不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
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エルフという種族は高慢で、人間を見下していて、呪われている。
これが人の間での風潮だ。しかし可愛いノーレを見ていれば解ると思うがそれはただの迷信である。
そもそもエルフにはノーレのような鮮やかな金髪を持つゴールドエルフと、白皮症レベルで全身真っ白のホワイトエルフの二種類が居る。高慢で人間を下等生物と豪語しているのはほとんどホワイトエルフで、ゴールドエルフは人間と取引をまめにやっている地域があるくらいには分別がある。
呪われているなんて言われているのだって、血液の色が薄いとか耳が長いとか魔力が極端に少ないとか、そういったこじつけレベル。断じて突然胸ぐらを掴まれるような理由にはならないのである。
「ゴラァ!なんでエルフが人間の酒場グワーッ!?」
勘違い野郎に慈悲は無い。立ち寄った酒場に入るなりノーレに絡んできた酔っ払いは靴底を爆破してすっころばした後に側頭部を蹴飛ばした。これで明日までぐっすりだろう。
「あーあ、こいつモグリかよ」
「ノーレも災難だったな。おい!誰かコイツを店の外に放り出せ!」
この町の住人にはそこんところしっかり『教育』しておいたから勘違い酔っ払いの味方なんぞ居るわけも無い。
俺はそんな会話を尻目にノーレの服装を直す。あーあ、ちょっとほつれてるよ。
「ありがとう、おねえちゃん」
「いいんですよ。私が個人的にむかついたヤツを蹴っ飛ばしただけですから」
「…おねえちゃんは凄いなぁ」
凄いんだぞぉと心の中で胸を張る。せっかくの目出度い日だし、いいお酒飲んじゃお。
そう、今日は目出度い日なのである。日本で言えば赤飯を炊く日と言ってもいいだろう。
なんと!ついにノーレに月のものが来たのだ!月のものといってもエルフの周期は大体4年に一回なので閏年のものと言った方が正しいかもしれない。
そんな訳でお酒である。日本で赤飯を炊く風習があるように、この国では甘いぶどう酒を飲むという風習があるのだ。ぶどうは実をたくさん付けるから縁起がいいらしい。
そんなわけで酒場のマスターにとっておきのぶどう酒を注文する。マスターは俺たちの顔を見て納得したように店の奥に入っていった。
「なんだか恥ずかしいよ」
「良いじゃ無いですか。このお祝いは一生に一回だけですよ」
「おねえちゃんは恥ずかしくなかったの?」
「私?祝ってませんよ」
なんで?とノーレが首を傾げた。
「だって月のものが来ていませんし」
俺がそう言うとノーレがぴしりと固まった。
そう、俺には生殖能力が無い。どういった存在が何の意図でやったのかは不明だが、全てのスペアボディから生殖機能がオミットされている。
「それって、おねえちゃんは」
「そうです。子供を産むことができません」
自分の子供が欲しくない訳じゃ無いけど、どうせ子供より長生きするからこれでいいと納得している。むしろ有ったら子供のことについて一生モンモンしていただろう。
俺の答えを聞いてノーレは考え込みだした。ちょっと重い話だったかな、と思っていると机に手をついて突然立ち上がる。
「ちょっとミサイルとゾックのところに行ってくる!」
そして置いていかれる俺。ポカンと大口を開けた俺の目の前に、マスターが不思議そうな顔をしながらぶどう酒のグラスを二つ置いた。
■■■
「つまりエスポワールは子供を作れない体ってことか」
「そうなの」
「そうか…ひょっとしたらアイツの死にたがりもここから来ているのかもな」
「どういうことだゾック」
「子供が作れない人間は自棄になったり度を過ぎた自己犠牲を許容することがあるんだよ」
なんだって、とミサイルは頭を抱えた。言われてみればそうだ、彼女が生理で体調を崩した事なんて一度も無い。
「死にたがりがまさかこんな原因だなんて、どうすれば良いんだ」
「一つ方法がある。それはアイツの家族になってやることだ」
「…そんなので死にたがりが治るのか?」
「わからん。だが学者の話だと足りない物は別の行為で補えると聞いた事がある」
代償行為。それは欲しいものがあるけど絶対に手が届かないからやけ食いをして忘れるといったような、一般に知られている行為だ。
「つまり本来自分の子供に向けるはずの愛情を俺たちに向けてもらうって事だな」
「そうだ」
これだけ切り取れば俗に言うばぶみである。
「ゾックは父親でいいとして。俺は兄貴か?」
「待て。俺はお前と3つだけしか変わらないぞ」
「ゾックは間違いなく父親。私だったらこんなおにいちゃん欲しくない」
「くっ…」
老けて見られるゾックは少し傷ついた。そうしてしばらく作戦会議が続き、作戦名が発表された。
「よし、『愛の三銃士』作戦、開始だ!」
「ダサい」
「えっ…」
ミサイルはちょっと傷ついた。
■■■
お祝いをすっぽかされた次の日。朝目覚めるとノーレがベッドの中に入りこんでいた。
最近はなかったけど、怖い夢でも見たのだろうか。懐かしさからか昔のように頭を撫でる。
「どうしました?怖い夢でもみましたか?」
「んっ、そんなこと無いよ。おねえちゃんに甘えたくなっただけ」
「ふふふ…ノーレは可愛いですね」
「えへへ」
その柔らかい金髪を充分堪能した後、朝食を作ろうとキッチンに入った…が。エプロンを窮屈そうに着たゾックが朝食を作っていた。
「おう、起きたか」
「おはようございます。これは一体どういう状況ですか?」
「朝メシ作ってるんだよ」
「はあ。そうですか」
邪魔者はどっか行けとゾックに追い出されて食卓に座る。向かいの席にはすでにミサイルが座っていた。
「おはようエスポワール。悩みとかはないかい」
「お、おはようございます。あの、ゾックさんって料理できるんですか?」
「…出来るよ?」
不安だ…。
「あちいっ!おいノーレ!なんか火が上がったぞ!」
「多分酒を入れたから。綺麗な色の火…」
「眺めてる場合かァーッ!」
やっぱダメだわ。仕方ない、ゾックに料理の手ほどきをしますかね。
人類で一番料理について詳しいと言っても過言でも無い俺はきっと皆のママンになれるかもしれない存在なのだ。そう思いながら俺はキッチンに入っていった。