不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
今回の話は物語のターニングポイントです。
遺跡調査とは何か?それは依頼人によって異なる。
例えば、後から調査員が派遣される可能性のある国や貴族からの依頼であれば安全性や遺跡の規模などを細かにまとめて提出することが仕事になる。スケッチがあればなお良い。
では今回のような依頼人が個人の場合は?おおよその場合、物品の納品である。
「ふふふ…はっはっは!あーっはっはっは!!なんだこれは!?楽しいぞ!」
俺たちの目の前にはパワーフレームに乗ってはしゃぐホワイトエルフ。何を隠そう、めんどくさい女パリラであった。
「お客様、パフォーマンスが低下しております。これ以上は機体がもちません」
「何っ!?」
ジェントルの警告に驚くパリラ。そして突然止まるパワーフレーム。
「パワーフレーム、ダウン。エネルギーチューブに破損をかくに……」
「お、おい!ジェントル!」
「…………」
喋らなくなったジェントルに呼びかけるも返事はない。腕を動かしてもパワーフレーム自体が重いためびくともせず、電源が落ちたことで抜け出すこともままならないようだ。
「あの、パリラさん。手助けは必要でしょうか?」
「…うむ」
その姿はまるで隙間に挟まった犬のような、しゅんとした姿だった。
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「ふははははっ!みんなご苦労だった!」
遺跡から出てきたパリラは上機嫌に笑っていた。それもそのはず、新しいパワーフレームに乗り込んでいるからだ。
このパワーフレーム、実はノーレが乗ったもの以外にもう一台だけあったのだ。しゅんとしてしまったパリラを元気づけるためにエスポワールが探し出したのは言うまでもない。
ドスンドスンと足音を立てながら土の地面を踏む。足跡ができていることを確認しながらパリラは振り向いた。
「おいお前!名前を言え!」
「え?契約の時に名乗りませんでしたっけ」
「そうだな、しかしその時は貴様をただの人間だと思っていたからな!覚えておらんのだ!」
「はあ……」
そう言われて生返事を返すエスポワール。パリラはパワーフレームから降りて彼女の前に立った。
「我が名はディンクハンクパリラ!勇気ある下等生物よ!名乗れ!」
そう言われてエスポワールは彼女が何をしたいのか理解した。息を吸ってそれなりの声量で名乗るエスポワール。
「私はエスポワール・デプスクロウラー。偉大なるホワイトエルフ様に矮小なる小生の名を憶えていただける誉れをいただき、身に余る光栄に打ち震えておりますです」
そう言って舌をぺろりと出しながらお辞儀をする。それを見て満足したのか、パリラは次にノーレを見た。彼女はピクリと反応したあと、おずおずと名乗る。
「ノーレ、です」
「声が小さい!」
「ノーレ!です!」
「よろしい!では帰るか!」
そして再びパワーフレームに乗り込むパリラ。残念ながらミサイルとゾックはパリラのお眼鏡に適わなかったようだった。
「あれ?俺らは?」
「貴様らは勇気を示しておらんだろう」
「まあ壁叩いてただけだったもんな…」
筋力を示しただけに終わった男二人はがっくりと肩を落とした。
「ここでお別れだ」
開拓地にある町の少し手前でパリラは言った。
「まあそうだな。こんなモンに乗ってたら嫌でも町の人の目につく。ホワイトエルフ様が乗ってたらなおさらな」
そう嘯くゾック。遺跡から持ち帰るアイテムは全てが高額で売れるのだ、誰かの目に留まれば厄介ごとに巻き込まれることは想像に難くない。
「ではな、また会おう!」
パリラは森のほうへ歩いていく。ドスンドスンと地面を突く音を心地よく思いながら、名残惜しく一度振り向いた。
金髪のエルフ。黒髪の少女。赤茶の髪の男。ひげの大男。それぞれが思い思いの方法で手を振っていた。
「ふん…」
鼻を一度鳴らし、森へ足を踏み入れるパリラ。昼間だというのに薄暗いそこを歩きながら遺跡での出来事を思い返す。
「やはり我々は間違っていなかった。人間とゴールドエルフは我々を助け、そして我らもまた彼奴らを守らねばならん」
エスポワールがパリラを突き飛ばして危険から遠ざけた事、ノーレが遺物を使い脅威を破壊した事、何の役にも立たなかったが最後まで仲間を助けようと必死に壁を叩いていた二人。そのすべてが走馬灯のようにリフレインした。
「ああ…やはり下等生物はいい」
彼女は柔らかな笑みを浮かべながら森を行く。
「そういえばあのノーレという奴、ニフに少し似ていたな」
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「おねえちゃん、へいき?つらくない?」
「つらいです…」
そして俺は何故か風邪をひいた。今はベッドに入ってノーレに看病してもらっている。
昔の俺だったら魔法で治せばイイじゃんとか思って熱を下げていただろう。だがそんなうまい話が無いのがこの世界だ。
ベテランの魔法師であれば魔法で熱自体を和らげることはできる。だがウィルスやら菌やらが死んだわけじゃないからやつらは増え続ける。そして待ち受ける結果は当然の如く死。俺は二回くらいこれで死んで学習した。
だが逆に言えば熱さえ無理に下げなければ死ぬことはないのだ。これに気が付いてからは俺は咳とくしゃみとアレルギーを意図的に止める方々を編み出し、花粉症とさよならバイバイしたのである。魔法万歳。
「うう、目が回る」
しかし今回の風邪は相当ひどい。まるで瓶いっぱいの強い酒を飲み干した次の日の朝のようだ。俺はそのままポスンと枕に頭を埋めた。
「おねえちゃん?」
「あうううう」
だめだ、気持ち悪すぎて意味のある言葉が出ねぇ。なんだこれ、なんかやばい系の病気か?
やだなぁ、こんなシーンで死にたくない。俺はもっと熱いシーンで死にたい。
仲間を助けるために自爆したり、捕らえられて処刑されたりとかね。こんなにいい仲間に恵まれたのに病気でぽっくり死ぬのはあまりにも惜しい。
だから。
まだ死にたくない。
土日は更新をお休みします。