不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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今作はほのぼのを目指しました。もちろん省エネです。


・アーシャ
別名エスポワール。名前をいくつも持っている。悲劇的な結末が大好きだが平穏が嫌いなわけではない。

・オハラ
アニミズム信仰のある集落の司祭。日々の糧を精霊に感謝しながら暮らしていたがトラウマの化身と出会ってしまった。


過去編 大いなる希望1

 

 

 禍福はあざなえる縄のごとし、という言葉がある。

 良い出来事と悪い出来事は縄を綯ったように複雑に絡まっていて、幸運だった事が次の幸運に続くとは限らない、またはその逆の意味がある言葉だ。

 どこぞのオッサンの馬が逃げたけど、その馬が番をいっぱい連れて帰ってきたとか。その馬の番に乗ってたら落馬して大けがしたとか。

 

 まあ何が言いたいかというと。

 

「人生何があるかわからんね…」

 

 縁と言うものは全く不思議なものである。

 300年くらい前に巨大ロボを見つけて乗り回してたら強烈な吐き気に襲われて操作を誤り、大きな一枚岩に激突したり。

 そのまま放置した巨大ロボがなんかの宗教的な儀式の場になってたり。

 今になってそのロボを見にきたらドロップシップの操作を誤って空中に投げ出されたり。

 投げ出された先で宗教団体に拾われて手当されたり。

 人間万事塞翁が馬とはよく言ったものである。

 

 現在俺はその宗教団体に拾われて一緒に暮らしている。宗教とはいってもカルトではなくアニミズム…いわゆる神道の考え方に近い宗教観を持った小さな集落だ。規模は100人程度。全員が知人と言えるレベルである。

 そんな集落に突如やってきた、空からの女。それはもう物珍しかったのか散々可愛がられ、そして何を勘違いしたか空の戦士とか言われ始め。そいで集落一番の槍使い君と戦う羽目になって。痛いのヤダからしばき倒し。そして集落一番の戦士として祭り上げられたのがここまでの経緯だ。

 

 「お前つえーから狩り行ってこい(意訳)」と弓と矢とナイフだけ持たされて集落から放り出された日から早3年。今日も俺はウサギもどきを狩ることに成功していた。

 ウサギもどきは生け捕りが一番いいのだが今日食べる分には矢を射って殺してしまっても問題ない。木にぶら下げて血が抜けるのを待ちながら、林の外に見える遠くのロボを見てため息を吐く。

 

「巨大ロボと言ったら、巨大な怪人だよなぁ…」

 

 そんなのいねーかなーとぼやきながら鼻歌を歌う。このあたりの肉食獣やモンスターは狩りつくしたり勝手に絶滅したりしてしまったので緊張感も湧いてこない。

 ゴローンと横になり首から下げたハンティングトロフィーをいじくり回すものの、まだまだ暇な時間はなくなりそうもなかった。

 

 

 

■■■

 

 

 

 オハラは信心深い老人だ。

 風、土、空。それらの精霊の声を聴けるという彼はこの集落では特別な存在だった。

 彼が雨が降ると言えば次の日は雨が降り、地面が揺れると言えばすぐに地震が起こった。それ故に誰も彼の言葉を疑う者はいない。

 

 だからこそ、集落の人間はこんな与太話を真剣に聴いていたのだろう。

 

「空…空から、何かが降ってくる…。これは、人…?」

「オハラ様、それは一体どういうことなのでしょう?」

「わからん。だが何かが降ってくる。言えることは一つ、それは人の形をしている」

 

 集落の報告会。そこでオハラは突然に妄言を語りだした。これが子供であれば寝物語を真に受けたとして笑って終わりだが、今回は相手が違う。

 オハラの語った予言めいた言葉で集落はハチの巣をつついたような騒ぎになった。

 

「何かが落ちてくる!」

「人の姿をした何かだ!」

「精霊か!?」

「一体どういうことなんだ!」

 

 突然の騒ぎで情報が正確に伝わらず、集落の人間はパニックに陥った。しかしオハラは空をじっと見上げ、指を指す。

 

「あれだ」

「ひ、人だ!こっちに落ちてくるぞ!」

「逃げろ!あんな速さでぶつかったら…!」

 

 集落の人間が波を引くようにざあっと後ずさった。オハラだけは動かずその場に留まる。

 

「オハラ様!危ない!」

「安心しろ。これはぶつからない」

 

 そう安心させるような言葉が出た次の瞬間、土をえぐるような大きな爆発音が集落の外から響く。

 あまりの速さで集落の人々は落下地点を見誤っていたようで、それが落ちた地点は集落の端から300メートル近くも離れた場所だった。

 

 しかしその爆音で集落はしんと静まり返る。その中で一人、やはりオハラが落ち着き払った様子で歩みだした。

 

「迎えにいこう」

「し、しかし、あんな高さから落ちてきた人が無事な訳が…」

「確かに、その通りだ」

 

 オハラは歩みを止め、後ろを振り返って言った。 

 

「だけれども生きているよ。私にはわかる」

 

 

 

■■■

 

 

 

「オハラ様ー!今日の糧です!」

「もう少し慎みを持て、アーシャ」

「おっとと」

 

 ズバーンと日よけ布をはじきながらダイナミック入室を決める俺。そしてすぐ目の前にオハラの顔。

 毎度ながらこのジジイは俺の行動を先読みしてやがる。なんでも精霊が教えてくれるとか。

 

 最初は俺もそんなアホなと思っていたがオハラの予言は絶対に当たる。そしてもしやと思い肩たたきをしたときに魔力をちょいと流してみたら、こいつは天然の魔法師だということが分かった。

 魔力と言うものは生物全般にあるもので、魔法師になろうとすれば誰でもなれる…が。天然ものだけは格が違う。

 生まれついてからすでに魔力の使い方を知っているのだ。それはつまり、俺たちが腕や足を動かす感覚で魔力を操れるということ。

 そしてもう一つ。魔力の流れに敏感かつ正確だということだ。

 風が拾ってきた魔力や土や空気中に流れ出す微量な魔力。これらを文字通り肌で感じ取ることによって予言が完成するのだと俺は睨んでいる。

 俺もそんな能力欲しい。

 

「何か悪いことを考えているな」

「う!?」

 

 そして心までちょっと読めるという。

 考えてみりゃ魔力で脳みそいじくれるんだから考えてることが魔力に影響を及ぼすことだってあるよな。

 

 …なんだこのチートジジイ!?

 

「なんですかこのチートジジイ!?」

「アーシャ…正直は美徳だが言葉を選ぶように」

「いえいえ、オハラ様の前だけですよこんな風に話すの。言い換えれば信頼の証です!」

「口ばかり達者になって。可愛げのない娘だ」

 

 そう言いつつもオハラはニッコニコだ。見た目年齢的に孫とおじいさんくらい歳が離れているから生意気な俺が可愛いのかもしれない。

 

「嘘はいけませんよオハラ様。顔が笑っています」

 

 俺は自分の指で口元をぐいと上げた。それを見たオハラはつい自分の顔に手を這わせ、そして自分が笑っていることに気が付く。

 

「ふふふ、本当に可愛げのない娘だな」

 

 ぐりぐりと俺の頭を撫でるオハラ。

 俺はこの言いたいことは大体言えるオハラとの孫とおじいさんのような関係がとても心地よいと感じていた。




というわけで今回は巨大なロボットが出ます。
結末は知っての通りです。

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