不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
「今回は70点は固いな」
そう嘯く俺。冷たくなった俺は意識をスペアボディに移して宇宙船らしき物に乗っていた。
この宇宙船が何かは知らないが、俺のスペアボディを無限生成しているらしくいくら死んでもここに戻るのだ。
今回の死でなかなかの達成感を感じた俺は天井に備え付けられた窓から見える世界を見てため息を吐く。
宇宙という黒い海の中で大きく存在を主張する、緑と青の惑星。ぱっと見た感じ、緑の面積が多い地球といった趣だ。地軸は地球と比べると傾きが少ないので春夏秋冬はあまりない。そして当然、地球と大陸の形が違う。
まず南半球には雑に握ったオムスビのような大陸とごま塩みたいな島がぽつぽつ。北半球にはオムスビ大陸のちょうど反対にくるようにジャガイモのような大陸がある。そのサイズは圧倒的で、赤道近くから北極をちょっと超えるところまでジャガイモエリアだ。
この通り大陸は二つしかない。どう見たって地球じゃないのだ。初めて見たときは途方に暮れたものだが、今となっては地球の何百倍もの付き合いがある分愛着もひとしお。
視線を少しずらすと太陽に似た恒星がギラギラと光っている。こうしてみるとほんと環境が地球とそっくりだ。
さて、次はどっちの大陸に降りようかな。衛星軌道上をぐるぐる回っている宇宙船はピッタリ30日で世界を一周する。なので降りたい場所が悪ければ最大一ヵ月待たないといけなくなるから早く決めないと。
俺は自分の後ろにあるガラス張りの隣部屋を見た。
「…うわぁ」
何度見ても慣れないなこれは。そこには眠ったような姿勢でずらりと並んだ俺、スペアボディ安置所だ。なんで態々壁をスケルトンにしたのか。眠っている自分を見るのはかなり気味が悪い。見えないようにしたいけどこの部屋に隠すものなんぞ無いし、だからと言って別の部屋にアクセスしようにも一個しかない出口は電子ロックが掛かっている。この部屋から出る手段は一つ、部屋の中央にある降下専用の宇宙船ドロップシップに乗ってあの世界に落ちるしか無いのだ。
「よし、またジャガイモ大陸に行ってみますか」
「またでございますか?お客様もお好きですねぇ」
そう嘯く俺とそれに反応する汎用AIジェントル。壁に取り付けられたカメラがキュイと動いた音がした。
「だってオニギリ大陸に人なんてほとんど居ないじゃないですか。未開の地ですよ。作法も地域で全然違いますし」
「それも楽しんではいかがですか?」
「私にはまだ早いですよ。喋りかけただけで無礼打ちなんてクソゲーです」
「クソゲーでございますか」
「クソゲーでございますです」
ジャガイモ大陸に降下できるまで何日掛かるか聞いてみたら三日は必要だそうな。それを聞いた俺はベッドもない不親切な部屋の床に体を横たえるのだった。…裸で。
「すごくみじめな気分です」
「さようでございますか」
まったくこのAIは毎回ほんと気を利かせない。毛布の一個くらい出せよと言いたいね。
「毛布でございます」
「えっ」
嘘だろ。今までこんなこと一回もなかったのに。
「ベッドも服もございますよ。おまけで音楽も再生いたします」
そう言うなり部屋の中にベッドと毛布がドンと出てきて俺はいつの間にかローブを着ていた。ジェントルの声を出す専用スピーカーからはクラシックのようなよくわからん曲が流れ始める。
なんだ…何かがおかしい…。
もそもそとベッドに入り込み、ジェントルに問いかける。
「ジェントルさん」
「はい、なんでしょう」
「これって夢?」
「さようでございます」
「は?」
俺の第一声はそれだった。
考えてみてほしい。最高とはいえないシーンだったが工夫してドラマチックに死んで、さあいつもの宇宙船からスタートだといきこんでいた所でのベッドスタートの状況を。
つまり、あんな恥ずかしい事を言っといて死に損ねたのだ。そうなってしまえばそんな声も出ようというものだろう。
「目が覚めたのか!?」
「おおっ!ほんとに治っちまいやがった!」
そして目の前にはミサイルとゾック。っていうかここどこ?周り見る限りじゃ宿屋って感じじゃないんだけど。
最後に眠る瞬間、感じたのはパリラの声とビシバシ叩く音だったが…。いや、まさかな。ホワイトエルフが人間を住処に招き入れるなんてするわけがない。いくら西のツンデレでも流石に躊躇するだろう。パリラもそこまでアホではないはずだ。
「ふはははは!当たり前だろう!このパリラ様の薬術と偉大なるホワイトエルフの医療施設があれば遺跡風邪程度、へでもないわ!」
「は?」
アホだった。人間に住処ばれて攻め入れられたらどーする気なんだコイツ。ホワイトエルフは技術が進んでるから機会があれば攻め入ろうと人間の国はうずうずしてんだぞ。
おや…ところでノーレは?いつもだったら俺の腰あたりに巻き付いているはずなんだけど姿が無い。
「あの…パリラさん。ノーレはどこでしょう」
「ん?ノーレであれば姉のところに居るだろう!」
「姉?姉ってもしかして、モンスターの襲撃で生き別れたって言う…」
「ニフだ!」
こいつらまさかゴールドエルフまで住処に招いてんの!?大丈夫かここ!いつか攻め滅ぼされたりしない!?
「あ、あの…このことはこの集落の長に伝えているんですか…?」
伝えていなかったら大ごとだ。こいつらは基本的にやさしいから殺すなんてことはないだろうけど、最悪一生ここから出れないなんてのもある。俺ならともかくミサイル達にとってはかなりの大問題だ。
そう考えているとパリラがにやりと笑った。…いや、まさか。
「ふふふ、やはり知らなかったようだな。我は西のホワイトエルフいちの医者にしてここの長、ディンクハンクパリラ!憶えておくがよい!」
わーっはっはっはと笑うパリラを前に頭を抱える俺。マジで?こんな頭カラッポのめんどくさい筆頭が長?嘘だろ…。
「おい、エスポワール」
「なんでしょう…」
頭を上げると顔を両手でわしりと掴まれた。
「勇気ある者よ。貴様は我の命を救い、そして恩を返す機会をくれた。それを嬉しく思うぞ」
そう言って優しく笑うパリラ。ちょっとドキッとした。
こいつまさか人タラシ、もといエルフタラシなんじゃ…。ちょっとだけパリラが長っぽいなって思ってしまった俺だった。
「こちらこそ、命を救っていただきありがとうございます」
「フン。下等生物の礼なぞいらん。体調が戻ればまた働いてもらうぞ、覚悟しておけ」
とか言いつつ顔を綻ばせながら席を外すパリラ。それを見ていたミサイルとゾックは優しい視線を彼女に向けていた。
さて、パリラがいなくなるとここの部屋には俺とミサイルとゾックしかいなくなる。するとどうしても思い出してしまうのがあのメチャ恥ずかしい台詞。
「あのさ、エスポワール」
「ミサイルさんっ、ゾックさんっ」
「うおっ!」
何か言われる前に俺は二人に抱き着いた。俺の顔は真っ赤に違いないのでみられる前に隠してしまえとかそんなところだ。
「おかえり、エスポワール」
そうミサイルが言って俺の頭を撫でた。何がお帰りかは分らないが、とりあえず頷いておくとしよう。