本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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ロリコンカッコガチ

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、彼は後戻りできないレベルへと堕ちていた。

 人間と言うのは、自分のことを支えてくれる異性に弱いのかもしれない。

 献身的なまでの彼女の思いは、緻密な計画……というにはお粗末だったが、彼の脳内構造を短期間で劇的に変えていた。

 何せ、可愛いのである。圧倒的可愛さはまさに正義。まさにジャスティス!!

 ……話がずれた。

 彼は感じる。何故だろう。あの少女が気になって仕方ない。

 朝潮。彼の為に懸命に働き、懸命に尽くして、懸命に恋をする幼い駆逐艦。

 時々暴走とかしちゃうけど、それは仕方無い。可愛いのである無罪。

 彼女は今まで、典型的な艦娘の一員だった。

 義務で戦い、責務を果たし、使命を全うしていた。 

 けれど、今は違う。自分の意思で戦っている。

 司令官に勝利を。愛のために。感情を抱いて海を駆け抜く。

 いつか、言った。彼女に人間でいてほしいと。

 結果的に、彼女は彼から指輪をもらったのを切っ掛けに目覚めた。

 恋を知り、闇を知り、憎悪を知り、闇堕ちフラグをへし折って回避しそのまま進んだ。

 愛らしい笑顔で彼に甘えて、彼を支え続けた。

 結果、勝ち取った勝利であった。

(朝潮は天使だ……)

 そう。彼女こそ、提督にとって至高の存在。彼だけの天使である。

 この世界に救いはあった。悩める彼を導く無垢なる天使のもとに、彼の意識は召されるであろう。

 

 要するに、だ。

 

 こいつ、マジでロリコンに覚醒しやがったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が覚醒してからの変態の行動は実に速かった。

「鈴谷、ごめん。俺は……戦うと決めたんだ。あの子の笑顔のために。あの子の隣で。あの子と共に」

 先ずは、己の結論を彼女に知らせる。

 彼女との恋は、しっかりとけじめをつけた。

 お断りする。鈴谷は呆然としていた。

「お前は凄く魅力的な女性だよ、鈴谷。だけれど……俺は、お前とは向き合えない」

「…………」

 真面目な顔をして何を言っているのだこの変態は。

 駆逐艦だぞ? 子供だぞ? 何を考えている?

