不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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今回新キャラがちょいと出ます。前話で最近人間と遊んでないとか言ってたやつです。

誤字報告ありがとうございます。


愛の錠と真実の鍵の話。

 錠。鍵とセットになっているそれは、他人に開けられたくない扉や箱に取り付けられる物だ。

 それがノーレの居る小屋に、まさに今取り付けられた。

 

「これでよし」

 

 そしてそれを取り付けた下手人は金髪のエルフ。この村に居るゴールドエルフは二人だけなのであれがノーレの姉のニフである。言われてみればよく似たたれ目をしていた。

 「こいつのために」とか言ってこんな事をやらかす輩に正面突撃はよくない。ノーレに会わせてくださいなんて言ったって正論で突っぱねられるだけだろう。

 

 だからこそ、俺は小屋の上に上って彼女が出ていくのをじっと待っていたのである。

 いくらエルフの耳がよかろうと魔法の前では無駄だァ!まあ心音を限界まで下げてたせいでほぼ逝きかけたけどな。

 俺は地面に魔力を纏わせてそっと屋根から降りる。硬質化の魔法をかけることで砂利の音がかなり少なくなる、泥棒時代のお供みたいな魔法だ。

 

「さて、」

 

 俺の手には針金が二本。あとはもう分かるな?

 針金を交差させるように突っ込んでバネのような何かが無いか探る。…ん?入ったか?

 少し力を入れると鍵穴がくるりと回った。あとは針金を片手で持って、もう片手で錠前を回してやればいい。

 

「ちょろいもんです」

 

 パチンと音を立てて外れる南京錠。この俺を止めたければ電子ロックでも持ってくるべきだったな。

 入り口をノックして罠が張られてないか確認。変な音はなしっと。

 真のハンターは足元の警戒も怠らない。扉を少し開けてロープやワイヤが無いかを確認。これもなし。

 上…も何もないか。警戒しすぎかな。杖を構えてカットパイをしながら中に入る。…いた、ノーレだ。

 ソファーで寝ているのだろうか。ブランケットにくるまっているようで、金髪だけがはみ出ていた。

 

「ノーレ、起きて」

 

 その肩を揺さぶる。…起きないな。

 

「ノーレ。ノーレ」

 

 もう少し強めに揺さぶる。すると少しブランケットがはだけた。中から出てきたのは…ぬいぐるみとかつら。

 その瞬間後ろから気配を感じた。すぐに屈むと頭の上をロープが通り過ぎる。

 

「何ですってっ!」

 

 襲撃者が驚いているうちに肘で相手の脇腹辺りを打つ。その反動で逆回転しながら相手の足を杖で払った。

 

「ぐえっ!」

 

 杖を捨て、うつぶせになるように倒れた相手の首に左手を回して右手で頭を押さえつける。ハイ、制圧完了っと。 

 ……ん?襲撃者?どっちかというとそれって俺の方じゃない?少し冷静になって相手の頭を見れば金の髪がまぶしい。躰の大きさから考えるにこいつはニフだ。

 

 やっちゃった。

 

 これはどうするのが正解だろう。少し考えよう。

 ノーレ、大事。ニフ、べつに大事じゃない。よし、眠らせよう。

 首をきゅっと絞めるとニフはぐったりとしたまま動かなくなった。とりあえずブランケットでもかけておくか。

 しかしノーレはどこに?この分だともう一段階錠前が設置してありそうだな。

 屋根裏か、地下か…。まあ時間はある、気長に探すか。

 

 

 

■■■

 

 

 

 次の日。

 

「いってきます」

「ああ、行ってこい」

「また俺らは留守かよ」

 

 エスポワールは自分達に貸してもらっている小屋から出かけようとしていた。

 

「いってらっしゃい、おねえちゃん!」

 

 その中にはノーレの姿もある。エスポワールを迎えに来ていたパリラは顔を引き攣らせた。

 

「おい、なぜノーレが居る」

「攫いました」

「……ニフは?」

「攫いました」

「………。」

 

 パリラは頭を押さえてため息を吐く。勇気ある人間だとは思っていたがここまでぶっ飛んでいるとは思いもしなかったからだ。

 

「まあいい…我々は口出しをせん。お互いに納得のいく着地点を見つけておけよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 当事者のエスポワールはいつもの笑顔でそう答える。ああそう…としかパリラは返せなかった。

