不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
ちなみに本作品に鬱やシリアス要素はホットケーキにかける塩程度しかないので安心してお読み頂けます
死んだ存在はどうあがいたって返ってこない。それは地球でもこの世界でも同じ真理だ。
だからこそ俺は帰ってこれた言い訳を探すのに四苦八苦していた。
「ええっと、ですね。私自身は死んだはずなんですけれど(実際死んだ)なんだかよくわからないところ(衛星軌道上のどこか)に転移してまして(意識だけ)、とりあえず私たちが拠点にしている町に向かったんです(皆と逢いたかったから)。でもあんな事言って(私の死に場所、見つけたよ……)帰ってくるのってなんだかアレ(死者蘇生とかいう禁忌)じゃないですか。だからコッソリ潜入したんですけど(見つかったらまずいから)たまたま自分の墓(からっぽ)を見つけてしまって、ポカンとしてたんです」
嘘 は 言 っ て な い 。
完璧な言い分である。
「じゃあなんで妹って嘘ついたの?」
ミサイルは訝しんだ。
「それは、そのう。死んだはずの私が帰ってくるのって、おかしいじゃないですか。ですから私は他人のふりをしてこのまま居なくなろうと…」
「バカヤロウ!」
「グエッ!」
台詞の途中で思いっきり抱きしめられて舌を噛んだ。一瞬で体が吹き飛ぶ自爆と違ってこういう痛みはじくじく残るから嫌なんだよね…。
「俺たちがそんな細かい事気にするわけないだろ…」
ミサイルは泣いていた。そりゃもう号泣レベルだ。おかげで服がべっちょりである。
「おねえちゃん」
「エスポワール」
そしてノーレとゾックも抱きついてきた。当然みんな泣いている。
なんだか服が湿り気を帯びてきた。でもまあ、こんな日もありなんじゃないかな。
俺は舌を噛んだ痛みで若干涙目になりながら皆を抱きしめ返した。
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エスポワールが泣いた。それはミサイルとノーレとゾックが今まで一度も見たことのない光景だった。
「おねえちゃん、泣けたんだ…」
涙と鼻水で端正な顔を台無しにしたノーレが言う。言われてから目を擦ったエスポワールは「本当ですね」と微笑みながら言った。
ノーレにとってエスポワールは第二の姉だ。かつての故郷でニフという姉と共に暮らしていたが、その集落はモンスターに蹂躙された。
逃げる途中で姉とはぐれ、水と食料も無いまま森をさまよい歩き、もうだめだと膝をついた時にエスポワールと出会ったのだ。
エルフは少数民族なうえに価値観が人間と大きく違う。基本的に人間に嫌われている種族でありながら、エスポワールは手を差し伸べてくれた。
食料を与えてくれた。服を作ってくれた。人間の戦い方を教えてくれた。妹みたいだと言ってくれた。その日から彼女は第二の姉になった。
だからこそ別れが辛かった。でも、その最期は目にしっかりと焼き付けた。エスポワールが弾け飛ぶ瞬間ですら泣かなかったのを見た。
一方で「そうでしたっけ?」と首をかしげるエスポワール。人間は花粉でも顔に浴びれば涙が止まらなくなるしあくびをすれば目に涙は溜まる。しかしエスポワールは失念していた。花粉症が大っ嫌いなのでアンチ花粉症魔法と清楚イメージを保つために対あくび魔法を常時利用していたことに。
そして魔法を扱う彼女は基本的に後衛なので怪我をすることもなければ泣くほど辛い目にも遭わなかった。エルフ嫌いの人間に石や心ない言葉を投げかけられることも多かったが長く生きた彼女にはへでもなかっただけなのだ。
ノーレがエスポワールにつられて笑う。そして彼女のお腹からグゥと音が聞こえた。
「……泣いたら、お腹すいちゃった」
「あはは、ノーレったら。じゃあみなさん、今からご飯にしませんか?」
男ふたりは一応の肯定を返したが、話には納得していないようだった。特にゾックは「後でちゃんと説明しろよ」と目で訴えかけている。
こりゃ逃げれないな、とエスポワールは小さくため息をついた。
■■■
俺の妹分が腹を空かせているので今日作るのはホットケーキだ。
何?この世界にホットケーキミックス、さらに言えば小麦粉はあるのかだって?それがあるのだ。
俺が栽培して人間界に広めたコムギモドキと二酸化炭素を魔法で圧縮した物質やら脱脂粉乳なんやかんやを混ぜ込んだパチモンではあるけどそれなりの味にはなっているのだ。こっちの世界にやってきてまずい飯に絶望した俺の執念の作品といってもいい。これのために20年は費やしたしな。
だってこの世界の人間の主食って木をふかしたやつと豆なんだもん…。木ってなんだよ。なんでそんなの食べようと思ったんだよ。
まあ愚痴はここまでにしてこのホットケーキミックスモドキは水を入れて焼くだけで大体完成する俺の最終兵器なわけだ。旅先でも簡単に作れるしな。
ぱっと焼いてハチミツ塗ってはい完成!隠し味に岩塩をちょこっと入れておく。
「えへへ、おねえちゃんのホットケーキ」
ノーレが顔を崩して笑っている。どうしたのだろうか。
「ああ、そういやお前は知らないだろうがコイツ、自分でそれ焼くたびに『おねえちゃんが焼いたホットケーキが食べたい』って泣いてたんだぜ」
「ゾック!」
ネタばらしをされたからか、ノーレは顔を赤くして立ち上がった。あーなるほど、確かに他人が作った飯ってなんだか美味しく感じるもんね…。
罪悪感を感じてそらした視線の先にミサイルがいて目が合った。
「もう一度エスポワールのパンが食べれるなんて夢みたいだ」
俺は皆のためにまたホットケーキ焼くなんて夢にも思わなかったよ。
あーどうしよ。受け入れられることが心地よくてなんだかフェードアウトしにくいなぁ。
こいつらには死んで欲しくないし俺は皆の危機に颯爽と散りたい。でも今度は簡単には自爆させてもらえそうに無いなあと考えながら、俺はゾックの皿のホットケーキをもぐもぐ食べるのであった。
「あ!エスポワールてめぇ!」
「可愛い妹分を辱めた罰ですー」
「なにぃ!じゃあてめぇは俺らを泣かせた罰として全部没収だ!」
「ちょっ!なにするんですか!返してください!」
もぐもぐできたのはゾックの皿の一切れだけになった。