朱い月の夜に星の女王は踊る   作:くるりくる
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戦いの終止符

 リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の国境付近に存在するカルネ村。今回のバハルス帝国の騎士に偽装したスレイン法国の部隊によるカルネ村襲撃によって多くの人を失った。だが今回の事件は突如現れた美しき白き鬼によって終幕を迎える。

 

 その美しさは地上に舞い降りた幻想そのもの。比類無き力で村の障害を全てはねのけたその存在の施しによって今後カルネ村は大きく発展することになる。月のように静謐で、輝く容姿は見る者の心を容易く奪いさる。その幻想のごとき美しさを称えて村人は彼女を、月の女神と呼び崇めることになるのを彼女は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「総員突撃ぃ!! 奴らの包囲網を突き崩せぇ!!」

『了解!!』

 

 軍馬に騎乗し、草原を風のように駆け抜けていくガゼフ・ストロノーフ率いるリ・エスティーゼ王国に所属するガゼフ直属の戦士団。その疾走はまさに疾風の如し、幾多の蹄が草原を踏みしめ包囲網を狭めてきていた謎の魔法詠唱者達を飲み込んだ。

 

 勿論、魔法詠唱者(マジック・キャスター)も抵抗した。

 手を前方へとかざし、精神操作系の魔法を発動させて迫り来る戦士団の機動力を削ごうと軍馬に魔法を発動させた。いかに鍛え上げられた軍馬とはいえ魔法という物になんの抵抗力も持たない動物では抵抗などできようも無い。魔力を秘める魔獣なら話は別だが戦士団が騎乗する馬はなんの変哲も無い、ただの馬であった。その筈であった。

 

 だが、ガゼフは、戦士団は、馬達はその身に星の祝福を受け取っている。全ての能力が上昇しており、星の祝福の加護の下に全ての異常をはねのけた。

 

「!? 魔法が——」

 

 狼狽える魔法詠唱者であったがそれは最後まで叶わなかった。先頭を走るガゼフがブロードソードよりいくらか幅広のバスターソードを振るい動揺の隙を突いた。途端、草原を赤が汚し首が舞う。

 

「反転! 全員纏まって応戦せよ!!」

『おうっ!!』

 

 戦いとは無縁であった辺境の村の近くにある草原で開戦の火ぶたが切られる。6人の魔法詠唱者を濁流のごとき流れとなって飲み込み、全員殺した戦士団は魔法詠唱者の包囲網を抜けると反転、再び勢いを伴って突撃。

 

「!? 全員、天使達を主軸に戦え。魔法で遠距離から狙い撃つのを怠るな!」

 

 対するスレイン法国の神官系魔法詠唱者達。隊長と思われる覆面で顔を隠していない平凡な顔立ちの男が自分達が納めている第三位階魔法が大して効果を出していないことに驚愕を露わにするも、すぐさま動揺を隠し部下達に指示を出した。

 

 魔法が効かぬのなら天使達を主軸に、その指示に返答することなく従う部下達。召喚した天使、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)達を突貫させて後方から攻撃魔法を発動させるもそれらが手に取るように見えているのか、戦士団は魔法をなんの変哲も無い剣で撃ち払い、ガゼフが中心となって天使達を打ち倒していく。

 

 戦士一人では天使を倒すことはできないが二人掛かりでなら余裕を持って倒すことができる。剣を振るい、体勢が崩れた天使を後から続く戦士が切り倒していく。天使は力を失い項垂れると光の粒子となって天へと帰っていく。その光景はどこか幻想的で、夕日の光も相まって何処か神秘的な光景に見えた。しかし戦士団はそれに目もくれずに魔法詠唱者たちに、スレイン法国の部隊に突撃する。

 

 馬の蹄が鳴り響き、圧力となってスレイン法国の部隊に迫り来る。

 

「天使の再召喚を急げ!! こちらも陣形を保つのだ!!」

 

 ガゼフは馬の背中にある鞍に両足で乗って勢いと共に宙へと身を投げ出して陣形を保とうとする魔法詠唱者の中へと飛び込んだ。迫り来る幾多の魔法を空中でありながらバスターソードで撃ち払い、数秒の滞空時間を経て草原へと着地する。膝を折り曲げ衝撃を緩和したというのに殺しきれなかったインパクトがガゼフの中を駆け回った。

 

 だが、いつも以上に動くガゼフの体はこの程度で止まらない。着地の衝撃で吐き出された空気を再び吸い込み、戦士にとって魔法ともいうべき武技を発動させた。

 

「〈即応反射〉、〈六光連斬〉!!」

 

 〈即応反射〉とは、戦いの最中に生まれる隙や大きく崩れた体勢を持ち直すために強制的に体を動かし体勢を立て直す武技。そして〈六光連斬〉はガゼフの持ちうる武技の中において最大の切り札。一息に六つの連撃をお見舞いする、まさに人間の最高峰、英雄の領域。

 

