魔法少女まどか☆マギカ×PSO2 【仮面】 作:犬っぽい何か
「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
転校生の少女は自身の名をそう告げた。
(うわー!噂には聞いてたけどすっげー美人……)
(―――…………)
さやかは噂以上の美人である暁美ほむらに目が釘付けになっていた。
長く綺麗にとかされた美しい黒のロングへアー。そして凛とした佇まいと紫色の瞳、見る者全ての目をひくその容姿の美しさに、さやかのみならずクラスメイト全員が目を離せなかった。
「えー暁美さんは心臓の病気でずっと入院してたの、まだ治ったばかりで身体も動くことに慣れてないから、何かあったら皆で暁美さんのことを支えてあげてね。暁美さん、クラスの皆に何か一言ある?」
早乙女先生がほむらは前まで心臓病にかかって入院していたことをクラスメイトたちに教え、クラスに何か一言ないか尋ねられると、ほむらはもう一度お辞儀をする。
「病気が治ったばかりでクラスの皆には迷惑をかけるかもしれませんが、改めてこれからよろしくお願いします」
ほむらがクラスに向けてそう言うと、クラスから歓迎の拍手が沸き上がった。
そんな拍手の音が響く中、ほむらはまどかとその隣にいるキュウべぇに対して睨みつけるように目を少し細めた。
「っあ…うぅ…」
突然睨まれたまどかは困ったような表情を浮かべ縮こまってしまい、キュウべぇの方はというと何一つ微動だにせず、黙ってほむらを見つめ続けた。
そして朝のホームルームも終わり休み時間に入るとほむらの周りにはクラスメイトの人だかりができ、ほむらは質問攻めにされていた。
「暁美さんって前はどこの学校だったの?」
「東京の、ミッション系の学校よ」
「前は部活とかやってた?運動系?文科系?」
「やってなかったわ」
「すごい綺麗な髪だよねー!シャンプーは何使ってるの?」
そんなクラスメイトに質問攻めされるほむらの様子を、まどかとさやかと仁美は少し離れた所から見ている。
「すごく不思議な雰囲気をされた方ですわね、暁美さん」
仁美は質問攻めにされているほむらを見て、そう呟く。まどかはまどかで先ほどからじっとほむらのことを見てボーっとしている。
「どしたのまどか。そんなじっと転校生のこと見て」
さやかはほむらのことを見つめるまどかが気になり、そんなさやかの問いかけに対してまどかはハッとしてから答える。
「なんだか私、暁美さんに前にどこかで会ったことがあるような気がして」
「知り合い?」
「ううん、初対面のはずなんだけど、なんでだろう?」
そういえば先ほど、キュウべぇがほむらのことを「やっぱり」と言っていたことを思い出したまどかは、テレパシーでキュウベェに話しかける。
『ねぇキュウべぇ、暁美さんって……あれ、キュウべぇ?』
ホームルームが終わるまでは確かにまどかの席の横に座っていたのだが、いつの間にか姿を消していた。
『ねぇさやかちゃん、キュウべぇのこと見てない?』
『あれ、そういえばいないね。どこいったんだろ』
まどかとさやかがキュウべぇを探してあたりをキョロキョロとしていると仁美がまどかに話しかける。
「ま、まどかさん」
「どうしたの仁美ちゃん……あ」
仁美に声をかけられまどかは仁美の方を見る、仁美が指をさしているのでその方向に目をやると、まどかの席の目の前までいつの間にかほむらがきていた。
「…鹿目まどかさん」
「は、はい!」
まどかは突然ほむらに名前を呼ばれたことに驚き身体をビクッとさせる。
「あなた保健係よね、具合が悪いから連れて行ってくれないかしら、保健室」
「……っえ!?えっと、あの…はい」
そうして二人は教室を出て、保健室へと向かうべく廊下を歩き始めるが、連れていかれる側のほむらがなぜか連れていく側のまどかより先に足を進めていた。
保健室へ向かう間、二人の間には沈黙が流れ、気まずくなったのかまどかはほむらに話しかける。
「あの、なんで私が保険係って知ってたの?」
「……」
「あうぅ…」
まどかはこの気まずい雰囲気をなんとかしようとほむらに話しかけるがほむらは黙って歩き続ける。
しかしほむらも流石に黙り続けるというのは気が引けたのか、暫く沈黙したあとまどかの問いかけに答えた。
「……早乙女先生から聞いたのよ」
「そ、そうなんだ。えっと、暁美さん?」
「ほむらでいいわ」
「は、はい。ほむらちゃん?」
「何かしら」
「その、かっこいい名前だね」
「……」
また会話がないまま二人は歩き続けたが、やがてほむらは急に立ち止まりまどかの方へと振り向く。
