空の飛び方   作:泥人形

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思春期の男女のお話。


空の飛び方

 青い空、白い雲。

 いつもよりほんの少しだけ近くにあるそれをいつも通り見上げた。

 太陽が眩しくて、ほんのりとだけ降ってくる雪がちょっとだけ幻想的だ。

 ――悪くない。中々に悪くない日じゃないか。門出にはちょうどいい。

 少々浮世離れしたこの一瞬は、まるで周りから少し浮いている自分を歓迎しているようにも思えた。

 フェンスに預けていた背を離す。今の今までくわえていた飴の棒をぽいっと投げ捨てた。

 風に煽られゆらりと下へ下へと落ちていき、雪に紛れて消えていく。

 さて、行こっかな。

 吸い込まれそうになる地上から目を離して前を見据えて、そしてギョッとした。

 人だ。自分と同じように生と死の狭間に立つ人がいる。

 何も幻覚とかそういうわけではない。

 ここは同じようなマンションが仲良く並んで建っているのだ。

 そしてその先のマンションに、いかにも人生に悲観してます、みたいな人がそこには立っているのだ。

 奇遇というか、何というか。

 こういうのを、運命とかっていうのだろうか。

 何故かその人から離せない視線を無理矢理外した。さっきまで静まっていた心臓が何故か高鳴る。

 そんな自分を無視して俺は足に力を込めて――――

 

 

 

 

 

 

 ―――思いっきり飛び込んだ。

 

 

 風に背を押されて思っていたより飛距離が伸びる。

 物凄い衝撃が身体に走った。

 ガシャン!とフェンスが叫んで押し返してくる。

 そんな反動を押さえつけて大きく叫んだ。

 

 

 「どうせ捨てるならその人生!私にいただけませんか!?」

 

 「え…はい、どうぞ…」

 

 

 

 薄っすらと積もった雪の上に二人揃って足跡を残していく。

 自分の跡は、彼女の後ろをついて回るように残されていく。

 屋上でかわされた言葉が脳内でリフレインする。

 反射的にどうぞとか言っちゃったけどこれからどうなるのだろうか。

 未だに名前すら知らない彼女。あまりに謎に包まれすぎていて嫌な方に思考が転がっていく。

 お前の人生をくれとか男前なこと言われたにも関わらずこの待遇…臓器とか取り出されて売られちゃったりするんだろうか。

 それはそれであり…いや全然無しだわ。

 繋がれたこの手を離すべきだろうか。そう考えたところで急に手は離れて、彼女は勢いよく振り向いた。金色の、長い髪が余韻を残すように靡いていく。 

 

 「そういえばまだ自己紹介をしていなかったね、私は虚宮空。ソラって気軽に呼んでほしい…いや呼びなさい!」

 

 これは命令です、とソラはそう言った。

 聞く義理はあるのか、そう問えば”あなたの人生は私のものになったんだよ?”と当然のように返してきた。

 今頃になって自分の言葉の軽さを実感する。

 まあ、でも、良いか。

 

 「よろしく、ソラさん」

 

 手短な言葉でそう言った。

 彼女は不満げにチッチッチ、と指を振る。

 

 「”さん”はいりません!それに、あなたの名前は?」

 

 「はいはい…、涼野白だ、よろしく、ソラ」

 

 「シロ、ねよろしく!」

 

 右手だけを差し出すと両手をつかまれ、ブンブンと大袈裟に振られる。

 恥ずかしいからやめてくれ、そう言っても聞かないことはこの数度のやり取りでいたく理解していた。

 何故なら今の自分は彼女のものなのだから。

 そう言い訳して顔を赤くしたのを盛大に笑われた。

 もうやめてくれ、と細々と言うと体が温もりに包まれた。

 至近距離には満面の笑み。

 ――どうにも彼女は人をからかうのが好きみたいだ。

  

 

 ようやく笑いを収めた彼女は俺の手を引き、あてどなく辺りを散策し始めた。

 いや、あてどなく、と感じているのは俺だけか。

 少なくとも彼女の足取りには全く迷いが無かった。

 ずかずかと、堂々と進んでいく。そんな背中が少しだけ羨ましいと感じた。

 

