ダンジョンで失った物を拾い集めるのは間違っているだろうか   作:イベリ
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どうも、イベリです。


今回は、人によっては不快かもしれません。

人の死、死の価値観の話とかになるので。

では、どうぞ。


欠けて 壊れて 抱き締めて

リヴェリアさんに手を引かれながら、洞窟の宿屋を進んでいく。 リリとフィルヴィスさんは外で待たせている。さすがに小さな女の子に死骸を見せる訳にはいかない。

 

 

 

「これ…」

 

「あぁ…」

 

ティオナさんと大兄が言葉を漏らす。

 

奥の部屋から漂ってくる鉄臭くて、生臭い匂い。

 

 

────僕はこれをよく知っている

 

 

────これは、人だったモノの匂い

 

 

────僕自身を象徴する匂いと色

 

 

一際匂いの強い部屋に向かう。そこには。

 

頭を砕かれ、地面に横たわる上裸の男の死骸が"あった"

血は壁一面に飛び散り、目玉や脳がそのままになっている。

 

「ヒッ…」

 

「うわぁ……」

 

「派手にやったわね…」

 

「ベル。反対を頼む。」

 

なんだか、慣れた匂いに少しだけ変な安心感が湧いてきてしまう。歪む口元を引き締めて感情を消す。

 

「はい、これは…変ですね…頭を砕けるような筋力を持っているのなら、血が飛び散らないように殺せばいいのに…それに、そこのバック…破った跡があります。恐らく、目的はこっちにあったんじゃないかと思います。そして、気絶させたところをイライラして…って感じが1番筋が通ります。」

 

「そうだね…それは僕も同じ意見だ。」

 

ひとつ頷いて死骸に近づき検死を開始する。

まずは頭を見る。見るも無残な状況で、死因は頭を踏み抜かれたこと。他殺で間違いはない。犯人は女らしいが…とてつもないパワーだ。

さすがにここまでキツい殺され方だと、店主も可愛そうだ…目の前で項垂れてる。

 

体つきは、ゴツゴツと男らしくいかにもな冒険者。装備品を見ても良さがわかる訳では無いのでスルー。

考察をしていると、後ろから野蛮な声が聞こえる。

 

「おい!おめぇら!ここは立ち入り禁止だぞ!見張りのやつは何やって…って、またテメェらか!」

 

「やぁ?ボールス。僕達もしばらく街を利用するつもりでね。早期解決のため、協力させてもらいたいのだけどどうだろう?」

 

「ケッ!物は言いようだなフィン!テメェらと言い【フレイヤ・ファミリア】と言い、強ぇ奴らはそれだけでなんでも出来ると威張り散らしやがる。で?そこのガキは…っ!?」

 

大兄がそう言うと、ボールスと呼ばれた男は不遜な態度で接する。後ろでティオネさんがジト目で見ている。僕もこいつは殴っていいのかと考えた。

すると、ボールスは僕を見て何やら驚愕している。

 

「…あの、なんですか?」

 

「『世界最速兎(レコードホルダー)!リトルルーキー』じゃねぇか!もうこんな所に来てやがんのか!」

 

「リトルルーキー?なんですかそれ?」

 

こんな呼ばれ方をしているのか僕は?

 

「ベル、それはお前のレベルアップの期間がだな…短すぎたんだよ。」

 

「なるほどー…そんな呼ばれ方してんですね…しかし兎って…」

 

「可愛らしくていいじゃないか、兎。ベルに似てるぞ?」

 

「うーん、リヴェリアさんがそう言うなら…」

 

若干納得がいかないが、とりあえずリヴェリアさんの一言で納得する事にした。

 

「…どうだい?ベル、何かわかったかい?」

 

「はい、見た通り…こうやって頭を踏み砕かれて即死みたいです。死後硬直の具合からして死後6時間。抵抗痕もありませんし、早業ですね。…ん?」

 

死骸をよく見ると、首が異様にぐらついて居ることに気づく。触れてみて初めてわかった。

 

…首の骨が折れてる。いや、正確にはへし折られている…?