「常識的に考えればおかしいのは分かる。けど、あの子も本気なんだって、わかった気がしてさ。だから、俺はどうであれ、あの子に応える責任があるんだ」

 戦う理由がないことを知られたくなくて、皆を避けていた自分に突撃してきた無垢な少女。

 騒がしくしながらも、彼に常に付き添って共に戦う意思を見せてくれた。

 その健気な言葉と態度に……彼は癒され、気がつけばみなと普通に接していた。

 どうでもいいのだ、そんな問題は。要は彼の自滅。ありもしない被害妄想であった。

 考えなければ、そもそもあんな風に遠ざけることもなかったのだ。

 思い込みと言うやつで、それを気にせず突っ込んできた朝潮には、深く感謝している。

 彼は、朝潮に、確かに救われたから。

 ゆえに彼女の思いに、向き合いたいと。自分で思ったと告げる。

 意外と理屈の通した理由であった。

 半ば朝潮の勢いに負けて諦めていたが、本人から言われるとやはり、少し堪えた。

「……そっか。変に気遣いして、尻込みしたから……鈴谷は負けちゃったんかな」

 ああ、バカだ。分岐点を誤った。鈴谷は、思わずそう溢して、彼に背を向けた。

 小声で言っていて良かった。聞かれないで済んだようだった。

 怯まずに突っ込んでいれば。彼の苦手な物だとしても、敢えて選べば。

 隣にいられたかもしれなかった。最初に、暴走しすぎた。

 朝潮は無知だった。知らないから、怖いものも知らなかった。

 その差なのだろうか。……結構、ダメージは大きい。

 終わった。鈴谷の恋は、当初のライバルであった飛鷹からダークホース、朝潮に変わって。

 結局、鈴谷は勝てないままであった。

「ん、気にしないでいいよ。今じゃ鈴谷も、朝潮には勝てないしね」

 敢えて軽く、彼女は無理して笑って流した。

 朝潮は本気。それは、戦果を見れば分かる。

 今や鬼だろうが姫だろうが、必要であれば果敢に倒しに飛びかかるのが朝潮。

 そして、生きたまま解体ショーを開始して、抵抗するなら残酷に、無理矢理殺す。

 艤装を破壊するなどという艦娘の存在意義を捨てた方法を選べるなんて、鈴谷は思いもしなかった。

 あくまで艦娘として戦うことに無意識で固定されていた彼女とは朝潮は違う。

 彼のためなら、手段など選択しない。通用するなら意義だって捨てたのだから。

 工具で解体と言う方法は、邪道だと忌避する者もいる。

 彼女の活躍は目覚ましいが、同時にあんな戦法で勝っても意味などないと。

 駆逐艦としての誇りはどうした、といつぞや他の鎮守府の戦艦に言われていた。

 因みにその時は、朝潮は堂々とこう、言い返していた。

 

「残念ですが、私は誇りなど既に失った身です。駆逐艦と言うのは非力で脆く、限界が戦艦よりも遥かに速い。ゆえに、方法は限られます。私は巨大な主砲は使えません。優れたレーダーも使えません。重厚な装甲もありません。取り柄は機動力と持続性のみ。然しそれでは、他の艦娘と何が違うんでしょうか?」

 

 朝潮が求めたのは、司令官に対する確実な勝利だった。

 勝たなければ、なにも意味などない。

 誇りを、プライドを優先して勝機を奪えないなら大いに結構、と逆に言うのだ。

 

「私は見栄などいりません。それで、失うものはあっても守れるものは何もありません。勝てれば何をしてもいいのか、とお聞きになりましたが、答えは今の私です。是、とだけ言わせてもらいましょう」

 

 価値観が違うと言い切った。

 何であれ取り入れる彼女と、艦娘としてのプライドを守る艦娘では、相容れない。

 不愉快そうに眉をつり上げる戦艦。戦術に関しては、互いに責めても、共に戦わなければ支障はない。

 ただ、不愉快と言うだけで。

「私は艦隊あってのやり方です。後ろを助けてくださる、空母や重巡の皆さんがいたから、戦えた。決して一人きりの戦いではないのです。やり方なんて、そんなものはどうだっていい。私が、戦えるのか。戦えて倒して、皆と戻れるか。司令官のいる鎮守府に、帰ることができるか。重要なのは、そこだけ。他のことなど、小さいことです」