 

 「私あそこに行きたいな!」

 

 明るい声が思考を晴らす。

 彼女が指さす先には良くお世話になってるファミレスが佇んでいた。

 

 「まあ、別に構わないけれども」

 

 癖で後ろぽっけにしまっていた財布には幾らか入っていたはずだ。

 

 

 「それじゃあ決定!行くよ!」

 

 「ちょ、いい加減離せ!」

 

 「へへ、お断りー!」

 

 いつまで経っても手は離れないまま俺たちは扉を開いた。

 店員さんに訝しげに見られながら席へと案内される。きっととんでもないバカップルだとでも思われているんだろう。

 そのこと自体に困りはしないがあまりにも恥ずかしすぎる。

 すぐに赤くなる顔を隠したらやはりというか、またもやソラは口を抑えて爆笑し始めた。

 おかげで周りから随分と見られるし一生分の恥をかいた気分だった。

 

 ソラは見た目に反して小食ではなかった。

 ハンバーグステーキをぺろりと平らげ今は巨大なパフェを長いスプーンで崩していた。

 頬杖を突きながら、真向かいに座る彼女を眺める。

 幸せそうに頬張る姿は何だかこちらまで幸せにさせてくれるような気がして、そんあ光景がとても非現実的に思えた。

 全く、なんでこんなことになってんだか。

 未だに受け止め切れていない現実にほぅ、と小さくため息をついた瞬間口に冷たく、甘いものが押し込まれた。

 

 「むぐぐぅっ」

 

 「どう?美味しい?美味しいでしょ?」

 

 そう言いソラは二度三度とスプーンを口に突っ込んできた。

 口中にひんやりと甘ったるいのが広がっていく。

 それを一気にかみ砕いて流し込んだ。

 

 「…悪くはない」

 

 「素直に美味しいって言いなさいよー!」

 

 全くもう、とパクパクと口に放り込んでいく。

 その姿はそこら辺にいる普通の人と変わりなくて、だからこそ、何となく抑え込んでいた違和感が爆発的に膨れ上がってきた。

 

 「…なぁ――」

 

 

 正直聞いていいのかわからなかったが、それでも聞かずにはいられず、ついに聞こうと口を開いたらまたもふさがれた。

 銀のスプーンが、今度は何も乗せずにただ俺の口に突っ込まれていた。

 

 「ダメだよ、シロ。そういうのは聞いちゃいけないお約束なんだよ?」

 

 俺の言いたいことを見透かしたように、ソラはもう片方の手の人差し指を自分の口に当てながらそう言った。

 しかし続けて彼女はでも、そうだね。と言葉を続ける。

 

 「私は鳥籠の中にいるの、だから少しは抵抗しようかなって、ね」

 

 ソラは儚げにそう笑った。

 参った、事情があるのは察せられたがそんな顔されるとこれ以上、聞くに聞けない。

 まあ、知ったところでどうにもならないか。

 心の中でそう呟いて、そうか、と話を切った。

 あれほどあったパフェは、もう無くなっていた。

 

 

 ファミレスから出た俺たちはさっきより少しだけ積もった雪の中を駆け抜けていた。

 そこまで食べていない俺はともかく彼女はあれだけ食べておきながら良くもそう走れるものだ。

 グングンと遠くなっていくその背中を見失わないように追いかけながらそう思った。

 

 しばらくの間走り続け、小さな公園に入ったところでようやくソラは足を止めた。

 やっと止まりやがった。元々体力が平均より大きく下回る俺の体力は既にぎりぎりを訴えていた。

 ざくざくと雪を踏みしめ彼女に近づいていく。

 

 「…ぜっ、はぁ、ど、こまで、行くの、かと、思ったぞ…」

 

 もう限界なんですけど。横腹を抑えながらそう訴えると彼女も限界だったのかくるりと回ってその場に仰向けに倒れこんだ。

 そこそこ積もった雪が彼女を鈍い音と一緒に受け止める。

 

 「いやぁ、はっは。走るってこんなに気持ちいいことなんだね!」

 