まどかは急に立ち止まりこちらに振り向いたことに少し驚いて、ほむらに少し遅れてまどかも立ち止まる。
「ほむらちゃん、どうしたの?」
「鹿目まどか、あなたに警告しておくわ」
「え?」
まどかは「警告する」とほむらに告げられ身構える。
そんな身構えてるまどかに対し、ほむらは眼を少し細めてまどかに言い聞かせるようにその言葉を言い放った。
「もしあなたが今いる家族や友人のことを大切に思っているのなら、今すぐにキュウべぇと関わるのはやめなさい。あなたは、あなたのままでいればそれで良い。絶対に今の自分を変えようだなんて思わないで」
「ほむらちゃん、どうしてキュウべぇのことを……!それに、キュウべぇと関わるのをやめなさいって、どうして?」
ほむらがキュウベェの存在を認識していることにも驚いたが、なによりキュウべぇとは関わるなと言われたことに対して納得ができず、まどかはほむらに質問する。
「あの存在はとても危険よ。契約して魔法少女になってしまえば、あなたはいずれ破滅することになる」
キュウべぇと関わり続けて契約すれば、いずれ破滅する。キュウべぇと関りがある者なら誰だって今のほむらの警告を聞けば動揺するだろう。
まどかはほむらに言い放たれた言葉の意味が理解できずに困惑する。
「ほむらちゃんは一体何者なの?もしかしてほむらちゃんも魔法少女なの?」
「私が魔法少女かどうかなんて、あなたには関係のないことよ。とにかく警告はしたわ。私が今あなたに言ったこと、絶対に忘れないで」
「あ……」
まどかは少し手を伸ばしほむらを引き留めようとするが、ほむらはまどかに警告をするだけすると、まどかを一人その場に置いて廊下の奥へと一人で行ってしまった。
****
下校時刻
あれからというもの、ほむらはまどかに対し学校内で睨みつけたりすることは度々あったが、それ以外は特にこれといって何事もなく今日の授業は無事全て終了した。
「たっはあーつっかれたー!」
「……」
帰りのホームルーム後、仁美は習い事があるということでまどかとさやかと別れ、まどかとさやかは一緒に下校していた。
さやかは授業から解放されたことに解放感に身体を伸ばしながら、まどかはほむらから警告されたキュウべぇの話がどうしても頭の中で引っ掛かりなんともすっきりしないといった表情を浮かべながらさやかの隣を歩く。
「まどかどしたの?さっきからずっと考え込んで」
「うん、ちょっとね」
「朝転校生を保健室に連れて行った後からずっとそんな感じじゃん。転校生となんかあったの?」
ほむらから警告されたことをさやかにも今伝えるべきか。しかしほむらの話を信じ切ることができないまどかは、さやかに話してもさやかも混乱してしまうのではないかと、中々きりだせずにいた。
ほむらが嘘を言っているようには思えなかったし、しかしキュウべぇが自分たちを騙しているようにもとても思えない。そんなことを考えていると不意に後ろから声をかけられる。
「鹿目さん、美樹さん?」
「っあ」
「マミさーん!」
二人に声をかけたのは昨日廃ビルで魔女の使い魔に襲われていた所を助けてくれた同じ見滝原中学校に通う三年の先輩の魔法少女、巴マミだった。
マミの姿を確認したさやかはマミに駆け寄り、まどかもその後に続いた。
「二人とも奇遇ね。こんな所で…今帰り?」
「そうなんですよー!」
「こんにちわマミさん」
マミに会えたのが嬉しかったのか、さやかは元気に挨拶をする。まどかも続けて挨拶をするが、やはりどこか表情が曇っている。
「鹿目さんどうしたの?なんだか元気がないけど、何かあった?」
そんなまどかの様子を見て心配になったのか、マミはまどかに声をかける。
「今日の朝転校生を保健室に送ってからずっとこんな感じなんですよー」
「転校生?」
「はい、暁美ほむらっていう名前の転校生なんですけど」
「っ!?……そう、暁美さんが」
さやかから暁美ほむらという名前を聞いたマミは一瞬驚いた表情をし、暗い顔をする。
「マミさん?」
「二人は、暁美さんのことキュウべぇから何も聞いてないのね?」
「え、どういうことですか?」
さやかの今の反応からして、ほむらとキュウべぇの関係を何も知らないのだろうと思ったマミは二人に提案する。
「立ちながらもなんだし、歩きながら話しましょう、二人ともついてきて」
****
「転校生がマミさんと同じ魔法少女で、キュウベェの命を狙っているなんて……」
「やっぱりほむらちゃん、魔法少女だったんだ」
