風都探偵と黒の読姫   作:スケノージ
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衝動的に作った1話。
読んで下さった方に、多大なる感謝を。
と、いうわけで荒削りですが2話、どうぞ。


2

これまでの【風都探偵と黒の読姫】は――――

 

 

「ソウキチ……?」

「ん? おやっさんじゃねーぞ、俺は」

 

 

「悪いな、尋ねてきてくれたのはありがたいんだが……」

(ノウ)。それは仕方がないのです……。人はいつかは……死ぬのですから。しかし、私は『返却』をまずは果たしてもらう必要があるのです」

 

 

「いくぜ、フィリッ………………いっけね。ったく癖ってのは……」

 

 

(ノウ)。死ぬ気などさらさらないのです。それにいざという時は……半熟、あなたが守るのでしょう?」

 

 

 

 

Sequel 02 : Gの代償/因縁と炎

 

 

 

 

「できたーーーーッ!!」

 

やけくそ気味に叫ぶ翔太郎のデスクの上には、一本のギジメモリ――EXTRAKEYが置かれていた。凝り性のケがある彼らしく、丁寧に部品は組み上げられていて、スイッチを押し込めば、しっかりと機械音声が鳴った。

しかし、翔太郎は思案げに

 

「っても…………コレ、どんな使い道があるんだかな。

ガジェットに挿しても……ま、意味なさそうだ」

 

ギジメモリは基本的に、メモリガジェットと呼ばれる機械へ挿入することで、その真価を発揮する――いわば(KEY)のような役割を持つ。

だが、鍵だけあってもソレを差し込む相手が無くては、無用の長物だ。紐で繋いでネックレスにするくらいしか道がない。

そもそもガイアメモリライクな見た目の物体をファッションで身に付けられるほど、翔太郎はふざけた人間ではなかった。

 

「…………」

 

もう一度、出来上がったメモリを見て――――翔太郎は、えも言われぬ寂しさに包まれた。

元々、これは彼の相棒()()()――フィリップの役割。それを翔太郎がやったということは、即ちフィリップがいなくてもやれる、ということを意味する。少なくとも翔太郎はそう捉えていた。

何気なしに懐のロストドライバーを取り出して、机に置いた。

これはフィリップが遺した、おくりもの。

荘吉(スカル)が去り、克己(エターナル)が敗れ、そして二人(ダブル)片っぽ(ジョーカー)に。

鑑賞に浸りつつ、翔太郎はドライバーを仕舞い、ギジメモリはハンガーに掛けられていたコートのポケットの空いた部分に入れた。

と、そこで地下室から足音。今現在、そこを根城として割り当てられた――実際は勝手に領有権を主張した――少女、ダリアンが出てきたのだった。

 

「……うるさいのです、半熟。まだ寝ていたというのに……」

「まーだ寝てたのかよ……」

 

呆れた。もうじき昼食の時刻となるにも関わらず寝ていた、となれば。

しかし、然るべき理由がないわけではなかった。

 

「キリが悪かったのです」

 

読書狂(ビブリオマニア)は項を捲ることを止められない。地下室に篭もり、中々出てこないのもどこか翔太郎にフィリップを思い出させる――ただし性格はだいぶ異なるが。

 

「はいはい……で、そろそろ昼メシだ。

……ところで、コレを見ろ」

「……?」

「説明しよう。

ちょっと前にな、商店街のパン屋のおっちゃんの手伝いに行ったんだ」

「……お前、探偵ですよね? それはどこをどう考えても、業務範囲の外にしか見えないのです」

 

むかっとした翔太郎は、腹いせとばかりに

 

「……てめー…………なら、この券はいらないな?

一日五個限定!【プレミアム揚げパ」

 

がしっ。

翔太郎ですら追えないようなスピードで手が伸び、見せびらかしていたチケットがむしり取られる。

ぽかん、とするが即座に翔太郎は顔色を変えた。

怒りの赤だ。

 

「返せぇ!」

(ノウ)、お断りです。お前のような半熟に食わせたら、それこそ揚げパンへの冒涜。私が頂くのです」

 

そのままダリアンは黒衣を翻し、ドアへ歩いていく。そして、ドアに手を掛け、捻って押し開け――

 

「ふぎゃんっ!?」

 

