魔法少女まどか☆マギカ×PSO2 【仮面】   作:犬っぽい何か

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第十話

 

「さやかちゃん、仁美ちゃん、おはよう」 

「おっす。まどか!」

「おはようございます。まどかさん」

 

 翌日、いつも通りに学校に登校したまどか。さやかと仁美が話しているのを見つけたまどかは、二人に声を掛け挨拶をする。

 声を掛けられまどかに気づいたさやかと仁美の二人も彼女と挨拶を交わし、笑顔で手を振る。

 

「二人で何話してたの?」

「それがさー。仁美がまたラブレター貰ったんだって。全く、仁美はモテるね~」

「もう。さやかさんったら、からかわないでください!」

「いいなぁ、仁美ちゃん。私も一通くらい貰ってみたいなぁ……ラブレター」

 

 どうやら仁美がラブレターを貰ったらしく、その話題で二人は盛り上がっていたようだ。

 因みに仁美がラブレターを貰うのは今回が初という訳ではなく、しょっちゅう貰ってはいるようなのだが、本人は一週間に何通も届くラブレターにどう断りをいれようか毎回困り果てているらしい。

 

 まどかはそんな仁美の話を聞いて少し羨ましかったのか、一通くらい自分も貰ってみたいと口に出し、そんなまどかの羨む発言を聞いたさやかは、まどかの頭をわしゃわしゃと撫でながら。

 

「なんだぁまどか~。あんたも彼氏欲しいのかぁ~?なんならあたしがまどかの彼氏になってあげよっか?」

「もぉ~さやかちゃんったら。やめてよ!」

 

 さやかにからかわれたまどかは、さやかのわしゃわしゃする手を振りほどきながら可愛らしく頬を膨らませる。そんな様子を隣で見ていた仁美は微笑ましそうに二人を見ていた。

 いつものように弾む和やかな会話。そんな三人を後ろから見ていた存在が、まどかとさやかに話しかける。

 

『まどか、さやか、突然ごめんよ。今ちょっといいかな?』

『っわ!?キュウべぇ?ビックリした……』

『ちょっと驚かさないでよ!てかあんた、いつからいたの……』

 

 突然テレパシーで頭の中に語りかけてきたキュウべぇに身体を一瞬ビクッとさせた二人は、後ろの少し離れた所で座っているキュウべぇの姿を確認する。

 

『二人に急ぎで話さなきゃいけないことがあるんだ。登校中悪いんだけど、こっちに来てくれるかい?』

『急ぎで話さなきゃいけないことって……』

『一体何の話よ?』

 

 キュウべぇはまどかとさやかにそう伝えると道から外れた茂みの奥へと歩いていく。

 

「……?まどかさん、さやかさん。二人ともどうしたんですの?」

 

 まどかとさやかが黙ってジッと後ろを見つめてるのを不思議に思ったのか、仁美は二人に声をかけ心配そうに顔を覗き込む。

 

「仁美ちゃんごめん!私、ちょっと忘れ物しちゃったから先に行ってて!」

「あたしも!仁美ごめん!」

「え?あ……あの、お二人とも?」

 

 まどかとさやかは仁美にそれだけ言うと、走ってキュウべぇの後を追って行き、一方で二人に置いて行かれた仁美はポカーンとしながら二人の背中をただ見送っていた。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

「あら鹿目さん、美樹さん?二人ともどうしたの?」

「あれ、マミさん……?」

「ほんとだ、マミさん何してるんですか?」

 

 キュウべぇの後を追ったまどかとさやかだったが、そこにいたのはキュウべぇではなくマミだった。マミもまどかとさやかの姿を確認すると目を丸くして少し驚いたように反応する。

 

「私達、キュウべぇに話があるって言われてここに来たんですけど」

「鹿目さんたちも?」

「ってことは、マミさんもキュウべぇに呼ばれて?」

「ええ、急ぎの用があるから少し話をさせてほしいって言われて私もここにきたんだけど……キュウべぇがいないみたいなの」

 

 どうやらマミもキュウべぇに話があると呼ばれていたようなのだが、呼び出した当の本人がどこにも見当たらないようで、まどかとさやかも辺りをキョロキョロと見回してみるがキュウべぇの姿が見当たらない。

 

「キュウべぇったら、人の事呼んでおいてほったらかすなんて……」

 

マミは困ったように腕を組んでため息をつく。

 

