やはり私の戦車道はまちがっているのかしら。   作:まなぺ
<< 前の話 次の話 >>

65 / 67
145 モノリスはやらせたい4

『西さん、戦乙女©準備室で会いませんか』

 

 足かけ六年の歳月を過ごした部屋を出る準備をしていた私に、比企谷さんから電話がかかってきた。先日お願いしていた、千葉へ戻った後の戦車道の取り組みの件で、陽乃さんに相談してくれたようで、年末に一度顔を出すように連絡をいただいたのだ。

 

『西さんは自分の戦車道を一度、外側から見た方がいいと思います』

 

 と、言われたのだ。外側とはいったいどういう意味であろう。たしかに、私の戦車道は知波単の教えが染みついている。というか、他の戦い方を知らない。

 私が隊長になって、まともな勝利は一度もない。勝つことがない。戦車道においては勝利を度外視して楽しむという発想しかないのだろう。私に限らず、仲間は皆そうだ。戦車道の家元の目に勝利を度外視する私たちはどのように映るのだろう。

 他人の目はまだよい。私たちの戦車道の先になにがあったのだろう。青春の一時期を過ごすためだけの場所にすぎないのか。

 

 例えば、先日のモノリス。はっきりとは言われなかったが、総武の戦車道の選手からは、嘲笑まではいかないが『やれやれ』というどこか関わりたいくないような雰囲気が流れていた。新しい試合に興奮していた知波単生たちは気が付かなかったのかもしれない。実際、将棋の件も一過性でおわり、モノリスも3両での突撃をするためのイベントにしかならなかった。

 おそらく、勝利を目指すチームと楽しむチームでは、選手の資質自体に大きな隔たりがあるのだろう。

 

「俺たちの戦車道は、勝つことを楽しみ、勝つ過程を楽しみ、敗北さえも糧とし楽しみます」

 

 比企谷さんの言葉らしい。なるほど、わずかな期間で多数の練習試合をこなし、全国大会初出場でベスト4、それも経験者はわずか2名のチームでだ。そこで敗北したサンダース大付属には、きちんと秋の新人戦で勝利している。

 

――― あまりに私たちと違う戦車道のあり方に、どこから取り組めばいいのか、さっぱりわからないのだ。

 

 

 

 

 西さんの声がいつになく沈んでいた。まあ、あの仲間の姿を見て自分の立っている場所を考えたとき、憂鬱になる気持ちはわかる。一年前、俺も奉仕部の部室で同じ思いをしていた。これでいいのか何度も自分に問いただした。結局、答えを出すことができたのは、あのクリスマスの合同イベントの会議の場を通してだった。

 西さんの悩みを解決する場所は、知波単にはないのだ。離れた場所に立ち、自分たちの姿を遠くから眺めてみることも大切だと思う。

 

 

 

 

 思ったより早く西さんは戦乙女©準備室に現れた。多分、いてもたってもいられなかったのだろう。

 

「西ちゃん、いよいよ仲間に加わるんだね~」

 

 なにか、ドラクエのモンスターのような言われかただな。干しイモ会長こんにちは。今日は、モノリスの試合の組み立ての考察をカメさんチームと雪ノ下さんと話している。

 

「サンダース大のケイたちとモノリス練習試合するからさ杏ちゃん達も参加ね。それで、38(t)はその時お披露目かな」

「比企谷ちゃんから話聞いてくれたんだ」

「そうそう、大洗のヘッツアー改をもどして、新しいヘッツアーを渡そうかと思ったんだけどさ、たまたま出物があって程度が悪いから、スズキさんたちが手直し中なんだ」

 

 さすが雪テク契約社員様たちだ。大洗の時以上に仕上がるのか期待が高まる。

 

「そしたらさ、西ちゃん38に一緒に乗りなよ。で、何がやりたいのかな」

「はい、知波単の戦車道では突撃することが目的の戦車道でした。突撃を生かす戦車道を学びたいのです。まずはそこから始めようと思います」

 

 いいジャン、考えてきたじゃん。何も出来の良い他人のまねをすることはない。所詮、自分の中に存在しないことは、育ちはしないのだ。すでに突撃するというコンテンツが存在するなら、それを生かす戦い方や発想を考えればよい。

 

「そしたら、砲手か操縦手どっちかやりなよ。いいよな、かわしま」

「はい、問題ありません」

 