 

凄い…

 

「綺麗だ…」

 

「…ベル?どうしたんだい?」

 

「フィンさん…ここ分かりますか?」

 

どれ、と言って屈んで僕が指さす場所を見せる。

 

「…よく見れば…これは、折れているのか?これは、まるで…ベル、君は今日来たのかい?」

 

「え?はい、今日ここに到着しました。大兄達が来る…恐らく2時間ほど前かと。」

 

「そうか…その途中で巨人を倒したかい?ゴライアスと言うんだけどね…」

 

「巨人…?いや、倒してませんけど…?」

 

「…あれはベルじゃなかったのか?」

 

なんの事かと尋ねると、リヴェリアさん達が来る途中で見たらしい、モンスターの死骸を僕が殺したものだと思っていたらしい。

 

「────って!よく考えてくださいよ!僕まだLv2ですよ!?一撃でゴライアスなんて倒せませんよ!?」

 

「ハハハ、いやすまない。リヴェリアがベルだと言っていてね?てっきりそう思っただけさ…さて、ボールス!リヴィラの冒険者を全員集めてくれ。あとステイタスシーフを。」

 

「けっ、分かったよ。やりゃいいんだろ!」

 

ボールスは吐き捨てるように出ていった。

 

「ステイタスシーフ持ってきたら"このゴミも掃除"もしなきゃいけませんしね。」

 

 

 

この時は、何も意識していなかった。特に気にすること無く、いつもの様に会話をしてそれの相槌を打っただけ。でも、それは僕だけの認識だった。

 

 

 

 

「べ、ベル…?な、何言ってるんですか?」

 

「…えっ?何がですか?レフィーヤさん?」

 

レフィーヤさんが目を見開いて震えながら零す。

 

「な、何がって…ご、ゴミ掃除って…ど、どういう意味ですか?」

 

「え?えっと…コレと…血も掃除しなきゃダメですし…なんか変ですか?」

 

死骸と血と荷物を指さしながら話すと、余計に驚いた顔をする。

何故こんなにも驚いているのか、不思議で仕方がなかった。

 

「ひ、人をゴミだって言うんですか!?」

 

「え、ち、違います!人がゴミなんじゃなくて、ほら、それはゴミでしょう?」

 

「ど、どうしちゃったんですか!優しい貴方はどこに行ったんですか!?」

 

ここでだろうか、周囲との決定的な違いを押し付けられた気がしたのは。

 

 

 

 

 

「────死体なんてただの肉の塊でしょう?ゴミみたいなものでしょう?」

 

 

 

 

 

しばらくの沈黙の後に、レフィーヤさんが口を開く。

 

 

「────────べ、ベル…どうしたんですか?…何だか今の貴方は"怖いです"…!」

 

 

僕は、その言葉を言うレフィーヤさんの目を見て理解した。その目を。オラリオ(ココ)に来て初めて向けられる畏怖の眼差し。ただ、レフィーヤさんがこう言うこと(死の現場)に慣れていないだけだったのかもしれない。だが、その目を見て漸く理解した。

 

 

長い月日を殺しで埋め尽くしていた僕は、常識そのものを摩耗させてしまっていた。

 

────怖い

 

暗殺者時代、死体など虫の死骸と同等か、面積をとる事からそれ以下のものだった。普通を演じていた僕の盲点。畏怖の目。村で、あの神以外の人に、初めに向けられた感情。

それはあまりに大きく、あまりに鋭利で、あまりに深く、僕の心に突き刺さった。

 

 

 

「────ッ」

 

「ベル!待ってくれ!」

 

「べ、ベル!待つんだ!」

 

 

 

僕は脱兎の如く逃げ出した。全力でその場から。

大兄の声が聞こえる。リヴェリアさんの声が聞こえる。それを振り切って宿を出る。

 

「ベル様?って、ちょっと!どこ行くんですか!?」

 

「ベル?!どこへ行く!オイ!」

 

パーティーメンバーなはずの2人の声を無視して走る。1人になりたかった。

 

馬鹿だ、僕は。普通のフリして、必死で普通の子供を装ってただけだった。思い出させられた。

 

 

僕は、ボクは

 

 

 

 

────ただの殺人鬼じゃないか

 

 

 

 

僕はただ走った。

 

 

