不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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誤字報告ありがとうございます。

次の話で狂気の希望最終話です。


狂気の希望3

 カイズは心身ともに参っていた。

 他人の前に出るときの、あの頃のホープ。自分にだけ見せる、狂ったホープ。

 どうしてこんなことになってしまったのかわからないままズルズルと時間だけが過ぎていく。

 ただ、ホープは足が不自由なため仕事についてくることが無いのだけが救いだった。

 

「カイズさん、どうしたの?」

 

 だからだろうか、仕事に赴くというのにどこかホッとしているのを疑問に思われたのは。

 

「マッチか。少し悩みがあってな」

 

 声をかけたのはいつぞやの肉食系、マッチだ。カイズは歩きながらどう話したものかと頭を悩ませた。

 

「もしかして最近カイズさんの家に出入りしている女の子ですか?ですよね?」

 

 しかしマッチは確信をもってそう問いかける。確かにその通りなのだけれど、とカイズは頷いた。

 

「いーーーーなーーーー!私もカイズさんの家に出入りしたーい!ところでその女の子ってカイズさんの何!?」

「昔馴染みだよ」

「なんと!じゃあ悩み事ってもしかして、け、けっこん……」

「外れだマッチ」

「よかったーー!」

 

 全身で安堵を表現するマッチ。その大ぶりの動きは見てて楽しいほどだ。

 この底抜けに明るくて鬱陶しい彼女が今はひどく尊いものに見えた。

 

「カイズ」

 

 その声にピタリと体が固まる。その声はホープのものだ。恐る恐る後ろを見ると無理をして走ってきたのだろうか、息を切らせた彼女が弁当箱を持っていた。

 

「ホープ」

「忘れものですよ。相変わらずおっちょこちょいですね」

「あ、ああ…ありがとう」

 

 渡された弁当箱を両手に乗せ、それをじっと眺めるカイズ。

 

「ホープさんって言うのね!私はマッチ!カイズさんの彼女志望でーす!」

「マッチさんですか。カイズさんの彼女になんかなったら毎日スケベなことされちゃいますよ?」

「いーもーん!あ、そうだ。カイズさんが最近何か悩んでるみたいなんだけど、ホープさん知らない?」

「そうですね…きっとアレです。私に手を出すか否かで悩んでるんでしょうね」

「え!?まだ出されてないの!カイズさんって手が早そうに見えるのに意外…!」

 

 カイズそっちのけで始まる会話。しかし仲間外れの彼は今それどころではなかった。

 ホープの体に日に日に増える包帯、料理から感じる鉄臭さ。いつか指でも入れてくるのではないかとカイズは毎日怯えている。

 

「あ、そろそろ行かなきゃ!じゃあねホープさん!またカイズさんの事おしえてねー!」

「ええ、いつでもどうぞ。カイズの事なら何でも知ってますからね」

「…むー!すっごい余裕かんじるんですけど!」

「ふふふ」

 

 会話が終わり、マッチが彼の元まで駆けてくる。腕を取り、後ろを振り向いてベーと舌を出す彼女。

 

「行きましょカイズさん!」

「あ、ああ……」

 

 腕を引かれるがまま走り出すカイズ。彼は背中に感じる視線を無視するように、とにかく無心になることに努めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイズ、デートに行きましょう」

 

 ある日の事。カイズはホープに突然デートに誘われた。彼は窓の外を覗く。日は高く、絶好の散歩日和と言えなくもないが…。

 

「デートだって?」

「はい。カイズに来てほしい場所があるんです」

「……どこだ?」

「思い出の崖ですよ」

 

 思い出の崖。カイズが思いつく限りではポープが落ちたあの場所しかない。

 言うなればそこは思い出というよりは後悔の場だろう。

 

「そんなところで何をするんだ」

「言ったでしょう?デートですよ」

 

 

 

■■■

 

 

 

 そろそろ仕込みも大丈夫だろうということでカイズを最終ステージへと連れてきた。

 俺が落ちた崖は迷わないように何度も道をチェックしたし、事前にモンスターどももカイズの仕事中に間引いている。準備は万全だ。

 

「ホープ…」

 

 そして何か言いたそうなカイズ。ここまで来て分かったことだがカイズは少しお人好しが過ぎるな。だからこそ最後の一線を越えられないんだろうけど。

 だからこそ、俺がその一線を越える手助けをしなくては。

 

「カイズ。きっと私は狂っています」

 

 背中を向け、崖の下を覗きながらそう呟く。

 

「おかしいんですよ。あなたの心が欲しくて欲しくてたまらない。そう思うと、いつも酷い失敗をしてしまって」

 

