やはり私の戦車道はまちがっているのかしら。   作:まなぺ
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144 モノリスはやらせたい 前編

 

『ハッチ、なんか楽しそうなこと考えてるんだって。ハルノが言ってた!』

 

 いきなり見知らぬ電話番号から電話だった。昔なら出ないんだけどさ、最近、戦車道関係者からいきなり電話があることがあるので出てみたら、フレンドリー三浦のケイさんだった。

 

『去年はタンカスロンで”大釜”ってイベントがあってさ。まあお祭り騒ぎで楽しかったけど、練度の向上にはつながらなかったの。で、モノリスだっけ、中々面白そうな取り組みじゃない』

 

 ああ、知っていて聞いてくるパターンですね。

 

 簡単にレギュレーションのおさらいをしよう。

 

・参加車両数   3両

・戦車のレギュレーション重量:40t以下

 主砲:20ミリ以上50ミリ以下 単砲塔もしくは単砲身のものとする

 

・試合会場 モノリス間を2㎞離すこと。コース幅は1㎞内外が好ましい。

・試合時間 30分

・勝利条件 モノリスの破壊または撃破数の多いチームの勝利

 

 重量制限を設けたのは、骨董品の巨大戦車を防御用に配置してゲームが成り立たなくる可能性があるからだ。

 

『ふーん。うちはM22とかM3あたりが使えるのね』

 

 米軍仕様だと、75ミリ砲が最低ライン多いからね。37ミリ砲装備の車両のみが対象で……シャーマンで揃えたサンダースは微妙かな。

 

「まあ、雪ノ下さんのM4の次はM3軽戦車をスタンダードとした小規模のゲームを考えるように言われてバスケの3on3に、ある小説に登場するゲームを組み合わせて戦車道に落とし込んだルールです。すでに、大洗女子にはM5を供与して、新人教育に使うようです。大洗は西住さんの卒業した後、大幅戦力ダウンしますから。その対策を兼ねています」

 

『さすがハッチね。ハルノのオーダーとミホの悩みを一挙に解決して、その上で、戦車道のプロ化に必要なテクニックの底上げをするなんて。Coolね相変らず』

 

――― そうじゃないんです。雪ノ下さんの思い付きに振り回されて、みぽりんからの毎日相談電話で一杯になった結果の苦肉の策なんです。そこには、西絹代さんもいてカオスなんだよ。

 

 最近、雪ノ下が受験勉強本格的になっているからさ、その分相手をせずにすんでいるんだけど。

 

 そういえば、合格通知書きたよ。とりあえず、オヤジに伝えて、入学金払ってくれるように頼んだ。『おめでとう』って一応言ってもらえた。まあ、ありがたいよな。

 

『で、サンダース大の有志で体験したいんだけど、できそうかな』

 

 いやちょ、マテヨ。サンダース大お金持ちだから、自分のとこでできるじゃん。モノリスの代わりに無人のシャーマンでも置いとけばさ、できるだろ。

 

『まあ、それでもいいんだけど、千葉大の戦車道同好会と試合? してみたいからさ。ハッチ、セッティングしてよ』

 

「はあ、雪ノ下さんに頼んだ方がいいんじゃないですか」

 

『ハルノ、最近忙しそうだからさ、なんか頼みにくくて。こっちはアリサとナオミとタンカスロン経験者も連れて行くからさ……OK?』

 

 ナオミさん、モノリスやらないよな。近間での戦闘するのかな。

 

『あー ナオミ、最近ユミの影響受けて、ニアでも勝てる砲手になりたいんだって。全日本でも長距離だけよりニーズあるしね。大学選抜の隊長たちみたいなコンビネーション研究しているから、モノリスは魅力あるみたいなんだ』

 

――― あーバーミューダ三角地帯ね。

 

「うちの相模隊も似たようなことやりますよ。1両囮にして残りの2両で挟撃みたいなやつでしょ」

『そう、ミナミたち呼べないかな』

「年明けまで無理です。あいつらも受験生ですから」

『そうか。じゃあ、千葉大の件だけでもお願いね』

 

 もう、師走の声も聞こえるのにな……本当に走り回らなきゃだよ。

 

 

 

 

「比企谷君、合格通知来たのよね。おめでとう」

「ああ、サンキュー雪ノ下。そっちはどうだ、順調か」

「ええ、あなたに戦車道のことはお任せしてしまって申し訳ないのだけれど、一応順調だと思うわ」

 