「待たせたね。三人とも」

 

 暫くすると茂みの奥からキュウべぇが顔を覗かせる。キュウべぇが出てくると、さやかは不機嫌な様子でキュウべぇへと歩みよる。

 

「あんたねぇ、人の事呼んでおいて放っておくとかどういう事よ!あたし達、学校があるんだけど!」

「ごめんよ。最後の一人を説得するのにちょっと時間がかかってね」

「最後の一人って……?」

 

 キュウべぇ曰く最後に呼んだ一人がここに来るのを拒んでいたようで、説得に時間がかかったらしい。

 呼ばれたのはマミ、まどか、さやかの三人だと思っていたまどかはキュウべぇが呼んだ最後の一人を探すが、どこにも見当たらない。

 

「いるんだろ?出てきてくれるかな?」

 

キュウべぇがそういうと辺りの空気は一気に張り詰められ、明らかに空気が変わるのを感じ取ったマミ達は全身に寒気が走るのを覚えた。

 するとキュウべぇの隣に黒い粒子のような物が徐々に集まっていき、その集まった粒子が球体状になると、中から一人の人物が出てきた。

 

「……」

 

 【仮面】だ。以前直接対峙したマミは、その人物が【仮面】であると分かった途端に自身の手にマスケット銃を出現させ、【仮面】に向けて構える。

 さやかもまどかも【仮面】の姿を認識すると、すぐにマミの傍へ駆け寄り驚いた声を上げる。

 

「あ、あんた……。あの時の仮面野郎!」

「どうして、この人がここに……?」

 

 忘れるはずもない。前に廃ビルに出現した魔女結界の魔女を討伐する時に鉢合わせした際、近くにいるだけで押し潰されるかと思うほどの重いプレッシャーを浴びせられたのだ。

 その時の感覚を鮮明に覚えていた三人は、キュウべぇの隣で佇んでいる【仮面】に対して警戒をする。

 

「キュウべぇ!一体どういう事……どうして彼がここにいるの?」

 

 マミは一滴の汗を顔に浮かべながらキュウべぇに問う。

 

「そんなに警戒しなくても良いよ。彼は今回キミ達にお願いする内容の事で、助っ人として僕が呼んだんだ。敵じゃないから安心してほしい」

「……助っ人って?」

 

 さやかは【仮面】の事を睨みながら、キュウべぇに【仮面】が今回助っ人としてきた意味を聞く。

 

「三人が疑問を抱くのは無理もないね。実は今回キミたちを集めたのは孵化しかかってるグリーフシードについての事で話があったんだ」

「孵化しかかってるグリーフシード……」

「っていったいどういう事よ?」

 

 グリーフシードが魔女の卵であることは以前マミから話を聞いた際に理解はしていたが、孵化しかかってる物についてはあまり深く話されたことは無かったため、まどかとさやかはピーンと来ないといった表情でキュウべぇの話を聞くが、二人がいまいち状況が掴めず困っていたことを見かねたマミは、まどかとさやかにグリーフシードの孵化について話し始めた。

 

「孵化しかかったグリーフシードっていうのは、言葉の通り魔女に孵ろうとするグリーフシードの事よ。以前二人にもグリーフシードは魔女の卵ってことは説明したでしょ?倒した魔女から入手できる物についてはまだ孵化できるだけの穢れが足りないから安全に使うことができるけど、それも無制限に使うことは出来ない」

 

「だからある程度使用して穢れが貯まったグリーフシードだったり、孵化の為の穢れが足りていないグリーフシードに関しては安全の為に僕が回収することになっているんだけど……稀に回収できずにそのまま孵化してしまうケースがあるんだよね。今回はその内の一つが孵化しかかっていて、その処理をキミたちにお願いしようと思って話をしたんだ」

 

「なるほど……」

「そんなことが……」

 

 まどかとさやかはマミとキュウべぇから詳しい話を聞いて納得したように頷き、二人が現状を理解できたのを確認するとマミはキュウべぇに【仮面】を今回助っ人として呼んだ理由について問う。

 

「話は分かったけど、どうしてそれが仮面の彼が助っ人として呼ばれることになるの?ただ魔女を討伐するだけなら、私だけでも十分だわ」

 

「いつもならそうなんだけどね。今回の魔女に関しては今までマミが戦ってきた魔女達と比べても、比にならないくらい強い個体なんだ。だから今回はマミ一人では危険だと僕が判断した。突然こんなことを言われても納得は出来ないかもしれないけど、この魔女討伐では彼をマミのサポート役として同行させて貰う」