あれから二人は、マミから暁美ほむらという魔法少女のことについて色々と話をされた。
暁美ほむらは以前から頻繁にキュウベェと自分の前に姿を現し、キュウべぇを見つけては執拗に追いかけまわして殺そうとしており、魔女の結界内で鉢合わせすることも何度かあったがその度にお互いの価値観の違いでぶつかることがあった。
暁美ほむらがそうする理由はマミ自身にもよくわからないが、少なくともキュウベェの命を狙っているのであれば迂闊に近づくのは危険であり、警戒すべき相手だという。
「やっぱりってことは、鹿目さんの元気がないのも暁美さんが関係してるのね?」
「えっと、はい……実は」
まどかは、ほむらに言われた警告の内容を全てマミに伝えた。
家族や友人を大切に思うならこれ以上キュウベェと関わるのは危険だということ。そしてキュウベェと契約すれば、いずれは破滅の運命をたどることになるといことも。
「暁美さんがそんなことを……」
「はい。でもほむらちゃんが嘘をついてるようにも見えないし、キュウべぇが私たちを騙しているなんて思えなくて。……私どうしたらいいのかわからなくて」
「でもなんで初対面のまどかに転校生がわざわざそんな警告なんてするわけ?転校生にとって何の得もないと思うんだけど」
さやかの疑問も最もだ。
今日ほむらと会ったばかりのまどかからすればなぜ初対面の自分にそんな警告をするのか全く意図がわからない。
自分の立場が友人ならば心配という意味で警告するのはわかるが、今まで関りが無かった人間にそんなことを言うなど、ほむらにとって何のメリットもないだろう。
「とにかく、暁美さんの話に確信が持てない以上、彼女に関わるのは危険だわ。今は様子をみて、二人はできるだけ彼女と距離を取るようにしてくれる?」
「わ、わかりました…!」
「はい…」
マミからの話にさやかとまどかは頷くが、まどかは少し納得がいっていない様だった。
「まぁでも学校の中にいる間は私もいるから暁美さんも下手に接触してくることはないと思うし、何かあったら私が二人を守るから安心して……ッ!?」
「マミさんどうしたんですか?」
突然の話をするマミの顔が険しくなり、マミは周囲を見回しながらあたりを警戒していた。
そんなマミの様子が気になったまどかはマミに声をかける。
「ここからそう遠くない場所に魔女の結界の反応があるわ。多分、反応からして恐らく昨日鹿目さんと美樹さんを襲った使い魔の魔女ね」
「昨日のあいつらの」
「魔女……」
魔女は異次元に結界を作って閉じこもり人目をを避けながら活動しており、魔女に魅入られた一般人は魔女の口づけという呪いの刻印を刻まれ、自殺衝動が掻き立てられたり交通事故などに巻き込まれるように操られ殺される。
結界に迷い込んだ場合どうなるかは魔女によって異なるが、少なくとも一般人が生きて帰れることは奇跡でも起きない限りは不可能だろう。
まどかとさやかは昨日自分たちが襲われた時のことを思い出し、あの時の恐怖が身体に戻ってくる。
「昨日の鹿目さんと美樹さんみたいにまた誰かが結界に迷い込んでしまうかもしれないし、放っては置けないわね。鹿目さん、美樹さん、悪いのだけど私はこれから魔女の結界に向かうわ、話の続きはまた今度にしましょう」
「……あの、マミさん!」
魔女の結界へ向かおうとするマミをまどかは引き留める。
「どうしたの?鹿目さん」
「あの、私も一緒に連れて行ってくれませんか?」
「ちょ、何言ってるのまどか!?あたしたちマミさんと違って魔法少女になった訳じゃないんだから戦えないんだよ?マミさんについていったって邪魔になるだけだって!」
まどかからのとんでもないマミへの申し出に驚くさやか。
さやかの言う通り、まどかもさやかも魔法少女ではない。マミについていった所でお荷物になるのは確定であろう。
そんなまどかの申し出に対しマミはまどかを真剣な表情で見つめ、まどかに問う。
「どうして私と一緒にいこうと思ったのか、理由を聞かせてくれる?」
マミからの質問にまどかも真剣な表情で答えた。
「私、確かにほむらちゃんがどうして警告してくれたのか、その意味は今も全く理解はできてないです……。でも私はほむらちゃんのこと、出来れば信じてあげたい。だから自分の目で見て確かめたいんです。魔法少女のことも、魔女のことも。……マミさんの足を引っ張っちゃうのは私もわかってます。でも、お願いします!」
そう言ってまどかはマミに頭を下げる。
その様子をみていたさやかもまどかの隣にたって一緒に頭を下げる。
「あたしからもお願いします、マミさん!
