、オヤジに報告に行こうぜ」

 あえて明るく言うセイスに、一人を除いて力なく頷く。はっきり言って、今回は惨敗である。生きているのは、ただ隣の少年が想像を突き抜けて強かったからに過ぎない。

「ジュダ、……その、……ありがとう。君がいなかったら、みんなやられていた」

 クリスもしょげ返っている。ジュダに張り合おうという気は、霧散してしまったらしい。モハレとセイスはあまり気にしてないようだが、ショックだったのはリザだろう。

 上級閃熱呪文(ベギラゴン)なんて、初めて見たはずだ。ジュダに話しかける機会を伺うように、ちらちら盗み見していた。

 そのリザに、珍しくジュダの方から話しかけてきたのである。

 

「……その笛、どうした物だ?」

 いつもの夜のように、リザが笛を吹き終わった後だった。リザが自分の境遇をかいつまんで話すと「そうか」と言っただけで後は何も言わなかったが、心なしリザへの態度が柔らかくなった気がする。

「……ちょっと、強力すぎるライバルじゃないか、あれ」

 茶化すように言ってきたセイスに対し、アレルは何も言わず横を向いた。

 

 パーティの間に流れる微妙な空気には目をつぶり、とにかく予定をこなすことにしよう。そう決めたアレルはノアニールの村で『目覚めの粉』を使い、シャンパーニの塔へ急ぐ。

「ほらよ、約束通り、これはくれてやる」

 カンダタは約束を守った。あっさりと、『金の冠』を返してくれたのである。だが、それには興味なさそうにしていたジュダが、いきなり変なことを聞き出した。

「この世界に散らばる、(レッド)(ブルー)(グリーン)(イエロー)(パープル)(シルバー)宝玉(オーブ)について、聞いたことはないか」

 質問の意図が全く分からない。まあ、確かに盗賊団なら宝玉について知っていそうではあるが…。

「噂でいいなら、東の島国が、紫色の宝石を宝としているとか…」

 それに対し、ジュダは相変わらず「そうか」と答えただけである。感謝しているのか失望しているのか、よくわからない。

 何も言わないジュダのせいで微妙になった空気を変えるように、「とにかくロマリアに戻ろう」とモハレが切り出した。

 

「……………」

 アレル達が去ると、カンダタはすぐ奥に引っ込んだ。どしんとベッドに身を投げ出し、大きく息をつく。

「……大丈夫かい、オヤジ?」

 隠していたつもりだったんだがな、とカンダタは力なく笑う。セイスだけは、義父の変調に気付いていた。

 まあ今まで散々無理をしてきたツケと思えば、当然のことだ。この体、外見だけは必死で保ってきたが、内側はもう死病に蝕まれてどうしようもないところまで来ている。

「……あと数年はくたばりゃしねえよ。それよりセイス、お前に新しい仕事だ」

 またいつもの潜入調査だろうと思ったセイスは、何気なく「今度はどこの商家だい?」と聞き返した。

「…今度は長いぞ。あいつらの必要とする情報を集めてやれ。それと、お前自身の修行だ。あのジュダって奴と戦えるくらい強くなるまでな」

「うはぁ、そりゃ長くなりそうだ。………オヤジの死に目に、立ち会えなくなるな」

 カンダタは「馬鹿言ってるんじゃねえ」と、セイスの尻を蹴飛ばし追い出した。

 

 

「おお、これぞまさしく我が王家に伝わる『金の冠』!」

 無事取り戻した家宝を手に、子供のようにはしゃぐキカルス王であったが、不意にアレルを「近こう寄れ」と招くと、その頭に『金の冠』を被せた。

「ほう、よく似合うぞ。どうであるか、いっそ、本当に王位に就いてみるというのは?」

 滅相もないと慌てて脱ぎ突き返す。王は「はっはっは」と笑って受けた。さすがに、冗談であったらしい。

 

「……それはさておき、表立って表彰はできぬ。そこで、些少ではあるが、これをわしからの礼として受け取ってくれ」

 そう言われて出されたのは、金貨が詰まった袋であった。アレルはそれも、一顧だにしなかった。

「……いえ、王様。この金は魔物によって困窮している人のために使ってください。それが望みです」

 カンダタと言い合った時から、ずっと考えていたことだった。偽善と言わば言え。それでも、やらないよりはましだ。

「無欲よの。よろしい、そなたの思い、しかと受け取った。ロマリア王として、その思いに恥じぬ行いをしてみせようぞ」

 困窮する人のため、何とか予算を捻出すると誓ってくれたのである。カンダタの行いは、正邪は別として、無駄ではなかったということだ。

 

 城から下がり、「話がある」と言っていたジュダが待つ宿へ向かった。内容は今後の指針であるという。アレル達も話さねばならぬことなので、丁度良いと言えば丁度良い。

 当初の予定としては、この後東のアッサラームの町に向かい、ネクロゴンドへ乗り込む道を探そうと考えていた。

 だが、先の戦いを経験した今では、それがどんなに無謀なことか良くわかる。正直言って、何の考えもないという状況なのだ。

 

