夜に満月一つ。   作:ふらったぁ

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3時間で走り抜けた。僕が楽しかったので満足です。


夜に満月一つ。

ぐしゃりと、新聞を握りつぶした。

 

「くそっ、ふざけるな! 何が『艦娘は過剰戦力になる恐れがある』だ!! 散々戦わせておいて、最期はそれか!? クソ野郎共が!」

 

感情のままに机を叩く。乗っていたものがいくつか、バラバラと落ちてしまったが、今はそんなものを気にしている余裕はない。

艦娘の強制解体処分。それが、大本営が下した決断だった。

深海棲艦は全て途絶え、以前と同じ様な世界に戻って、そしてこれだ。

まだ幼い少女たちに戦わせ、それが終われば復旧作業までやらせておいて、これだ。

恩を仇で返す、なんて言葉に収まらないほど、残酷なことだった。

 

「落ち着きなよ、司令官」

 

背後から、いつもと変わらない様子で、望月がそう言った。

 

「っ、これが落ち着いていられるか!。僕はっ、僕は、君を失いたくない……」

「……仕方ないんだよ、他の人にとっちゃ、あたしらはただの兵器なんだし」

「でも、僕らにとっては大切な仲間なんだぞ!?」

「…………」

 

望月は、何も言わずに目を伏せる。

僕も何も言えなくなり、行き場のない怒り、やりきれなさをどうすればいいのかわからないままでいた。

くそっ、と呟きが漏れる。

お互い何も言わない、虚しい時間だった。

それを、控えめな、ドアの開く音が壊した。

 

「時津、風?」

「やっほ、しれー。いや、なんかね、柄じゃないことはわかってんだけど、その」

 

誰よりも天真爛漫で、いつもこちらを振り回してくる時津風が、しおらしく、目を泳がせている。

そんな、今まで一度も見たことの無い姿を見て、より一層悲壮感が増してくる。

 

「あー、ごほん。今までありがとねっ」

 

涙ぐんだ声で、そう告げると、振り向いて駆けていってしまった。

こちらからは何も言えずに。

 

「あいつがあんなこと言うなんてな、はは、おかしいや」

 

力なく呟くと、望月は無言で手を握ってくれた。暖かさが空虚な体に染み渡る。

 

 その後、次々とみんながやってきて、なにか二言三言言って去っていった。

みんなに会う度、思い出が蘇ってきて辛くなる。

なにもできない無力感に苛まれ、叫んで逃げてしまいたくなる。

それをどうにか押さえ込み、最後の言葉を交わし続けた。

この鎮守府にいる全員と話し終えた時には、すっかり日も落ちていた。

望月の隣に座ると、机の上の、配置のズレた電話が鳴った。

 

「なんだよ、こんな時に」

 

放置するわけにもいかないので、一度呼吸を落ち着かせてから、受話器を取る。

交流の深い、とある鎮守府の友人からだった。

 

「もしもし?」

『俺だ。なぁ、いいニュースと悪いニュースがある』

「今以上に最悪なことがあるもんかよ。なんだそれは」

『……、艦娘を、助ける方法がある』

「本当かっ!? どうやってだ!?」

『…………、大本営からの通達、詳しく見たか?』

「艦娘を皆殺しにするってやつだろ? 見たさ、ふざけてやがる」

『あぁ、全く、ふざけてやがるよ。健康な艦娘の解体なんてな」

「……?」

 

相手の言葉に違和感を感じた。健康な艦娘の解体? 確かあいつの秘書艦は……。

 

『お前も覚えてるだろ? 俺の秘書艦やってた龍驤、あいつ、片腕無かったろ』

 

そうだ、確かあいつの秘書艦の龍驤は、昔の戦いで負傷して、片腕を無くしていた。

以降、戦闘はせず、執務の補助だけをしていたんだ。

 

「おい、お前、まさか」

『あぁ、そうだ。俺んとこはお前んとこより早くてな。静かなもんだぜ、こいつの泣いてる以外はな……』

 

そこまで言って、電話は切れた。

ツーツーと一定の感覚で流れる音が静寂を揺らす。

 

「……、嘘だろ」

「…………司令官」

 

震えているが、どこか、覚悟を決めたような、そういう声色で、望月が僕を呼んだ。

 

