不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
答えを見てから推理小説を読むような安心感が本作のウリです。
・ホープ
別名エスポワール。名前をいくつも持っている。他人にトラウマを仕込むのが趣味。
・カイズ
今回の被害者。昔はヤンチャな傭兵だったがトラウマ製造機と出会ってしまった。
過去編 狂気の希望1
いつの世にも、どこの世界にでも傭兵というものは居る。
民兵。殺し屋。用心棒。目的や名前は違うが全ては同じ。金で武力を売っている。
そして俺は今、金で武力を売っていた。といっても殺し屋とか戦争屋のようなブッソウな職ではない。どちらかというとモンスターの間引きという真っ当な部類に分類される国にも認められたモンスタースレイヤーだ。
「おい、死んでないよな!返事をしろホープ!」
「このくらい…へっちゃらですよ……」
そして俺はちょっとドジってしまい、カイズというイケメン気味の兄ちゃんに背負われていた。
というのも実は死ぬ予定だったのだがモンスターから受けた背中の傷が思ったより浅く、死ぬにも動くにも中途半端な状態になってしまったのだ。
殺すのか殺さないのかハッキリしやがれ!そんな思いで不意打ちしてきた(と思っているだろうが実はいつ襲ってくるかとワクワクしながらカイズの身代わりになる準備をしていた俺に気づかなかった)モンスターは星になるレベルで吹っ飛ばした。が、ここで失血によりダウン。
今は匂いにつられてやってきたモンスターどもから逃げるために相棒のカイズに背負われて逃げているのだが、ぶっちゃけ望み薄である。
カイズは自分の力を過信した、どこにでもいそうな若い男だ。こういうのは大体目上の人にボコボコに教育されて自分の身の丈を見つめなおす機会を得るものだが、コイツにはそれが無かった。そんでもって相棒の俺が強いからとノコノコとモンスター密集地域にまでやってきたというわけだ。
このあたりのモンスターは戦うには強いが、実は逃げるだけなら大して苦労はしない。なぜならゴリラと熊を合わせたような鈍重なパワータイプばかりしかいないからだ。しかし今のカイズは強くないし、俺というけが人を背負っているのでお世辞にも早いとはいえない。どっちの能力も足りていないのだ。
俺を無理にでも走らせるか、俺を置いて逃げるか。今カイズが助かるには二択しかない。
「カイズ、私を置いて行ってください」
「できっかよそんなこと!」
「では私も走ります。なので…」
「ふざけんなよ!そんな死にそうな顔して走れるわけねーだろ!」
だけどカイズはその二択を選べるほど薄情ではなかった。森の中で光を目指して走っているが、その後ろをバキバキと木をかき分けながらモンスターが迫ってくる。俺たちが森から出る方が僅かに早いといったところか。
「うっ!」
しかし森から抜ける寸前でカイズが止まった。どうしたのだろうと進行方向を見ると道が無いことが分かった。そう、崖だ。
遥か下に見える大きな一本木が手を振るように枝を揺らす。コイツにはきっと死神の手招きに見えた事だろう。
だが下を覗いている暇などない。後ろには狂暴なモンスターが控えているのだ。
「グルルルルル」
「く…畜生!」
そしてその脇を通り過ぎようと走り出すが、そう簡単にいくほど世の中甘くない。
こっそり痛覚は切っておいたので痛くはないが、俺は吹き飛ばされた。きっとあの剛腕で殴り飛ばされたのだろう。
これは二人とも死んだか?と少し残念に思いながら空中遊泳を楽しむ。
ふと、カイズと目が合った。アイツは崖際に生えていた木に引っ掛かり、九死に一生を得たようだった。
だが十回に一回くらいの確率だから九死に一生。俺はその一割には引っ掛からず、そのまま下まで落ちていく。
「ホーーーーープ!!」
伸ばされた腕と、妙に低く聞こえる叫び声を聞きながら俺の意識は暗転した。
■■■
ここ、地方都市には腕のいい傭兵が居る。