 お前がこけるとシャレにならないからな。一応、みぽりんも合格通知来ているらしく、サオリエルとの温度差がでかい。サオリエルはプレッシャーかかってきているらしく、毎日、冷泉麻子合宿らしい。夜の勉強は麻子りんが担当し、朝起こすのはサオリエルの担当らしい……なんだかな。

 

 まあ、二人が千葉大に合格すれば、同じ場所で生活するのだし住むところも多分隣りあわせだろうから、遅かれ早かれだな。

 

「それで、前々から話していた…………一緒に住む場所なのだけど、いくつか物件は目星をつけてあるので、週末にでも一緒に見てもらえないかしら」

 

――― 忘れてた。そうだ、俺は雪ノ下とシェアハウスするんだ。なんか、緊張するんですけど。ずっと部室の緊張感が続くのかな……胃が痛てぇ。

 

 

 

 

 雪ノ下家の黒い車にのり、四谷周辺のマンションを渡り歩く俺ガイル。助手席には不動産の営業さん、後ろの席にはなぜか雪ノ下さんもいる。なんで。まあ、5人乗れるけど、はるのん何で真ん中座るの。

 

「それは、雪乃ちゃんと比企谷君が不適切な関係にならないように、部屋の間取りとか、確認するためだよ。あと戦乙女©東京分室も兼ねるから、間取り的にある程度の物件じゃないとだめだからさ」

 

――― 聞いてないんだけど

 

「ああ、言ってないからね。雪乃ちゃんは知ってたわよね」

「ええ、その為の東京住まいですもの。承知の上よ。比企谷君、手伝いなさい」

 

 俺には拒否権ないからね。

 

 

 

 

 最初の物件は……●本木ヒルズの居住棟(レジデンス)で300㎡あります。まあ、月の家賃も300万円だそうです。

 

「広いね~ マンションにしては」

 

 いや、あんたの実家を基準にしないでよね。

 

 マスターベッドルームが20帖に洗面所とトイレが接続。他に3つのベッドルームと1部屋はシャワートイレ付、その他に風呂洗面室が1箇所。キッチンダイニングで20帖で、その他にリビングダイニングが50帖でここにもう1箇所トイレがある。どんだけだ。トイレだけで4カ所ある家……

 

「このくらい広いと、ある程度人も招けるし、私もなんかあったら泊まれるね……いいかも」

 

 あんた、家賃月300万だゾ、1年で3600万円。千葉で一戸建てが買えます。

 

「だって、経費で落とすし、会社の事務所で東京ならこの広さで300万円はないよ。ヒルズでしょ。高いとは思わないけど」

 

 えええ、高校生の俺には解らない感覚だ。

 

「戦車1両いくらすると思ってるの。中古でもここの年間家賃位するのザラだよ」

 

 そうなの。そうだよね。やっぱり金銭感覚がわからないよね。お金持ちって。

 

「まあ、最悪ここかな。あんまり名前の知られている芸能人が住んでいるような物件はさ、雪乃ちゃん的には好ましくないからね」

 

――― なんで。

 

「だって、比企谷くんと雪乃ちゃんの間にいかがわしい関係がないと私は知っているけどさ。まあ、あっても君が責任取れば問題ないんだけどね」

 

――― 責任……とるって……腹でも切れっていうのでしょうか。

 

「あはは、まさか。小指ですますよ‥…てのは冗談でさ。この半年の活躍で、君の評価はウナギの滝登りなわけ。雪ノ下の家でね。

 雪乃ちゃんがきちんと前向きに家に協力したり、将来の事考えているのはさ、君のお陰でもあるわけだよ。それはうちの両親も理解しているんだ。じゃなきゃ、いくらなんでも一緒に住まわせるなんてOKしないよ。あのままだったら、実家で監禁でもしなきゃって話だったんだよ」

 

 まじか。雪ノ下危機一髪だったな。見合いとかで適当に…………

 

「ムリ、てかダメ。家名に傷がつくでしょ。あんな誰彼かまわず咬みつくんだもん、無理よ。座敷牢か病院送りにされてたわ」

 

 ゆきのん、聞いていたのかお前。やばかったな。

 

「文化祭の仕掛けも姉さんのいたずらではなく、母さんのテストだったわけね」

「御明察。危なかったよ雪乃ちゃん。年末実家に帰ってきて比企谷君との話しなければさ、1年後には……大変なことになる予定だったんだよ」

 

 まじか……怖くて内容は聴けない。

 

