朱い月の夜に星の女王は踊る *凍結中   作:くるりくる
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祝福を騎士に

 アーキは前方に手をかざし己の力を行使した。全にして一(アルテミット・ワン)星の雛形(アーキタイプ)と言う特殊な種であるアーキだが彼女に備わっている力はそれだけだ。本来『YGGDRASIL』の最高レベルは100でありカンストプレイヤーとは大抵これを意味する。だがアーキは違う。アーキだけは例外であった。

 

「この村を襲った帝国の騎士の生き残りだ。殺すにせよ、晒すにせよ、好きにせよ戦士長とやら。だが早急に去れ。汝らに出来ることなどもはやこの場には何一つとして無い」

「……貴殿らは何者なのだ?」

 

 手足を麻縄で拘束されて村の中央にある高台の柱に縛り付けられていた3人の騎士の生き残り。全身には青あざができており、それは死の騎士のタワーシールドによって殴打されただけのものでは無い。

 その3人はアーキから発せられた力により、縛り付けられていた場所から突如として姿を消してこの村に訪れた戦士達、戦士長の前に姿を現した。突如現れた騎士達に驚く20人前後の戦士達だが、先頭に立っている戦士長、ガゼフ・ストロノーフは鋭く細められた目をモモンガ達に向ける。

 

『アーキさん、どうしたんです? 警戒するのは当然ですがそこまでしなくてもいいんじゃ無いでしょうか?』

『確かに、おそらく王国とやらで頂点に値する部類の男のようだけど……レベル的に30前後じゃないかしら?』

『30……でもアーキさんみたいな例があるし……ここは様子見ですか? 藪をつついてなんとやらってぷにっと萌えさんや餡ころもっちもちさんも言ってましたしね』

『いえ、そこまで警戒しなくてもいいでしょう。アレらは全員とるに足らない。単独で全滅も可能でしょうね』

 

 アーキの全ステータスは一定の目安とされていた100を優に超えている。特殊は測定不可能と記載されているほどだ。何かしらの方法でレベル100以上となっていると思うだろうがそうでは無い。アーキのレベルはたったの2である。それがアーキの力の全てであり、秘められた力であった。

 

 そしてアーキには不思議な確信があった。突如現れたはずの彼らだがまったくの脅威ではないと。

 

 だがそれを頭の中から追い払い、アーキは馬に乗ったままの王国戦士長に言葉を投げかける。うちから生まれる感情はかすかに燃えるような怒りのみであった。それはどこから発生した怒りか。遅すぎる救援に関してか、その遅すぎる行動によって死んだ者達への哀悼故か。

 

 それとも……葬儀の際にあの姉妹が両親の死に泣き腫らしていたことに関してか。

 

「村長だな。この者たちが何者か教えてもらいたいのだが?」

「え、えぇ。この人達は——」

 

 ガゼフは埒があかないと判断したのだろう。死の騎士を伴うモモンガの3人という怪しげな風体の存在ではなく、麻の服を着込んだ村長である男に向けて声を発した。村長も話を進めようと思ったのか、一歩前に出て言葉を発するもそれは隣に立っていた黒いローブを身に纏う存在によって制される。

 

「初めまして王国戦士長殿。我々はアイ——チームでしてね。この村を襲った騎士達を撃退した者ですよ。その証拠が、その生き残りです」

「!? つまり、この村の民を救ってくださったのですか!」

 

 伝言の魔法によって通じ合っているモモンガとアーキ。アーキはアインズ・ウール・ゴウンと言う名前を流させないためにモモンガを制する。未だ状況は不透明な中で、自分たちの情報が流れるのを少しでも阻止しようとしたのだ。伝言によってそれを伝えられたモモンガもその通りだと、不要な情報の流出を避けるために己達をチームと呼称した。

 

 そしてモモンガが告げたこの村を襲った騎士達を撃退した、と言う言葉に何を思ったのかガゼフは驚きで目を見開き、馬から降りて同じ目線に立ち、あろうことか深々と頭を下げたのだ。

 

「感謝の言葉もない。貴殿らの勇敢な行動、王国戦士長として、一人の人間として大変感謝する!」

「……いえいえ。我々も慈善事業と言うわけにはいきませんので報酬はいただきます。ただの善意ではないと言うことを理解していただければと」

「そうですか。で、あれば貴殿らは冒険者のチームですか? もしよろしければ名前を伺っても?」

「そうですね。……ノウブル・カラーと言います。この名前に覚えは?」

「申し訳ない。寡聞なもので」

「仕方ありません。我々は流れの者ですので」

 

 そりゃそうだよ! そもそも知ってたらおかしいよ!