 朝潮は戦艦相手でも、怯まない。緊迫した空気のなかでも、見上げて真っ向から言い返す。

 軈て、議論は無駄だと戦艦から引いていった。あの手の奴には語るだけ無駄だと分かったようだ。

 ハラハラしていた周囲に対して詫びを入れてから、戦艦は朝潮にこう言った。

 お前と艦隊を組むのだけは願い下げ、と。背中を預かる気すら起きないと断言した。

「私は、誰が何と言おうとも我が道を行くだけです。お気に召さないのであれば、構いません」

 最後まで相容れないまま、朝潮は戦艦を見送った。

 彼女は酷くご立腹のようだったが。のちに、朝潮は周囲で見守っていた鈴谷たちに語った。

「私は私のやり方で戦うだけです。認められている以上、先方も強くは言えませんし」

 気にしない様子であった。度胸のある駆逐艦である。

「鈴谷じゃ、覚悟の差が出来てたってことだよ。朝潮はメンタル強いから」

 それを見ていて、鈴谷は感じた。萎縮しないどころか対立しても朝潮は、怯みも見せなかった。

 あの子のメンタルは、恐らく相当強い。それはやはり、提督に対する感情の大きな差だろうか。

 愛のために戦うと豪語する朝潮。その愛の前の感情は、忠誠心であった。

 元より朝潮という艦娘は忠誠心が高い傾向だと聞いたことがある。

 それが恋に変わって、愛に昇華された今、朝潮の根本は鋼の如く強固なものだと見ていて思う。

 つまるところ、朝潮は内面が凄まじく強く、そして揺るがない。

 揺らぐのは自分のキャラだけである。

「そうか……。俺の知らないところで、朝潮はそんなことを……」

 知らない一面を知って、どこか嬉しそうに彼は誇っていた。

 彼女の与えた影響は大きい。なぜなら、彼ももう、戦う理由ができたから。

 彼は誓った。朝潮に負けない提督になろうと。

 あそこまで尽くされたのだ。彼女に応えられる人間でありたいと。

 彼女が自慢できる男になろうと、決意を固めた。

 同時に、朝潮の愛らしさに骨抜きにされて、朝潮中毒に陥った。

 朝潮がいないと、多分彼は直ぐ様発狂する。その自信があった。

「提督、顔怖い」

「……ハッ!?」

 ニヤけた面構えにして、鈴谷が一歩引いていた。

 変態だ。やっぱこの人、ロリコンになっている。

 そういう表情をしている鈴谷。すごい警戒されていた。

「まさか……朝潮に手を出したとか言わないよね?」

「何を言うか鈴谷! あの尊い朝潮に俺が手を出す!? そんな……そんな畏れ多いこと、できるはずがないだろ!!」

 提督は直ぐ様否定した。ガチな反論に鈴谷は尚更引いた。

 提督は朝潮には性的な意味で手を出すことはない。

 首の安全装置もしかり。一番の理由は。

「朝潮はな……朝潮はとても尊いのだぞ鈴谷! 俺の穢れた欲望をぶつけていい相手ではないのだ! 朝潮は愛でるもの!! そして、愛でられるもの!! 互いに愛し、支えあう清らかな関係性しか許されぬ! 下劣な欲望なぞ、天使朝潮に向けてよいものではない!!」

 提督は朝潮を天使、要するに手を出すことを禁忌とする清浄な存在だと思っているらしい。

 熱弁されて、鈴谷はドン引きした。

「気持ち悪いよ提督……。変態になったの……?」

「変態ではない! 俺は朝潮という天使に救われただけだ!!」

 豪語する。間違いないロリコンであった。

 鈴谷、哀れみで彼を見る。

 頭が可哀想な状態になっていると思われているようだ。

 実際、可哀想になっていた。

「お前に誓おう、鈴谷。俺が万が一何かに血迷って、朝潮を泣かせる真似をしたら。その時は許す。俺を葬ってくれ。彼女を泣かす俺に価値はない。天使に涙を流させる不届きものに生きる資格なし。即刻死すべし」

「何を言われているのか鈴谷ちょっと分かんないかな……」

 何を言い出しているのだこの変態は。頼まれても鈴谷も困る。

 彼は朝潮をどうしたいのか。さっぱり理解で出来なくなった。

 これが、鈴谷の好きだった人なのか。様変わりしすぎである。

「はぁ……。提督、マジで最低」

「好きにいってくれ。お前に応えられなかった俺への罵倒、甘んじよう」

「いや、そっちの罵倒じゃないし。完全にその変態の言動に対してだから」

「うむ……?」

「分かってないの!? 今の提督まごうことなきロリコンだよ!?」

「ロリコン……? ロリコンってなんだ? 俺は朝潮に救われただけだが?」

 ダメだ。この人、壊れた。朝潮は提督まで破壊してしまった。

 鈴谷、危機感を感じる。これは、早く目を覚ましてもらわないと。

「提督、しっかりしてェッ!!」

 取り敢えず殴る。全力で。

 グーを作って、顔目掛けて振るう。

 鈴谷の願いを込めながら。

「ぐわああああああああああーーーー!?」

 めり込んだストレート。吹っ飛ぶ提督。

 ぶっ倒れて、痙攣している。

「はぁ……はぁ……」

 荒い息で、鈴谷は考える。どうしてこうなった。

 好きだった人が、今でも好きな彼がロリコンカッコガチなのですが!?

 飛鷹に相談しよう。このままでは不味い。彼も朝潮も。

 鈴谷は兎に角、失恋のショックよりもロリコンショックが大きかった。

 走り去る背中を、半透明な白い翼の朝潮が迎えに来る幻想を見ている提督であった……。

 合掌。


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