不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
先ほどの謎はダリアがパリラのもとに持っていくことになった。それはあまりに大きな新事実だったからだ。
今頃パリラの家はてんやわんやだろう。俺が行ってもできることはないと思い、小屋まで戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「お、早かったな」
「ええ、まあ。少し予想外のことがありまして」
扉を開けたらゾックが出迎えてくれた。少し奥ではノーレとミサイルが慣れない手つきで果物を剥いている。
さらにその隣では人が殺せそうなほどの視線で俺を見てくるニフ。そう、彼女は俺たちと生活を共にしていた。
「このクソ人間…」
「ノーレの前で変な言葉を使わないでくださいお姉さん」
「あなたにお姉さんなんて言われたくないわ!」
激昂するニフ。そりゃ誘拐犯にそんなこと言われたくはないわな。現状最も教育に悪そうなことやってるの俺だし。
鞭の使い方。人との戦い方。危険な仕事で生き残るコツ。教えたのは全部俺である。ろくでなしの人間と言われてもやむなし。
しかもノーレがそれを誇らしげに自慢するものだからニフの顔がもうやばいやばい。
「くそっ!ノーレがここまでほだされているとはね!」
そしてこのおねえちゃんは妹にもう甘々である。小屋から出さない事は辛うじてできたようだが、連れ戻すのはどうしてもできないらしい。
なんでも連れ戻そうとする度に泣きそうな顔でノーレが見てくるとか。そりゃ無理だわ、俺だってそんなんされたら心揺らぐもん。
「ニフおねえちゃん…エスポワールおねえちゃんをあんまり悪くいわないで」
「ぐぅぅ!?」
そして俺を責めていたニフを見かねたのか、少し悲しそうな目で言ってくるノーレ。こうかはばつぐんだな。
「うううう!くそっくそっ!どうして世の中うまくいかないのよ!ごめんねエスポワールさん!」
「あっ、はい」
「妹成分が足りないわ!ノーレ!抱きしめていいかしら!?」
「いまナイフもってるからダメ」
「ちくしょおおお!!」
「ニフさん、言葉言葉」
しかしこの変貌っぷりである。隣のミサイルはドン引き、ゾックも距離を取っているようだった。
「ねえノーレ、ニフさんっていつもこんな感じなの?」
「うん。むかしから変わらなくて安心してる」
つまりドシスコン。
「ニフさんもああ言ってますし、今から甘えてはどうです?」
「でも…」
「あとは私が代わりますよ。いいですよねミサイルさん?」
「そうだな。甘えてこいノーレ」
うん!と椅子から飛び降り、ナイフを置いてからニフに突撃する。ノーレの頭にみぞおちを強く打たれた彼女はそれでも嬉しそうな顔をしていた。
「ありゃ重症だな」
ゾックの言うとおりである。
ところでなんで果物の皮なんて剥いてたんだろ。
「ああこれな。なんでもコイツで酒を造るそうだぜ。ホワイトエルフの果実酒、呑んだことはあるか?」
「ありますよ。この時期に造るのは知りませんでしたけど」
「なら話は早い。実はな、こいつを剥くのを手伝ったら去年のを分けてくれるって隣の家のホワイトエルフが言ってたんだよ」
なるほどね。つまり今晩は久しぶりに呑み会という訳か。
でもなんでゾックは何もしてないんだろう。
「俺はな…手先が不器用なんだ…」
そう言って包帯にまかれた手を見せるオッサン。ゾック…お前まさか少女漫画世界で暗黒物質作るレベルで料理下手なのか…?
「エスポワール、俺な、たとえゾックがほとんど何もしてなくてもお酒を分けようと思うんだ」
「文句はありませんよ」
「なんてーか、ほんとすまねえ」
「一人だけ仲間外れにするほうが酒がまずくなりますからね。ここは私たちに美味しい酒を呑ませると思って」
俺がそう言うとミサイルは「違いない」と笑った。
「おいエスポワール!」
次の日の朝。なぜかパリラにたたき起こされた。うーむ、二日酔いのせいか頭が痛い。
「目を覚ませ!今から出かけるぞ!」
「突然ですね…いったいどちらへ?」
「月だ!」
その一言で俺の酔いは覚めた。
「私たちが行ってもよろしいのですか?こういうのはホワイトエルフの皆さんで行くものだと思っていたのですが」
まあそうなってたらこっそり忍び込んでたけどね。
「貴様らは遺跡のプロだろうが!この際種族がどうのこうのはどうでもいい!月を調べる大チャンスだぞ!」
なるほど。名より実をとったわけだ。
「そして我が同道する!頼りにするがいい!」
えっ。君ここの長じゃなかったっけ?そんな危険なことホイホイやっていいの?
「パリラさん」
「何だ!」
「ゴネましたね」
「かなりな!では船の前で待っているぞ!」
やっぱりな。まあ、これも仕事の依頼と言うのなら行かない手はないだろう。ただでさえかなり世話になってるし。
さて、ゾックとミサイルは連れて行くとして、ノーレはどうしようか。ニフが凄く渋るだろうなぁ。
「おねえちゃん」
「うわっ!?…ノーレですか」
突然後ろから声をかけられてビビったが、ノーレが居るだけだった。
「私もどうこうする」
ノーレ院。いやでもお前のお姉ちゃんの件があるし…。
「ニフおねえちゃんは縛ってきた。はっきり言って付いてきそうだったから」
「……凄いですね、ノーレは」
「うん、すごいんだよ」
いやほんとスゲーわマジで。攫ってきた俺が言うのもなんだけど。
■■■
「起動します」
エスポワールがタブレット端末を握り、操縦席に座った状態でそう言う。宇宙船に乗り込んだミサイル、ゾック、ノーレ、パリラはお互いの顔を見ながら頷いた。
エスポワールが端末を操作すると船がわずかに浮き上がり、ジェットエンジンに似た音が周囲から発せられる。
「おい…これ大丈夫か?」
ゾックは不安げな表情でエスポワールを見た。彼女は端末をじっと見ていて、その声に気が付いてない様子だ。
「重力発生装置オンライン、少し体が重く感じますよ」
その言葉と同時にずしりと体が重くなる感覚に襲われる。
「機首が上がります。バランスに注意してください」
次は体が後ろに引っ張られる感覚だ。よろけたノーレが機械の手に支えられた。
「気をつけろ」
「うん」
それはパワーフレームに乗り込んだパリラだ。月の危険度が分からないため、念のためという形で持ち出したという。ゴネたのは言うまでもない。
「上昇開始」
エスポワールがそう言うと全員がふわりと浮いたような感覚を感じた。腹のあたりがぞわりとする感覚は新鮮で、ミサイルは腹をさすった。
「さあ行きますよ、大いなる遺跡へ!」
そしていつになくエスポワールは大声を上げた。
すべては、自身の秘密を暴くために。