 桃ちゃんいたんだね。柚子ちゃんには聞かないのか。

 

「砲手でお願いします」

「OK~ じゃあ、あたしがみっちり鍛えるよ‼ 」

 

 

 

 

 38(t)が到着するまで、シミュレーターで練習してみてもらう。西さんは最近ずっと隊長/車長専任で、砲手は兼任しておらず、ブランクが相当あるようだ。ちなみに、砲手としてもそれほど優秀ではない。なぜなら、知波単の射撃自体が賑やかしの傾向が強く、行進間射撃を平気でする。

 

――― 躍進射撃が旧軍の基本じゃねーのか。ヤキマで修行してこい‼

 

 前回もシミュレーターを使用したトレーニングを受けたものの、まあおさわり程度なので、今回が本格的なものとなるだろう。

 

「まず、最初のステップから確認ね」

 

 新人が行うレベルで実施する。相手は反撃もしないし、照準して発射するだけ……遅くないか反応が。まあ、一色とか川崎とか三浦を見慣れているからだけど、明らかに遅い。こちらが停止していたとしても、相手が動いていれば1秒間に数メートル移動してしまう。判断が0.3秒遅ければそれはすでに効果のない射撃となる。そのくらいのシビアさがないと撃破へつなげられないんじゃないのかな。

 

「西ちゃんは、射撃の練習最初どうしていたの」

「はあ、戦車に乗って、標的に向けて撃つ……とかです」

「ふ~ん。じゃあさ、手本になるような砲手はいたかな」

「…………おりません。知波単ではノンナさんやナオミさんのような砲手はおりませんし、そもそも長距離を砲撃できる砲を有しておりません」

「そんなの、大洗女子だって同じだよ。君の砲手としてのスキルは砲の性格以前に練習量が足らない結果だと思うよ」

 

 そうだな。それと、当たり前なのだが、戦車が次にどう動くか洞察が不足している気がする。前進か旋回か停止か。発射する際は戦車自体が一瞬停止する。向こうが狙う瞬間がこちらのチャンスでもある。シミュレーターでは難しいが、実戦であれば相手に砲撃させるように仕向け、それを外させてから撃ちこむもしくは、その前に撃ちこむことも可能だ。

 これをさらに総武海浜だと、挑発したり混乱させたり文字通り煙に巻いて、相手の射撃のタイミングをずらす工作をする。0.3秒でも相手が反応を遅らせることができれば、当たらない・こちらへチャンスが来るのだ。

 

「ま~西ちゃんは練習不足だね。あと、突撃が上手な選手の動画とかみて、どうしてここで突撃するのかを、自分なりに推論するべきだよ。のべつまくなし突撃なんてしないよね。成功すると確信した理由があるはずなんだ。それを自分で見つける工夫をすればいいんじゃないかな。多分、射撃の能力が改善されたとしても、片手落ちの結果になると思うよ」

 

 干しイモ会長は厳しい言葉をつなげた。彼女曰く、自分の成功の秘訣は『見取り稽古』の密度だそうだ。簡単に言えば見学上手。上手な人の動作を完全にコピーする。その人の動きとへたくその動きを比較し、その誤差をデータとして蓄積する。2つの軸ですすめることで、うまくいかない理由を認識し、失敗を修正することができる。

 これは、音痴の人が音痴である理由と真逆なアプローチだ。音痴は、まず音程があっているかどうか耳で聞き取れない。ピアノの音を出して「この音を声で出してい下さい」といった場合音程が出せない。だから、何度聴いても曲に合わせた音程・音階が抑えられない。さらに、テンポや音の刻み方もわからない。なので、歌詞は同じでも、まるで違う曲となる。知波単の生徒は全員戦車道音痴なのだという結論に達する。

 音痴だと、ごまかすために大きな声でがなり立てたりする。それが突撃なのだ。音痴の照れ隠し=突撃。そりゃ勝てないわな。

 

「だから、寝ても覚めてもだよね比企谷君」

 

 雪ノ下さんがつなげる。一色が言う、雪ノ下が言う寝ても覚めてもの状態までやり込まないと、感覚が身につかない。多分、雪ノ下は本質的に音痴だ。それに気が付いているから、練習を積み上げて身に着けることを重ねて今に至っている。おそらく、自分がどの程度積み重ねれば身につくかを理解しているのだろう。

