その男の名は「ヤン・ウェンリー」   作:第2戦闘団

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第10話 なかなか上手くいかない現実

 

 

6月15日

 

辞表の内容を考えながら今日も嫌という程向き合ってきた事務仕事にウォルターは1人励んでいる。

とある作戦まであと一週間前とだけあって、書類の量は少なくともその1つ1つは内容が濃いので容易にサインを押せない状況である。

 

(いよいよ副官が欲しいところだが…)

 

彼にとって対等に意見を言い合える副官や将官がまだ身内には少ないと言う事が、一番苦労している。

ここ(陸軍)に来てからと言うもの、何かと1人で作業に明け暮れている事が多くなった気がしないでもないのである。

士官学校でそれなりの成績を残してしまったが為に、駆り出され、戦場で死にかけながらも功績を残し残してしまい、それが認められてしまい本人にとってはめでたくない中将へと昇進した。

この事に対し、後悔の念が無くもないがそんな事を考えている暇は彼にはなかった。

その後は押し寄せてくる膨大な書類を消化する事務作業

や、発生した現象を自分が報告したが故に、同じ事を万の4桁規模で行われ、それによって発生した人員の責任を全て押し付けられる結果になり、この時は内心憤慨したり呆れたりしておりその場の勢いで辞表を作成したが、机上に置いたままにしまったが為にクリスに発見され、強く懇願された為に辞表の提出は取りやる事にした。

 

取りやめた理由は懇願される際に泣かれてしまい、第三者が聞いたら誤解せざるを得ない事を言うとクリスから言われた事が大きい。

 

半ば脅迫で有る。

 

(子供と言うのは、いつの時代も何をするか分からないから侮れないな…)

 

過ぎた事とはいえ、クリスの行動はあまりに強烈だった為、その日からウォルターはクリスを刺激しない様努力して来たが、このまま軍にいると自分の胃袋と脳に深刻なダメージが入り続ける事になり、それに耐えうる程自分は粘り強くはない。

 

クリスには申し訳ないが自分はこの作戦が終わるにあたり、退役する考えにあった。

過去の経験上、辞表を提出するにあたり無理矢理引き止められたり、何かしらの間接的な妨害にあったりと何かと機会を逃していた。

今回ばかりはと願うが、そう言うものは願う程叶わないものである。

 

(シェーンコップは元々独自の指揮権を持ってるし、まぁ大丈夫…だよな?)

 

そんな事を思っていると、そのシェーンコップ当人がウォルターの元を訪れてきた。

 

 

 

「何やら、中将閣下にも深刻に考える程の事がある様だ」

 

「そりゃあるさ。生きている内だったら尚更だよ」

 

「で?、中将閣下。本当に断って良かったんですか?」

 

「此方としては、気にもしていない事を気にかけられても困るからね。私の方から断っておけば2人の方も、私が気にしていないと分かるだろう」

 

「そうですか。ですがアウロラ少尉の妹、彼女には気をつけておく事ですな」

 

「何か、根拠があっての事かな?」

 

「えぇ、そうです。少なくとも彼女は我々がどう言う存在かを探っていますよ」

 

「それが本当だとしても、何を目的に?」

 

「さぁ?、異常な戦闘力を誇る連隊の隊長の私と、この時代の人間であるあなたが何故面識があるのか?とでも思っているんじゃないですか?」

 

実際、ウォルターとシェーンコップには疑われる理由はキリがない程浮かんでいる。

 

何故、連隊の指揮官をわざわざウォルターに名指ししたのか。

 

何故、シェーンコップとウォルターには面識があるのか。

 

何故、ウォルターは彼らを知っているのか。

 

他にもあるが、一部の人間にはこの中の1つだけでも十分に疑う事が出来るだろう。

 

「…考えてみたらあり過ぎだな」

 

「そう言う事です。あまり軽率な行動は控えねばなりませんな」

 

「そう言って、夜の街に出かけていく男がいるらしいが?」

 

「おっと、もう耳に入っていましたか。将官もなるべく控えるよう努力しますので、閣下もお気をつけて」

 

不利を悟ったのか、シェーンコップはそう言うと早々に部屋を後にした。

 

 

(少しも考えていなかったな……しかし、私と同じかそれ以上の階級の人間は次の作戦の事で手一杯だろうし、頭の中から抜け落ちているだろう。

そんな事より、目の前の(書類)をさっさと終わらせてしまおう)

 

 

 

 

 

 

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結局のところ、作業は終わるはことはなかった。

長い間閉鎖空間に閉じこもっていた為に、今は気分転換も兼ねて、旧市街地を歩き回っている。

 

そして6月ともなると雪も溶け始め、雪原だった場所は一面緑の草原と化している。

しかし地理的に風は相変わらず冷たいが、ウォルターにとっては丁度いいくらいであった。

相変わらず、市街地は整備も修繕も行なわれていない為、建造物の殆どは瓦解したりしている。

石タイルやコンクリートの割れ目からはそれらを押しのけるように至る所から雑草が伸びている。

 