そのタイミングぴったりに入ってきた男の体が直撃。小柄なダリアンは後方へ吹っ飛ばされ、仰向けに倒れた。

翔太郎もさすがにマズいと感じて、向かった。そこに立つ男に、翔太郎は見覚えがある。

 

「探偵ぃ〜っ!!」

「……」

 

両手を広げてため息。

悲愴感たっぷりの声をスルーして、意識が朦朧としているダリアンを抱き上げ、ソファーに寝かせた。

 

「探偵っ!」

「……はぁ」

「いいから話聞いてっての!」

 

風都署の警察官……真倉俊はそう言って、事務所の奥へ進んでいった。ちなみにだが、彼と翔太郎はしばしば喧嘩する間柄である。

真倉は警察官なのだが――とにかく俗物であった。品行方正とは世辞にも言い難く、その振る舞いのせいで災難を被ることも多い。自業自得ではあるのだが。

なので、椅子に腰掛けて落ち着きを取り戻した彼の側頭部に、ハードカバーの小説の角が直撃するように投げ込まれたのは、撒かれた種が回収されたに過ぎない。

翔太郎は暴力の主――ダリアンに、今回ばかりは同情した。

呻き声を上げる真倉。起き上がったダリアンは、投げた本を拾い上げ、机に突っ伏す真倉の後頭部に再び痛烈な一撃を加え、怒りの表情のまま地下室へ下りていった。

 

「う……ぐ…………ったぁ……」

「因果応報だぜ、マッキー」

「……ぐぅ…………だからってあんな……。

……ってか、あの子、誰なんだ」

「最近ウチに住み着いたガキンチョだ。ミック(駄猫)みてーなもんだと思ってろ」

 

真倉は痛みが引いてきて、冷静さを取り戻す。すぐに本題に入った。

 

「ところで探偵、こんな噂を知ってるか」

「なんだ?」

「最近、この街に変な()がある、ってさ」

「――?」

「でさ、その本を持ってるヤツに街中の女の子はメロメロらしいんだよ」

「……そりゃ、持ってるヤツが単にイケメンだってだけじゃないのか?」

「いや。……少なくとも俺よりかブ男だ」

「自信満々に言うとこかそこ……」

 

だが、真倉は決して悪いヤツではない。いつもおちゃらけて、だらしのない所はあるが……通すところはしっかりと筋を通す男だ。故に翔太郎は、嘘をついている風には見えない真倉の情報に、何か良からぬものを感じた。

数日前に相手取ったドーパントは、翔太郎を見て――幻書を持っているな、と言い放ったのだ。翔太郎は幻書を持ってはいないのだが――ダリアンは、少なくとも彼の手によって返された幻書を持っている。

ならば、だ。

翔太郎たちにそう疑いをかけるほどに、幻書はこの街の影に侵食し出している――――?

 

「で、依頼なのか? それ」

「いや別に、そういうわけじゃないんだけど……探偵なら何か、知ってるんじゃないかと思ったんだ」

「そりゃ残念。なんにも知らないぜ……ただ気になるっちゃあ、気になるな」

「へぇ……? やっぱアレか、探偵も彼女募集中?」

「ハッ……(ちげ)ぇよ。

その本が、メモリみたいに危ないなら? ってだけだ」

 

 

 

 

 

 

ダリアンは地下室から外へ出て、先程の不機嫌そうな顔とは打って変わり、僅かに笑みすら浮かべていた。

秋もじきに終わろうとしている今日この頃、しかしダリアンは黒のドレスのままであった。

――笑みの答え。掌の、翔太郎からぶんどったお手製の券。

『プレミアム揚げパン』交換券である。

商店街に歩み入ったダリアンに、街の人の視線が向いた。僅かながらの不快感を示す。

翔太郎とともに何度か訪れていて、しかもこれほどまでに目立つ――時代錯誤な衣装を着込むダリアンだ。当然、街の人々の噂になっている。

翔太郎が可愛らしい幼女をたらしこんでいる、というとんでもない触れ込みで。

当の本人が知らないだけ、まだ幸せだった。

件のパン屋には、何度か足を運んでいた。元より甘いもの(SWEETS)、特に揚げパンをこよなく愛するダリアン。

初めて翔太郎と会った時に抱えていたのも、この店のものである。そんなことを思い出し、ダリアンは急に緊張した面持ちになった。

 

「あの猫に……食われたら、極めてマズいのです。十分に警戒しなくては……」

 

