【バレンタイン短編】チョコを渡したいヤンデレ海未ちゃん   作:アウター・ドッペル

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女性が男性へチョコを渡す特別な日。

…私が皆様へ差し上げられるのは作品だけです。
残念ながら…チョコはあげられません。非力な私をお許しください(´・ω・`)


【バレンタイン短編】チョコを渡したいヤンデレ海未ちゃん

彼は甘い物が好き。

園田海未は、幼馴染である南ことりをはじめとする親しき友人達からの援助の元、ガトーショコラを作っていた。


「こ、こうでしょうか―?ことり…」

「うんうん。ばっちりだよ〜。」


全ては、あの人のため。
海未は混ぜ込んだ材料を型へ容れ、最後の仕上げをすると、オーブンへそっと入れ込んだ。


「あとは焼き上がるのを待つだけだよ。」

「そうですか…。う、上手くいくと良いのですが―」

「大丈夫だって!きっと海未ちゃんの気持ちも伝わるよ!」


不安げな彼女を、高坂穂乃果が励ます。他の者も、このお菓子作りにおける意気込みが違う。


なんせ、あの海未が想い人にあげる物なのだから。




2月14日―それは、健全な男子学生なら皆一同にそわそわとし、女子から頂く「ある物」の個数でお互いの優劣を競い合う、年に一度の大イベント。

朝早く登校するなり、(しょう)中濱(なかはま)は両者、一斉に下駄箱を勢いよく開けた。

しかし、眼前にあったのは、踵が潰れ気味の見慣れた室内履きのシューズと、薄汚れて細かい錆が目立ち始めた簡素な仕切り板だけだった。
少々の沈黙。
中濱は無表情でシューズを取り出して、それを思いっきり床に投げつけた。章も同様で、周りの生徒の中にも彼等と同じ動作をする「敗者」達もいる。一部の女子生徒達からはクスクスと笑い声が聞こえた。


「…まぁ…うん。」

「でしょうな…。」


ある物―チョコレートは、二人の下駄箱には入っていなかった。つまり彼等はチョコを貰えなかった。故に「敗者」だ。
中濱は章の肩を軽く叩いて、制服のポケットから1枚の板チョコを彼に渡すと、精一杯明るい声を出す。


「こうなることは目に見えてた。つーわけで、俺から少尉へ愛をこめて。」

「お前の愛なんていらないよ。それにさ、バレンタインチョコってのはさ、手作りがデフォルトだろ…。」


そう言いつつも、章はそれを受け取ると、スクールバッグの中に入れた。


「は?テメェ、それは夢を見すぎってもんだ。今どき女子が男子に手作りって…義理でも割とねーよ。」

「その夢に期待してたのはどこのどいつだ?」


手厳しい指摘に、中濱は口を尖らせて「それはお前もだろ」と言い捨てる。兎にも角にも、敗者である事から逃れられそうにない彼等は、気まずい現場を後にし、教室に向かうことにする。
道中の廊下でも、話題は無論バレンタインの件だったが。


「手作りチョコが欲しい…。」

「でもさー少尉。バレンタインのこの手の手作りチョコって…ぶっちゃけ既製品を溶かして型で固めるだけじゃね?」

「…中濱氏。うん。分かったから。貰えなくて捻くねたり拗ねたくなる気持ちは俺もだから。」

「いや、ホントにそうじゃねーって…ただふとそう思ってさ。」

「確かに…言われてみりゃそうかもしれんけど…あのな?料理ってのは過程での愛情が―」

「愛情って何だよ?具体的に言うとするとなんだ」


章は苦笑する。顎に手を当て、考える素振りをとる。
そして、ボソリと呟いた。


「血とか?」


突然の単語にも、中濱は困る様子は見せず、口笛を吹いた。


「んー。ヤンデレはいいねぇ。個人的には流血はヤンデレと呼びたくないけど。」

「…貰えなかったやつがそんな文句言うなよ…」



そんな二人を少し離れた所から見ていた穂乃果とことりは、海未の背中をぽんぽんと触る。バレンタインチョコを章に渡す作戦実行の合図である。
だが、海未が俯いてその一歩を踏み出せずにいたのにいじらしくなったのか、穂乃果が強引に彼女を廊下へ送り出す。


「ほら、海未ちゃんってば!今だよ!今しかないよ!章くんいるじゃん!」

「ほ、穂乃果っ。押さないでください!今は中濱さんがいますっ…そ、それにっ…やっぱり、直接は恥ずかしいです…っ」


遠巻きにやり取りを傍観していた凛が、呆れた顔をして出てきた。希もそれに続いてふふんと微笑む。


「意気地無しにゃー。代わりに凛が渡しちゃってもいいの?」

「そうやね〜。海未ちゃんが渡さないっちゅーならウチらが渡してあげてもいいんよ?」


「…はい?何を言ってるんですかあなた達。」


驚くほど低い声で海未がピクっと反応する。


「…章は私のものです。あなた達には渡しません。この中で、私よりも先にチョコを…いえ、章本人に聞けばいいですか。私以外のチョコなんて、持ってませんよね…?ふふ…章…しょう……」



