夜に満月一つ。   作:ふらったぁ

1 / 1
3時間で走り抜けた。僕が楽しかったので満足です。


夜に満月一つ。

ぐしゃりと、新聞を握りつぶした。

「くそっ、ふざけるな! 何が『艦娘は過剰戦力になる恐れがある』だ!! 散々戦わせておいて、最期はそれか!? クソ野郎共が!」

感情のままに机を叩く。乗っていたものがいくつか、バラバラと落ちてしまったが、今はそんなものを気にしている余裕はない。
艦娘の強制解体処分。それが、大本営が下した決断だった。
深海棲艦は全て途絶え、以前と同じ様な世界に戻って、そしてこれだ。
まだ幼い少女たちに戦わせ、それが終われば復旧作業までやらせておいて、これだ。
恩を仇で返す、なんて言葉に収まらないほど、残酷なことだった。

「落ち着きなよ、司令官」

背後から、いつもと変わらない様子で、望月がそう言った。

「っ、これが落ち着いていられるか!。僕はっ、僕は、君を失いたくない……」
「……仕方ないんだよ、他の人にとっちゃ、あたしらはただの兵器なんだし」
「でも、僕らにとっては大切な仲間なんだぞ!?」
「…………」

望月は、何も言わずに目を伏せる。
僕も何も言えなくなり、行き場のない怒り、やりきれなさをどうすればいいのかわからないままでいた。
くそっ、と呟きが漏れる。
お互い何も言わない、虚しい時間だった。
それを、控えめな、ドアの開く音が壊した。

「時津、風?」
「やっほ、しれー。いや、なんかね、柄じゃないことはわかってんだけど、その」

誰よりも天真爛漫で、いつもこちらを振り回してくる時津風が、しおらしく、目を泳がせている。
そんな、今まで一度も見たことの無い姿を見て、より一層悲壮感が増してくる。

「あー、ごほん。今までありがとねっ」

涙ぐんだ声で、そう告げると、振り向いて駆けていってしまった。
こちらからは何も言えずに。

「あいつがあんなこと言うなんてな、はは、おかしいや」

力なく呟くと、望月は無言で手を握ってくれた。暖かさが空虚な体に染み渡る。

 その後、次々とみんながやってきて、なにか二言三言言って去っていった。
みんなに会う度、思い出が蘇ってきて辛くなる。
なにもできない無力感に苛まれ、叫んで逃げてしまいたくなる。
それをどうにか押さえ込み、最後の言葉を交わし続けた。
この鎮守府にいる全員と話し終えた時には、すっかり日も落ちていた。
望月の隣に座ると、机の上の、配置のズレた電話が鳴った。

「なんだよ、こんな時に」

放置するわけにもいかないので、一度呼吸を落ち着かせてから、受話器を取る。
交流の深い、とある鎮守府の友人からだった。

「もしもし?」
『俺だ。なぁ、いいニュースと悪いニュースがある』
「今以上に最悪なことがあるもんかよ。なんだそれは」
『……、艦娘を、助ける方法がある』
「本当かっ!? どうやってだ!?」
『…………、大本営からの通達、詳しく見たか?』
「艦娘を皆殺しにするってやつだろ? 見たさ、ふざけてやがる」
『あぁ、全く、ふざけてやがるよ。健康な艦娘の解体なんてな」
「……?」

相手の言葉に違和感を感じた。健康な艦娘の解体? 確かあいつの秘書艦は……。

『お前も覚えてるだろ? 俺の秘書艦やってた龍驤、あいつ、片腕無かったろ』

そうだ、確かあいつの秘書艦の龍驤は、昔の戦いで負傷して、片腕を無くしていた。
以降、戦闘はせず、執務の補助だけをしていたんだ。

「おい、お前、まさか」
『あぁ、そうだ。俺んとこはお前んとこより早くてな。静かなもんだぜ、こいつの泣いてる以外はな……』

そこまで言って、電話は切れた。
ツーツーと一定の感覚で流れる音が静寂を揺らす。

「……、嘘だろ」
「…………司令官」

震えているが、どこか、覚悟を決めたような、そういう声色で、望月が僕を呼んだ。

「覚悟は、してるから」
「望月お前、もしかして、電話、聞こえてたのか……?」
「あたしは、例え片腕を無くそうとも、司令官と一緒にいたい。例えみんないなくなっちゃっても、でも、それでも司令官と一緒がいい。みんなを裏切って、あたしだけ生き残ったとしても、一緒に生きていきたいっ!!」
「望、月……」