「そう――― でも、もうどうでもいいことだわ。わたしは変わったし、わたし抜きではこの計画無理ではないけど難しくなるもの。だから、お互いが今の関係を維持できるように努力するべきだと思うのよ。姉さんそうではなくて」

「言うねぇ雪乃ちゃん。比企谷君と色々頑張っているからね、この同居話はその御褒美でもあるんだ」

 

 まあ、ここはともかく、雪ノ下のそばにいられるのは正直嬉しい。考えたことが形になる、雪ノ下が階段を上る姿を見ていたいからな。

 

「そうね。間取りはともかく、環境は良くないかもしれないわね」

 

 

 

 

 次は、虎ノ門のそばの同じ系列のマンション。200㎡で3ベッドルーム。トイレは1箇所減って3箇所だ。リビング36帖。

 最後に、元麻布で200㎡だが、リビング31帖でベッドルームがちょっと変則のレイアウトだ。

 

「これだと、二人の寝室が真隣りか住戸の両端になるから、虎ノ門の部屋の方がいいわね。家賃も一番安いしリビングが広めなのもいいわ」

 

 主寝室が13帖しかない(しかってなんだよ。24㎡だぞ)が、その分収納が充実している。よかったな。たくさんパンさん並べられるぞ。それと、その間に13帖の部屋は事務所だな。おれは10帖の部屋をもらえるのだそうだ。窓が小さいぞ。まあ、俺の人生を象徴しているのかもしれない。

 

「わたしの部屋はバルコニーがあって良いわ。あなたの部屋も窓があって良かったわね」

 

――― 格差社会ってやつでしょうかね。

 

 

 

 

「雪乃ちゃん、じゃあここで契約しちゃうね」

「お願いするわ」

 

 家賃150万円分の仕事するって、どんだけこき使われるんだ。まあ、都内で事務所借りるよりはいいのかもしれないけどね。

 

「まあ、安心しなさい。取って食うわけじゃないから」

 

 いやいや、食べてもおいしくないでしょ。俺なんか。

 

「いいな~ 雪乃ちゃんは4月から比企谷君とラブラブ生活始まるんだ~。お姉さんは入り浸ろうかな~」

「大学どうするの。わたしの今いるマンションをそのまま使う気なんでしょ。だから、別にわたしの為ってだけではないじゃない」

 

――― そうなの。そういうことなの

 

「ちぇ~ まあ、そうだけどそれだけじゃないじゃん。雪乃ちゃんは本当に人生変えたんだよね」

「ええ、これからも変わり続けるわ。そうよね、比企谷君」

 

 そうだ。雪ノ下みたいな美女と同じ屋根の下で暮らすとか……マジ考えられないというか、考えないようにしよう。

 

「雪ノ下だって絶対はないんだから、気を緩めないでくれ」

「当り前じゃない。沙織さんだって頑張っているのに、これでわたしが落ちたら意味ないわ」

 

 サオリエルは大天使だから大丈夫。神のご加護があります。

 

「雪ノ下さん、ケイさん戦車道同好会とモノリスの模擬戦したいって連絡いただいています。どうしましょうか。相手はタンカスロン経験者みたいです」

 

「そう、私とめぐり、カメさん、あと小町ちゃんたち借りれるかな。戦力的に落ちるからさ」

 

 タンカス聞いて燃えてるくさいな……ご愁傷さまです。

 

 

「そう言えば、ディスティニー行くのはいつかしら?」

 

 思い出した。俺合格したら雪ノ下とバンブーファイト12時間耐久に出場するんだった。

 

 

 

 

 

 まあ、約束だから仕方ないんだよな。12時間耐久か……まあ、屋内のアトラクションだから、そこだけは救いだな。

 

「お兄ちゃん、来年東京で雪乃さんと一緒に住むって噂あるけど、本当なの」

 

 小町さん、誰から聞いたのでしょうか。

 

「戦車道履修している子たちの間では……かなり有名だよ。まあ、でも、全然釣り合っていないから、『住み込みのマネージャー(笑)』って言われているけどね」

 

――― はいはい、釣り合っていませんですのことよ。まあ、でもあいつが必要としているのだから別に外野の意見はいいんだよ。

 

「通えないわけじゃないのに、なんで家出るの?」

「戦車道のプロ化の案件、そのまま持ち越すからな。俺と雪ノ下で東京方面の窓口を担う。雪ノ下はその為の赤門志望だし、俺の推薦もそのためだからな」

「はぁ、そうだよね。小町も文化祭ビックリしたもん。何で現役の副総理大臣、文化祭に来てるのって。TVで見た芸能人がいるよりよっぽどびっくりだよ」

 

