朱い月の夜に星の女王は踊る *凍結中   作:くるりくる
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その真実

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層ロイヤルスイート。至高の42人と言われるギルド、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーのまとめ役であり、ナザリック地下大墳墓の最高支配者であるモモンガの居室。そこにはナザリック地下大墳墓第四階層を除いた全階層守護者と共にモモンガの姿もあった。

 

 だが、そこにあるのは沈黙である。それは支配者であるモモンガの前であるからこそ静寂を保っているのではなく、言葉が何も出てこないからこそ重すぎる沈黙であった。

 

 長机をソファーで挟んで座るのは階層守護者達。モモンガは本革の黒いソファーに腰掛けているもその厳しい骸骨の眼孔の奥には赤い光は弱々しいものしか灯っていない。ゆっくりと、その視線があげられて、一人の女性へと向けられる。その女性は楚々として、清純であり、その目に決意を秘めている。そしてもう一人、白い着物を着こなし、壁にもたれかかっている女性が居た。

 

「……アルベド、本当に大丈夫なのか?」

「お気遣い感謝致しますモモンガ様。ですが、今は一刻を争う事態。守護者統括であるこの私が私情で倒れている訳にはいきません」

「誰もお前を責めん、がその心意気は非常に助かる。これは……ナザリックのすべてで対処する必要のある問題だ」

「はい。その通りかと思います。それでは先ずは全員に情報共有する所から始めてはいかがと愚考致します」

「なるほど……その冷静さ、非常に助かる」

 

 女性の名前はアルベド。つい先程まで『アーキ』に半死半生の重傷を負わされた彼女だが、その傷を負わせた『アーキ』に治療されて一命を取り留めている。彼女の想いを、設定を改竄した身であるモモンガは本当に大丈夫かと心配であったが、アルベドはその瞳に決して折れない覚悟を宿していた。それが、モモンガには有難かった。

 

 アンデッドの精神抑制効果によって大幅な感情の振り幅は抑制され、平坦なものになるもそれは抑制された側から再び膨れ上がる。彼の中にあるのは後悔と怒り。

 

 自分がもっとしっかりしていれば、そばに付いていたらこんなことにはならなかったのではないか。そしてアーキを奪った『アーキ』に対しての憎悪の様な沸き立つ怒り。

 

「皆、薄々感づいていると思うが……アーキさんの意思が、この星の意思に乗っ取られた」

 

 その言葉に、守護者達の顔に浮かぶ表情は重々しいものになる。彼らも薄々は感づいていた。耐え忍ぶかの様にその力の解放を禁じていたアーキがその力を解放する。それがどの様な事態なのか、何かアーキの身に起きたのではないかと想像するのに難くない。唇を噛み締める、項垂れ頭をかかえる、拳を握りしめるという行動を各々取るのは彼らが己の至らなさを痛感している為だ。

 

「だが、それは完全なものではない」

「! そ、それはアーキ様のご意思は今も尚あるということでありんしょうかモモンガ様!」

 

 唇をかみしめ、赤い眼球を血よりも濃い真紅に染めてこの星の意思への憎悪を一気に募らせたシャルティアであったが、モモンガの言葉によってそれをすぐさま止める。焦燥しているも絶世の美貌のシャルティアが勢いよくモモンガの方へと顔を向けた。

 

「あぁ、シャルティア……確かな事だ。あの時、アルベドと確かに呼んだ……それは星の意思では絶対にあり得ない事だ。我々はこの世界に転移してきた、いわば異物。それをこの世界が短時間で認めることが果たしてあるか? いや、ない……今までのお前達への態度からしてそれは絶対に無い。ならば答えは一つだ」

 

 モモンガはその眼孔の奥に秘めていた赤い光を強く光らせる。それは彼の心にもようやく決意が固まった証拠である。今まで、どこかこの事態から目を逸らしていたモモンガ。この世界に転移してきて、戦って、人と接して、生活して、それでも彼は目を逸らしていた。

 

 今までの現実世界とはあまりに違っていたから、目を逸らしたかった。

 

 だがもうその時は終わった。現実から目を逸らしてはいけない。

 

 モモンガはアーキも言っていたことを覚えている。現実から目を逸らしてはいけないと。

 