聞いたことのない叫び声で、そう打ち明けた望月を、力の限り抱きしめる。
泣くまいと決めていた一日、しかし一度決壊してしまったら、押さえ込むことは不可能だった。







カツン、カツンと足音が響く。
しっかりと手を握って、工廠へと向かっている。
真夜中、誰もいない。
いつもならば、まだ夕張あたりが残って作業しているだろうに。
いつもならば、まだ遠くから、酒飲みたちの笑い声が聞こてくるだろうに。
いつもならば、まだ夜戦好きの艦娘が、はしゃぎまわっているだろうに。
いつもならば、まだ、いつも、ならば。
もう消え去ってしまった日常を、浮かぶ満月に想いながら、歩く。
大切なものを、守るために。失えないものだけを、守るために。

 ギィと、錆び付いた扉が開く。
開きかけのドアに、軍刀が当たって音をたてる。
中にある、捕獲した深海棲艦を管理していた部屋に入る。
そこには、もうなにもなく、ただ冷たい鉄の床のみがあった。

「大丈夫か、望月」
「大丈夫だよ、司令官。あたしらは艦娘、痛みにゃ慣れてるさ」

へらっと笑ってそう返してくるが、声は震えているし、手は痛いほどに強く握られている。
嘘だ。そんなこと、すぐにわかる。
しかし僕は、そっか、とそれだけ言って、望月を床に寝かせる。
止血用の布や、その他諸々、使えそうなものは持ってきた。
あとは僕が、彼女の腕を切り落とすだけだ。
そう、僕が上手くやればいいんだ。刀だって、夕張製だ。上手くいく。そう覚悟を決め、柄に手をかけ

「待って!」

引き抜けなかった。

「司令官、手、だして」
「手……? こうか?」

一度軍刀を置き、両手を差し出す。
すると望月は、ゆっくりとその両手を握ってきた。

「あー、その、最後なんだし、その、ね」
「っ!」

笑って、降ろす。

「いくぞ、望月」

返事は、なかった。
代わりに、唇が固く結ばれる。
細い腕に、刃が触れる。手が震え、頭の中が熱くなる。
息を吸って、刀を思い切り、引いた。

「がッぁあっ、んっ」

ガリ、と骨に当たる。黄色い油が邪魔だ。血で刃が滑る。荒い息をして、どうにか悲鳴を抑えている。早く楽にしてやりたい。
再び、力を込めて、骨を、肉を引き裂いた。


「――――――――!!!!」


声にならない悲鳴を上げて、かつて体の一部だったものが切り落とされる。
溢れ出る血を押さえるため止血する。傷口が傷まないように包帯を巻く。
正しいやり方だったかはわからないが、とにかく必死にやった。

 月が傾いて、小さい窓から僕らを照らすころには、もうすっかり血も止まって、望月も動けるようになっていた。

「なんか、変な感覚だよ。だけど、悪かないね」

憔悴しきった顔で、それでも、少し口角を上げて笑う望月。
少し血で濡れてしまった髪を撫で、彼女を抱き上げた。

「いっ!」
「ごめん、痛かった?」
「たいしたことないよ。それより、早くベッドでのんびりしたいや」

そう言って、こてりと顔を傾けて寝てしまった。
僕は彼女を起こさないように、そっと寝室に寝かせ、一人、司令室へ入る。


報告書。
睦月型 11番艦 駆逐艦 望月は、工廠に潜伏していた深海棲艦一体を撃破。
しかし、右腕を損傷。以降、戦闘は不可能と見る。




ふと空を見上げると、満月だけがぽっかりと、夕闇に浮かんで見えた。






続きは想像していただけたらなって(他力本願)
もっと上手いこと書きたいものですね。






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。