 当日は……警備の警官とかSPさんとか沢山いて、ロケかと思ったよ八幡。

 

「大学も戦車道会館のそばでいきたい私立文系に決めたし、部屋もこの家より全然広い。200㎡もある床面積」

「何それ、どんなヒルズなの」

 

 小町ちゃん、ピンポイントで場所特定するような言い回しやめてください。

 

「さすがにヒルズは内見だけだな。雪ノ下さんは広さはともかく、芸能人がいるようなところに雪ノ下を住まわせたくないみたいだし。あれだ、一時期外資系の機関投資家の外国人幹部が住んでいたような感じの部屋だな。ちょっとしたホームパーティー出来るくらいのスペースがある」

「そこに――― 二人で住むの? お掃除お兄ちゃんの仕事だよ多分」

 

 えええぇぇぇ、考えてなかった。ルンバ3台くらい買ってもらおうかな。

 

「そうか。お兄ちゃんは雪乃さんと先に進むんだね」

「まあ、約束したしな。アイツを裏切るわけにはいかない。そんな生き方したら後悔するしな」

「えへへ お兄ちゃんらしくないじゃん。リセットするんじゃないんだ」

 

 そんなこと言っていたな。葉山に『そんなことできない。君だけだ』って言われたな。あれ、いつの間にやら俺もリア充の仲間入りか。

 

「何言ってるのお兄ちゃん。副総理が名前呼んで固い握手するような人なのに」

 

 いや、政治家握手だから。仕事だからさお互い。

 

「はぁ。あのね、今、お兄ちゃんが消えたらどれだけ困る人がいると思っているの?」

 

 そう、俺は消えたいくらいなんだ。でも、それは許されない。第一、オヤジが雪テククビになると、小町が困る。それは兄として避けねばならない。

 

「それだけじゃないよ、大洗にだって、戦車道の中の人だって沢山いるじゃん。もちろん、優美子さんや姫奈さんや南さんもだよ」

 

――― あれ、去年の今頃は教室のヘイト・オブジェだった俺が、いつの間にそんなことになったんだ。

 

「馬鹿なこと言ってないで。クリスマスイベントのあと、なにかあったことぐらい小町でも気が付いているから。だから、雪乃さんとのこと、ちゃんとしてね」

 

 もうあれから1年近くたつんだな。てか、まだ1年たってないのか。凄い昔な気がするな。俺もアイツもずいぶん変わったしな。しかし、雪ノ下さんの危機一髪発言には痺れたな。ほんと、道を変える瞬間ってあるんだな。

 

 

 

 雪ノ下と駅で待ち合わせ。てか、マンションまで迎えに行くよ。

 

『当然、迎えに来るでしょ』

 

って言われました。まあ、いいんだけど。

 

「雪ノ下、準備はどうだ」

『比企谷君、もう少しかかるから、上がって待っていてもらえるかしら』

 

 去年の文化祭の時初めて来た雪ノ下のタワマン。いやいや、いつ来ても緊張するな。最近、雪ノ下のマンションへはそれなりに来る機会がある。送ったついでにお茶を御馳走になったりする。別にそのあと何がある訳でもないのだが、最近は部活も終了して学校で会う機会もない。

 実際、12月初めに定期試験があって、高校生活は卒業式を残して終わるのだ。あと1ヵ月もないのかもしれないな。

 

「お待たせして申し訳ないのだけれども、お茶でも飲んでいて」

 

 相変らず殺風景な部屋だな。まあ、自分の部屋はそれなりに、いや盛大にパンさんグッズであふれていると見た。まあ、来年は同じ家に住むわけで、そのあたりどうするのかも雪ノ下の入試の後、考えなきゃだよな。色々決めないとだし、生活用品も購入しなきゃだし……雪ノ下の指示で。

 

「お待たせしました。さあ行きましょう」

 

 今日も美しいですね、Yes your highness

 

 

 

 

 雪ノ下は年パス2枚持っていた。なんで俺用のあるの。

 

「こういうこともあろうかと用意しておいたのよ」

 

 どこの真田さんだよ。まあ、楽しみにしていてくれたんだろうな。今日は、12時間耐久頑張るよ俺。

 

「あら、来年の下見ですもの、パンさんは最初の2回と最後の2回とだけでいいわ」

 

――― でも、4回は乗るのね。

 