 「気持ち良いか…?」

 

 正直疲れた体に刺さるような冷たい空気が入ってくるのは不愉快なくらいなんだけどな。

 どすん、と彼女の横に座って激しく脈打つ心臓を落ち着かせる。

 両手に触れる雪が一気に体温を下げていくようだった。

 しばらくそうやってぼうっとしていたら突然右の視界が真っ白に染まった。同時に刺さるような痛みが頬を刺激する。

 驚いて右を勢いよく見ればいつの間に移動したのか、意地悪く笑ったソラが雪玉を構えていた。

 

 「んな、お前…!」

 

 「ふふっ、ぼーっとしてるのが悪いんだよ!それ!」

 

 掛け声と共に飛んでくる雪玉を両手でガードしてすぐに立ち上がる。

 感覚の抜けた素手で雪を固めて投げ合う。

 雪合戦なんていつぶりだろうか。

 そんな思考すら切り捨て俺は雪を投げることに夢中になった。

 

 ソラは意外にも投げるのがど下手くそだった。

 最初の二球はビギナーズラックとでも呼ぶべきものだったのか、その他に投げたものは俺に当たるどころか届かないことの方が多かった。

 ボスボスとてんで方向違いな場所に落ちていく雪玉を横目に雪玉をぶつけまくる。

 散々からかわれたお返しだ。

 どんどんと真っ白に染まっていきながらも彼女は高らかに笑っていた。それにつられて笑いがこみあげてくる。

 そうして俺たちはうるさいよ、と注意されるまで小学生のようにじゃれ合い続けた。

 

 

 雪まみれになった俺たちは互いに互いの雪をほろい落としてからどこか暖かいところに行こう、と意見が一致した。

 興奮してたせいで忘れていた寒さや冷たさが今になって襲い掛かってきたのだ。

 

 「うぅ、寒いなぁ。あ、あそこ!私あそこ行きたいよシロ!」

 

 「はいはい、っと」

 

 彼女がわちゃわちゃと指さす先はカラオケ店だった。

 暖房も聞いているしなんならゆっくり休むことだってできる。それに何より値段が安い。

 いい提案じゃないか、と俺は二つ返事で肯定し、ガラス張りのドアを引っ張った。

 

 そこそこ広めのボックスに入った俺たちは早速暖房を全開にし、払いきれなかった雪をバシバシと叩いて落とし、ハンガーにかけた。

 やっとゆっくりくつろげる、とソファに身を委ねると同じようにだれていたソラが勢いよく立ち上がった。

 

 「よっし!歌うよ、シロ!」

 

 「一人で歌ってて、どうぞ」

 

 もうちょっとくらい休ませろ、という意味の込めた言葉を放つ俺に私の命令は絶対でしょおぉぉぉ!とマイクをオンにして彼女は叫んだ。

 流石にこれには降参せざるを得なくて、俺はマイクを握った。彼女は少し得意げだった。

 流れるのは少し前に流行った曲ばかり。最近の流行りにはついていけないのが露骨に表れていた。

 そんな俺と対比するように、ソラはCMで聞いたことがある、正に今流行っている、といったような曲ばかり歌っていた。

 彼女の歌声は今まで聞いた中でも特段綺麗だった。いつもの明るく生気に満ちた声が嘘のように、儚げで、悲し気な、それでも聞き入ってしまうような歌声だった。

 

 「そろそろ、喉も痛くなってきちゃったね」

 

 「そうだな、もうガラガラだ」

 

 咳を混じらせながら言うソラに同意する。

 時計を見ると既に19時を回っていて、3時間は歌っていたことを教えられた。

 そりゃ疲れるわけだ、と思いながらコートを羽織り、店を出る。

 相も変わらず彼女の足取りは軽やかだった。

 

 「もうかなり暗くなっちゃったねぇ」

 

 「もう7時だしな、腹も減るわけだ」

 

 じゃあ何か食べよっか、とすぐ隣にあったハンバーガーショップで2セット受け取ってきた道を戻るように歩き始めた。

 はむはむと二人並んでハンバーガーにかぶりつく。小さいけどやっぱり美味しい。

 数分の間そうして食べ歩き、ちょうど食べ終わったころでソラは口を開いた。

 