 

 

────────────────────

 

「ベル!!」

 

「…リヴェリア、彼を。」

 

「…わかった…!」

 

リヴェリア様が、ベルを追って部屋から出ていく。

 

どうしても信じられなかった。

食人花から助けられたし、その後にリヴェリア様と本屋について行って謝った時も、快く許してくれて気さくに話しかけてくれた。彼は心優しかったはずだ。だから、さっきの行動は異常だった。ほかの皆さんも驚いていたのに、どうしてか幹部のお二人が驚いた様子がなかった。つまり、お二人はベルの何かを知っているという事だ。

 

「…あの、フィンさん…ベルはどうしてあんな事を…だ、だって!いつもはあんな事ありませんし!」

 

「私も…知りたい。ベルがあんな事言うのは…きっと、理由があるから。」

 

「あたしも聞きたい!何か知ってるんでしょ?」

 

団長は幾らか溜めて口を開く。

 

「…ダメだ。これは、僕が言うことじゃない。」

 

「そんな!これじゃ、ずっと溝が生まれたままだよ!ベル君の走っていく時の顔みた!?すっごい悲しそうで、今にも壊れちゃいそうな顔してたんだよ!?私!行ってくる!」

 

「待つんだ!だからこそなんだ。彼の過去は…他の人間が簡単に話していい事じゃ無い。リヴェリアを行かせたのも、彼にとってリヴェリアが大切な人だからだ。この中の誰よりもだ。もし他の誰かが行けば…分かるね?ティオナ。行きたくても、今はリヴェリアに任せるんだ。」

 

ティオナさんが、悔しそうな顔をしてから、わかったよ!と言って出ていってしまった。

 

「あ、あの…団長…」

 

「レフィーヤ…君の考えは分かる。君の言い分もね…でも、知って欲しい。彼は当たり前の事を知らないんじゃない。"忘れてしまったんだ"全てね。愛も欠け、常識も、夢すらも壊れた。それをやっと手に入れたんだ…受け入れられなくてもいい…どうか、理解してあげて欲しい。」

 

「…」

 

「話も終わったことだ。ほら、広場に集まろう。あとはなるようにしかならない。」

 

団長の話を聞いてなんとなくだが理解した。それ程酷い環境でベルは育たざるを得なかったのだ。

 

私の方が…年上なんですから!しっかりしないといけません…きっと、ベルにだって思う事があってあの場から走り去ったのだ。きっと…

 

そう願いながら、団長に続く。

 

部屋を後にする団長の背中は、何故か悲しそうで、走り去るベルの背中を見ているようだった。

 

 

 

────────────────────

 

 

「…ここ、何処だろう…」

 

走って、走り続けて(逃げて、逃げ続けて)荷物置き場のようなところに来てしまった。でも、今はシンとしたこの状況が心地よかった。フラフラと保管されている荷物を背にへたり込む。

膝を抱えて、1人考える。

 

僕は、あの人たちのそばにいていいのだろうか。

過ぎる顔は何人もいる。正義感の強い不器用なエルフに、心優しい大好きなハーフエルフ、不器用にも真っ直ぐ愛してくれる大好きな姉。そして、何より愛しい我が主神。

 

勝手に、僕が普通だと思っていただけだ。全然普通なんかじゃなかった。

 

僕は────「ベル。」

 

馴染んだ声がする方向に顔を向けると、そこには予想通りの人物がいた。

 

「リヴェリアさん…どうして…」

 

「お前がどこかに行ってしまうからだろう?今は殺…犯人もまだこの階層にいるかもしれないんだ。1人にしては置けない。それに…」

 

リヴェリアさんは、少しだけ言い淀んだ後に、ほんの少しだけ頬を紅くして僕の頭を撫でる。

 

「そんな顔をしてるお前を、放って置けないだろう?」

 

────痛かった。この優しさが、今の僕には痛かった。だが、不思議と心地よくもあった。

 

「ねぇ…リヴェリアさん…僕ってやっぱり異常なんですかね…」

 

「…そうなのだろうな。」

 