 

 

 

 相変らず、雪ノ下はバンブーファイト中は、ものすごい集中力を発揮して、静止画のように動かなかった。正確には目だけが動いていた。テニスの時とか生かされているのか、その動体視力。

 

「ふぅ、集中したわね」 

 

 お前だけな。何回も乗ってるけど、どこが変わっているんだろう。ウォーリーを探せ的にわからんな。

 

「比企谷君、あなた東京で一緒に暮らし始めたら、いかにパンさんが素晴らしいかを骨身に染みて理解させてあげるわ。ええ、理解できるはずよ、必ず」

 

 おい、おかしくねえか。

 

 

 

 

「さて、比企谷君どこへ行こうかしら」

 

 今日は幸い天気も良いので、色々楽しめそうだ。ちなみに今はファンタジーランドにいる。

 

「そうだな、ウエスタンランドから順に回るか。まあ、トゥモローランドはSFっぽいし、女子受け悪そうだからな。そこ以外で楽しもう」

「そうね。ジェットコースターっぽいものも多いもの」

 

――― ゆきのん、相変わらず苦手なのね。

 

 ウエスタン鉄道は、ただの蒸気機関車だが、まあ、風景はディズニーらしい風景が見られる。

 

「比企谷君、わたしたち旅行したことないわね」

「千葉村いっただろ。あと修学旅行」

「……そうじゃなくて、ふ・た・り・で よ」

「それはそうだろ。お前と俺はそういう関係じゃない」

「わたしは、べつに……二人旅でも構わないのよ。ええ、来年は一緒に住むのだし、戦車道で二人で行動することも多くなるとおもうのよ。だから、というわけでもないのだけれど、今までの様に部室に行けばあなたに会えるというわけでもないので、積極的に二人で行動しようと思うのだけど……どうかしら」

 

 いやいや。家にいるじゃん。二人で住むんだろ。

 

「そうね。それは、日常の大切な積み重ねではあるのだけれど、この先、戦乙女の仕事の関係で、二人だけ先乗りする場合もあるのではないかしら。その時に、困らないようにあらかじめ二人で国内の有名な戦車道の聖地をめぐることも必要だと思うの。ええ、仕事なので仕方がないのよ。その過程で、色々なことがお互い理解できるのではないかしら」

 

 まあ、武部さんもそうだけど、次の事を考えて今の大変な気持ちを凌いでいるんだろう。自信があるとは言うものの、確実ではないのだからな。

 

「おう、お前の行きたいところがあれば、どこにでもついていくさ」

「ええ、あなたは従者なのだから当然ね。でも、そろそろ騎士見習くらいにはしようかと思うのよ。どうかしら」

 

 お気の召すままにでございますわよ。最近、アクティブだな雪ノ下。あれだ、戦車道で血の気が増えているのかもしれないな。みぽりんも戦車道している人は血の気が多いと言っていたし、冷泉麻子は朝の目覚めが改善しているらしい…………自分で起きろや。

 

「宮古島にももう一度行きましょう。二人でね」

 

 そんな約束もしていたな。意外と忘れていないもんだ。

 

 

 

 

 バンブーファイトも4回目をこなし、パンさんグッツコーナーで限定ぬいぐるみも買った。

 

「いいのかしら……その……買ってもらっても」

「ああ、雪ノ下家には世話になっているしな。バイト代もそれなりにもらっている。お前にプレゼントするくらいの器量はあるんだ」

「……ありがとう。大事にするわ」

 

 素直にお礼を言われると面食らうな。

 

 

 

 

「最後に、乗りたいものがあるのだけれど、付き合ってもらえるかしら」

 

 雪ノ下がリクエストしたのは、去年二人で乗ったスフ〇ラッシュ・マウンテンだった。あれ、お前苦手じゃなかったのか。

 

「ええ、苦手だったわ。でもね、あの頃とはちがうのよ。母とも姉ともやり直せたのだし、何より隣にあなたがいるのですもの。比企谷君…………いつも私を助けてくれて…………ありがとう」

 

 あの時見た儚げな微笑ではなく、はにかむような笑顔で雪ノ下は俺の手を握っていた。

 

 

 

 

 雪ノ下を家まで送り、俺は帰宅している最中だ。なんだ、今日はあっという間に終わったな。

 

――― あれ、電話だ。誰だろう……

 

『比企谷さん、いまよろしいでしょうか』

 

 西さんでした~。どうしたんだろう。

 