 小屋から例の宇宙船まで大した距離はない。一分も歩いたころにはすでに到着していた。

 宇宙船にしては小さい部類だ。全長10メートルに満たないそれはタイヤと窓のないキャンピングカーをエスポワールに連想させた。

 

「来たか」

 

 そこで待っていたのはパリラとはまた違うホワイトエルフ。

 真っ白な髪を肩口で切りそろえた、控えめなスタイルの女性だ。

 

「私はオトフモニクダリア。ダリアと呼べ」

「はい、ダリアさん。私はエスポワール・デプスクロウラー。よろしくお願いします」

「うるさいぞ人間。私はまだ貴様を認めたわけではない。その名はまだ持っておけ」

「…はい、ダリアさん」

 

 突っぱねているとも認める予定があるともいえる中途半端な対応にエスポワールは苦笑い。

 それを見たパリラはニヤリと笑った後これから別の用事があると言って立ち去ってしまった。

 

「パリラはああ見えて忙しい。今日は私と二人での作業となる。不安か?」

「いいえ、慣れていますから」

「可愛げのない奴だ。では扉を解放する」

 

 ダリアがそういうと宇宙船の扉横にある蓋を開けた。そこには引っ張るタイプの非常用開閉レバー。ダリアがそれを掴んで引っ張ると、扉がシュウと音を立てながらゆっくりと開く。

 

「入れ」

 

 彼女がそう言うので中に入るエスポワール。中は外部と同じで大した損傷はなく、驚くべきことに照明が未だ生きていた。

 

「凄い…」

 

 エスポワールが壁を撫でる。指先に少しほこりを付けるだけで何百年、下手をすれば数千年も前の物とは思えないほどの艶やかさを取り戻した。

 

「感動は後にしろ。気持ちは解るがな」

「あ、ごめんなさい」

「謝罪もいらん。先ずはここを見ろ」

 

 ダリアに叱られたエスポワールは彼女が指さす先を見る。ホワイトボードらしきそこには古代文字と日本語でなんらかの文字が書かれていた。

 

「解るか?」

「ええ…。これはパスワードについて書かれていますね。『パスワード、ぱすわーど』だそうです」

「なぜ同じ意味を?」

「発音でしょう。彼らの何らかの鍵が音声によって開くようになっているのではないですか?」

 

 そう彼女が言うとダリアはハッとした顔になり、近くのロッカーのような箱がいくつも並んでいる場所を見た。

 

「まさか、あれか!」

「試す価値はありますね。挑戦してみても?」

「やってくれ」

 

 ダリアの許可が出たのでエスポワールは一つのロッカーに触れる。その錠前らしき場所には光る板、液晶板があった。それに触れると『音声を入力』と古代文字で映し出される。

 

「『パスワード』」

 

 彼女が日本語でそういうと鍵がカタン、と落ちた音がした。その場面を見たダリアは興奮が隠せない様子だ。

 

「開いた!早く開けてみてくれ!」

 

 その声にうなずき、ゆっくりとロッカーを開ける。中にあったのは手帳とタブレットのような端末。

 ダリアをちらと見る。早く手に取れと言わんばかりだった。

 エスポワールはとりあえず手帳を手に取った。全く劣化しているように見えないそれはつい三日前にそこに置きましたと言われても信じられそうなほどだ。

 

「は、早く読んでくれ!」

 

 急かされるがままに手帳を開く。紙ではないような、どこか化学繊維じみたそれには古代文字と日本語がまったく同じ意味で書かれていた。

 

「『これを読んでいる君へ。きっと私たちの文明は完膚なきまで崩壊しているだろう。もし君が私の想像よりも生き汚く欲に塗れているのならこの星の人工衛星へ行くといい。手段はこの船を使えばいいだろう。行き先は設定してある、その端末を弄ればすぐにでも飛んで行ってくれるさ』」

「なんだと、それは一体」

「まだ続きがあります…『生物兵器に抗体を持った君は間違いなく選ばれた存在だ。こんな誰も彼もが死に絶えた世界でよければ好きにしたまえ』」

「どういうことだ…生物兵器?死に絶えた?何が言いたいんだ…」

 

 わからない。だがエスポワールは一つ確信したことがある。彼女と最も身近でありながら、もっとも遠い場所にある存在にアプローチを仕掛けることができる手段があると。

 手段とはこの船。そして行きたい場所とは彼女の宇宙船(リスポーン地点)

 

 それは偶然か必然か、この世界における巨大な(人工衛星)であった。

 


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