◇◇◇



海未さんから、貰えなかったなぁ。
章はぼんやりとそう思いつつ、二限目が終わってもまだバレンタイン空気の男子生徒達のやり取りをただ眺めていた。


「お前チョコ貰った―?」
「ったりめぇーよ!中濱とは違って俺はモテるからなぁ〜。」
「んだとこのダボハゼ斎藤がぁあああ!いつぞやの賭けポーカーの負け分、テメェのそのチョコで払いやがれぇえ―!」
「ほれほれ〜。欲しかったからここまでおいで〜。」
「サイトォオオオ!!そいつをよこせぇえええ!!」


走り回る彼等は教室の外へと追跡劇の舞台を変え、どこかに走っていった。そう言えば、次の授業は移動教室か。章はため息をついて、机の横に掛けてあるスクバから教科書類をとろとろと取り出した。
すると、海未が声をかけてきた。


「あ、あの…章…。お話があるのですが…いっ、いいですか?」

「へ…海未さんが俺に?いいけど…何の用?」

「…っ。その、私、えと…きょ、今日はバレンタイン…です…よね。」


挙動不審な彼女に若干懐疑的な目線を送る。


「うん。それがどうかしたの?」

「えっと…その…章は、誰かからチョコを貰ったりしたんですか…?」


その時、換気のために開けられた窓から差し込んだ突風で、教壇の上で放置されていたプリントが舞散った。そして、海未の美しい長髪が艶やかに、輝きを帯びて横に揺れる。
いつの間にか、教室は二人だけだった。二人っきりの静謐な空間。

思わず章は見惚れてしまう。
髪が風に撫でられるこの一瞬が儚く、切ない。
繋ぎ止めておきたい。この時間を。このままずっと。

章は、中学生の時読んだ小説のその一文が目の前の彼女に当てはまるかのような気がして、感嘆した。そして、質問から少し経って、ようやく返事を切り出した。


「あ、いや…貰ったかどうかと言えば貰ったんだけど…ははは。」

「…え。私以外から…チョコを?」

「えっ?う、うん。」

「見せてもらえますか?」


言われるがまま、章はスクバから板チョコを出して彼女に見せる。朝、中濱から武士の情けでもらった物だった。

海未の表情が暗いのは気のせいだろうか?

どうしたのだろう。先程までの海未の艶っぽい表情が急に止まり、風もやむ。目の色が少し暗い。


「…浮気ですね。」

「へ?」

「あなたは最低です―っ!」


海未が大声で叫んで机を叩く。険しい表情の彼女を前に、章は状況の整理が出来ずにいたが、その暗い目に涙が浮かんでいたのを見て、ただ事ではないと席を立つ。
取り敢えず落ち着かせなくては。


「誰から貰ったんですっ!?μ‘sのメンバーからですかっ?それとも他の女性ですかっ?さっさと白状してくださいっ!!」

「いやいやあの、海未さん―え、これは…中濱氏から…貰ったものだけど」

「…え?」

「へ?」


お互いよく分かっていない。
海未は、チョコの差出人が中濱である理由。章は、何故今こんなことになっているのかという疑問。
そして、補完しあえば語弊が解けるのはとても早い話だった。



◇◇◇



「ご、ごめんなさい…章。私が勘違いしていたみたいです…。」

「そ、そう―誤解?が解けたのならいいんだけど、結局海未さんは何の用だったの?」


さっき風で舞い落ちてしまったプリントを拾いながら、章は純粋な疑問をぶつけた。

すると、海未が微かに笑って、集めたプリントを章に手渡した。


「鈍いんですね。」


そのプリントの束の上には、綺麗にラッピング包装されたガトーショコラ。


「私からあなたへの…チョコですよ。」


「…愛してます。これからも…」


Fin.



おまけ


海未「み、皆さんに…その…ガトーショコラを作ってきました。」


海未「お口に合うか分かりませんが…よろしかったからどうぞ…。」


海未「お、美味しいでしょうか…?」



【挿絵表示】



【挿絵表示】



【挿絵表示】



海未「…お返し、期待してますよ。」


◇◇◇


〈原案〉
公野櫻子(『ラブライブ!』)


〈原作〉
マリオタ(『ヤンデレに愛されちゃったオタクくん。』)


〈構成・文・菓子制作〉
アウター・ドッペル


〈友情出演〉
かおるーん(斎藤:『ヤンデレな花陽との日常。』より)




反響がありましたら、ホワイトデー編もやらせていただきます。






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