『えー とりあえず推薦入試の合格通知が参りましたのでご報告です』

 

 良かった。戦車道関係ないのか。

 

『それで、落ち着いたので、一旦、期末テスト終了後は学園艦を引き払いまして、実家へ帰る予定なのです。あとは卒業式だけですので』

 

 なるほど、自由登校も関係ないしな。

 

『ですので、比企谷さんのお時間があるときに、お会いしてお話がしたいのですが…………よろしいでしょうか』

 

――― はい。なんだろう。厄介ごとでないといいのだけれど。

 

『戦車道を知波単でこれ以上取り組むのは無理なので、一足先に戦乙女でのトレーニングを始めたいのです。そのメニューの相談とか……お願いしたいのです』

 

――― 業務でした。まあ、知波単と離れれば西さん自体はそれほど問題ないからな。何なら、戦車道同好会でのトレーニングに参加してもらえば、雪ノ下さんもいるし良いかもしれないな。

 

「わかりました。こちらに戻るタイミングを教えてください。雪ノ下さんには俺から伝えておきます」

『ありがとうございます。それでは改めてよろしくお願いします‼』

 

 西さんも大事な存在だし、雪ノ下達の受験がおわるまでにこのあたりの懸案も終わらせておきたいものだな。

 

 

 

 

 

「ええ、だってディスティニーで比企谷君に買ってもらったパンさんみてニマニマしているの…………まあ、可愛いんだけどさ、なんか納得いかないんだよ」

 

 今年の春先に、『それは依存だよ』とか釘さしてたあんたが言うかね。いいじゃん、人それぞれ楽しみもって生きてるんだからさ。そういうのいくないよ、いじめっこはるのん。

 

 大学も合格して、いまさら高校の成績に未練がない俺は、戦乙女©準備室に詰めている。というか、「くるよね~♡」とはるのんからの指令で来ているわけだ。教室にいると、受験モードの空気がつらいということもある。

 

「雪ノ下さんはモノリスのこと、どう考えてます」

「まあ、プロリーグそのものに直接関係はないとしても、サテライトや高校生の選手の底上げには効果があると思うの」

 

 同意見だ。高校の戦車道の基本は戦車の団体行動をいかに為すかにある。典型的なのは聖グロリアーナ、強豪校はその傾向が強い。ゆえに、選手の個人的な資質はむしろマイナスだ。西住流が高校の戦車道界で支持されている理由も、マスゲーム向きの教義だからだといえる。

 

 では、その選手がプロで通用するのか。野球で考えてもらいたい。甲子園に出て強豪校と言われるチームの選手は、野球がうまい。どうすればアウトがセーフになる的なテクニック・ノウハウを徹底的に叩き込まれ、監督の命令をよく聞いて試合に臨む。

 テレビでただで見る分にはいいよ。もともと、朝日と毎日の新聞社主催の野球大会だからね。新聞売るための大会なんだよ。巨人と中日も新聞社がスポンサーであることから考えると、興業をうって新聞売るためのプロ野球だったりする。

 

 高校球児の試合が面白いのは、負けたら終わりのトーナメントで何千校も参加しているからだろう。昭和の時代ほど地方出身者が大挙して都会に出てくるわけではないので、地元びいきで盛り上がる時代でもない。高校生は常に入れ替わりであり、一度の敗北で消えるところが日本の美意識にあっているのだろう。

 毎年決まったチームが同じ戦車でドンパチやる戦車道が人気出るわけがない。選手が変わってもドクトリン同じだし。多分、前年の映像出してもわからない。プロにするということは、年間8チームで28試合延べ112試合でお客さんを毎回数万人集めなければならないわけだ。プロレスで 300人の動員とか普通なのにだ。JFL時代の応援なんて1000人もいなかっただろ。もう、何十年も前だけどさ。

 

 誰が戦車の集団行動を見たいのかってこと。それも年間28試合もだ。

 

 モノリスの優れている点は「遊兵」がいないところだ。全車両が闘いに参加する。3両しかいないから当然だが。全員参加で成立するのが当然なきがするが、意外と戦車道ではそうでもないのだ。初期配置が悪かったり、フラッグ車戦だと気が付くと負けのパターンもあり、数両だけが活躍している場合が多い。

 とくに、火力の大きな戦車を有するチームはその車両がフラッグを撃破して終わりなのだ。当然、それ以外の車両はただの弾除けだったり、陽動や妨害の為の置石みたいな存在だ。そんな強豪校の選手が役に立つとは思えない。

