不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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誤字報告ありがとうございます。前回のお話で筆者の記憶力が5であることが発覚しました。


友達だった奴の話。

 人間、後のことがどうでもよくなれば落ち着くものだ。

 対人関係を考えるのは立場があるから。金を失いたくないのは欲しい物があるから。死にたくないのは生きていたいから。

 

 その全てを捨てた時。人は真の解放感に至れる。

 

「解脱したわー」

 

 かつて何者かが住んでいたであろう居住スペース。その中で俺は悟りを感じながら本を読んでいた。

 というのも、この部屋の主はあの宇宙船の手帳を残した人物だ。

 『もし君が私の想像よりも生き汚く欲に塗れているのなら』…手帳にはこう書かれていた。確かにこの部屋なら、それを言う価値はあっただろう。

 俺が今手にしている本。これは俺がよく知っている、スペアボディに記憶を移すためのマニュアル本のようなものだ。つまり、これは不滅の書…というわけである。

 

 くだらん。じつにくだらん。

 

 不滅の存在が最終的に何を目指すのか知っている俺は本をポイと放り投げた。

 それよりも気になるのが本棚いっぱいのサブカルアイテム。漫画、モデルガン、映画のディスク、モノによってはテープとか…。さすがに経年劣化しているが、元が何だったかわからないほどではない。

 

 そして部屋の最奥。デスクの上に乗った一冊の日記帳。これを読んだ俺は衝撃を受けた。

 最初は笑って読めていた。地球に行ったらその娯楽にどっぷりはまっただとか、友達とバカやった話だとか。

 そしてあるページから突然。地球人だったころの俺の名が出てきた。

 俺はDNAを採取するために攫われた実験台で、まず記憶を保存するためにとある機械に通された。

 そしてDNAを採取された後は生態を見るために監視付きで解放されたのだが、その監視とやらがこの日記の主だ。

 俺とコイツのウマが合ったこと。特に西部劇にはまったこと。俺に教えられた憶えたばかりの日本語で宇宙船にペイントして上司にしこたま怒られたこと。

 宇宙で拾った不死の存在を押し付けられたこと。研究がうまくいき、不死への第一歩ができたこと。それらが跳ねるような文体で書かれていた。

 そして最後は俺と地球に慰安旅行という名目で遊びに行く予定が走り書きされていて、そのまま終わっている。

 

「悲しい…いや、寂しい?それとも腹立たしい?」

 

 解脱とはなんぞや。なんとも言えない気持ちが俺の心を撫でる。こいつのせいで俺は何千年も苦しんだとか、俺と仲良くなれてて嬉しいとか、もう死んでるから会えないとか。

 わからない。だが、一筋の涙が頬を濡らした。

 改めて本棚を見ると、それは俺が好きだった作品に関連するものばかりだった。

 あまりのなつかしさにモデルガンを手に取る。火薬キャップ式のリボルバーのそれは、西部劇のヒーローが使っていたものと同じモデルだ。

 

「シッ!」

 

 そしてダブルショット。撃鉄が落ちる音が素早く二度響いて、中から板バネが飛び出した。

 ヤッベ、と思うものの。もはや使う誰かもいない以上、それはゴミと等価だったと思い出し無性に悲しくなる。

 

「そろそろミサイル達も出てったかな」

 

 暇つぶしもこんなものでいいだろう。自分を滅ぼす機会がいままさにあるのにダラダラするのを咎める自分と、ミサイルたちには安全に生きてここを脱出してもらいたいと思う自分が居る。

 もう十分に待った。そろそろ自分にとどめを刺しに行こう。

 俺は部屋から出てスペアボディの部屋まで歩いていく。この間はあまり距離はない。3分もしないうちに到着だ。

 

 大きく息を吸って扉を開ける。そこにはずらりと並んだ裸の俺。そして真ん中に光る柱。

 少し杖で小突く。すると金属特有のねばりのある硬質な感触が返ってきた。杖を起爆剤にしても無理そうだと感じる。

 なら自分の躰を使うしかない。

 