まだ店に到着すらしていないのに、これであった。向けられていた視線も、程なくして無くなる。ずっと見ていられるほど、昼間の人間は暇ではない。

ダリアンは心の安息を取り戻して、店の前に。ドアノブに手を掛けて、回した。

その時であった。

悲鳴。明らかなのはその声音が、何者かの悪意によって生まれたのを如実に示していることのみ。

ダリアンは予測する。それはもはや確信に近い。

――ドーパント。この街で悪を成す、ガイアメモリに取り憑かれた人間。

ダリアンによって開けられていたドアから店主の中年男性が駆けてきた。ダリアンの存在を認め、何事かと尋ねた。

ダリアンは指をさした。その先には――ドーパント()()()怪物がいた。

客引きのためか外に出ていた八百屋の親父、道路工事をしていた男衆、郵便物を運んでいたライダー、ベンチのペンキ塗りをしていた青年、下手ながらも味のある歌を披露していた男、等々等々。

彼らは逃げ惑う。

店主はダリアンの方へ手を伸ばした。店の中の方が安全だ、と踏んだからだ。

 

「……」

 

ダリアンは伸ばされたその手を払い除け、走り出した。電柱の陰に隠れ、怪物を観察する。そして、眉間に皺を寄せた。

――ダリアンの予想は半分を正答し、半分を誤答と判ぜられるものだったのだ。

ドーパントに近い()()を持つ故に、ダリアンは即断できなかったが……今は得心がいっていた。

アレは――ドーパントではない。

ダリアンの脳に刻まれたワード……()()を越えたモノ。

つまりは、幻書の。幻書の元へ魂を売り――そして喰われた憐れなモノの姿であった。

黒羊、野牛、醜悪たるヒトの三つ首。

その顔のそれぞれは爛れたかのように歪んだ表情のようなものを灯す。

筋骨隆々たるヒトに近似した肉体――しかしそれは、あまりにも不釣り合い。

さも、聖書の一項を戯画したかのような――まさにそれは、悪魔と形容するにふさわしい。

ダリアンは、先程翔太郎たちが上で話していた情報――断片的にしか聞き取れていない――から、当たりをつけた。

 

(恋愛、悪魔。七つの罪源(セヴン・デッドリー・シンズ)の一。

全く…………なんと厄介なものを…………)

 

持てばモテモテになる書物?

そんなものは、世の中に存在しない。

否――『ふつう』は存在し得ないものである。

だからこそ幻の書物。そして、()()()()()姿に成り果てたのは――。

 

(十中八九、グリモワールの類――しかも、()()を破ったのです。

でなければ悪魔に喰われたりはしない…………)

 

ダリアンは、怪物の周りの光景に嘆息する。恐怖に頬を引き攣らせた女性たち――先程まで、商店街へ訪れたダリアンへ声を掛けていた八百屋客の老婆や、好奇の視線を向けていた女子高生グループ――が、引き寄せられるようにその怪物へ歩み寄っていくのであった。

怪物の異能。術者の意中のままに異性を操る。

ダリアンはマズい、と判断し険しい顔つきのまま……己がカードを切ることを決断した。

そして――■■■■■■■■■へ身体を接続せんとした所で、ヒーローは到着した。

 

「オイオイオイ……っ、ダリアン!」

 

専用バイク・ハードボイルダーを駆り現着した翔太郎は、結果的に突っ立っていたダリアンの横に停めた。

帽子を深めに被り直し、二人には目もくれていない怪物を指さし、翔太郎はダリアンに尋ねた。

 

「なんだ、あんのバケモンは……!」

「幻書の闇。それに呑まれた憐れなモノ……半熟、アレを倒すのです」

 

怪物の異貌に、翔太郎は僅かに不快げな顔になり、そしてコートの裏からジョーカーメモリを取り出した。

スイッチを押し込む。聞き慣れたガイアウィスパーが鼓膜を揺らす。

そして懐から取り出したのは――もうひとつスロットが反対側についた、ロストドライバーのような、しかし別のもの――仕舞う。

 

「やっべ……何やってんだ俺は」

 

そしてロストドライバーを出し、腰に装着してからジョーカーメモリを挿入。

『W』を縦にふたつに割った、左半分のかたち。

 

「とにもかくにも……変身!」

〈JOKER!!〉

 

瞬く間に、黒の英雄が参上する。

翔太郎/仮面ライダージョーカーは、すぐさま臨戦態勢へ移行した。

何故に?