 

 タンカスロンが盛り上がるのは、全員が主役と思い込めるところにあると思う。実際は躍らせているやつが主役で踊らされているやつはピエロなんだけどな。

 

「そうなの。ポジション別に必要とされる能力も明確で、目標を持って練習しやすいということもあるわね」

「1両の撃破が致命的な戦力差になるので、序盤の崩しが大切です。フラッグ車戦ではまず、得られない感覚です」

「1両撃破で戦力半減だもんね」

「ランチェスター理論だとそうですね。9:4ですから」(え、損失に対する戦力差の計算だって。まあ、フワッとしておいてくれると助かる)

 

 シビアな戦闘を30分単位で繰り広げるのだから、面白くないわけがない。当然、2両からの逆転もあり得る。野球であるのは、投手が力尽きて棒球しか投げられなくなったところを連打されて逆転サヨナラ負けとかね……モノリスなら大いにあり得る。

 

 

 

 

「雪ノ下さんがモノリスやるなら、どのポジションが一番難しいと感じますか」

「まあ、想像にすぎないけど……防御かな」

「なんでですか」

「遊兵にもっともなりやすいじゃない。サッカーならゴールキーパーだけど、モノリスの前にへばりついていたら勝てないしね。前に出た場合、戻れなくなる可能性もあるじゃない」

「防御向きの戦車は走力低いでしょうし、あり得ます」

 

 マチルダ3両のチームとか……動けないよな。戻れないし。

 

「そうすると、バランスの良い中戦車に近い軽戦車が有利よね」

 

 装甲の薄さが気になるが、Ⅲ号J型は破格の強さだろう。一式中戦車やクルセイダーMkⅡも悪くない。38tやフランス戦車もいいな。

 

「そうなんだよ、電撃戦以上に電撃戦初期の戦車が揃うじゃない。だから、面白いんだよね」

 

 最終的に巨砲をのせると、重装甲で動けない戦車になる。フラッグ車戦なら、何度も言うが合理的だ。猟犬として中戦車が追い立てJS-2 Ⅵ号 ファイアフライがとどめを刺す。それ以外の車両は戦車を移動させているだけなのだ。

 

 

 

 

「モノリスもセオリー的なものが整理されてきてからが本番でしょう」

 

 碁の用語だが「定石」だな。ある程度序盤の組み立てが決まってくるはずなのだ。

 

「例えば、3両でゾーンディフェンス的に押し上げてきて敵陣の間際で戦うのを得意とするチームや、2両で相手を各個撃破するのを得意とするチームとかね」

「うちなら、雪ノ下・海老名・一色ならゾーンディフェンス型でしょうね。視界が重複しますし、読むのがうまい奴らですから」

「委員長ちゃんと三浦ちゃんなら2両で挟んで、引き気味の距離から三浦ちゃんも狙撃で参加とかじゃない」

「間違いないですね。うちは最初から各車両の役割が明確なのでモノリス移行しやすいです」

 

 そうなんだよ。西さんのとこなんて全車両同じだからさ、モノリス全然向いていないんだよ。多分今のメンバーは無理。向いていないのがレギュラーしている。

 

「そう考えると、このシステムで育った子たちが強豪校出身のプロの選手をガンガン撃破するとか……ゾクゾクするね」

 

ああ、はるのんまた悪い笑顔だよ。モノリスの戦い方は、ファーストの時代のMS戦とZの時代のMS戦に似ているかもしれない。促成栽培のパイロットを大量投入した時代と、選ばられた少数の精鋭での戦い方は異なるだろう。

 

 

 

 

「比企谷ちゃ~ん、ちょっとお願いがあるんだけどさ~」

 

干しイモなら持っていませんよ。Amaz●nで注文すいるとよいです。

 

「違うよ。戦車なんだけどさ、ボロクテいいから38(t)手に入らないかな。ほら、このメンバーはあの車両で認知されているし、モノリスなら問題ないでしょ。陽乃さんにも頼むんだけど、お願いしてもらえないかい」

 

――― 盲点でした。今なら金色でもいいな。いや、金色であるべきだ。クワトロ・ホシイモ大尉って感じだな。四葉のホシイモってなんだよ。

 

 

 

 

「雪ノ下さん、角谷さんから聞きました?」

「うん、38(t)でしょ。同好会のフラッグ車としていいんじゃない。主砲の口径が戦力の決定的な差ではないことを教育してやる的?」

 

なんか、最後の方が違うけどね。

 