 

「今までと比にならない……。そんなにその魔女は強力なの?私でも厳しいくらいに……?」

「ああ、そうだね」

「そう……」

 

 マミは自身でも敵わない相手がいるという話に最初は半信半疑だったが、キュウべぇがいつも以上に念を押してくることで、それが確信に変わり、納得はしたようだった。

 だがマミはキュウべぇの隣にいる【仮面】を睨みつけながら言い放つ。

 

「でも、私は彼を信用できない。以前の事もあるけど、いきなり協力しろって言われてわかりました……なんて素直になれる程私は彼を知らないわ。いくらキュウべぇの頼みでも、彼と協力して魔女を討伐することには頷けない。魔女を討伐するなら、私一人で行くわ」

「マミ、キミは……」

 

 やはり今回の協力に関してだけはマミも譲る気はないらしく、魔女の討伐は単独で行うつもりでいるようだ。

 できるだけマミに納得してもらえるよう説明したつもりだったキュウべぇは、マミが承諾してくれないことに困り果てている様子だったが、今までずっと静観していた【仮面】がここにきてようやく口を開いた。

 

「意地を張るのは貴様の勝手だが、ここで意固地になって危険な橋を渡るより、今回は素直に他者の力を借りて背中を任せた方が良い。キュウべぇの説明にもあった通り、今回相手にする魔女は確かに強い。死にたいのなら無理に止めるつもりは無いが、自身の命が少しでも惜しいと思えるのなら協力するほかないと思うが?」

 

「……あなた、私が単独で挑めば死ぬとでも言いたいの?」

 

 無謀だと言わんばかりの【仮面】の言い回しに腹が立ったのか、マミは声に怒りを孕ませる。

 

「言いたいも何も正にその通りだ。貴様、自分が無敵の英雄だとでも思っているのか?」

「私はそんなこと……!」

「貴様はこの街で幾多の経験を積み、それ相応の強さは確かに持っている。だが、そうやって自身の強さを過信して驕る人間程いざという時に判断が鈍り、結果として自身の身を滅ぼすことになる。何故そこまでして一人で戦うことに拘るのかは知らないが、後ろにいる二人の為にも、今回の討伐は協力するべきだ」

「……」

 

 悔しいが【仮面】の言う事に筋は通っている事を理解できるマミは、何も言い返せなくなり言葉に詰まる。沈黙しているマミに言い聞かせるように【仮面】はさらに追い打ちをする。

 

「今回の魔女に単独で挑めば貴様は死ぬ。誰にも認知される事なく、誰に悲しまれる事もなく、結界に一人取り残されて貴様は死ぬ。だが、共に戦うと言うなら私は貴様を守る為に最善を尽くす。グリーフシードも必要ない、貴様にくれてやる。それを踏まえた上でもう一度だけ聞くが、本当に共に戦うつもりはないのか?」

 

「私……は……」

「マミさん……」

 

 【仮面】からの最後の忠告の言葉に、マミは俯きながら考え込む。マスケット銃を握る手は小刻みに震えており、そんな様子が心配になったまどかはマミの顔を覗き込む。

 考え込んでいたマミだったが決心したのか、顔を上げて彼女が出した答えを口に出す。

 

「私は一人で戦う……戦えるわ。だからあなたの手は借りない」

「……そうか、良くわかった。私は一切手を貸さない、好きにしろ」

 

 マミから伝えられた答えに、【仮面】は呆れたように首を横に振ってため息をついた。

 

「だそうだ、キュウべぇ。グリーフシードがある場所をそろそろ教えてやったらどうだ?」

「……わかった。孵化しかかってるグリーフシードがある場所はさやか。キミが上条恭介のお見舞いで通ってるあの病院だ」

「……え?」

 

 グリーフシードがある場所を聞くなり、さやかの顔が青ざめていく。それもそのはず、その病院というのが美樹さやかの幼馴染、上条恭介が入院している病院だからだ。

 

「結界が完成してしまえば、使い魔や魔女達は病院を対象に人間の生気を奪っていく。只でさえ弱っている人間から生気を奪うことになったら目も当てらなくなってしまうだろうね」

「そんな……」

「美樹さん……」

 