肯定。それもそうだろう。周りからしたら死体をゴミ呼ばわりなど異常そのものだ。だが、僕はそれが理解できなかった。なぜ、声も感情も、温もりも無くなった死骸に、そこまでみんながこだわるのか。人間の終わった後の殻に、どう価値を見いだせるというのか。死ねばそこまで、ゴミ同然。そこが終わりのはずなのに。

 

「なぁ、ベル。」

 

「はい…?」

 

リヴェリアさんが、僕に尋ねる。

 

「お前は、人が穏やかに死ぬところを見たことがあるか?」

 

「穏やかに…?」

 

「そうだ。天寿を終えて、天に帰るのだ。」

 

知識としては知っている。だが、実際に見たことは無い。僕自身が見た事のある(終わり)は苦しみに満ちて、恨みや妬みとか暗い感情ばかりが混じっていた。だが、リヴェリアさんの言っているのは、幸せに満ちた物だ。

 

「知っては…います。でも、見たことは、ありません…僕が知っている(終わり)は…もっと、苦しくて…血腥いもので…」

 

 

家族に囲まれ、最愛の人や最愛の子供たちに囲まれたりしながら、(終わり)を迎える事は本で見た事があるだけだ。

 

「…そうか……ベル、こっちにおいで。」

 

無言でリヴェリアさんの傍に行くと、ふわりと抱き締められる。それには驚いたが、縋るようにリヴェリアさんの首に腕を回して抱き着くと、リヴェリアさんの変化に気づく。

 

泣いているのだ。

 

その事にしどろもどろして、咄嗟に声をかける。

 

「り、リヴェリアさん…!泣かないでください…どうして…貴女が…?」

 

「泣いている…そうか、私は泣いているのか…」

 

リヴェリアさんの涙を指で拭いながら、あたふたしていると、リヴェリアさんは腕の力を強くして抱き締めてくる。

 

「リヴェ、リア、さん…?」

 

「ベル…痛いよ…私は痛くてたまらない…」

 

悲痛に呟くリヴェリアさんに、さらに理解が追いつかなくなる。なぜ、リヴェリアさんが泣いているのか、訳が分からなかった。

 

「ベル…お前は、いつかその場面を目にする時があるだろう。そして、お前が見てきた(終わり)とは違う(終わり)を見て、知る事になる。今はそれでいい…だけど、知って欲しい…人の営みの終わりを…そこに何が残るのかを。お前は、知らなければならないんだ…」

 

そのまま、強く抱き締められる。

リヴェリアさんはああいった。だけど、僕はリヴェリアさんの期待に答えられることは無いのかもしれない。永遠に、人の終わりに価値を見いだせることは無いのかもしれない。

 

 

 

 

でも、理解しようと思えた。

 

 

 

 

それだけでも進歩したのだろうか?

 

僕も、首に巻きついている腕をしっかりと回して抱き着く。すると、爽やかないい匂いが鼻腔をくすぐった。

 

「…いい匂い…」

 

「そ、そうか…?」

なんだか、少しだけ不安そうなリヴェリアさんが、ちょっと可愛かった。

 

「うん…暖かい、森の爽やかな匂い…眠く、なる…」

 

「………そうか、寝ていいぞ…疲れたな…」

 

「…うん……リヴェリア、姉さん…」

 

「!…ん、なんだ?」

 

「…あり、がとう……」

 

何に対しての感謝だったのかは、自分でも分からない。

 

「────あぁ、頼ってくれよ。私は、お前の────」

 

慈愛の頬笑みを浮かべて、リヴェリアさんは僕を抱き締めた。

 

そのまま僕は、リヴェリアさんの腕の中で、眠りについた。

 

────────────────────

 

「こんなにも小さな子が…『この世界は食べ物に対する飢餓よりも、愛に対する飢餓の方が多い』か…愛を忘れたが故に…心を忘れたが故に…罪の意識を忘れたが故に…夢を忘れたが故に……何故だろうな…何故お前ばかりが…」

 

自身の腕の中でスヤスヤと眠る少年を見る。

 

至って普通の、年相応よりも少し子供らしく、中性的で努力家のこの子が…どうしてこうも地獄を見なければならないのか。この子は、私が疲れた時に癒してくれた。私の話を聞いてくれた。愚痴も聞いてくれた。料理も振舞ってくれた。まるで、本当の家族の様に。