 崖の下を覗くのをやめ、カイズに向き直ると悲しそうな顔をしていた。

 

「ホープ、お前、」

「言わないでください。きっと死にかけたあの時、私は壊れてしまったんです」

 

 そう言ってカイズを抱きしめる。カイズは抵抗せず、優しく抱き返してくれた。

 カイズはきっとまだ俺が何とかなると思っているのかもしれない。だからこそこんなところまで付き合ってくれたんだろうな。

 

「カイズさん、お願いがあります」

「…何だ」

 

 一拍置いて、ニッコリ笑う。

 

「一緒に壊れてくれませんか?」

 

 ここで俺の魔法を発動。体の電気信号を弄ることによって筋肉のリミッターを外し、無理やり崖へと引きずる。

 

「な、おい!ホープ!やめろ!」

「大丈夫ですよ。落ちてしまえば一瞬です。あなたと一緒なら怖くありません。カイズもきっとそうでしょう?」

 

 俺の行動に驚いたカイズは逃れようともがくが、そう簡単にはいかん。筋力三倍界王拳は伊達ではないのだ。

 

「ずっとずっと一緒ですよ。生きても、死んでも」

「やめろ!お前を傷つけたくない!」

 

 む…?どうやらカイズの腕の拘束が外れたようだ。さすがに体格差はなかなか埋めれないようだな。しかしここまでやって俺を傷つけたくないとか、ちょっと主人公しすぎだな。なら、とどめをさせるよう仕上げと行くか。

 

「カイズ。大好きですよ。だから……」

 

 その耳元に口を持っていき、優しく囁く。

 

「死んで混ざって、ひとつになりましょう?」

「やめろーーーっ!」

 

 そして完全に腕を振り払われた。意識していたとはいえ、圧倒的な体格差でたたらを踏む俺。踏んだ先はもちろん、崖だ。

 

「あ…」

 

 そしてそれに気が付いたカイズが腕を伸ばす。だがその指先は俺にわずかに届かなかった。

 空中に投げ出される俺。見えた空は既に茜色に色づいていた。

 

 クライマックスの始まりだ。俺は意識して魔法を発動。とにかく体を硬化魔法でガチガチに固める。

 さあ、体持ってくれよ!

 

 

 

■■■

 

 

 

 カイズの目の前には、かつて好意を寄せていた女が変わり果てた姿で倒れていた。

 

「ホープ…」

 

 彼女の腕を振り払い、結果的に崖から落としてしまったカイズは人の歩けるルートから急いで崖を下りてきた。

 そして下りた先には仰向けで倒れ、ピクリとも動かないホープ。全身血だらけで、見るのも辛い。

 

「……。」

 

 何も言わず、そっと彼女の口元に手を当てる。呼吸は無いようだった。

 続けて首。頸動脈に沿って置いた指からは何の振動も感じられない。

 

「そんな…」

 

 カイズの心に様々な感情が渦巻く。後悔、安堵、悲しみ、怒り。しかし体は動かず、しばらく茫然と彼女の顔を見つめていた。

 全身の怪我の割に綺麗な顔してるんだな、と場違いな感想を抱き、そっとその顔に手を添えた。その瞬間だった。

 

「カイズ」

「え…」

 

 ホープが目を開け、カイズの腕を掴んだ。

 

「酷いじゃないですか。また私をひとりぼっちにする気ですか?」

「嘘だろ!お前は死んで…!?」

「言ったじゃないですか。私はあの世にカイズが居なかったから、戻ってきたって」

 

 カイズは思わず叫び、その手を振り払った。

 

「ば…化け物!」

「化け物…?どこがですか?私はただあなたを一途に想う、一人の女ですよ」

「来るなっ!」

 

 思わず後ずさり剣を抜くカイズ。その間にぎこちない動きでホープは立ち上がり、まるでゾンビのような動きで近づいて行く。

 

「カイズ、私をひとりぼっちにしないで」

「やめろ!近づくな!」

「カイズさん、寂しいのは嫌です」

「やめてくれ!お願いだ!」

「死んで、混ざれば、ひとりぼっちなんかじゃない」

「う…う…!」

 

 剣を大きく振りかぶるカイズ。ホープは腕を広げ、抱き着きに行くように駆けだした。

 

「カイズさん!私とひとつになりましょう!」

「うわあああああぁぁーーーっ!!」

 

 既に暗くなった森の中。そこで男の情けない悲鳴と、何かを斬る音がこだました。

 

 

 

 




心臓が動いていなかったトリックは本編でやってた心音を限界まで絞る奴の強化版です。
これでパルス対策もバッチリ!

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