「覚悟は、してるから」

「望月お前、もしかして、電話、聞こえてたのか……?」

「あたしは、例え片腕を無くそうとも、司令官と一緒にいたい。例えみんないなくなっちゃっても、でも、それでも司令官と一緒がいい。みんなを裏切って、あたしだけ生き残ったとしても、一緒に生きていきたいっ!!」

「望、月……」

 

聞いたことのない叫び声で、そう打ち明けた望月を、力の限り抱きしめる。

泣くまいと決めていた一日、しかし一度決壊してしまったら、押さえ込むことは不可能だった。

 

 

 

 

 

 

カツン、カツンと足音が響く。

しっかりと手を握って、工廠へと向かっている。

真夜中、誰もいない。

いつもならば、まだ夕張あたりが残って作業しているだろうに。

いつもならば、まだ遠くから、酒飲みたちの笑い声が聞こてくるだろうに。

いつもならば、まだ夜戦好きの艦娘が、はしゃぎまわっているだろうに。

いつもならば、まだ、いつも、ならば。

もう消え去ってしまった日常を、浮かぶ満月に想いながら、歩く。

大切なものを、守るために。失えないものだけを、守るために。

 

 ギィと、錆び付いた扉が開く。

開きかけのドアに、軍刀が当たって音をたてる。

中にある、捕獲した深海棲艦を管理していた部屋に入る。

そこには、もうなにもなく、ただ冷たい鉄の床のみがあった。

 

「大丈夫か、望月」

「大丈夫だよ、司令官。あたしらは艦娘、痛みにゃ慣れてるさ」

 

へらっと笑ってそう返してくるが、声は震えているし、手は痛いほどに強く握られている。

嘘だ。そんなこと、すぐにわかる。

しかし僕は、そっか、とそれだけ言って、望月を床に寝かせる。

止血用の布や、その他諸々、使えそうなものは持ってきた。

あとは僕が、彼女の腕を切り落とすだけだ。

そう、僕が上手くやればいいんだ。刀だって、夕張製だ。上手くいく。そう覚悟を決め、柄に手をかけ

 

「待って!」

 

引き抜けなかった。

 

「司令官、手、だして」

「手……? こうか?」

 

一度軍刀を置き、両手を差し出す。

すると望月は、ゆっくりとその両手を握ってきた。

 

「あー、その、最後なんだし、その、ね」

「っ!」

 

笑って、降ろす。

 

「いくぞ、望月」

 

返事は、なかった。

代わりに、唇が固く結ばれる。

細い腕に、刃が触れる。手が震え、頭の中が熱くなる。

息を吸って、刀を思い切り、引いた。

 

「がッぁあっ、んっ」

 

ガリ、と骨に当たる。黄色い油が邪魔だ。血で刃が滑る。荒い息をして、どうにか悲鳴を抑えている。早く楽にしてやりたい。

再び、力を込めて、骨を、肉を引き裂いた。

 

 

「――――――――!!!!」

 

 

声にならない悲鳴を上げて、かつて体の一部だったものが切り落とされる。

溢れ出る血を押さえるため止血する。傷口が傷まないように包帯を巻く。

正しいやり方だったかはわからないが、とにかく必死にやった。

 

 月が傾いて、小さい窓から僕らを照らすころには、もうすっかり血も止まって、望月も動けるようになっていた。

 

「なんか、変な感覚だよ。だけど、悪かないね」

 

憔悴しきった顔で、それでも、少し口角を上げて笑う望月。

少し血で濡れてしまった髪を撫で、彼女を抱き上げた。

 

「いっ!」

「ごめん、痛かった?」

「たいしたことないよ。それより、早くベッドでのんびりしたいや」

 

そう言って、こてりと顔を傾けて寝てしまった。

僕は彼女を起こさないように、そっと寝室に寝かせ、一人、司令室へ入る。

 

 

報告書。

睦月型 11番艦 駆逐艦 望月は、工廠に潜伏していた深海棲艦一体を撃破。

しかし、右腕を損傷。以降、戦闘は不可能と見る。

 

 

 

 

ふと空を見上げると、満月だけがぽっかりと、夕闇に浮かんで見えた。

 

 

 

 




続きは想像していただけたらなって(他力本願)
もっと上手いこと書きたいものですね。






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