不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
本作最終話です。
「カイズさん!いってらっしゃーい!」
「おとーさん!きょうもおしごとがんばってねー!」
「ああ、行ってくるよ」
ここ、地方都市には腕のいい傭兵が居る。
名はカイズ。ぶっきらぼうだが誰よりも強く、そして熱を秘めた男だ。調子にのった若い傭兵が居ればその鼻っ柱をへし折り、そして手を差し伸べて育てていく。
そんな彼もいまや一児の父。鬱陶しい位に元気で気立ての良い嫁を貰った彼の先行きは順風満帆といった所か。
「さあて、今日の新人研修、がんばっかー」
しかしカイズの心の片隅で、いまだにホープの最期がくすぶり続けて居た。
じっと手を見る。そこには何の変哲もない手があるだけだったが、いまだに彼女に握られているような気味の悪い感覚が残っていた。
「今日の新人はお前か」
「はい!私はディスペアと言います!あのカイズさんに教鞭をとっていただけるとは感激です!」
カイズの前にびしりと気を付けの状態で自己紹介をする女。童顔なのか若いのかは分からないが傭兵にしては小柄で、それが見た目の幼さを助長させていた。
「黒髪か。お前、どこから来た」
「え?すぐそこの村ですよ。何かおかしい事でも?」
リボンで一本にまとめられた綺麗で長い黒髪。その色味がカイズの心をざわめかせる。そのニコリとした笑顔もだ。
その何もかもがホープを連想させた。ただ一点違う点を挙げるとするならば、杖ではなく木剣を腰に佩いているという所か。
ホープとは年齢が食い違うため他人の空似だろう。カイズはそう考えることにした。
「いや、俺の考えすぎだったようだ。お前剣を扱ったことは?」
「ありますよ!これでも村で一番だったんですから!」
「ほう…じゃあ手合わせといくか」
カイズは腰から木剣を抜く。ディスペアもそれに倣い、木剣を抜いた。
「痛ってえ…油断した…」
「おとーさんかっこわるーい」
「言うな。分かってる」
その日の研修が終わり家に帰ったカイズ。彼は頭にできた大きなたんこぶをマッチに冷やしてもらっていた。
「カイズさん最近たるんでるわよー。そんなのだから夜の方も駄目なんじゃない?」
「バーッカそれは関係ないだろ!あとガキの前でそんな話すんじゃねえ!」
「いった!やったわねカイズさん!頭ぐりぐりしちゃうわよ!」
「あがががががが!こぶはやめろ!」
「けんかだめー!」
そんな家族団らんの時間。ホープの面影を持ったディスペアという少女でささくれ立っていた気持ちはすぐに癒えた。
ひとしきり暴れてスッキリした後、カイズはマッチを抱きしめる。
「なあマッチ」
「なーに?カイズさん」
「俺、なんか幸せだわ」
「アハ!私もっ!」
「おかあさんだけずるーい!ボクもぎゅっとするー!」
夫婦で抱き合い、それを羨ましがった子供も混ざる。カイズは幸せのさなかに居た。
その日から一年が経った。ディスペアという少女はめきめきと実力を伸ばし、もはや新人とは何だったのかというレベルで熟練していた。
一足先に新人から飛び出した彼女はもはや中堅の傭兵で、場合によっては単独で森に向かうまでの実力だ。
そして今日はモンスターの間引きの日。カイズの今日の相棒は件の少女、ディスペアであった。
「よろしくお願いしますね!カイズさん!」
「ああ、よろしくな」
一年の短い付き合いだが、カイズはディスペアの事を理解し始めていた。剣の腕はよく、なぜか博識で、おっちょこちょい。なんというか放っておけない存在だ。だからこそついつい目で追ってしまい、そして彼女は
「ね、カイズさん!今日はどっちが多く倒したか勝負しません?」
「おいおい、仕事に勝負を持ち込むのはよせ。欲張って怪我しても知らねえぞ」
「あれあれ?カイズさんは私に負けちゃうのが怖いんですか?」
「バーカ、その手に乗るかよ」
ディスペアの髪をぐしゃぐしゃにするカイズ。「にゃーー!?」と悲鳴を上げる彼女を見て思わず笑みがこぼれる。
「なんてーか、お前見てると落ち着くな」
「えっ?」
涙目で髪を整えているディスペアが顔を上げた。
「似てるんだよ、昔馴染みに」
「へー。で、どんな人だったんです?」
「強くて、なんでも知ってて、どっか抜けてる女なんだ。でも優しくてよ…何度もそれに甘えちまった」
「なんだか甘酸っぱいですね」
「そうだな。ひょっとしたら俺の初恋だったかもしれねえ」
「可愛かったんですか?」
「そうだな…小っちゃくて童顔で、俺の後ろをぴょこぴょこ付いてきてた。それにちょうどお前と同じくらい綺麗な黒い髪をしてたぞ」
「そしてこんな髪型だったりしませんでしたか?」
突然リボンに手をかけ、それを解く彼女。腰に佩いていた剣を外し、鞘に納めたまま杖のように持つ。
服装こそ違うものの、見た目も、雰囲気も、喋り方も。すべてがホープと一致した。
「言ったはずですよ、カイズ」
驚きで固まったカイズの腰に手を回す
「ずっとずっと一緒ですよ。生きても、死んでも」
これにて狂気の希望はおしまいです。
ご拝読ありがとうございました。