そして興味本位で立ち寄った教会の中で1人言い聞かせるように言葉を唱え始めた。

 

「後半年。そう、後半年耐えさえすれば…」

 

地方の教会にしてはなかなかの広さであるが、等の信仰の対象は瓦礫の中で朽ち果てており、見るも無残な姿になっている。

 

(しかし問題はあの空軍大将(マロニー)だ。あの大将がまた何か面倒事を起こせば、私の辞表がな無かったことにされてしまう。それだけは絶対にやめてくれ…と願うばかりだ)

 

マロニー空軍大将の軍部内での派閥は少しずつではあるが数を増やしており、首相であるチャーチルや前空軍大将のダウディングの派閥によって拮抗又は優位な位置を保っていた。

しかし、ダウディングの指揮した防空作戦で下士官達の反感を買ってしまい、そこをマロニーにつけ込まれてしまい派閥間の勢力では拮抗又は劣勢になりつつあった。

 

そこに陸軍から度重なる幸運なのような不幸により異例の出世をした中将、ウォルターが出現した。

壊滅的な損害被っても民間人1人として犠牲にしなかった事でその評価は一気に高まり、本人の預り知らぬ所で新しい派閥が形成されつつあった。

 

この事をウォルターが知るのはまだ先の事ではある。

 

(早く本国に帰りたい…と、思うのは私だけじゃない筈だ。いや、帰ったら余計面倒事に巻き込まれるのでは?)

 

政治には2度と関わりたくわないウォルターは、今後どうするかに悩んでいる。

実家に帰ってもいいが、それだと色々両親にも迷惑をかけるかもしれない事や、返って居場所がバレてしまう事などで地方に疎開か他国に移住する事を視野に入れている。

現時点で望ましい場所はアウストリスへの移住である。

 

不本意ながら政争に巻き込まれた挙句、散々存在を利用され続けた「歴史」があるので、目をつけられる前に場から退場したいと言う心境である。

それこそ不確定要素だからと謀殺された人物達の仲間入りだけは何が何でもしたくはない。

しかし残された書類と准将の餌やりの事を思い出すと、長く居すぎたと考え教会を後にした。

 

 

 

 

 

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そして6月15日から一週間後の6月22日。

カールスラント・オラーシャ軍の合同軍事作戦「バルバロッサ作戦」が開始された。

 

主要目標はバルト海沿岸都市とオラーシャの首都サンクトペテルブルクや主要都市の攻略と(主にミンスクやキエフなど)モスクワの攻略作戦である「タイフーン作戦」を同時発令し、モスクワ攻略を目論む。

もし冬までにモスクワ、キエフ両目標が攻略できなかった場合、これらを諦めミンスクに撤退。ミンスクすら支えきれなかった場合リガ、タリン、サンクトペテルブルクに撤退し、新たな防衛線を引くことになっている。

 

そして同日、スオムス国境に待機していた総勢150師団450万人がペテルブルク、ミンスク、キエフを目指して進撃を開始した。

この軍団はペテルブルクを制圧次第、ミンスク方面とキエフ・ハリコフ湾方面へ二個軍団ずつに別れ進撃する。

 

同日午前5時、オラーシャのゲオルギー・コンスタンチーノヴィチ・ジューコフ元帥率いる砲兵師団が自慢の火砲部隊の火力と面制圧によって敵の防衛線を強引に粉砕し、そこにミハイル・ニコラエヴィチ・トハチェフスキー元帥の中・重戦車からなる機甲師団と機械化歩兵師団を潜り込ませ2日で制圧。

その後をカールスラントのハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン少将とエーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥の機甲師団がミンスク・キエフ方面へ。

ペテルブルクを攻略したジューコフ、トハチェフスキー元帥の軍団はモスクワを目指した。

 

順調だった東部とは裏腹にバルト海沿岸では早々に躓いてしまった。

 

6月28日。タリンとリガへの強襲上陸が失敗したので、急遽東部戦線に移動する筈だったウォルターの連隊と一部の師団をタリンとリガへの攻略に向けさせられたのである。

 

ウォルターは攻略の際、指揮権の譲渡を条件にタリンとリガを攻略を行ない、大規模な釣り野伏せを行なった。

まず命懸けの負けるフリをし、タリン 、リガ両方の敵に目を付けさせナルバへの誘導に成功。

ラッペーンランタやヘルシンキに待機していたウィッチ隊や攻撃隊、ペテルブルクに配置されていた砲兵師団と、先の作戦の失敗の鬱憤を晴らそうとカールスラント海軍の戦艦群などによる艦砲射撃の砲火と、航空部隊からの銃火と爆撃に晒され、その後僅かに残った敵陸上戦力をあらかじめ伏せて置かせた師団と連隊で三方から包囲し殲滅。

