不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。 作:アサルトゲーマー
土日は更新お休みします
モノリスブレイカーという称号がある。
これはハタ迷惑な遺物、『モノリスアンカー』を破壊した者に贈られる平民において最上位の称号のひとつだ。
モノリスアンカーは、空から不定期に降ってくる長い石版だ。空の果てから飛んできて、落ちる場所が悪ければ人は粉みじんになり、あげくモンスターを生み出してくる。しかもモンスターを倒せば倒したぶんだけ石碑の周りにモンスターがリポップする近づくのも困難なクソだ。
最悪なことにモノリスアンカー自体が強靱で通常の方法では壊せないときた。俺の
だが通常でない方法なら壊せる。雷魔法だ。
大魔法の一種である雷魔法は触媒に砂金を使う上に集中力も必要、時間もかかるしある程度近づかなきゃならない。
そう、難易度
そうと知りながら挑む者は数知れず、俺たちもそんなヤツらと同じで無謀にも挑んだ。
「魔法師エスポワール!貴様に『モノリスブレイカー』の称号と名誉貴族の爵位を与える!」
そして成功して戻ってきた。俺はモノリスに自爆特攻かまして居なかったけどな。
突然だが俺たちは借家に住んでいる。当然借り物なので退去するときには綺麗にしておかなきゃ『おそうじ料』として追加金が発生するのだ。
そんなわけで今日は大掃除の日だった。普段掃除しない寝具の下、天井、部屋の隅。文字通り隅々までやるわけだ。
「…おねえちゃん!なんだか変な音がする!」
が、そんな言葉で一旦中止となった。ゴールドエルフは身体能力や魔力で人間に劣る一方、目と耳が比べものにならないくらい良い。だから俺はノーレの警告で迷わず杖を取った。
玄関前に集まったミサイル、ゾックと合流する。すると無遠慮な足音が複数聞こえてきた。
「たのもう!我々は王国騎士団である!魔法師エスポワールは前へ!」
扉を開けたのは騎士の格好をした八人組。逆らうとめんどくさいので言われたとおり前に出た。
「魔法師エスポワール!貴様に『モノリスブレイカー』の称号と名誉貴族の爵位を与える!」
という訳で冒頭に戻るのである。自爆してからかなり時間がたってるが審査に時間でも掛かったのだろうか。まあお役所仕事だしなぁ。
モノリスブレイカーは名誉ある称号だ。だからこそポンポン輩出するわけにはいかないのかパーティーメンバーは爵位を貰えない。
まあそれは分かる。分かるが。
「続いて戦士ミサイル!同ゾック!両名に報償と王への謁見の許可を与える!」
これはないだろう。ノーレを省くとかぷっつん案件だ。
"戦争"だオラァ!と杖で地面を強く叩くと騎士の男がニヤニヤしていた。
「ほおう。我々に楯突くと?」
そう言って剣に手をかける騎士。……あーはいはい、そういう事ね。
どうやら俺は嵌められたようだ。
たまに居るのだ、平民に爵位を与えるのが気に入らなくて無礼討ちにするやつが。
「ふん、貴様が優秀な魔法師だと知っていれば対策も容易よな。この魔法防御の鎧」
「それっ」
「グワーッ!」
話の途中で悪いが彼には退場してもらう。こちとら地面を爆弾に変えれるのだ、防ぎたければ対爆スーツでも持って来るんだったな。
■■■
騎士の一人が空に打ち上げられたのが開始の合図だった。
まずミサイルがエスポワールを守るように前に出て、飛び込んできた騎士の剣を受け止めた。次にゾックが騎士に体当たりし、フレイルを振り回して騎士の一人を吹き飛ばす。
「うおおおおおおお!!」
彼の叫びで騎士達が一歩後ずさった。そして一人が何かに足を取られて転倒してしまう。
それはミサイルとエスポワールの後ろから鞭を伸ばしたノーレが原因だ。彼女がくるりと腕を回すと倒れた騎士の顔に鞭が叩きつけられた。
「どこを見ている!」
混乱する騎士達にミサイルが斬りかかると一瞬で二人が倒れた。
数秒で人数を三人まで減らされた騎士達は慌ててミサイルに斬りかかるが、先頭の騎士の足下が吹き飛んだせいで全員が転倒してしまう。
「チェックメイトです」
そういって杖の先を騎士に当てるエスポワール。騎士達は一体なぜ負けたのかも分からないまま投降し武器を手放した。
「あーあ、結局こんな目に遭うのか」
そう愚痴をこぼすミサイル。騎士をふん縛って家の押し入れに押し込んだ彼らは一息吐いた後旅立ちの用意をしていた。
「まあ王国騎士団に手を上げたのは事実だからな。さっさと逃げるのが一番だ」
「納得いかないなあ…」
「大丈夫さ、奴らは報いを受ける」
「何で分かるんだ」
「頭いいからだよ」
そう嘯くゾックにミサイルが胡乱げな視線を浴びせた。
実際のところ、彼ら騎士団に罰を言い渡されるのは確定していた。なにせ名誉貴族を挑発した上国外に逃げられたとなっては国の面子に大きな傷が入る。何かしらの重い処分を受けるだろうと想像している騎士は押し入れで震えていた。
一方でノーレも泣きそうな顔で震えている。
「ごめんなさい」
「どうして謝るんだい」
「だって、私がエルフだから」
「俺なんか人間さ」
この国は人間至上主義だ。故にエルフを連れた人間は冷たい目で見られることが多いのだ。貴族の中ではそれは特に顕著で、耳の長い犬を王城に入れるなと発言した者が居るほど。
この国で生まれ育ったミサイルはそれなりの愛着を持って住み続けていたが、今回ので愛想が尽きた。
「なあエスポワール。旅先の候補はあるかい?」
「ええ。ここから街道沿いに西へ行きましょう」
「西か。あっちは開拓地じゃなかったか?」
「だからこそですよ。フロンティアに貴族は必要ない。良い言葉だとは思いませんか」
なるほどたしかに、とミサイルは手を打った。貴族は自分の身が可愛いからか開拓地に顔を出すことは無い。当然追っ手も少なくなるだろうし、開拓地は常に人手が足りない。仕事にありつけないことなんかも無さそうだ。
とても良さそうな選択だと思えた。ただ一点、危険だということを除けば。
「多数決を取ります。賛成」
「賛成」「賛成」「…おねえちゃんについてく」
「決まりです」
そう言って荷物を背負い込むエスポワール。ゾックとミサイルもそれに続いて荷物を持った。
ただ一人、ノーレだけが何も持たず震えていた。
「ノーレ、どうしましたか?」
「どうしておねえちゃんたちは私を置いていかないの?今日だって大金持ちになれたかもしれないのに」
「そんなことですか。普段からカネカネ言っているゾックに聴いてみたらどうです?」
「俺かっ!?」
ノーレにじっと見つめられてたじろぐゾック。彼はコホンと咳払いをすると自分の頭を掻きながら話し始めた。
「あーくそ、カネは必要だが絶対じゃない。だけどよ、俺たちにはノーレが絶対必要なのさ」
「ならお金だけもらって戻ってくればいいでしょ…」
「お前を仲間はずれにして貰ったカネを使えってか?くそ食らえだ」
「……ゾックって、やっぱりばかだね」
んだとぉ!と憤るゾック。彼に髪の毛をグシャグシャにされて笑うノーレ。そんな二人を見てエスポワールは柔らかな笑みをたたえていた。
そしてミサイルは静かにガッツポーズを取った。愛の銃士は今日も平常運転である。
(よし、こいつらの前でなら自爆しても大丈夫そうだな)