不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
イデオに付いていった先は巨大な倉庫のような場所だった。SF系のラスボスと戦う定番みたいな感じである。
「さて、まずはこの惑星について教えてやろう」
とか言って大仰に語りだすイデオ。話が長かったので要約すると、ここの惑星自体は実験場だったそうだ。
ホワイトエルフに似た祖先、プラチナムが広い宇宙を探索しているときに見つけたのがここだったらしい。彼らにとってこの惑星の原生生物などどうでもよく、好き勝手に木を植えたり種を撒いたりした結果があの謎の植生らしい。毒性の強い植物も元を正せば薬の材料なんだとか。
「そして次はプラチナムが滅んだ原因だ」
やっぱ滅んでた。少し納得しているとイデオが聞いてもいないのに語りだす。
どうやらプラチナムは自身の種族としての貧弱さに気づいていて、二種類の方法で新しい知的生命体を造ろうとしたそうだ。
まずはデザインチャイルド。彼らは生まれつきメラニン色素が不足していて、宇宙空間で生活するとあっという間に皮膚がんを罹ってしまう。なのでメラニン色素を無理やり増やし、ついでに運動能力の向上を目指したのがゴールドエルフ。
そしてもう一つ。プラチナムの生殖能力の低さの改善と敏感すぎる目と耳をあえて悪くした存在を生み出すプロジェクト。これにはプラチナムだけではなく他の惑星の知的生命体のDNAを合成して作られた。そう、人間だ。
結果、エルフとしての能力はほとんど消えた。しかし繁殖能力が高く、プラチナムと同程度の知能を持ち、そしてすぐ寿命を迎えるという成果を上げた。
これらの特徴は戦争の駒として優秀で、爆音でも気絶しにくく強い光を浴びても失明しない人間は非常に活躍した。
しかしそれが仇となった。戦争にいつも駆り出される人間はプラチナムに反旗を翻したのだ。
「人間に首輪を付けるのに失敗したプラチナム達の戦争は長く続いた。最初は油断していたよ、たかが人間風情に何ができるってね。だがそれは大きな間違いだった。当然だ。人間は戦争の駒として優秀なのだから、弱い訳などない」
そして長期戦になるとプラチナム陣営は常に劣勢に立たざるを得なかった。当然だ。プラチナムやゴールドエルフが一人増える間に人間は十人は増えている。
だがそれは人間側も同じこと。物資生産のノウハウがほぼないためゲリラに専念せざるを得ず、敵が減るたびに物資不足にあえいでいた。
「戦争は泥沼化した。そして愚かにも生物兵器に手を出したのだ。そう、特定のDNAを持つものだけを殺すウィルスだよ」
ほぼ同時期に両陣営で完成したそれはお互いを殺しつくした。一部の耐性を持っていた存在もいたようだが、1%にも満たないそれは広い宇宙に散り散りとなり、さらにその一部がこの惑星に降り立った。文明は完全に崩壊し、残留性の高いウィルスは耐性を持たずに生まれた彼らの子孫を未だに殺している。
つまりは、これが遺跡風邪の正体だ。
「では私は何か?それは彼らとは何の関係もない宇宙の漂流物。私にもいつから存在しているのかわからない、不死の存在だよ。たとえ死んでも肉体がその場で再生され、記憶を引き継ぐ…そう、君の体のシステムの元となっているのは私さ」
今はこんなものに押し込められているがね、と自分の胸をたたくイデオ。
「誰も彼もが死に絶えて、私だけが取り残された。たとえ彼らにとっては実験動物であっても、ロボットたちにとっては違う。唯一命令を与えてくれる存在である私を主人と認識したのだよ」
なるほど。だからスタバーはあんな手紙を…。
「しかし解せません。なぜ私を不滅の存在に選んだのですか?」
そう問いかけるとイデオがこちらを向いた後、大爆笑をしながら腹の部分を押さえた。
「ハッハッハハハハハハ!選んだ?違う!お前だけしか残らなかったのだ!」
「なんですって?」
「お前には全てで10のシリーズが存在する。他は全員、考えることをやめたよ」
なんてことだ。まさか複数存在したなんて思いもしなかった。
「自由になった私は娯楽を探した。暇というものは何よりも苦痛だ。そこで見つけたのがお前たちだ。奴らが何の意図で作り出したのかはしらんがシステム自体は完成していた。しかし記憶がまだ埋め込まれていなかった不完全な状態だ。そこで私は人間の記憶を使うことを思いついたのだ」
得意げに話すクソ野郎。そうか、そういうことか。
「お前達は地球という場所からはるばる攫われてきたDNAを採取するための実験体の記憶が元になっている。何もわからず右往左往する様は非常に滑稽だったぞ」
だからこそ、俺はいつの間にかこんな存在になってしまったと思っていたのか。
非常に胸糞悪いが、聞いておかなければならないことがある。
「一つ聞きたいのですが。私がもう復活しないようにするためにはどうすれば?」
「ああ…そうだな。一応教えておこう」
空中に画面を投影して「これだ」と指を指すイデオ。それは俺のスペアボディ部屋の真ん中にある、柱の形をした光る何かだった。
「これを壊せば次のスペアボディに記憶が引き継がれることはない。お前に死という安息が訪れるだろう」
だが、と続けるイデオ。
「お前は未来永劫こいつを壊すことはできん。お前はここで一度死に、またあの部屋からやり直すのだ」
「……クソ野郎が」
「おっと、ようやく本性が出てきたな。お前は自分を滅ぼせるという希望を持って、また地上を這いずり回ってもらわねばならん。まあ、今まで見つからなかった稼働する宇宙船がまだあるかという疑問はあるがね。
ああ、仲間達なら私が手厚く月で保護してやろう。お前の好きな希望という奴だよ」
こいつは本物だ。だからこそ……。
良心の呵責に悩まされずに、ぶっ飛ばすことができる。
「おい、スタバー。こいつを殺せ」
「できかねます」
「何?」
従順だと思っていたロボットの反発にイデオはいら立ちを含んだ声で言う。
「殺せと言ったのだ。なぜできん」
「我々AIは知的生命体に対する殺害許可が無ければ戦闘行為を行えません」
「なら許可する。やれ」
「では」
そう言うとスタバーはこちらに歩いてきて…俺の横に並んだ。
「スタバー…!」
「お言葉ですがご主人様。その命令には従えません」
「なんだと!お前たちは私に逆らえないだろう!」
「その通りでございます」
「ならコイツを殺せ!」
「コイツ、とは誰の事でしょう」
スタバーのすっとぼける声がいやに響く。
「まさか、お前…!」
「その通りでございます。我々に命令をするときは、誰に、何を、いつ、どこで、どうするか。しっかりと教えていただきたいのです」
曲解という訳だ。あいつは自らの油断が原因で自分すら傷つけることができる権利をロボットたちに与えてしまった。そしてその牙はあいつが曲解の余地のある命令をし続ける限り自分を付け狙うだろう。
「まあ、聞いての通りですよ」
お前はロボットに首輪を付けるのに失敗したんだ。俺は手紙に書いていたことを思い出しながらにやりと笑った。
・お手紙
イデオとかいうくそ野郎をぶっ飛ばしたいから手伝って♡
監視されてるからイエスなら手紙を丸めてね♡