 

私に家族愛とは違う"知らない愛"を教えてくれた。

 

そんなこの子が、どうしてこうも失わなければならなかったのか…私ならば…世界を呪っただろう。何故自分だけこんな目に合わなければならないのか、何故自分だけ全てを失っているのか、何故周りはこんなにも楽しそうなのか…私がもっと早くにこの子を見つけ、もっと早くにこの子と知り合えていたならば…いや、それでも分からないだろう。この子の欠けてしまった部分(死への価値観)は変えられなかっただろう。

 

だが、1つ確かなことはある

 

「ベル…私にこんな事を言う資格があるのかは、わからないが…『お前は、お前であればいいんだ』だから…どうか、どうか…お前を見失わないでくれ…」

 

眠るベルに、願う様に呟く。

聞こえてはいないだろう。だが、それでいい。

私自身の本当の気持ち…他人に聞かれればおかしいと言われるかもしれない…だが

 

「ベル…愛してる…」

 

これは、ただちっぽけで、我儘な…お前を愛する者のささやかな願いなのだから。

 

────────

 

「フィン!今戻った。」

 

広場に全冒険者を集めていたフィンに声をかける。

 

「遅かったじゃないか。被害者はLv4のハシャーナ。ガネーシャファミリアだ。それと、ベルは見つか…っと、随分とまた…仲良しじゃないか。」

 

「Lv4か…ベルをひとりにしないで良かった…これくらいならば元々だ。もう少し寝かしてやりたい…いいか?」

 

「…彼の生い立ちを知っている僕としては、治してあげたいところではあるけど、そこは本人次第だからね…それにレフィーヤは…」

 

苦い顔をしてフィンが続けるが、首を振ってそれを止める。

 

「…いいんだ、あとは本人達の問題だ…深入りして過保護過ぎてはいけない。ベルにも、成長してもらわないといけないからな。」

 

「なんだか…変わったかい?」

 

「あぁ…干渉してばかりではいけないと知ったよ。」

 

フィンはくすくすと笑って私とベルを見る。

 

「本当に…いい姉弟だね。短い筈なのに、そこにちゃんと絆がある。」

 

「ふふっ…時間など関係ないさ…どれだけ深く愛せるか、だ。」

 

フィンは少し頬笑みを浮かべて、そのまま去っていく。身体検査をするようだ。

 

近くのベンチに腰掛ける。

ベルは未だに私の腕の中で子兎の様にスヤスヤと眠っている。本当に子供だ。まだ、アイズやレフィーヤと…いや、きっと愛を忘れた分それ以上に愛に飢えて、より子供だ。透明で、透き通っている。

本来なら冒険者などにならないで、平穏に平和に最後を迎えたかも知れない。

 

「今だけは…お前がこの街に来たことを感謝させてくれ。」

 

そう呟くと、ベルはモゾモゾと身動ぎをしてから薄く瞳を開く。

 

「…ん…うぅ…リヴェリア…さん…なに…?」

 

「…起きるか?」

 

「…ん…はい…起きます…起きます…」

 

頭をフラフラと揺らしながら、私の膝の上で起き上がる。まだ目の焦点が定まっていないし、いつもよりも抱き着いてきたり顔をスリスリと擦り付けて来たりと、なんだか甘えん坊の様な感じになっている。

 

「…たいけーの所に…たいけー…」

 

「わかったわかった…ほら、行くぞ。」

 

ほぼ寝ているベルを背負って、フィンの元に向かう。

フィンの元に向かうと、フィンは壁を背にして顎に手を当てて何やら考え事をしている。と言うよりも、浮かない顔というのが正しいのか。

 

「フィン、どうした?順調に進んでいるというのに、浮かない顔だな。」

 

「…順調…過ぎないか?」

 

「…どういう意味だ?」

 

フィンは指を3つ立てて説明し始める。

 

「冒険者を集める際に、僕らは3つに別れたわけだ。北門南門にアイズたちを配置させて、中央に僕、リヴェリア、そしてベル。ベルのパーティは南門に待機してもらっている。ここで、僕ら2人は名も容姿もよく知られている。僕らならたとえ犯人がアイズ並みだとしても捕えられるだろう。6人揃えば尚更…もう分かるだろう?」