確かにあたしたち、マミさんの助けにはなれませんけど、キュウべぇに素質を見出されて契約する権利があるなら、あたしも自分の目で魔法少女と魔女の戦いを見て、決めたいです…!」
「…………」
二人の話を聞いたマミは暫く考えこんでいたが、やがて二人の手を取って笑顔で二人の申し出に返答した。
「わかったわ。二人がそこまで言うなら一緒にいきましょう」
「マミさん……!」
「ありがとうございます!」
「でも約束して。絶対に無茶はしないこと、それから結界に入ったら何が起こるかわからないから、私のそばを離れないようにすること。約束できる?」
「はい!」
「わかりました!」
そうしてマミとまどかとさやかは、魔女の反応を辿りながら移動を開始し、しばらくして魔女の反応が最も強くなった所で、マミは足を止めた。
「ここって……」
「昨日、あたしたちが使い魔に襲われた、廃ビル?」
その場所は、昨日まどかとさやかが使い魔の結界に捉えられていた廃ビルだった。
「間違いない。反応からしてここに魔女が結界を作っているのは確定みたいね。二人とも、覚悟の準備は良い?絶対に私がさっきいったこと忘れないで、傍を離れちゃ駄目よ」
「はい!」
「はい!」
二人の了承を確認して、マミは変身して魔法少女の戦闘衣に身を包み、廃ビルに足を踏み入れる。
その瞬間、景色は一変し壁は肉壁に、それに付き刺さる鋏のような刃物、そして薔薇のような花と茨で構成された空間が出来上がった。マミがあたりを見回し周囲を警戒するが、使い魔は見当たらないようだ。
「うわぁ、やっぱいつ見てもグロいなぁ……これ」
「う、うん」
さやかとまどかはその異様な空間を再び目にし、二人は身体を緊張で強張らせる。
「急ぎましょう、魔女はこの結界の最奥にいるはず。あまりもたもたしていたら、移動されてしまうかも……」
それから三人は魔女の結界内を歩き続けるが魔女はおろか、使い魔の姿も全く見当たらなかった。この異常な事態にマミは不安感を覚える。
「なんか、すごい静かじゃない?」
「うん。昨日私たちを襲った使い魔も全然見かけないし、変だよね……」
さやかもまどかもあまりの結界内の静けさに違和感を感じたのか、二人も不安げな表情でマミのそばを歩く。
「ううん、余りにもこれは静かすぎる。二人とも油断しないで。この結界、なにかおかしい……っ!?」
マミはまどかとさやかに油断しないよう警戒を強めるが、その瞬間結界内に異常が起き始めた。
「うわぁなに!?じ、地震!?」
「マミさん、一体どうなってるんですか!?」
さやかもまどかも、何が起きているのか理解できずパニックになる。
「そんな、結界が崩壊している!?どうして、まだ魔女は倒されていないはずなのに、どうなっているの!?」
マミ自身もこの異常な状況が掴めず、マスケット銃を構えて周囲を警戒する。やがて結界の空間は段々崩れていき廃ビルへと戻っていく。そして結界の崩壊を引き起こした原因である一人の人物がマミたちの目の前に姿を現した。
「あなた、一体誰!?何者なの!?」
突如目の前に現れた人物に、マミは一滴の脂汗を流しながらマスケット銃の銃口を向ける。まどかもさやかも、その異様な雰囲気とプレッシャーにも似た圧を放つ人物に怯え、マミの後ろへ隠れるように下がる。
「……」
そこに立っていたのは、恐らくは魔女の物だったであろう血で黒い大剣を真っ赤に染めた【仮面】の姿だった。