 爆破魔法。それは魔力を一定の方向に集めて圧力を掛け、そして一気に開放することで大きな威力を産む。しかし杖の先から出る魔力なんぞじょうろの先からチョロチョロ出る水に等しい。そしてじょうろの先レベルの魔力で人一人を簡単に吹っ飛ばせる魔法を、じょうろの水自体に使えばどうなるか。これが自爆魔法にやたら威力がある原因だ。

 そしてこのスペアボディは生命活動をしている。つまり魔力を持っているということである。俺に言わせれば爆弾が並んでいるのに等しい。他人を爆弾にしたことはないが、これは俺自身でもある。失敗はないだろう。俺はズルズルと自分を引っ張ってきては柱のそばに積み、それを繰り返せばちょっとしたホラーの様相を醸し出した。意識の無い裸の女が山ほど積まれた部屋はまごうことなき恐怖である。

 さて、こいつを起爆する方法だが…地面を触媒にすることはできない。生きてる宇宙船はなぜか魔法的な保護がされていて魔力が極端に通らないのだ。そこで役に立つのが触媒の砂金だ。こっちもなぜかは知らんが魔力をよく通す。そんなわけで山と積まれた俺に砂金をサラサラーと振り掛ける。ホラー度が増した。

 あとは導火線のように道をつくってやれば…ん?なんか足音がするぞ。まさかミサイル達がやってきたのか?ハハハいやそんなまさか…。

 

「ゾック!いたか!?」

「全然みつかんねえ!」

 

 来ちゃった♡

 

 嘘だろオイ!俺の長い人生で一番見られたくないシーンだよ!

 俺は急いで外に飛び出て扉にロックをかける。幸いこっち側は壁が透けてないので中は見えんだろうが、足音を立てたせいで見つかってしまった。

 パワーフレームを纏ったノーレが嬉しそうに駆けてくる。

 

「おねえちゃん!」

「そこで止まりなさい!」

「え…!?」

 

 思わず冷たい声が出る。やっべやっべなんとか帰ってもらわなきゃ…!

 とりあえず時間稼ぎしながらもっともらしい内容でも考えないと。

 

「パリラさん以外お揃いのようで。なぜこちらへ来たのですか?」

「怒るなよエスポワール。みんな心配してきたんだぜ?」

 

 心配?なんでだろう。

 

「俺たちだけで帰るなんてできるかよ。何があったか知らねえが、一緒に帰ろうぜ。な?」

 

 そう言って手を差し伸べるゾック。いやでも最後の仕上げしないと…。でもその事を言うと後ろの部屋を御開帳しなきゃ駄目なのでそんなことやった日には俺の株は大暴落するな。しかも同じ顔が山ほどだ。察しのいいミサイルだったら俺の正体に感づくまである。そうなったら『無限の体を活かしてみんなにトラウマを残そうとしてました。ごめんねっ☆』と白状する流れができる可能性があるわけで…。

 

「いいえ、できません」

 

 当然のごとく答えはNOである。っていうか俺帰りはドロップシップあるから。

 

 ……あ。その事伝え忘れてたわ。

 

「みなさん、あの」

「おいエスポワール!生きて戻ってくるって約束しただろ!あれは嘘だったのかよ!」

「私には帰」

「おねえちゃん!私はおねえちゃんの足を折ってでもつれて行くよ!」

「ど」

「エスポワール!俺は絶対にお前をあきらめない!」

 

 何この…何?大事なこと喋らせてくれないんだけど。しかもノーレなんか戦闘態勢なんだけど。言ってることめっちゃ物騒だし。くそイデオめ!どこまでも俺を苦しめたいようだな!

 俺は話も聞かずに突っ込んでくるノーレを見ながら決意する。

 

 こいつら全員のして強制退去させよう。

 

 

 

 




野郎ぶっ飛ばしてヤルァアアアア!

宇宙に放流された雑魚(何それぜんぜん知らない)

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