 

 モモンガは戦士長の申し訳そうにする表情にそうッコミを入れながら、自身も嘘をついていることに申し訳なく思っていた。何故ならノウブル・カラーはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーしか知らない、最高峰レベルの魔眼を分類する為の呼称。

 それは他者の運命に干渉することが可能と『YGGDRASIL』では情報開示されていた。開示されていると言ってもそれはアーキから伝えられた情報。だからこそ彼女と同じアインズ・ウール・ゴウンのメンバーしか知らないのだ。

 

 黄金、宝石、虹と位階が上昇する。そんな希少な魔眼を、最高位の虹色をアーキは備えていた。もしかしたら、もしかしたら知っている者は『YGGDRASIL』にいるかもしれない。だがそれはほんの少数、そしてそいつは確実にプレイヤーである。

 

 こちらの情報は開示しているようで開示しない。だが相手の反応で情報を掠め取る。アーキさんやっぱりパネェとマスクの奥で戦々恐々していたモモンガであったが話は進んでいく。

 

「申し訳ないが話を伺っても。どのような状況であったのか詳しい話をお聞きしたい。これを機に帝国が攻め入ってくる可能性を考えると放っておけない問題なのです」

「なるほど。では、こちらが持っている騎士の情報は全て話しましょう。ですので戦士長殿もできうる限りの情報をお願いしますよ?」

「わかりました。確約は出来ないが約束しよう」

 

 モモンガとガゼフは村長を伴って話し合いの席に着こうと歩みを進める。重要な話が行われている間でも時間を無駄にしないためにガゼフは部下の戦士達に指示を出し、村の復興を手伝うように指示を出す。村は境界線を挟んだ先に存在するバハルス帝国の騎士達の襲撃によって荒らされている。未だ片付けが行われていない中、男手が加わることは村人達にとって大変ありがたい物であった。

 

 話し合いの席に向かう途中、ガゼフからアーキへと視線が一瞬だけ向けられたがそんなものはすでに彼女の眼中に無かった。

 

「戦士長! この村を囲むように集団が接近してきています!」

 

 だがガゼフが指示を出して数瞬もしない間に村周辺の警戒に当たっていた戦士の一人が村の中へと駆け込んで来て報告する。それは新たな問題の火種であり、そしてこの世界にナザリック地下大墳墓の存在が明るみになる第一歩であり、アーキが『星の女王』へと近づいていく幕開けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 家の陰に隠れる戦士達。そしてその中にはガゼフや彼の側に立っているモモンガの姿もあった。村の周辺を囲うように3人一組になって近づいてくる覆面を被った軽装備の人影。それを確かに視認したガゼフは苛立ちと焦りと共に舌打ちをした。

 

「確かにいるな。魔法詠唱者(マジック・キャスター)……部下達の話では30人ほど確認できている。しかも天使を召喚していると見て神官だろう。おそらく、スレイン法国だろうな」

「スレイン法国……六大神を信仰していると言う?」

「あぁ。貴殿らは流れのチームだったな……天使というあの召喚モンスターだが、神官系の魔法詠唱者が召喚できるモンスターだ。一人や二人ならまだしもあれだけ多くの天使を召喚しているところから全員が神官だろうことはたやすく予想できる。それだけの神官を確保するとなれば、国全体で神官を育成しているスレイン法国以外にあり得ない」

「なるほど……大したものですねスレイン法国は」

 

 こうして新たに明かされる情報は非常にありがたいのだが、視線の先にいる天使の姿を見てモモンガは困惑を強くした。それは『YGGDRASIL』において神官系の職種が召喚できる低級モンスター炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)であったからだ。『YGGDRASIL』というゲームの名残がないと思ったらこれである。

 

 モモンガは深くかぶったローブ越しに頭に手を添えて考え込み、助けを求めるように相手へと脳内から語りかけた。

 

『どう見ますアーキさん? あれ、どう見ても炎の上位天使ですよね?』

『そうね。私たちの目がおかしくなっていなければ、アレは炎の上位天使で間違い無いでしょう。それにここから感じる気配でわかるわ』

『はぁ……気配、ですか? 俺には全くなんですが……』

『魔法職だから分からないのではない? ただアレらは取るに足らないわ。雑魚同然ね』

『そうですか。なら問題はないですね。ただ油断は大敵です。隠し球がアレだけとは到底思えませんし』

 

「チームノウブル・カラー。もしよろしければ雇われないか?」

 

 二人が伝言で話し合っていた中、ガゼフは意を決したようにモモンガへと話しかけてきた。ガゼフの目は真剣そのものであり、冗談を言っているようには見えないのをモモンガとアーキは確認する。