「いくらぐらいなんですかね」

「値段じゃないんだよね。ほら、対戦初期の戦車って大概火力不足で、撃破されない場合は対戦車砲の自走砲に改造されているからさ、むしろ、ヘッツアー買って、38(t)改と入れ替えて戻す方が早いかも。ヘッツアーは玉があるからね」

 

なるほど。不人気=安いではなく、不人気=存在しないんだな。そう言えば、古いフェラーリとかランボは日本に集まってくるらしいな。直して乗ろうというオーナーが少ないからだそうだ。

 結局は、38(t)のポンコツが見つかり、ラボで自動車部OB チームによる、もう外見以外別の戦車化がすすめられるのであった。

 

 

 

 

「そういえば、西さんが12月の学年末試終わったっら学園艦を引き払うそうなので、こっちで戦車道の練習したいんだそうです。千葉大の戦車道同好会か戦乙女で面倒見て欲しいんだそうです」

「比企谷君はどうしたいのかな」

 

――― あれれ、これは誘導尋問につながるかもしれない。ちょっと筋道付けて話しするか。

 

「雪ノ下さんは戦乙女©のなかでの西さんの役割をどう設定していますか。そこにもよると思います」

「いい切り返しだね。正直、戦車乗りとしては力量不足。みほちゃんは元より、雪乃ちゃんにも全く及ばない。彼女の長所は、性格と血筋と容姿だね。雪乃ちゃんはちょっと人間味が足らないけど、絹代ちゃんはいい感じで熱血じゃない。そこを生かしたいんだよね」

 

 なるほど。しかしながら、彼女の性格からして選手として魅力がないとは本人に伝えられないな。電話が鳴りやまなくなるだろう。

 

「実業団方式ではどうでしょう。戦乙女©で俺のアシスタントをして編成やマネージメントの仕事を習う。恐らく彼女は隊長の経験はあっても、前任者の孫引きでつとまったのでしょう。我々の闘い方、考え方を机上でまず理解してもらいます。

 午後から、実際同好会の方や総武海浜の練習に参加し、モノリス中心に全ポジションを経験させます。その中で、彼女の特性にあったポジションと戦車の戦い方を導き出すのはどうでしょう」

「さすが比企谷君。彼女のたらない能力を上手に教育しながら自分の仕事を押し付ける工夫をするとは、やるなお主」

 

 最近見かけないけど、あいつ元気なのかな。

 

「なんだか、秋山さんと意気投合しているらしくて、千葉大工学部希望なんだってさ」

 

 考え方のリズムが似ていると共感しやすい。経験も似ている。例えば、材木座と秋山さんのリズムが似ているということは、共感を得やすく、好意も持たれやすい。とかだな。夫婦が長年いると似てくるというのは……同じ・共有したリズムでお互いの関係を築けた結果であると同時に、似ている部分が存在しているからなのだと思う。

 夫婦が長年いると似てくるというのは……リズムのシンクロなのだ。

 

 それは、性格であったり生育環境【生育環境は性格に影響を与えるのだが】が似ているということもあるだろう。例えば、優秀な姉を持つ二人の妹。雪ノ下雪乃と西住みほはともに似ている部分がある。それは、自分に自信が持てないことだ。

 雪ノ下は一見自信満々に見えるがそれは姉に対する反動であり、実際の所では追い込まれたりすると非常に弱い。西住みほは戦車に乗っているとき以外は、全ての面において判断力や思考が低下する。ような気がする。

 

 二人とも、他人に対する期待感が高い。雪ノ下はそれが満たされないと「裏切られた」と感じる傾向が強いし、西住さんはそもそも大洗へ来るまでは友達らしい友達がいなかった。強いていえばお姉さんのまほさんが該当するだろう。

 

 この二人の問題なのは、俺の周りにおける最重要人物であることなのだ…………なんだよこの爆発寸前の水風船みたいな女は。扱いが超慎重になるわ。母親もよく似ているしな……もう少し自分の娘に優しく成れよ。まあ、あんたらも母親に厳しくされたクチなのかもしれんけど。

 

「では、西さんには戦乙女の準備室に詰めてもらいますね。自分の所属するチームの事務仕事をするのもいい経験です」

「そうね、西さんのネームバリューは西住ちゃん並だから、いいポジションで活躍させたいよね」

 

 まあ、硫黄島方面の英雄の子孫だからね。おまけに「麻生の叔父様」だもんな。生かさなきゃだめだろうな。

 

 

 

 

 

 








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