敵がなんであれ、街を泣かせる者に罪を数えさせる。

それこそがジョーカー(左翔太郎)の信念だからだ。

横合いから跳躍、三つある頭のひとつ、牛の顔に握り拳をぶつけた。

わけのわからぬ呪文らしきものを唱えていた怪物は、その詠唱を止められたのに怒ったのか、ジョーカーを睨む。

そのままジョーカーは猛攻に入る。拳撃と蹴りのコンビネーション。

だが怪物は何もせず、ただその攻撃を棒立ちのまま食らい続ける。だからこそ、ジョーカーは、コレは危険だ、と判断する。

なにせ一歩も動いていないのだ。

そもそも、ダメージが通っているかすらもわからない。

だが、怪物は突然呪文を唱えることを止めて、その右腕をジョーカーに向ける。その掌の先に、ドス黒いエネルギーが集束。

ジョーカーは横へローリング。彼が立っていた場所を黒の球体が通り抜け、後方奥のアスファルトに着弾――爆発。

凄まじい爆風で、ジョーカーの体がよろめく。玉が当たった場所は、まるで隕石が落ちてきたかのようになっていた。

これをもし、モロに食らっていたならば……ジョーカーといえど、ただでは済まない。

明らかに、並のドーパントの攻撃を上回る力であった。

だが、ジョーカーは攻撃の手を緩めない。すぐさま肉薄し、超速のインファイト。その拳が、脚が、確かな重みをもって怪物に打ち付けられる。

鈍重なのか、怪物はジョーカーの一撃を時折、腕でガードするのみで、捌ききれないものは全て受け止める。

受け止められている。

 

(……生気が、ない。怪人でも怪人の自我、ってのがあるが……なんだ?

()()()()()()()()()()()()()()()……)

 

怪物は未だ、ジョーカーを殺める気でいるのかすらわからないままだ。確かにあの凄まじい暗黒の球体は危険だが、それ以上何かをするわけでもない。

ただただ、ジョーカーの攻めを防ぐのみ。

しかしそれでも、ジョーカーとしては状況が一切好転していない風にしか感じられない。生身の人間が、鉄板を殴り砕くことが不可能なのと同様に、無駄なのだ。

ジョーカーはこれ以上の戦闘は、(いたずら)に己を疲弊させるだけだと内心にて断じる。

ならば、あの強固な壁を砕かねばならない。

手数で攻めるのを主とするジョーカー。それはそのまま、一発の威力の卑小さ(とはいえ、当然だが生身の人間を遥かに上回る)に繋がっている。

然らば――ジョーカーはドライバーからジョーカーメモリを抜き取り、右腰のマキシマムスロットに挿入。

 

〈JOKER!! MAXIMUM DRIVE〉

 

必殺技(マキシマムドライブ)

メモリに内包された地球(ほし)の記憶が限界まで励起し、力の奔流は、そのまま――――

 

「ライダーキック!」

 

――――敵を穿つ確滅の一撃となる。

 

()()()()()()

跳躍し、フォームに入っていたジョーカー。

しかし、巨大なエネルギーが、今にも敵を蹴り抜かんとしたジョーカーの眼前に漆黒として現れた。

まさか……マキシマムドライブを狙って?

ジョーカーの驚愕。実際の所――ほぼほぼ無いに等しい怪物の理性が、無意識的にそうさせた。

しかし、ジョーカーにはもはや、逃れる術はない。アスファルトに大穴を開けたあの球体が、至近で――――

 

災いの枝(レーヴァテイン)よ――焼き払えッ!!」

 

しかし、その時は訪れず、横合いから放たれた爆炎が――エネルギーを焼き尽くし、消し飛ばしたのを、ジョーカーはその強化された知覚で感じ――そして、必然的にライダーキックは怪物を穿ったのであった。

唖然とするジョーカー。

だがしかし。

それよりも呆然と驚きを示したのは――その戦いを見ていたダリアンであった。

その視線の先には――カソックを纏う男。そして、被虐性をこれでもかと見せつけるような、拘束衣に身体のほとんどを縛られた少女が、いた。

怪物は倒れ伏している。男はそれに近付き、右手で握っていた杖に、左手の古めかしい装丁の本――何物かの幻書を嵌め込んだ。

そして、豪炎。幻書は、杖の燃料とばかりに灰燼と帰し、迸る炎は、怪物のその身体を尽く焼き尽くし、こちらは灰すら残さぬ有様であった。

ジョーカーは絶句し、男を睨みつける。男はそんな黒の戦士を一瞥してから、振り返り、歩き出す。拘束衣の少女もそれについていく。

 