名はカイズ。ぶっきらぼうだが誰よりも強く、そして熱を秘めた男だ。調子にのった若い傭兵が居ればその鼻っ柱をへし折り、そして手を差し伸べて育てていく。
そんな面倒見の良さもあり若い傭兵に人気で、呑み会や宴会の席となればいつも引っ張りだこ。
しかし今日だけはマッチという若い女がカイズを独り占めしていた。
「どうぞカイズさん」
「ああ、すまねえな」
酌をし、世間話をし、少しずつ距離を詰めていくマッチ。彼女は肉食系だった。
だからであろうか、マッチは彼の特大の琴線に触れてしまった。
「カイズさんって、誰かと付き合っていたことはないの?」
ピクリと体が震えるカイズ。
「付き合い、か…」
「いたの?いるの?」
「お互いにそんな気はなかったが、一人、いたよ」
「今はいないのね!よかったー」
「……そうだな、いないよ」
そしてカイズは席を立った。
「どうしたの?」
「帰る…」
「なんで?まだまだ呑みましょうよ」
「すまねえがそんな気分じゃない。お前も傭兵なら、今は居ないという意味を考えてから喋るんだ」
「…あっ」
マッチはカイズの言葉の真意を悟った。そして勢いよく頭を下げる。
「ごめんなさい!そんなつもりじゃ!」
「いや、いいさ。悪気が無いのは判ってる。だけど今は酒の気分じゃねえんだわ。悪ぃな」
そのどこかしなびた背中に何も言えなくなって、マッチはカイズを見送った。
カイズは居酒屋を後にすると夜風を浴びに散歩を始める。そして思い返すのはホープの事だ。
傭兵として売り出し中の頃に一緒になって暴れまわった。スケベなことをしようとしてひっぱたかれた。けがをして心細い夜は手を握ってくれた。
水場で馬鹿みたいにはしゃぎまわった。どんな無謀な作戦でも一緒にやってきた。そして、
「ホープ…」
カイズは彼女の最期を思い出し、自身を掻き抱いて涙を流した。
自分の足音が無くなったせいで酷く静かな闇の中、一つの不規則な足音がカイズの耳に入る。
カツコツ、カツコツ、カツコツ。そしてその足音は彼のすぐそばで止まる。
「呼びましたか?」
その声でカイズはハッと頭を上げた。そこにいたのは傭兵にしては小柄な女性。美人と言える程度の可愛らしい童顔。大きな杖で体を支え、綺麗な黒髪をなびかせた魔法師然とした姿。
「嘘だろ…俺は幽霊でも見てんのか…?」
それはかつて若い日に死なせてしまった無二の相棒、ホープだった。
■■■
死んだと思った?実は死んでませんでしたー!
そんな風に煽るためにわざわざ時間を置いてカイズに会いに来た俺は絶賛抱きしめられ中だった。
「暖かい…本物だ」
そりゃそうよ。足は怪我してちょっと歩きにくくなっちゃったけど、その他は大体治ってる。
しかしあの状況からよく生き延びたもんだよなお互い。やっぱ運命のサイコロは出目が偏ってるね。
さて、俺のやる事のおさらいと行こう。
まず俺はカイズにトラウマを植え付けることに成功した。そして普段ならこのまま死んだりしてフェードアウトするのだが、今回俺は幸運にも生き延びた。
ならばすることは一つ。カイズにもういっちょトラウマを背負ってもらおう。
「カイズさん、ただいま戻りました」
「ああ、お帰り、ホープ」
「ずっとずっと会いたかった」
「俺もだよ」
いやーラブロマンスラブロマンス。だがお涙頂戴もここまでだ。
「死んだとき、あの世にカイズが居なかったので戻ってきました」
「ん…?」
不穏な空気を感じたのか、抱きしめる力を緩めるカイズ。
「だって、言ってたじゃないですか。『俺たちは最高のパートナーだ』って」
「あ、ああ。そうだ」
「ですよね!」
俺は意識してニパッと笑う。
「何処へ行くのも一緒ですよカイズさん。生きても、死んでも」
コイツもさすがに俺の異常さに気が付いただろう。
昔の剣豪も言っていた(らしい)。狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。
ということは狂人の真似している俺も実際狂人。
カイズに偏愛をささげる一途な狂人。つまりそれが今回の俺だ。
というわけで今回のテーマは