 「ねぇ、シロ」

 

 「なんだよ」

 

 「シロの人生ってさ、私のものなんだよね」

 

 「何を今さら。ソラがそう言ったんじゃないか?」

 

 「そう、だよね。うん、うん!」

 

 ソラは突然ついてきて、と手首をがっしり掴んで早足で進み始めた。

 来た道を戻るように、ずかずかと。

 雰囲気が少し変わった彼女に言葉はかけづらくて、無言のままついていく。

 こうして俺たちは最初に出会ったマンションの前へとたどり着いた。

 そこで手を離したソラは微笑みながら振り返り、来て、とだけ言って進み始めた。

 それはきっと彼女なりの、彼女から離れる最初にして最後のチャンスだったのだ。

 だけれども俺は一切考えることなく彼女の後を追い、隣に並んだ。

 少し驚いたように見てくる彼女に俺は笑って見せた。

 コツコツと、ゆっくりと階段を登っていきながら、彼女は話し始めた。

 

 「私、さ実はそこそこ良いとこのお嬢様なんだよね。しかも病弱。絵に描いたようなヒロインみたいな」

 

 「まあその辺は大体察してた、病弱ってのは、少し意外だけど」

 

 「驚かないでよ、どう見てもか弱いでしょ」

 

 楽し気に笑いながらソラは言葉を重ねる。

 

 「でもま、そんなだから私は小さいころから入退院繰り返して、友達もできなくてさ、いつも一人だった。ついでに言えば親もすごい厳しくてさ。それも身体とか関係なくても友達なんか作れないくらい。だから余計に一人ぼっちを増幅してた」

 

 「えぇ…嘘だろ、友達百人います、とか真顔で言えるタイプに人間だとばっかり…」

 

 「プハッ、何そのイメージ。全然違うよ」

 

 一頻り笑い、目尻を拭ってから彼女はようやく続きを話し始めた。

 

 「私、とっても窮屈で、退屈だったんだ。あれもダメ、これもダメ。何を頼んでも返ってくるのはダメの二文字ばっかり。許された娯楽はちょっとした読書くらいだったよ。だから、私はとっても目に映る人たちが羨ましかった。楽し気に友達と話したり、じゃれあったりしてる子が、すっごい羨ましかった。見ることしかできない自分が惨めで窮屈だった。何をするにも許しが必要で、まるで鳥籠みたいに狭い世界に押し込められてしまったような毎日だった」

 

 ――そんな時だったよ

 

 「ガンにかかったんだ。元々病弱なのに加えて、今までの例にないくらいの進行速度で悪化してるんだって」

 

 「な――」

 

 何だよそれ、酷く現実味のない現実にうまく声がでなかった。

 

 「ああ、そんな悲しそうな顔しないでよ、こっちが困るじゃん」

 

 「いや、そんなのお前、無理だろ…」

 

 「あはは、ごめんね。でも、本当に、そんなに気にしないでよ」

 

 ――これはとってもいい機会でもあったんだから

 

 「なんでかなぁ、目に見えるゴールが見えちゃったからかな、ある種の自暴自棄だったのかもしれない。こんなところでひっそりと一人で死ぬくらいなら最後くらい好きにやってやる!ってね。」

 

 ――そこからはもう早かったよ。

 

 「自分で自分にこんなに行動力があったんだ、ってびっくりするくらい。私はあちこち駆けまわり始めたよ。数少ない荷物とありったけのお金抱えてさ、何回もスマホが鳴ってたけど、止まってたまるかって投げ捨てちゃった。鳥籠だと思ってた世界なんて、案外簡単に壊せて、思ってたより簡単に広い世界に飛びたてたんだ」

 

 ――でもさ、

 

 「人生ってそんな簡単にいくものでもなくってさ。すぐにお金はつきちゃったし正直そこまで遠くに来てないんだ。日に日に体は重くなっていく気がするし、もう駄目だなぁ、ってそれならさっさと楽になっちゃおうかなって、そんなこと考えてさ、それであそこに立ったんだ」

