アストレア誕生
グリモールド・プレイス12番地にある大きな館、ブラック邸の一室で元気な赤ん坊の声が鳴り響く。
「よく頑張った!後は私に任せろ‼」
苦しみを耐え抜き、ぐったりとした表情で呼吸が荒い母親に対して、シリウス・ブラックが激励の言葉をかける。
シリウスはすぐに魔法で赤ん坊を綺麗にした。クリーチャーは赤ん坊を清潔な布で包んだ。
この赤ん坊は彼女とシリウスの弟であるレギュラス・ブラックとの間に生まれた子だ。死んだレギュラスの代わりにシリウスとクリーチャーが立ち会っている。
シリウスが赤ん坊を抱き上げる。シリウスの腕の中で、赤ん坊はまだ元気に泣いている。
「元気な子だ‼すごいじゃないか。」
感極まって泣き出しそうな声で、シリウスがそう言いながら、彼女に赤ん坊を手渡す。
彼女は赤ん坊をいとおしげに抱く。なんて美しい親子の光景だろうか。
しかし、妙に彼女の呼吸が荒い。
シリウスはぎょっとした。彼女はさっきよりも状態がひどく、虫の息だった。
「おい!大丈夫か!?」
「ご主人さま!!」
今度はクリーチャーまでもが泣き出しそうになっている。
彼女は全く大丈夫そうではなかった。それでも二人に必死に言葉を伝えようとしていた。
慌てたシリウスが治療をしようとする。
「いいわ、シリウス。治療なんて無駄よ。」
しかし、彼女はか細い声でシリウスの行動を止める。
「どうしてそんなこと!?」
「そうですご主人さま!早く治療を!」
二人はわけが分からず、つい声を荒げてしまう。
その声で赤ん坊の泣き声がひどくなる。
「いいえ、二人とも。自分の事だから分かるの。私はすぐ死ぬわ。」
「そんな…」
絶望したシリウスの口から言葉がこぼれた。
クリーチャーも自分の無力さに対し、苦虫を噛み潰したような顔で悔しがっている。
「だから、二人に約束して欲しいの…」
彼女はたくさんの伝えたいことの中から一つ一つ言葉を選び出してそう言う。
彼女の言葉一つ一つが二人に重くのし掛かる。
二人は真剣な表情で言葉を絞り出す。
「分かった、なんでもすると誓おう。」
「仰せの通りに…」
「じゃあ…この子、アスト…レアを…二人で…仲良く…育て…て。愛称は…リア…よ。」
だんだん声が小さくなり、息も絶え絶えになっていく。
シリウスもクリーチャーも見ているのが辛いが、目をそらすわけにはいかない。一つも言葉を聞きこぼしてはいけない。
「きっと…可愛…くて立派な…子に…そ…だ…つわ………」
腕の中のアストレアを見つめながらそう言った。
彼女はついに息絶えた。
シリウスがそっとアストレアを彼女から引き離す。
アストレアの泣く声が大きくなる。
少しの沈黙のあと、シリウスがボソッと呟く。
「逝ったか…」
「…………………………」
彼女は笑顔で安らかに死んでいった。
二人の目から涙が溢れる。
それでもアストレアは元気に泣いている。
そんなアストレアを見て、少しの間、考えに考えて二人は約束を守ると決意した。
二人の意志は固く、まっすぐとアストレアと未来を見つめていた。
その時にはアストレアはすっかり泣き止んで、眠っていた。
こうしてアストレアが誕生し、母親は亡くなった。
シリウスとクリーチャーはそれぞれの決意を胸に秘め、自分達の歩むべき道を歩き始めていた。
単純にアストレアが生まれるだけなので短くなりました。
というか一話目から展開が激しくなってしまいました(笑
あんまり更新が遅くならないように頑張るので応援よろしくお願いします。
それでは、また次回お会いしましょう!