「アーキさんは、今尚存在している。だが、それがどうなるのかは分からない。だからこそ——」

「ルベドの起動、ですね」

「アルベドの言う通りだ。ルベドを動かし、そして『アーキ』とぶつける」

「お待ちくださいモモンガ様! ルベドの起動はアーキ様を殺す時の——」

 

 ルベドの起動、それはナザリックにおいてどうしようもない事態の発現である。ルベドが起動すると言うことは、アーキが全にして一(アルテミット・ワン)星の雛形(アーキタイプ)として全力になったと言うことであり、アーキを殺すためにルベドの全にして無(アルテミット・ワン)両儀の原型(アーキタイプ)の真の力が発現すると言うこと。

 

「デミウルゴス……あの力を上回るには同等をぶつける以外にあり得ない。それほどまでに全にして一(アルテミット・ワン)星の雛形(アーキタイプ)の力は強大なのだ。そうだな……アインズ・ウール・ゴウンのフルメンバーで挑まねば一矢報いることは出来んだろう」

「な……!? そ、そこまでとは……」

「伊達に世界の頂点ではないと言うことだな。そして、ルベドも同等の力……だからこそ勝算がある。最も、僅かな光明だ」

 

 そう言ってモモンガは壁にもたれ掛かる白い着物を着る長い黒髪の女性、ルベドに視線を向けた。それに促される様にその他の守護者達の顔や視線も向けられるもその中に込められているものは剣城の様に鋭く、緊張感が込められている。

 

 階層守護者達レベル100の鋭い視線を受けているにも関わらず何処吹く風、暖簾に腕押し、と全く効果を出していない。目を瞑り、何かに備えて力を溜めているかの様な嵐の前の静けさを漂わせるルベドだが視線が向けられていることに気づき目を開けた。

 

「えぇっと……勝算、だったかしら?」

「ああ。ルベド、お前を『アーキ』にぶつけることで、アーキさんを取り戻すことができる勝算を説明してくれるか?」

「……そうね。今回に限り、私とそちら側の利害は一致したのだし」

 

 気怠げそうにモモンガへと対応するルベド。だがそれはさらに守護者達の視線を剣呑なものにしていく。何故ならルベドもまた至高の42人に創造されたものであるからだ。その至高の御方の一人であるモモンガに敬意を払わないなど被造物としてあり得ない。殺意にも似たその視線、モモンガは手で制することでそれを止めさせルベドに先を促した。

 

「まぁ、色々と説明しないといけないのだけれど簡単に説明するわ。『アーキ』はこの星の意思ではないの」

「……それは、どう言う意味だ? ルベド、もう少し詳しい説明を頼む」

「私からしても良いのだけど適任者がいるわ。そうでしょう、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ?」

 

 誰?

 

 ルベドを除く皆の頭にその疑問が浮かんだ。そして階層守護者達の視線がモモンガに向けられるもそれはモモンガをして知らない名前。全く聞いたことのないその名前だとモモンガが考え込んだその名前だが、同時に室内に声が響く。それは活力に満ちた声であった。

 

阿摩羅(アマラ)の体現者、一体いつから気付いていた?」

「存外に前からよ。私の体はアーキによって創造されたのだから、大なり小なり結びつきがあるのかしらね」

「そうか。クオリアの娘か……いやアーキと呼べば良いのか? 全く、紛らわしい。名前は一つに統一しておけ」

「そう言う貴方はいくつ名前を持っているのかしら?」

「口がよく回る。わしの観測した体現者はそこまで饒舌では無かったがな。いや、特定の人物には喋ったがそれも一度きり……まぁ良かろう」

 

 黒い衣服を纏ったその老人はルベドから視線を外すと皮肉げに口元を歪めてこの部屋にいる全ての異形達を嘲笑った。

 

「金輪際会わんと思うが一応礼儀だ。儂の名前はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クオリアの後見人に当たる存在だよ」

 

「そしてクオリアを侵しているのは朱い月のブリュンスタッドと言う平行線を渡ってクオリアを創り出した存在。其奴は儂が倒したのだが、奴はクオリアの身体を媒介に再び現世に復活しようとしている。それが、お前達が認識すべき問題だ」

 








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