空になったタリン、リガを占領し、連隊はミンスクを攻略したマンシュタインの軍団に合流する為、ビルニュスを経由してミンスクを目指した。

 

合流するにあたり、ビルニュス攻略を視野にしていたが敵戦力はおらず、経由する形でミンスクへ向かった。

 

8月15日、序盤は順調に事を運んでいったが何百キロの行軍は兵士達は疲労を見せ始め、軍規の乱れを生じさせ始めた。

キエフは攻略出来たものの兵士の疲労と物資の枯渇でこれ以上の攻勢は不可能であり、オラーシャもモスクワ方面で敵の攻勢に会い多大な損害を被った。

そして冬になる前の撤退を見越して、物資の切れそうな師団から順次撤退させ始めている。

 

この2ヶ月で主目標を制圧出来たものの、モスクワは攻略出来ず、40個師団程が補給切れや損害を被った為に行動不能であり、ここ数ヶ月は補給作業を強いられることになった。

 

そして何の進展もないまま、戦線は膠着し12月になり冬の到来を許してしまった。

オラーシャの機甲師団はともかく、カールスラントは正史ドイツと同じ液冷大国な為、戦車や車輌、航空機の燃料は凍ってしまい、機甲師団や航空隊は完全に機能不全に陥った。

 

そして聴きたくはなかった情報が飛び込んできた。

キエフを守備していたカールスラント軍約30個師団60万人が僅か3個師団8万人を残して、壊滅したのである。

この報を受け、ミンスクを放棄し予定通りリガ、タリン、ペテルブルクに多方面から軍を集結させ、防衛線を敷く事になった。

 

そしてキエフにてカールスラント軍を殲滅した大部隊がリガとタリンを無視してペテルブルクに進撃を開始した。

この防衛戦は熾烈を極めたものの防衛線を突破するには至らなかった。

結局、オラーシャは首都であるペテルブルクを奪還するに至ったが、最前線の為に民間人が帰省することは叶わなかった。

そしてカールスラントは投入戦力の75個師団の内30個師団を失うという大損害を被った。

オラーシャも75個師団の内15個師団が壊滅又は全滅した。

 

そしてこの作戦を境に、飛行型のネウロイに新種が現れ始めた。

その情報はリガを守備していたウォルターの元へ真っ先に届けられた。

 

 

 

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あっという間に作戦は終了し、戦略戦術共に勝利とは言えない結果になってしまった。

ここ最近というもの、リガの港湾施設の修繕や市内のインフラ整備で書類が山脈を形成している。

 

そんな書類を消化するだけのいつも通りの時間が過ぎると思っていたウォルターに、急報が入ってきた。

 

 

「失礼します!。閣下、大変です!」

 

「そんなに慌てるほどの事が起きたのかい?」

 

「この写真を見た方が早いと思います!」

 

ウォルターは封筒から出された数枚の写真を目の当たりにし、考えさせられた。

 

写真に写っているのは、2隻の帝国軍の旗艦級戦艦である。

 

一方はアーダルベルト・フォン・ファーレンファイト上級大将の旗艦「アースグリム」。

もう一方は外観こそ帝国軍巡航艦の大型化したものだが、左右から船体を覆うよう盾の様な物が装着されており、見た事のないタイプだった。

 

「一方はわかるとして、もう一方のタイプは知っているか?。それとこの写真がとられた時期と場所はわかるか?」

 

「多分ですがブラウンシュヴァイクの旗艦ベルリンではないでしょうか?。それとこの写真はキエフから撤退してきた師団にいた従軍記者が撮影したもので、賄賂を渡して買収しました」

 

「……わかった。一応警戒を呼びかけてくれ。旗艦級の戦艦に砲撃でもされたら、消し飛ばされる事は間違い無いからな」

 

「分かりました。それと閣下宛に書類が来ています。自分は装備のメンテがあるのでこれで失礼します」

 

そう言われ、出された書類を確認したウォルターは震えた後、絶望仕切った表情で書類を置き、天井を見上げる。

 

「……何故だ?」

 

 

【ウォルター・レーヴェン中将は、記載された日時までに、ロンドンの総帥部に出頭するように。】

 

 

ウォルターにとって、総帥部に行く事は処刑台に向かうのと同じ事であり、だいたいが面倒ごとを押し付けられる前触れである。

 

実際、押し付けられた時も転戦させられた時も総帥部へ出頭させられたので、今回も何か面倒ごとを押し付けられる事になったと言う事である。

 

後日。駐屯地の敷地内に誰とは言わないが何人もの顔写真が貼られた無数の藁人形が心臓などを中心に無数の釘が刺さっている状態で発見され、一時の間都市伝説として語られた。

 






適当に感じたらごめんなさい。
何回も書いては消してを繰り返したらなんか1月経ったのと先月はかなり忙しかったのです。
ユルシテ……ユルシテ……

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