 着地後、常人では決して出せない速度で体勢を立て直したガゼフはバスターソードを大上段に構えて、目標である天使達を打ち倒した。体が光の粒子となって消えていく天使達を見て、スレイン法国の部隊は動揺を隠し切れず、それが精彩の無い動きとなって現れる。

 

 通常、能力値に大幅な差がなければ天使といったモンスターは魔法効果の施された武器でなければ打ち倒すのが困難とされている。だがなんの変哲も無いバスターソードを振るうガゼフや、剣を携え戦う戦士達がうち倒せるのか、それは彼らにも分からなかった。

 

 ただわかる事は一つ。

 

 己達の剣が敵を打ち倒せるという事だけ。

 

 それだけ分かれば彼らには十分であった。

 

「ニ、ニグン隊長! 半数の部隊員がやられました!!」

「なっ!? どういう事だ! ストロノーフは五大宝物を身につけていない筈だ!! 何故、奴にこれほどまでの力がある!? それに、なぜ一介の戦士が神の使いである天使を倒せるのだ!?」

 

 動揺の波及が留まることはない。天使達が手に持つ光の剣と、戦士達の通常の剣が打ち合えている乱戦の最中、ガゼフは指揮官と思しき男を見定めた。その視線を受けたニグンは猛獣のごとき眼光に怯んでしまう。それは自分が、ガゼフの狙う獲物だと教えてしまったということも知らずに。

 

「俺が指揮官を討つ!! 総員、自分を、仲間を守れ!! この戦い、全員生きて帰るぞ!!」

「了解です戦士長!!」

「俺たちが村人達、この国を守るんだ!!」

「貴族の連中に、法国に目に物見せてやりましょう!!」

 

 幾多の声が上がる。その声を背中に受け止めたガゼフは駆け出した。いつも以上に体が軽い。振りかぶられる天使の剣が遅く感じる。魔法が放たれるもそれが何処を狙っているのか分かってしまう。

 

「うぉぉおおおお!!」

「ひっ!? プ! 監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)!! かかれっ!!」

 

 指揮官であるニグン。そのニグンに猛獣の疾走といっても差し支えない迫力と速度を保って彼我の距離を詰めるガゼフ。その間にいた丸い盾とメイスを持った一際大きな天使。天使は空中を滑るように移動してニグンとガゼフの間に割って入り、迫り来るガゼフを迎え撃つようにして右手に持ったメイスを振り上げた。

 

 今のガゼフでも、振りかぶりと共に繰り出されるメイスの殴打を喰らえば致命傷だ。止まることはできるが、それでは今までの流れを崩し、相手側に体勢を立て直す時間を与えてしまう。

 

 ガゼフはカッと、目を見開いた。ここが勝負所だと長年の経験と戦士としての勘が彼に訴えかけてくる。剣を構え、今出せる全力と共にガゼフは掬い上げるように剣を振るった。その剣は赤い闘気と僅かな黄金の光を伴って繰り出される。

 

「〈六光、連斬〉!!」

 

 空中に残光を引いた天使とガゼフの一撃。そして雌雄は決する。

 

「これで、終わりだぁああああ!!」

 

 懐から何かを出そうと必死になっていたニグンだったが、それを許すほど、ガゼフは甘くなかった。これまでの思いを晴らすかのように、この争いに巻き込まれて死んでいったこの国の民達の無念を晴らすかのように、上段からの一刀両断で、ニグンの体を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 勝利の歓声と共に村へと戻ってきた戦士団。それを見たカルネ村の住人達はこれで危機は去ったと諸手を挙げて喜びを露わにした。村の中央で再会したモモンガとガゼフ。ガゼフは馬に乗っていたがモモンガの姿を見ると友好的な笑みを浮かべ、敬意を表すかのように地面へと降り立った。

 

「おめでとう御座います。勝ちましたね戦士長殿」

「あぁ。怪我人は出たが幸いに死者は出なかった……これも貴殿らのお陰だ」

「私は何も、もしそう思うのならそれは彼女のお陰でしょう」

「……すごい力だな。私だけではなく部下達や馬にも……もし差し支えなければ名前を伺っても? 恩人達の名前を知らないと言うのは何とも心許ない」

 

 名前を知りたい、その言葉にモモンガはどうしようかと悩む。正直名前なら教えても構わないのだがこの世界観において『YGGDRASIL』のプレイヤーネームであったモモンガという名前を名乗っても本当に相応しいのかと思ってしまう。

 

 悩んでいたモモンガだがそこに助け舟が差し出された。

 

「今、汝に名乗ることはない。縁があれば、その時に名乗ろう」

「なるほど……ならばその時に。チーム、ノウブル・カラー」

 

 歩み寄ってきたアーキのいまは名乗らないと言う言葉に、ガゼフは笑みを浮かべて剣を腰に下げてモモンガ達に深々と礼をした。それには彼の万感の思いが込められた物であった。

 

「さぁ、戻りましょう」

「そうですね。——」

「それと、貴女も」

「! はい! アーキ様!」

 








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