 只でさえ弱っている人間が魔女の影響により更に衰弱していくという説名を受けるさやかはショックから呆然とその場に立ち尽くすが、その様子を見たマミはさやかの両手を取るとぎゅっと強く握りしめた。

 

「大丈夫よ、美樹さん。私が必ず魔女をやっつけるから、私に任せて」

「マミさん……!」

 

 マミからの言葉に安心したのか、さやかは笑顔を見せる。

 

「あぅ……」

 

 一方でまどかは先程の【仮面】の話が引っ掛かっているのか、なんともスッキリしないといった表情でいた。

 

「結界が出来上がるのは恐らく今日の夕方辺りだ。学校が終わったらすぐに病院へ集合してほしい。また詳しい説明は追ってするよ」

 

 キュウべぇからの話が終わるとマミ、まどか、さやかの三人は授業があるため学校の方へと歩いていった。

 

 まどかは去り際に【仮面】へ何か伝えたい事があるかのような様子を見せていたが、学校の授業が始まることもあり、結局何も言えずに行ってしまった。

 三人が学校へと去っていくと、キュウべぇが口を開く。

 

「どうするつもりだい?」

「何がだ」

「マミの事だよ。口ではああいっていたけど、明らかにキミの言葉に動揺していた。このまま単独で挑むことになれば、本当に彼女の身が危険に晒されるかもしれないよ?」

「……」

 

 キュウべぇはマミの事をどうするつもりなのか【仮面】に尋ねるが、【仮面】はキュウべぇの言葉には何も返さず、ただただ黙っているだけだった。

 

「まぁ、彼女があそこまで言うなら僕も流石に無理強いは出来ない。本人がどうしても一人で戦いたいと言うのなら、彼女の意思を尊重するしかないし、今回は彼女の腕を信じるしかないね」

 

 キュウべぇはそういうと、茂みの奥へと姿を消していった。

 

「……ふん」

 

 キュウべぇがいなくなると、その後に続いて【仮面】も闇に包まれて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 ――――放課後 見滝原市内の病院前

 

 

 

 

「ここね」

 

 放課後、学校が終わった後、見滝原市内の病院に、マミ、まどか、さやかが集まっていた。

 キュウべぇに指定された場所に行くと、確かに孵化しかかっているグリーフシードが病院の壁に突き刺さっており、それを確認したマミはグリーフシードに手をかざし、自身の魔力を込める。

 すると魔女の結界への入り口が開き、内部には結界の空間が広がっているのが伺えた。

 

「結界自体はもう出来てるみたいね」

「魔女の結界……」

「本当にこの病院にあるなんて……恭介」

 

 結界そのものは既に出来上がっているらしく、後は魔女が生まれるのを待っているような状態だった。結界内部の様子を伺ったマミは魔法少女の法衣に変身し、結界内部への侵入に備える。

 結界の内部を見たまどかとさやかはその禍々しい様子に不安そうな顔をするが、マミはそんな二人の頭を撫でて安心させようとする。

 

「マミさん……」

「大丈夫よ、二人とも。私だってこれまで沢山の魔女を倒してきているし、相手がちょっと強いくらいじゃ負けたりなんかしないわ」

「はい!あたし、マミさんの事信じてますから!」

 

 マミの言葉にさやかは安心し、マミもそれに微笑んで応える。まどかはマミの微笑んだ顔を見たものの、やはりどこか不安そうな影が見え隠れするマミを心配するように見つめる。

 

「集まったみたいだね」

 

 準備が整うのと同時に、キュウべぇも三人の前に現れ、今回の魔女討伐について簡潔に説明を始める。

 

「見た通り結界自体は既に出来上がっている。魔女が孵化するまでは恐らくまだ一時間程度はかかると思うけど、孵化が早まることも想定して結界に入ったら出来るだけ急いで最深部へと向かってほしい。ただ、急ぐと言っても魔女が孵化直前ということもあって使い魔達の警戒も強くなっていると思うから。道中の戦いは極力さけて、静かに行動して」

 

 一通り説明が終わると、キュウべぇは結界の入り口前に立つ。

 

「それじゃあ、いこうか」

 

 そう言うとキュウべぇは結界内部へと入り先へと進みだした。

 その後にマミ、まどか、さやかの三人も続く。

 

(私なら大丈夫……。絶対に負けない……)

 

 マミは自身の胸の内で緊張する自分に言い聞かせ、魔女の結界へと足を踏み入れた。

 


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