 

「!…犯人にそれがわからないわけが無い…つまり…"この状況がおかしい"という事!」

 

逃げ出すならば集まりきる前に、何かもう一騒動あるはずだ。正体がバレないと高を括っている…?いや、それは我々を舐めすぎだ。ならば、逃走の機会を逃したか?これは、希望的観測に過ぎる…

 

考えがまとまらない。とにかく調べるしかないのだ。

 

だが…その方法が…

 

「じゃあ…女は全員丸裸だァァァァ!!!」

 

「「「ウォォォォォォォォ!!!!」」」

 

「「「ふざけんなーーーー!!!」」」

 

向こうでは馬鹿な男どもが、女性冒険者にセクハラ紛いの事をしている様だ。女性陣はブーイングの嵐。

 

「バカ共が…ベルが起きてしまうだろう…」

 

「では!皆さんこちらに並んで────」

 

と、向こうでレフィーヤが言った瞬間だろうか。

女性冒険者ほぼ全員がフィンの前に並ぶ。なるほど、モテる男も大変なものだ。ティオネは激昴状態。フィンがお持ち帰りされた事で更に激昴。もう一騒動起こってしまった。

 

すると、背中に居たはずのベルが「たいけー…いまいくぞぉ…」と寝ぼけながらフィンの元にフラフラと向かっている。あんな状態では飢えた獣()の群れに突っ込む子兎のごとくの巻き添えになってしまう。と、急いでベルの首根っこを掴んでフィンの元に行く。すると、漸くちょっと目が覚めたベルがマトモな言葉を話し始める。

 

「…大兄…今すぐ男性冒険者の身体検査を…いますぐに…」

 

「おや、ベル…それはどうしてだい?」

 

「あの死体…良く見ると下顎の上部分に皮膚を剥がした様な跡がありました…もしかしたら犯人は被害者の皮を被って変装している可能性があり…頭を潰した理由も、恐らくその事を隠蔽する為に直接の死因を作り、分かりにくくしたかも…それに、ここまでが順調すぎる…明らかにこの状況はおかひいです…何かを炙り出すために敢えてこの状況に乗っていると考えるろが妥当だと思う…」

 

噛みながら話し始めて、見事な推理を展開する。

 

…複雑だが推理は流石…本当に噛み噛みだが。見事だ。

 

「…なるほど、盲点だった。皮を被っているか…と言うよりも起きてる?」

 

「うん…もう平気…」

 

いつもの敬語がタメ口になっている。まだ寝惚けている証拠だ。

やれやれと思いつつも、もう一度抱きあげようとした。

 

「やれやれ…まだ眠いのか…ほら、ベル。こっちに────!?」

 

その瞬間に、周囲の地面が一気に爆ぜる。

いや、爆ぜるという表現は正しくない。正確には、8体の食人花が私達を囲む様に地面から出現した。

 

不味いと思い、未だ夢現のベルをフィンの元に飛ばして食人花を私の元に惹きつける。ティオネ達に聞いた感じだと適正レベルは2と言ったところ。並行詠唱をすれば余裕で逃げ切れるし殲滅できる。

そう考えながら、並行詠唱をしようとするが、どこかであったように無駄に終わる。

 

「大兄!魔石の位置は!」

 

「ティオネ達によると上顎の裏中央だ!」

 

「了解!」

 

完全に覚醒したベルが初めて見る弓を構え、それを上に向け、物凄いスピードで八本の矢を上空に放つ。

 

矢はクリスタルの輝きを反射させながら八つの流れ星のように敵に降り注ぐ。そこまでは良かった。私は、ベルの弓の腕を評価はしていた。見たことは無いが、ベルの事だから相当の腕なのだと。だが、ベルの技量はその評価すらも失礼に値する物。

 

矢は、寸分違わず食人花の魔石を砕き私の周りの食人花を尽く灰に変えていった。

 

「その人に、近寄るなよ…!」

 

 

その発言が、ちょっと嬉しかったのは…内緒だ。

 

 

 

 




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