「…そもそも貴様らは、魔王の根城に何の備えもないと思っていたのか?」

 呆れたようにジュダが言う。バラモス城―旧ネクロゴンド城―の周りには結界が張られており、仮にネクロゴンドを逃げ回ってたどり着いても、城の前で立ち往生となる。

 う、と呻いたのはクリスだった。そんな可能性など、全く考えてなかったからだ。

「時空間を隔離した結界だ。…人の力で破るのは不可能。精霊ルビスの力が要る。ルビスのしもべたる不死鳥ラーミアなら、突破できるはずだ」

 そしてそのラーミアは、世界のどこかに封印されているらしい。その封印を解くための鍵が、ジュダがカンダタに聞いた、6つのオーブなのだという。

 

「………はあ。………まあ。………うん。言ってることは判らなくもねえけど、おめえさん、何でそんなに詳しいんだべ?」

 まず、誰もが真っ先に思い浮かぶ疑問だろう。モハレは果敢に、それを口にした。それに対し、ジュダは怒るかと思いきや、「どうでもいいことだろう」とはぐらかした。

「……とにかく、お前らの持つ選択肢は俺の話を信じるか、信じないかだ。面倒なことに、ラーミアの封印を解けるのはルビスの加護を受けた者だけだからな」

 つまり『旅の扉』の時と同じく、アレルでなくてはできない、ということだろう。自分がやらない理由は、まあ理解できた。

 

「……僕は信じるよ、ジュダ。それで、その6つのオーブの在処だけど…」

 アレルはあっさり信じた。はっきり言って、皆を騙したところでジュダには何のメリットもない。仮にバラモスの手先であったとしても、それならアレル達を瞬殺してしまえばいいだけで騙す必要などない。

「………いくつかは、知ってるが」

 やっぱり、とアレルの予想が当たった。カンダタに聞いたとしても、ジュダが何も知らないということはないだろうと目星をつけていたのである。

(レッド)はポルトガの商人が手に入れ、(ブルー)はランシールとかいう南の地で祀られ、(イエロー)はイシス王家の宝だと聞いたことがある。……ただし、昔の話だ」

 それでも、カンダタ一味から聞いた(パープル)の話と合わせ、6つのうち4つの手掛かりを得たことになる。

 

(パープル)があるのは東の島国、って言ってただな。となると、ジパングのことじゃねえだろうか。海を渡らなきゃならねえ」

「ランシールに行くにも、外洋航海できる船が要るな」

 そうなるとポルトガに行くしかないわけだが、問題が一つある。金が、全く足りそうにない。実はクリスが地底湖に落ちた時、かなりの額を落としてしまったのである。

 金は基本クリスが管理していたので、それで所持金の半分が消えた。さらにフェルデ戦でお釈迦になった装備を新調せねばならないし、その上大型船を調達するとなると…。

 アリアハン王の親書はあるが、だからと言っていきなり船をねだるなどできるはずもない。

「………」

 一瞬だけ、ロマリア王の謝礼を受け取っておけば良かったかと後悔したアレルであったが、すぐにそれを打ち消した。

 

「………。そうだ、胡椒って手があるべ」

 考え込んでいたモハレが、いきなり手を打って叫んだ。バハラタ特産の胡椒は、ポルトガやロマリアで肉料理に欠かせない調味料だった。

 それが、バラモスのせいで流通が止まり、値が暴騰している。噂では細々と運ばれてきたものが、同量の金と取引されているという。

「………確かに儲かりそうだけど、どうやって運ぶんだ?」

 以前の交易路はネクロゴンド大陸を大きく回るか、アッサラームの街辺りで一度陸揚げしネクロゴンド大陸の北側に出て再び海を越すか、であった。陸路は山脈にさえぎられて、道がない。

 

「ふふん、おらはバハラタの出身だべ。あのあたりの地理は十二分に承知の上だ。アッサラームから東の山脈を越える、抜け道があるんだよ」

 狭く、山を越えてもバハラタまでの道は長い。何より危険で、隊商が通る道としては不適当である。しかし今なら、人手でも運べるだけの胡椒を運べば、相当な額になるはずだ。

「危険なんて物じゃねえだろ。やらなきゃ、次へ進めるのはいつになるかわからねえ」

 モハレの言う通りであろう。フェルデ相手に全滅しかかって、少し弱気になっていたようだ。バハラタまでも行けないようでは、この先が覚束ない。

 

「よし、行こう」

 アレルが決断した。クリスも気が進まない様子ながら賛成した。金儲けのために動く、というのに少し抵抗を感じたのであろう。

「……ところでジュダ、バハラタまで、一緒に行ってくれないだろうか。その間、僕たちに修行をつけてほしいんだ」

 ジュダの実力を知ってから、ずっと考えていたことである。一言で撥ねつけられるかと思ったが…。

「………まあいいだろう。……貴様らが、予想以上に弱かったからな」

 癇に障る言い方ながら、了承してくれた。

 




この話を考える上での最大の問題が、「ゲーム上の不条理をどう埋めるか」。

例えば今回なら
バラモス城は湖の中にある→泳ぐなり筏を作ればいいだけだろ?
変化の杖をサマンオサの王様が持っている→何処でそんな貴重品を手に入れた?
など。

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