 一見、同じ結果に見える雪ノ下さんと雪ノ下にはそういう差がある。天才の真似をする秀才にはそれしかなかったのだろう。

 

――― 全部自分でしなくていい、ということを認める前は、この性格は大いに問題だった。なにせ、時間には限りがある。抱え込んでバーストするしかなかった。

 今は、むしろ長所だ。なにせ、どのくらいやれば目標に達するか見積もりが正確に出せるのだから、計画を正確に立てられる。雪ノ下さんはできない。自分には必要ない能力だからだ。戦乙女©に俺や雪ノ下、角谷さんが集められた理由はそれが最大であろう。

 

――― 天才は自分を基準にして人を考えられない。ゆえに、周りに天才を理解する秀才を集め、彼らに凡才を教育させる。

 

 西さんは大いなる凡才だが、飛び切りの凡才だ。彼女を戦力になるまで育てることができれば、次につながるのだ。彼女の後ろにはいく百の人たちが連なり、その人たちを育成することが、この組織を飛躍させることに繋がる。

 凡人に非凡なことをさせるものを『天才』というのだけどね。

 

 

 

 

「じゃあ、西ちゃんもいるんで今回は、あたしたち攻撃のポジション頂きます」

「いいよ、一色ちゃん遊撃でいいけど、私たちは攻撃的防御で頑張ろうか、めぐり」

 

 城廻先輩は……事務方のはずだが、はるのんに付き合わされて現在、操縦手をこなされております。まあ、はるのんの射撃センスがあれば、操縦手が並でもなんとかなるらしい。

 例えば、有効射程が1000mとすいると、モノリス間の中央が1000Mの位置となる。砲手が優秀であれば、若干の移動でその戦域全体をコントロールできる可能性が高い。自分が姿を見せ、その存在から攻撃をかけるふりをするだけで、相手は相当攻撃を制限される。ボクシング巧者が、肩の動かし方でフェイントをかけるように、足運びでコーナーに相手を追い詰めるように、モノリスレベルなら戦場をコントロールできる。島田流の上級者であれば、モノリスで無双ができる可能性が高い。

 

 

 

 

『ハッチ、セッティングありがとね』

「いいえ、こちらこそお時間頂いて恐縮です」

『ハルノ出てくれるんだってね。たのしみだわ』

 

 ううう、ケイさんすみません。お礼を言われるようなことは何もしていないんです。むしろ、危険です。

 

 

 

 

 私は、千葉に戻ってすぐに戦乙女の準備室を訪問した。そこには陽乃さんをはじめ、大洗の角谷さんや比企谷さんがいた。いきなりではあるが、自分の思い悩んでいたことを正面から切り捨てられた。

 

『練習が足らないだけ』

『一時期は集中しなければ効果がない』

『戦車道で何がしたいの、何ができるの』

 

 辛辣ではあるが、それ以上に実のある心のこもった質問であったし、意見をしていただいた。知波単の六年間に今日の1日に勝る時間がどれだけあったのであろうか。残念ながら、思い浮かべることはできない。

 彼ら彼女らは私と同世代であるにもかかわらず、濃密な時間を過ごし大きな存在となっているのだ。私は及ばなくとも、後を追う覚悟をした。それにしても比企谷さんは、わずか4か月でゼロからチームを作り上げ全国大会で準決勝進出までこぎつけた。

 さらに、秋の新人戦は陽乃さんと二人で計画し、麻生の叔父様まで巻き込み、大きな成果を上げた。その過程では、あの西住流の家元にまで意見したという。同じ年齢の男性がだ。そして、西住姉妹の仲を取り持ち、黒森峰の選手たちにも大きな影響を与えたという。

 

(すいません、成り行きでなっちゃったんです。勢いです:八幡談)

 

 麻生の叔父様には『絹代ちゃん、比企谷君をぜひものにしなさい』と言われている。いるがだ、既に比企谷さんには雪乃さんがおり、大洗の武部さんや最近は西住みほさんまで彼を意中の人としているようだ。

 私はかなり出遅れている。そして、この気持ちが本物であるなら、私の初恋の人は比企谷さんなのだろう。しかし、世間では初恋は実らないものらしい。

 

 だがしかしだ、実るも実らないも関係なく、私は自分を押し通す。そう心に誓うのだ。

 

 

 








感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。