 

「我々にメリットは? はっきり申しましてスレイン法国と我々は何の問題もありませんよ?」

「分かっている。それを承知でお願いする。どうか、この村の住人を守るために我々に手を貸してくれないか?」

 

 ピクリとアーキの眉根が動く。それは二人には決して分からないものであったが影のようにモモンガとアーキの背後に佇んでいたアルベドには分かった。

 

 また矮小な人間を助けるのですか。何故ですか。何故その慈悲が我々には……向けられないのですか。

 嫉妬、疑念、困惑がアルベドの中に生まれアーキに向けられた視線となって表に出てしまう。

 

「恐らく、あの者達の狙いは……私だ」

「憎まれていらっしゃるのですね戦士長殿は。さぞや苦労なさっているでしょう」

「全くだ……それで、返答の方は? 手持ちの方は少ないが王都の私の元まで来られたあかつきには望む額をお支払いしよう」

 

 ガゼフは自分たちと相手側の戦力差を鑑みて自分たちが圧倒的に不利だと判断した。武装は心もとないし人数も22人とこちらが少ない。対してあちらは30人程に天使の数を足して60程。戦いの基本は数であるということを、戦を何度となく経験した歴戦の戦士であるガゼフは誰よりも分かっている。

 

 だからこそ、この村の住人の命を助けるためにガゼフはこの謎めいた怪しげなチームに頭を下げた。彼にも立場というものがあるが、この場で優先するべきは己ではなく他者である。このような姿を宮廷の貴族達に見られたら野次や嘲笑が飛んでくるだろうことがたやすく予想できたがそんなことは知ったことかとガゼフは頭の中から貴族どもの嘲笑を吹き飛ばす。

 

「頼む! 私の為ではなく、無辜の民を救うために今一度、剣を取ってはくれないか!」

「……」

 

『う〜ん……アーキさん。俺はこの提案受けて良いと思うんですが……アーキさんはどうしたいですか?』

 

 どうしたいか、それはいつかの焼き直しであった。

 それに対するアーキの返答は、その手をガゼフへと伸ばし——己の力を行使することであった。

 

 途端、ガゼフと村に散開していた戦士達、そして戦士達が乗ってきた軍馬達を黄金の光が包み込む。輝くような煌きは徐々に鎮まっていくもそれは輝きを失った為ではない。彼らの体に吸収された為。

 

「! これは……力が湧いてくる……?」

「汝の想い、確かに聞き届けた」

 

 そう言って背を向けるアーキ。それは彼女なりにガゼフの決意の表れに対して真摯に対応した結果である。

 

「汝らに我が力の一端を授けてやった。その状態ならあの程度の雑兵、たやすく屠れるであろう」

「! 感謝する」

「ふふっ。それでは戦士長、私からはこれを貴方に」

「? 見たことが無い物だが、貴殿らからの贈り物だ。ありがたく頂戴する。それと、我らはスレイン法国の部隊を引きつけるように突貫する。重ね重ねで申し訳ないが村の守護をお願いしたい」

「構いません。それと彼女が力を授けたのです。敗走など決してしないでください。彼女の力はそれだけ貴重で尊いモノなのですから」

「分かった。肝に銘ずる。それと、ありがとう。村の住人を守っていただき、本当に、感謝する」

 

 

 

 

 

 

 

「アーキさん。彼らに〈星の祝福〉を施したのは何故なんですか? 別に死の騎士(デス・ナイト)を向かわせるだけでよかったんじゃ——」

 

 ガゼフが戦士達全員を伴って村から出陣し、モモンガは村で一番大きな倉庫に防御魔法を張って村人達の護衛をしながら去りゆく戦士達を見つめるアーキに声をかけた。

 

 スキル〈星の祝福〉は自分が味方と判断した存在の全ステータスを10%引き上げるというものである。10%、つまりステータス一割の上昇。それが集団となればどうなるか。もともと強靭な者たちに施せばどうなるか。星の雛型であるアーキだけが持ち得る、この固有スキルによってアインズ・ウール・ゴウンが何度戦況を覆せたか。それをモモンガは覚えている。だからこそ疑問だった。

 

「かの者の意思、覚悟、決意。それらは賞賛に値する。まさに王の騎士よな」

「その覚悟や決意に、何か思う所があった。そう言う事ですか?」

「それが全てでは無い。ただ……」

 

 アーキはそう言って慈しむような優しい微笑みを浮かべる。それはアーキの美貌を見慣れていたモモンガであっても、護衛として常に気を張っていたアルベドであっても惚けさせる美しき笑みであった。

 

「互いを思う人の子の意思。かくも美しきことよ」

 

 








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