 

 あそこ。間違いなく出会った時のマンションの屋上。彼女は死のうとしてあそこにいたんだ――

 呆然とそう考えた俺を見てソラは嬉しそうにはにかんだ。

 

 「やっぱり運命ってあるんだよ。あそこに立って、ちょっと怖いけどいけるかな、って、覚悟をきめて前を見たらさ、人がいるの。自分と同じよう事をした人が。びっくりしたよ。でもそれ以上に身体に電流が流れたように、私は全身が震えたよ。一目で見ただけでわかったもん。ああ、この人が私の運命の人なんだ、ってなんでかわからないけど本能がそう言ってた。だから――」

 

 ――思わず飛んじゃった。

 彼女は頬を赤くしてそういった。

 そこからは知っての通り、今に至るんだよ、と続けた。

 そしてここからが本題だとも。

 

 「私、さ。もう限界みたいなんだ。今日一日気張ってみたけど、もう無理みたい」

 

 突然彼女は体勢を崩して全身を俺に預けた。

 吐き出される呼吸が妙に荒い。

 

 「おい、ソラ!しっかりしろ!」

 

 「ねぇ、シロ。屋上につれてって」

 

 「…っ」

 

 苦しそうに、でも腕の中で笑う彼女の言葉に逆らえなくて俺は彼女を抱えたまま走り出した。

 既に十階まで登ってきていたこともあり、すぐに俺たちは屋上へとたどり着くことができた。扉の鍵は、手酷く破壊されていてすんなりと開けることができたのだ。

 雪が降り積もっていて、歩きづらい。

 ソラに言われるがままに、俺はフェンスの目の前へと進んだ。

 

 「ね、シロ。君はどうして――ううん、聞く必要もないね、だって――」

 

 ――だって君も、きっと同じでしょ?

 その言葉に何も返せずに目をそらす。

 俺は彼女ほどの苦痛を噛み締めたわけじゃない。

 クラスで浮いていて、所謂いじめの対象になっているくらいだ。

 それが辛くないとは言わない。それこそ今朝までは、死を思い詰めるくらいにはつらかった。

 だけれども彼女と比べると、それはとても矮小な問題にも見えたのだ。

 するとソラは俺の頭をあやすように撫で始めた。

 

 「辛さや苦しみにね、大小はないんだよ。誰かにとっては何気なくても、誰かにとっては酷く重いものな時もある。シロにとってそれは酷く苦しいことだったんでしょ?それじゃあ同じだよ。ね、シロ。私たち似た者同士なんだ」

 

 俺の腕から離れて、彼女は俺を抱きしめた。

 

 「そう、だな。それなら、おんなじだ」

 

 声を震わせながら、俺は彼女を抱き返した。

 

 「ね、シロ。私について―――ううん、私と一緒にいてくれる?」

 

 酷く不安げにソラはそう言った。

 きっと彼女は飛び立とうとしてるのだ、正に、この世界から。

 そして返答は、考える前から決まっていた。

 

 「当たり前だろ、俺の人生はソラのものなんだから」

 

 ありがとう、と嗚咽を漏らしながらソラは俺の胸に顔を押し付けた。

 そんな彼女を抱きかかえて、俺は屋上の縁へと向かう。

 どれくらいそうやって抱き合っていたか、どちらともなく身体を離し、ソラは俺の隣に立った。

 足元がおぼつかず、フラフラとしている身体を支えてあげる。

 そうしてその勢いで彼女の引き寄せ唇を合わせた。

 長いようで短い時間。彼女は驚いたように俺を見る。

 ソラが口を開く前に言葉をかぶせた。

 

 「今度は、籠に何か入ってぼけっとしてんなよ」

 

 ――見つけられないからな。

 

 ソラはあうあうと慌てた後に咳ばらいをしてから俺を見据えた。

 

 「うん、頑張るよ、もし入れられてもすぐ出て見せる」

 

 ――だから絶対見つけてね。

 

 当たり前だろ。

 そう言って笑い合い、そして俺たちは手をつなぎ合って大きく空へと飛び込んだ。

  



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