「……待て」

 

そしてジョーカーには、怒りがある。

あの怪物はダリアン曰く――人の成れの果て。ならば、どうにかして元に戻せたのではないのか――ジョーカーはそう考えていた。だからこそ、本来ならとどめを刺せるであろう超人の一撃を、敢えて抑えてすらいたのである。

しかし、この男はそれを、甘ちゃんだとばかりに焼き払った。

 

「……待てッ!」

「なんだ?

俺が()()()だと罰したいのか?」

「――言うまでもねぇ!」

 

そこで、笑い声が響き渡った。男の隣の少女からだった。

 

「ハハハ、面白いこと言うナ。

……()()()()()()()()()()()()()()ゼ。そんなことも知らないのカ?」

「何ッ?」

「ま、聞いてみればいいサ。

……随分と優しくなったじゃないカ、黒の読姫」

 

それだけ言って、ジョーカーが追おうとしたものの、さっぱり二人の姿はなくなっていた。

わけのわからぬまま、ジョーカーは変身を解いた。ジョーカー/翔太郎は、ダリアンの方へ歩み寄った。

訊かねばならぬことがある。

 

「……あいつら、知り合いか?」

(イエス)

「……で、だ。ダリアン。

あのバケモンは、あいつらが言ってたように――――」

 

ダリアンは、そこで翔太郎に冷えた視線を向けたように、見えた。その赤い目は、どこを見つめているかすら全くわからないほどに、虚ろであった。

翔太郎は何かあったのかと思い、彼女の肩を掴んで、軽く揺らす。

普段なら怒るに違いないであろう翔太郎の行動にも関わらず、ダリアンは何も言わない。

 

「ダリアン……?」

 

翔太郎の呼びかけに、ダリアンはゆっくりと、ゆっくりと反応した。

 

「…………半熟。……世の中には、知らなくてもいいことが、あるのです。

お前は、ただ、幻書を見つけ出せば……いいのです」

「っても、バケモンは……」

「……過ぎたことは、もう、巻き戻らない。

怪物ごと、焼かれてしまっては、もう回収は……不可なのです」

 

翔太郎は、依頼人を絶対に信頼し、信用する。それが依頼達成のための最短の道であると思っているからだ。

しかし……翔太郎は、あの怪物を見て、疑念を強めてしまう。

ダリアンは――何のために、幻書を集めているのか?

ヒトを歪め、そして先刻の男のような狂気を引き寄せる。

翔太郎が、以前にフィリップの語っていたことと、ダリアンの余裕げな雰囲気で失念していたのは、幻書がどれくらい危険なものであるのか、ということ。

実際に――かなり今回は悪い例だとは翔太郎も感じているとはいえ――幻書は、危険だ。

偶然にも最小限の被害に抑えられたとはいえ、ともすればドーパント、即ちガイアメモリ以上に危険なのが、幻書なのだ。

ズレていた帽子の位置を戻し、翔太郎はダリアンに問いかける。

 

「なあ、ダリアン。

これからも、あんなのが……出るのか?」

「…………(イエス)

「――!」

「……あくまで可能性ですが、零とは言えないのです。

ともかく、帰るのです。揚げパンはまた今度に」

 

ダリアンは翔太郎のバイクを指さした。まだ訊きたいことは彼の頭に山ほどある。翔太郎はそう思ったことに、内心で驚いていた。

依頼人は信頼する。が、だからこそ翔太郎は相手に深入りすることは少ない。

野暮だからだ。

なら、なぜ自分は、この少女に気安く接しているのか? 答えは、今の翔太郎は分からなかった。

ダリアンは依頼人で、翔太郎は請負人。これ以上は、質問する必要もない。

いざとなれば――現場でなんとかする。

翔太郎は、過去に自分に似たようなことを言った相棒の姿を思い浮かべつつ、バイクのエンジンをかけた。ダリアンが背中にしがみつく。

法定速度を極めて遵守した、翔太郎たちの帰路だった。

 

 

 

 

 

 

 







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